北の森から眺めてみれば

北海道に移り住んで十数年。ここから眺めた身近な世界、遠い世界の出来事をつづる日々雑感。

中国「反日デモ」の背景

2010-10-24 | ニュース斜め読み
尖閣諸島における中国漁船の不法行為に起因して連日のように「反日デモ」が行われていると報道されている。中国に関するこの種の報道は様々な意味で注意深く見なければならないと思う。
元中国の俳優で日本に帰化した東海大学の教授・葉千栄氏は「中国にいると日本で報道されるようなデモが一体どこで起こっているのか分からないし、普通の中国人が日本に対する感情を悪化させているという雰囲気など微塵も感じない。中国におけるマスコミというのは、政府が完全に統制しているので、あのようなデモに集まるのはネット交流で情報を共有する極一部の人々に過ぎない」と言っている。
日本のマスコミにこの情報が流れるとあっという間に全国に広がり、誰もが知る事実となるのとは大きな違いがあるというのである。従ってまず心にとめなければならないのは、あのニュース映像を見て、反日デモが中国全土で広がっていると思い込まない方がよいと言うことである。

次にこの間の中国の国内事情を見てみると、東海岸都市部の経済発展に比べて内陸部の経済は極端に遅れており、その格差があまりにも激しいため内陸地域の不満、特に苦労して学校を出たのに仕事に就けない若者の不満が沸騰点に達していると言うことである。この背景にはさらに極一部の共産党幹部の子弟が優遇されており、一般国民の中でパソコンを使いこなす比較的高学歴な若者たちの不満が特に強く渦巻いているという現状もあるという。そうした不満のはけ口として、「反日デモ」は現在の独裁国家中国においては最も「安全な」抗議行動であるらしい。

もう一つ注目しなければならないのは、中国指導者の次期後継者争いである。現在、中華人民共和国のポスト胡錦濤の権力レースで二大巨頭と目されているのが「習近平」と「李克強」という人物。習近平は中華人民共和国の建国の功労者たる習仲勲の子で、いわゆる「太子党」(=幹部のボンボン)なのだが、軍歴や地方勤務経験も豊富に持つ。太子党は中国の経済界にコネがあるため、新興富裕層を権力基盤に持つ江沢民系の上海閥とは利害が一致。ゆえに習近平は政治的には上海閥への接近を強めており、北京オリンピックの運営責任者を担当するなど後継者レースの事実上トップにあった。現在、国家副主席である。

一方ライバルの李克強は、胡錦濤の出身団体である赤いボーイスカウト・中国共産主義青年団の直系である人物。共青団系の人材は研修なんかで党のイデオロギーを徹底的に叩きこまれるため、政治姿勢の面では比較的清廉な人が多く、環境問題や弱者対策にも熱心。だが、反面で頭でっかちな傾向もまま見せるという。事実、李克強は北京大学の経済学博士のくせに中国国内の行政改革や金融危機への対策では微妙な動きしかできず、党内部からは「李克強は能力が足りん」と言われる始末なのだという。だが、現在の中国のトップたる胡錦濤は、自派のホープである彼を支持している。

この内部の「権力争い」の有効な道具になる得るのが「対日政策」であり「尖閣問題」と見ることが出来る。どっちにとっても日本に対して強硬な態度で臨み、東シナ海の権益を確保することが課題の一つと言えるのである。現在の胡錦濤・温家宝も「大陸棚=領海」論を根拠として「尖閣諸島は中国領土である」と言い張っているし、次期主席と目される習近平もおそらく同じ論理で日本に対して強硬な態度に出てくることは間違いないところだろう。何れにしても「反日デモ」は利用価値があり、もともとデモが禁止されている中国で「反日デモ」である限りは黙認する姿勢である。これがちょっとでも「反政府的な」傾向を帯びると、きっちり弾圧せざるを得なくなる。

尖閣諸島がどれほど中国に近く位置していても、島の領有権に関しては歴史的経過があり、国際法上日本の領土として認知されてきているのであり、そのことは冷静に世界に向けてきっぱりと根拠を示して主張しなければならないのである。こんなことまでアメリカ頼みで解決しようなどとは思わず、日本国の主張をし、国土防衛権(自衛権)を行使しなければならないのである。泥棒の論理に屈してはならない。

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