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民族大虐殺の瀬戸際に立つ南スーダン。国連安保理の武器禁輸措置決議に日本が消極姿勢なのはなぜなのか。(伊藤和子 | 弁護士、国際人権NGOヒューマンライツ・ナウ事務局長)

2016-12-03 23:52:28 | 平和 戦争 自衛隊

http://bylines.news.yahoo.co.jp/itokazuko/20161203-00065094/

民族大虐殺の瀬戸際に立つ南スーダン。国連安保理の武器禁輸措置決議に日本が消極姿勢なのはなぜなのか。

■ 南スーダンで今何が起きているのか

自衛隊の派遣をめぐって、様々な問題が日本国内でも議論されている南スーダン。

しかし、これは国内政治の問題ではなく、現地の人々の命が今この瞬間も奪われている事態であり、そして何より今そこにある危機である。

1990年代に起きたルワンダの大虐殺、民族浄化、多数の住民が殺され、女性はレイプされるなど、壮絶な悲劇は未だに記憶されている。

南スーダンでの現在の状況は残念ながら、それに近いのではないか、集団虐殺(ジェノサイド)、民族浄化の危険が待ち構えているのではないか、と国連関係者は警告している。

日本の報道としては詳しいこちらを引用させていただく。

南スーダンの人権問題を調査する国連の委員会は1日、声明で「飢えや集団強姦、村の焼き打ちといった形で、国内各地で既に民族浄化が進んでいる」と警告し、「国際社会には(大虐殺に発展することを)防ぐ義務がある」と訴えた。

ジュバでは7月に政府軍と反政府勢力の戦闘が発生。最大民族ディンカが他の民族に対する迫害を強めているとされる。

委員会は声明で「多くの村人が奪われた土地を取り戻すために血を流す覚悟があると証言した」として緊張の高まりを指摘。1994年にルワンダで起きたような大虐殺が繰り返される懸念を示した。

国際社会は今後予定されるPKOの増派だけでなく、経済制裁などを強化する必要性があると強調した。委員会は南スーダンでの現地調査を終え、来年3月に国連人権理事会で調査結果を報告する。(共同)

出典:産経新聞 2016.12.02 「南スーダンで民族浄化」、国連委、大虐殺を警告

これは、2016年3月に、国連人権理事会が設置した、南スーダンの人権に関する委員会(Commission on Human Rights in South Sudan )が、最近10日間の現地調査ミッションを実施した結果を12月1日に発表したものである。

既に11月17日開催の国連安保理では、国連ジェノサイド防止に関する国連特別代表が、

‘all the warning signs’ conflict could spiral into genocide"(紛争がジェノサイドへのスパイラルに発展しかねないすべての兆候)を強調していた。

12月1日の国連専門家の発表では、「国連ジェノサイド防止に関する国連特別代表が述べている通り、ジェノサイドにいたるたくさんの兆候がすでにそこにある、いまそこにある紛争、バラバラな民族的アイデンティティへの帰依、否認の文化、民族の追放、組織的な人権侵害とその計画の兆候・・しかし、重要なのはまだこれを防止できる時間があるということだ

と訴える。国際社会には今、民族浄化を防ぐ行動が期待されている。

南スーダンは12月から乾季を迎える。雨季では十分な戦闘が難しいため、乾季は戦闘シーズンと言われている。時間は限られている。そして、1月になればトランプ政権となり、国連外交の先は全く読めなくなる。。。危険な情勢である。

■ 国連安保理で争点となっている武器禁輸、紛争指導者の資産凍結等

こうしたなか、焦点となっているのが、南スーダンへの武器禁輸、紛争指導者(政府高官、反政府リーダー双方)の資産凍結等の措置である。

率直に言って、国際社会はもっと早く、こうした措置を講じるべきだった。

なぜいつも民族浄化を止められないのか、世界のリーダーが手をこまねいて何らリーダーシップを発揮できないまま人々が殺されていく過去の教訓にいつになったら真摯に向き合い、早期に適切な行動をとることになるのか、と感じざるを得ない。

しかし、それでも今からでも武器禁輸措置を講ずることは命を救うことになると、現地ジュバの市民社会は声をあげている。「このままではジェノサイドになる可能性がある」と。

こうしたなか、11月30日、アメリカ政府(サマンサ・パワー大使)はニューヨーク国連本部で開催されている安全保障理事会に、武器禁輸等に関する国連安保理決議を提出しようとしたが、断念を余儀なくされた。

なぜかといえば決議採択に必要な国連安保理のなかの9票を得られる見通しが立たなかったからだという。

現在の安保理メンバーは、

米、英、仏、露、中の常任理事国に加え、 

アンゴラ、エジプト、日本、マレーシア、ニュージーランド、

セネガル、スペイン、ウクライナ、ウルグアイ、ベネズエラ

である。

なぜ、米国が断念したか、ニューヨークのNGO関係者に聞いてみたところ、ロシア、中国、ベネズエラやアフリカ諸国が乗り気でないだけでなく、日本やマレーシアのような国からも賛成を得られなかったからだという。

フォーリン・ポリシーのコラムに詳しく記載されているが、そこでは、「自衛隊を派遣している日本は南スーダン政府と対立したくない」と分析されている。

私が交流のあるニューヨークの安保理界隈の人々の間では、「自衛隊を派遣している日本にとって、『ジェノサイドの危険性があるなどの深刻な治安状況を確認する決議は避けたいのではないか?』」「自衛隊派遣に対して否定的な影響を避けたいのではないか」「しかし、武器禁輸をしないほうが、自衛隊は危険にさらされるではないか? 」などの憶測と疑問が流れている(日本政府の意図はわからない)。

■ 日本は今こそ、安保理で紛争解決のための強い姿勢に協力すべき

今そこにあるジェノサイドの危機、という国際認識が日本国内には十分に伝わっていない。そして、日本は、危機の拡大・深刻化を防ぐという点で果たして正しい態度をとっているのか。

ひとたび、PKOが派遣されると、自国部隊は人質のようになる。紛争当事国政府を刺激するような外交上の投票行動は取りにくくなる。

しかし、その結果として、紛争を防止・拡大しないための国際社会の行動を無駄にしてしまう役割を果たすこととなったら、結局本末転倒ではないだろうか。

NGOでもよく議論になるのは、プロジェクトの成功を優先するのか、ミッションの達成を優先するのか、ということである。

プロジェクトの成功(たとえば自衛隊派遣の成功)はミッション(南スーダンの和平と安全の回復)の実現のためにこそあるのであり、短期的なプロジェクトの成功に固執して、大目標であるミッションにマイナスとなる行動をすべきでないというのは鉄則である。

日本のNGO団体の多くはそもそも新任務での南スーダンへの派遣に反対してきた。国内的な憲法上の議論もあり、日本のNGOを駆けつけ警護等で危険にさらすリスクがあるうえ、果たして南スーダンの平和に対する貢献としてふさわしいのか、そして紛争が激化したら果たしてどうするのか、という疑問があるからである。

しかし、部隊を派遣しているがゆえに、強力な安保理の措置を求めることを躊躇し、虐殺防止への重要な役割が果たせないこととなければ、それこそ本末転倒である。結局のところ、南スーダンの平和でなく、自己満足のための派遣だと批判されることになるのではないか。

日本政府は、自国内の政治的アジェンダや国内政治に固執することなく、ジェノサイド回避のために国際社会・安保理において、キーとなる役割を適切に果たすべきである。そして、紛争がジュバから周辺にまで拡大している今、もし部隊において危険が及ぶリスクがあるなら撤退も検討すべきである。

国連安保理が今行うべきなのは、

1)第一に武器の禁輸のための実効性ある措置を安保理で決議することである。

2)第二に、紛争のリーダーに対する資金凍結などのターゲット・サンクションを決議することである。

ハリウッドスターのジョージ・クルーニーらが創設した監視団体The Sentryは今年9月に記者会見を開いて、”War crimes shouldn’t pay"という調査報告書を公表し、紛争の背景に、政府側、反政府側の経済的利益拡大があることを国際社会に訴えた。

内戦を拡大するものは経済的にダメージを与え、紛争のインセンティブを奪う必要がある。そのために、紛争のリーダーの資産凍結等のターゲット・サンクションは安保理決議にぜひ盛り込まれるべきである。

「来週、再来週において日本が安保理でどのような行動をするかは南スーダン情勢に直結する」

ニューヨークのとあるロビイストは私に訴えた。

安保理のパワーバランスのなかで、日本が果たす役割が重く問われることがあるが、安保理の現在の構成を見れば、この問題において日本の果たすべき役割が大きいことはうなづけるだろう。

遅きに失したとはいえ南スーダンの虐殺を止め、紛争拡大を止めるための役割を果たすことができるのか、戦闘シーズンが到来しつつある今、日本政府の外交姿勢が問われている。

参考・

※ Exclusive

U.S. Push to Halt Genocide in South Sudan Unravels at United Nations

The Security Council is balking at an arms embargo that is too little, too late for the world’s youngest nation.

(Foreign Policy)

http://foreignpolicy.com/2016/11/30/u-s-push-to-halt-genocide-in-south-sudan-unravels-at-united-nations/

※ NGO非戦ネット声明 

【声明】「南スーダンにおける自衛隊への新任務付与を見合わせ、 武力によらない平和貢献を求める」

http://ngo-nowar.net/2016/11/14/seimei_south_sudan/

 

伊藤和子 弁護士、国際人権NGOヒューマンライツ・ナウ事務局長

1994年に弁護士登録。女性、子どもの権利、えん罪事件など、人権問題に関わって活動。米国留学後の2006年、国境を越えて世界の人権問題に取り組む日本発の国際人権NGO・ヒューマンライツ・ナウを立ち上げ、事務局長として国内外で現在進行形の人権侵害の解決を求めて活動中。同時に、弁護士として、女性をはじめ、権利の実現を求める市民の法的問題の解決のために日々活動している。ミモザの森法律事務所(東京)代表。

 

 

 


<あなたはどう思う?>「カジノ法案は成長戦略の目玉になる」安倍首相 ⇔モノつくりが日本人の生き方、(カジノは)会わない!

2016-12-03 22:36:53 | 経済 金融

<あなたはどう思う?>
「カジノ法案は成長戦略の目玉になる」安倍首相 ⇔モノつくりが日本人の生き方、(カジノは)会わない!


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東京新聞 TOKYO Webhttp://www.tokyo-np.co.jp/s/article/2016120290135752.html

審議わずか6時間 カジノ法案を可決 

 カジノを含む「統合型リゾート施設(IR)」整備推進法案(カジノ解禁法案)は二日午後の衆院内閣委員会で採決され、自民党、日本維新の会などの賛成多数で可決された。連立与党の公明党は自主投票で、三人の委員は賛成一、反対二と対応が分かれた。公明党が党議拘束を外して議員個人の判断で採決に臨むのは二〇〇九年の改正臓器移植法以来。民進党は採決に加わらず、共産党は反対した。(大野暢子)

 カジノ以外も含むギャンブル依存症対策を強化することを盛り込んだ付帯決議も自民、公明、維新の賛成多数で可決された。

 カジノ解禁法案は昨年四月に自民党や、維新の党と次世代の党(いずれも当時)が議員立法として提出。継続審議になっていたが、先月三十日に審議入りした。自民党は六日の衆院本会議で可決、参院に送付する方針。公明党は党内にカジノ解禁への反対論があり、執行部に対応を一任。二日午前に山口那津男代表ら幹部が出席した常任役員会を開き、自主投票とすることを決めた。

 民進党の山井和則国対委員長は二日の記者会見で「国民の不安について議論せずに強行採決することはあってはならない」と自民党を批判した。民進党内にはカジノ解禁への賛成、反対両派がおり、法案への対応を明確にしていない。

 二日の質疑で、法案提出者の一人の岩屋毅氏(自民)は「政府も観光産業を成長戦略の柱に据えている。観光振興、観光立国の起爆剤にしたい」と、カジノ解禁による経済効果を強調した。池内沙織氏(共産)は反対討論で「新たなギャンブル依存症を生み出す」などと問題点を指摘した。

◆賛成1、反対2 公明割れる

 公明党はカジノ解禁法案の採決を容認する一方、賛否の党議拘束を外し、議員個人の判断に委ねる自主投票という異例の対応となった。賛否も公明党委員三人のうち賛成一人、反対二人と割れた。

 「カジノ解禁」には、公明党の支持母体である創価学会の婦人部を中心に、ギャンブルの推奨につながるとの批判があり、党幹部に反対意見が強かった。しかし、連立を組む自民党が先月三十日、強引に審議入りさせ、さらに採決まで決めたことで党としての対応を迫られた。

 公明党内の論議では、依存症対策を実施法に先送りしている法案の内容や本格審議がわずか二日だったことなどへの批判が出た。一方、カジノ施設の誘致を目指す一部議員らは賛成で、まとめることができなかった。

 自主投票の理由について井上義久幹事長は二日の記者会見で「賭博を一部でも合法化する道を開くわけだから、社会のありようにかかわるわけで議員個々の判断に委ねることにした」と説明した。

 来年六月には公明党が最も重視する東京都議選がある。支持母体に反発の強い同法案の採決が都議選に近づく前に今国会での採決に応じたとの見方もある。また、自民党がカジノ法案を推進する日本維新の会との関係を強めつつあり、公明党がてんびんにかけられているとの指摘もある。(金杉貴雄)

<解説> 刑法が禁じるカジノ解禁につながる法案は、わずか二日間の質疑で委員会採決が行われ、可決された。審議時間は計六時間程度にとどまり、カジノ解禁への国民の疑問や不安が解消されたとは到底言えない。

 二〇一三年に自民党などが提出した同様の法案は反発を受けて審議が進まず、一四年の衆院解散で廃案になった。今回の法案は昨年四月に提出されたが、継続審議となっていた。審議入りは十一月三十日。自民党は翌十二月一日、連立を組む公明党が党として賛否を決められない段階で、二日の衆院内閣委員会での採決を提案した。異例と言える拙速な対応だ。

 一五年六月の日本世論調査会の世論調査では、国内のカジノ設置に反対する人が65%に上り、賛成の30%を大きく上回った。

 一四年に厚生労働省研究班が、ギャンブル依存症の疑いがある成人は全体の5%弱の五百三十六万人に上るとの推計を示した。賭け金が高額で、射幸性や依存性の高さが指摘されるカジノの解禁で、さらに依存症が増える恐れがある。こうした指摘に、提案者側は「依存症対策は政府において対応していく」(自民党の西村康稔氏)と、具体的な対応を示さなかった。

 自民党議員らは、カジノを含む統合型リゾート施設を整備することで観光産業が伸びるなどと経済効果を強調した。しかし、地元経済に悪影響を与えるとの指摘には「政府が総合的に判断して(候補地などを)絞り込めば、期待した効果を生じさせられる」と答えるにとどまった。

 カジノを観光立国の目玉にしたいのなら、国民の不安に応える丁寧な議論が不可欠だ。(篠ケ瀬祐司)

(東京新聞)

民進党議員らが採決をとどまるよう抗議するなか、カジノ解禁法案を可決した衆院内閣委=2日午後0時29分、国会で

民進党議員らが採決をとどまるよう抗議するなか、カジノ解禁法案を可決した衆院内閣委=2日午後0時29分、国会で


<関連>

安倍首相「公明よくやった」=カジノ法案:時事ドットコム

カジノ法案審議 人の不幸を踏み台にするのか : 社説 : 読売新聞

安倍首相とパチンコ大手・セガサミーHD社長の密接な関係に迫る

 

カジノ法案が審議2日で強行採決! 背後に安倍首相とカジノ利権狙う - リテラ

 

日刊ゲンダイ紙より

 

 


2016・大賞に毎日新聞夕刊編集部の「夕刊・特集ワイド」 〔平和・協同ジャーナリスト基金〕~おしどりマコ・ケンさんの原発問題での情報発信にも奨励賞

2016-12-03 20:53:28 | 報道

http://www.pcjf.net/より転載

大賞に毎日新聞夕刊編集部の「夕刊・特集ワイド」

2016年度の基金賞が決定、12月10日に贈呈式

 

 平和・協同ジャーナリスト基金(PCJF)は、2016年12月1日、第22回平和・協同ジャーナリスト基金賞を発表しました。今年度の候補作品は69点(活字部門25点、映像部門41点、インターネット関連3点)でしたが、この中から次の8点を入賞作としました。

 12月10日(土)午後1時から、日本記者クラブ大会議室(東京・日比谷の日本プレスセンタービル9階)に受賞者・団体をお招きして賞贈呈式を行います。贈呈式の前半は賞状等の授与、後半は祝賀パーティーで、前半のみ参加の方は無料、祝賀パーティーまで参加の方は参加費3000円です。

 

◆基金賞(大賞)(1点)

 毎日新聞夕刊編集部の「夕刊『特集ワイド』における平和に関する一連の記事」

◆奨励賞(7点)

★ノンフィクション作家、大塚茂樹さんの「原爆にも差別にも負けなかった人びと」(かもがわ出版)

★原爆の図丸木美術館学芸員、岡村幸宣さんの「≪原爆の図≫全国巡回――占領下、100万人が観た!」(新宿書房)

よしもと所属の夫婦漫才コンビ・DAYSJAPAN編集委員、おしどりマコ・ケンさんの原発問題での情報発信

★金澤敏子、向井嘉之、阿部不二子、瀬谷實さんの「米騒動とジャーナリズム」(梧桐書院)

★上丸洋一・朝日新聞記者の「新聞と憲法9条」(朝日新聞出版)

 

★瀬戸内海放送制作の「クワイ河に虹をかけた男」

★森永玲・長崎新聞編集局長の「反戦主義者なる事通告申上げます――消えた結核医 末永敏事――」(長崎新聞連載)

 第22回基金賞の選考は、鎌倉悦男(プロデューサー・ディレクター)、佐藤博昭(日本大学芸術学部映画学科講師)、清水浩之(映画祭コーディネーター)、高原孝生(明治学院大学教授)、鶴文乃(フリーライター)、前田哲男(軍事ジャーナリスト)、森田邦彦(翻訳家)の7氏によって行われました。

 今年度の選考で目立ったのは、新聞社からの応募や推薦が少なかったことでした。これについて、審査員の1人は「昨年は、戦後70年を機に戦後70年を総括する企画や、安保問題や憲法問題に取り組んだ新聞が多く、力作が目白押しだった。今年はその翌年とあって、全般的に低調。いわば“戦後70年疲れ”と いったところか」と述べました。そうした面があったものの、今年も、原爆、憲法、沖縄の基地問題、原発問題などを粘り強く追った力作が並びました。

■基金賞=大賞(1点)には、毎日新聞夕刊編集部の『夕刊「特集ワイド」における平和に関する一連の記事』が選ばれました。同紙の「夕刊 特集ワイド」は、夕刊二面の全面を使った大型紙面で、毎夕、さまざまな問題を取り上げています。2015年から16年にかけての紙面では、市民の関心が高い集団的自衛権、安保関連法、憲法、沖縄の基地問題、原発問題などを積極的に取り上げ、選考委では「ユニークな企画性が感じられ、現在のマスメディアの中では異彩を放つ意欲的な紙面」とされました。沖縄・高江のヘリパッド建設現場で「土人発言」問題が起きた時、これを直ちに紙面化した点も評価されました。

■奨励賞には活字部門から6点、映像部門から1点、計7点が選ばれました。

 大塚茂樹さんの『原爆にも差別にも負けなかった人びと』は、広島市福島町を中心とした地域の戦後史を描いたノンフィクションです。この地域はかつて被差別でしたが、原爆で甚大な被害を受けます。いわば、この地域の人たちは二重の苦しみに見舞われたわけですが、本書はその苦しみがどんなに深いものであったかを克明に明らかにしています。選考委では「著者はこれをまとめるのに3年を費やし、インタビューした人は60人を超える。そうした取り組みに敬意を表したい」との発言がありました

 岡村幸宣さんの『≪原爆の図≫全国巡回――占領下、100万人が観た!』も原爆にからむノンフィクションです。丸木位里・俊夫妻が「原爆の図」を発表したのは米軍占領下の1950年。米軍が原爆に関する報道を禁止していたから、日本国民が原爆被害の実態を知るのは困難な時代でした。が、本書によれば、なんと「原爆の図」巡回展が全国各地で催され、大勢の入場者があったというのです。「国民の間で今なお反核意識が強いのは、こうしたことがあったからかも。これまで知られていなかった事実を丹念に掘り起こした努力は称賛に値する」と、全会一致で授賞が決まりました。

 原発問題も引き続き日本にとって重大な課題とあって、原発関係からもぜひと選ばれたのが、おしどりマコ・ケンさんの『原発問題での情報発信』です。お二人は漫才コンビですが、市民の立場から、原発事故に関し本当に必要な情報が出てこない状況に疑問を抱き、東電や政府の記者会見に出席したり、福島にも通って原発事故に関する情報を執筆、動画、講演などで発し続けています。こうした活動が「市民運動の支えなっている」と評価されました。

 金澤敏子、向井嘉之、阿部不二子、瀬谷實さんの『米騒動とジャーナリズム』は、大正時代に富山県から全国に広がった米騒動の全容を新聞報道から検証した、4年がかりの労作です。そこでは、米騒動に無関心だった新聞が、政府から取材規制を受けながら次第に民衆の側に立ってゆく報道姿勢の変化が立証されています。選考委では「今のジャーナリズムも、今こそこうしたジャーナリズムの歴史に目を向け、庶民の側に立った報道をしてほしいという著者たちの願いが伝わってくる」とされました。

 上丸洋一・朝日新聞記者の『新聞と憲法9条』は、憲法関係からもぜひ選ばねばという審査員の配慮から授賞作となりました。「憲法改定が現実味をおびてきた今、憲法の眼目ともいうべき9条の意義を歴史的に、しかも、分かりやすく解明した本書の今日的意義は大きい」とされました。

 「かつてこんな医者がいたとは」と審査員全員が驚きの声を上げたのが、森永玲・長崎新聞編集局長の『反戦主義者なる事通告申上げます――消えた結核医 末永敏事――』でした。戦前、米国に留学までしながら日中戦争下に軍部への協力を拒否したため投獄され、悲劇的な生涯を閉じた医師の空白部分に迫った連載記事です。単に1人の医師の悲劇を明らかにしただけでなく、医師の受難とからめて現行の特定秘密保護法や、政府が目論む共謀罪に警鐘を鳴らしていることを評価する審査員もいて、授賞作となりました。

 

■映像部門では、瀬戸内海放送の『クワイ河に虹をかけた男』(満田康弘監督)が奨励賞に選ばれました。

太平洋戦争中、タイとビルマ(ミャンマー)を結んだ「泰緬鉄道」の建設に陸軍通訳として関わった永瀬隆さんの、半世紀にわたる贖罪の足跡を追ったドキュメンタリーです。選考委は「妻の佳子さんと二人三脚でタイへの巡礼を続け、犠牲者の慰霊、連合国軍元捕虜たちとの和解、タイ人留学生の日本への受け入れなど、国がやろうとしない『戦後処理』を独力で行ってきた永瀬さんの執念に圧倒される。彼が謝罪した元捕虜たちの心の変化も捉えて、人は『戦争』にどう決着をつけるかを考えさせてくれる、深みのある作品になった」としました。

 

■そのほか、活字部門では、高知新聞取材班の『秋のしずく 敗戦70年のいま』、映像部門では、是枝裕和監督の『いしぶみ』(広島テレビ)、毎日放送の『テレビの中の橋下政治~“ことば”舞い散る8年~』、テレビ熊本『還らざる魂魄~シベリア・死者たちの声が聞こえる』、熊本県民テレビ『生きる伝える“水俣の子”の60年』、佐藤太監督の『太陽の蓋』、藤本幸久・影山あさ子監督の『圧殺の海第2章 辺野古』『高江 森が泣いている』が最終選考まで残りました。

 荒井なみ子賞は該当作がありませんでした。

 

<受賞者・団体のプロフィル(敬称略)>

◆基金賞

 『夕刊「特集ワイド」における平和に関する一連の記事』

 毎日新聞夕刊編集部が作る「特集ワイド」の基本コンセプトは「デイリーマガジン」。

 新聞が陥りがちな「書きたい記事」でなく、ライバルとしのぎを削る週刊誌のように「読者が読みたい記事」を目指している。ボリュームはほぼ週刊誌2ページ分。ネタは政治、事件、芸術、トレンドとジャンルを問わないが、あえて言えば「人だかりのしている話題」。

安保法制や時代錯誤の改憲草案、原発再稼働など安倍政権の「暴走」にもの申す一方、SMAP解散報道に落胆したファンの「スマロス」克服法を探ったりもする。部員には「鋭いミーハーになれ」とハッパをかけている。著名人の大型インタビュー「この国はどこへ行こうとしているのか」も名物企画(夕刊編集部長・平野幸治)

 

◆奨励賞

★「原爆にも差別にも負けなかった人びと―広島・小さな町の戦後史―」(かもがわ出版)

 大塚 茂樹(おおつか・しげき)

 1957年東京生まれ。ノンフィクション作家。早稲田大学第一文学部卒業。専攻=日本現代史。主な職歴は、岩波書店に29年間勤務し岩波現代文庫、単行本、『世界』などの編集活動に従事。2014年定年の四年前に退職し現職。1976年に原水爆禁止運動で被爆者に出会ったのをきっかけに、反核運動や被爆者支援活動にも参加。後に被爆体験の意味を若い世代に問いかけ

る著作を執筆。著書に被爆者運動の出発を描いた『まどうてくれ――藤居平一・被爆者と生きる』(旬報社)。アトピー性皮膚炎の小学生が被爆者と出会う児童読み物『やんばる君』(筆名・中野慶、童心社)がある。その他の主著に、戦前・戦後の左翼運動の群像を描いた評伝『ある歓喜の歌――小松雄一郎・嵐の時代にベートーヴェンを求めて』(同時代社)がある。

 

★「《原爆の図》全国巡回――占領下、100万人が観た!」(新宿書房)

 岡村 幸宣(おかむら・ゆきのり)

 1974年東京都生まれ。東京造形大学造形学部比較造形専攻卒業、同研究科修了。2001年より原爆の図丸木美術館に学芸員として勤務し、丸木位里・丸木俊夫妻を中心にした社会と芸術表現の関わりについての研究、展覧会の企画などを行っている。著書に『非核芸術案内―核は

どう描かれてきたか』(岩波書店、2013年)。主な共著に『「はだしのゲン」を読む』(河出書房新社、2014年)、『3.11を心に刻んで 2014』(岩波書店、2014年)、『山本作兵衛と炭鉱の記録』(平凡社、2014年)など。

 

★原発問題での情報発信

 おしどりマコ・ケン

 マコとケンの夫婦コンビ。横山ホットブラザーズ、横山マコトの弟子。よしもとクリエイティブ・エージェンシー所属。社団法人漫才協会会員。認定NPO法人沖縄・球美の里理事。フォトジャーナリズム誌「DAYSJAPAN」編集委員。

 東京電力福島第一原子力発電所事故(東日本大震災)後、随時行われている東京電力の記者会見、様々な省庁、地方自治体の会見、議会・検討会・学会・シンポジウムを取材。

また現地にも頻繁に足を運び取材し、その模様を様々な媒体で公開している。

 

★「米騒動とジャーナリズム」(梧桐書院)

 金澤 敏子(かなざわ・としこ)

 1951年生まれ。富山県入善町在住。細川嘉六ふるさと研究会代表。北日本放送アナウンサーを経て、テレビ・ラジオのドキュメンタリーを四〇本余りを制作。

 主著 『泊・横浜事件七〇年 端緒の地からあらためて問う』(共著、梧桐書院、2012年)、『NPOが動く とやまが動く市民社会これからのこと』(共著、桂書房、2012年)日本NPO学会審査委員会特別賞受賞。『民が起つ 米騒動研究の先覚と泊の米騒動』(共著、能登印刷出版部、2013年)。

 主な受賞番組 NNNドキュメン’96『赤紙配達人~ある兵事係の証言~』1996年 芸術祭賞放送部門優秀賞 芸術選奨文部大臣新人賞 アジアテレビ映像祭沖縄賞 民間放送連盟賞テレビ教養部門優秀賞 放送文化基金個人賞ほか、KNBスペシャル『鍋割月の女たち~米騒動か

ら八〇年』1999年 平和・協同ジャーナリスト基金賞奨励賞ほか。

 

 向井 嘉之(むかい・よしゆき)

 1943年生まれ。富山市在住。ジャーナリスト。とやまNPO研究会代表。イタイイタイ病を語り継ぐ会代表。元聖泉大学人間学部教授(メディア論)。日本NIE学会会員。日本NPO学会会員。

 主著 『一一〇万人のドキュメント』(桂書房、1985年)、『生きて生きぬいて恵子と明子ある中国残留孤児をめぐる百年の記憶』(青青編集、2009年)、『第二次世界大戦 日本の記憶・世界の記憶 戦後六五年海外の新聞は今、何を伝えているか』(楓工房、2010年)、

『イタイイタイ病報道史』(共著、桂書房、2011年)平和・協同ジャーナリスト基金賞奨励賞受賞。『泊・横浜事件七〇年 端緒の地からあらためて問う』(共著、梧桐書院、2012年)、『NPOが動く とやまが動く市民社会これからのこと』(共著、桂書房、2012年)日本NPO学会審査委員会特別賞受賞。『民が起つ 米騒動研究の先覚と泊の米騒動』(共著、能登印刷出版部、2013年)など。

 

 阿部 不二子(あべ・ふじこ)

 1919年生まれ。富山県朝日町在住。細川嘉六ふるさと研究会顧問。1947年「泊演劇研究会」を夫・阿部順三ら仲間と結成。茶道裏千家の師範として1979年より三二年間指導にあたる。

 

 瀬谷 実(せや・みのる)

 1946年生まれ。東京都清瀬市在住。ジャパン・プレス・サービス(JPS)代表取締役。翻訳、英文書籍の編集に従事。『広島TODAY』(W・バーチェット、連合出版)、『広島の目をもって―原子戦争、核の恐喝と道義的理想』(ジョセフ・ガーソン、日本原水爆禁止協議会)、“The DAY the SUN ROSE in the WEST-Bikini, the Lucky Dragon, and I” (大石又七、University of Hawaii Press)等の和訳・英訳に協力。

 

「新聞と憲法9条 (自衛)という難題」(朝日新聞出版)

 上丸 洋一(じょうまる・よういち)

 1955年2月、岐阜県高山市生まれ。朝日新聞記者。78年、朝日新聞社入社。東京本社人事部員、千葉支局員、学芸部員、学芸部次長、オピニオン編集長、「論座」編集長などを経て2007―15年、編集委員。2014年から「新聞と9条」取材班。著書 『本はニュースだ!』(径書房、1993年)、『「諸君!」「正論」の研究』(岩波書店、2011年)、『原発とメディア 新聞ジャーナリズム2度目の敗北』(朝日新聞出版、2012年)平和・協同ジャーナリスト基金奨励賞、新聞労連ジャーナリズム大賞、科学ジャーナリスト大賞(「原発とメディア」取材班として)。

 

★映画「クワイ河に虹をかけた男」

 アジア太平洋戦争下、旧日本軍が建設した泰緬鉄道――

 その「死の鉄道」の贖罪と和解に生涯を捧げた永瀬隆・20年の記録

 旧日本軍が建設した「死の鉄道」―。その贖罪と和解に生涯を捧げた男がいた。時に旧連合国捕虜や旧日本軍関係者の強い反発に遭いながら、彼は妻とともにその歩みを続けた。元捕虜は彼を「握手できるただ一人の日本人」「レジェンド」と呼んだ。一方、復員する日本軍12万人全員にタイ政府が「米と砂糖」を支給してくれた恩義に報いようと、学生らに奨学金を贈り続けた。93年の生涯でタイへの巡礼は実に135回に及んだ。これはその男の晩年を約20年間にわたって取材し続けた地元放送記者による記録である。

 制作 瀬戸内海放送  配給 きろくびと

 監督 満田 康弘(みつだ・やすひろ)

 1961年香川県生まれ。1984年KSB瀬戸内海放送入社。主に報道・制作部門でニュース取材や番組制作に携わる。現在、報道クリエイティブユニット岡山本社所属。

(映画「クワイ河に虹をかけた男」オフィシャルサイトから)

 

★「反戦主義者なる事通告申し上げます――消えた結核医 末永敏事――」

 (長崎新聞連載 2016年6月~10月)

 森永 玲(もりなが・りょう)

 1964年佐世保市生まれ。長崎新聞編集局長。88年長崎新聞入社。報道部、対馬支局、佐世保支社編集部などを経て2009年報道部長、15年論説委員長、16年から現職。

主著に「本島等の思想」(共著、2012年)など。

 

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