12月8日、東京新聞「こちら特報部」の記事です。被災地の現場で除染ビジネスの実態が徐々に明らかになっています。
 
(引用) 除染モデル事業は、警戒区域や計画的避難区域にある福島県内の12市町村で、各1~2カ所ずつ実施されるその早さに驚く。被災地ではない。原子力ムラである。福島原発事故後の除染モデル事業は独立行政法人・日本原子力研究開発機構(原子力機構)が担うが、同機構が再委託する3つの共同企業体(JV)の幹事会社が原発建設の受注でトップ3を占める大手ゼネコンであることが分かった。

 そこには造ることで稼ぎ、壊れても稼ぐという「モラルなき構図」が浮かび上がる。

 内閣府から事業を受託した原子力機構が大手ゼネコンの大成建設と鹿島、大林組が各幹事会社のJVに再委託した。国からの約119億円の委託費に対し、同機構からJVへの発注総額は約72億円。“ピンハネ”批判が起きた。

 除染作業は先月28日に大林組JVが大熊町でスタートしたのを皮切りに、7日までに5市町村で始まっている。

 3JVには計25社が参加。モデル事業後の本格的な“除染ビジネス”には巨額が投じられるとみられ、「モデル事業はその唾付け」と言い切る業界関係者もいる。

 このため、各社とも技術開発に躍起になってきた。大林組は英国企業と提携し、衛星利用測位システム(GPS)を使った放射線量測定の技術を導入。大成建設も放射線を遮れるコンクリ製汚染廃棄物保管容器を開発するなどしてきた。

 だが、元日本原子力研究所研究員で技術評論家の桜井淳氏は「除染はゼネコンにしかできない仕事ではない」と語る。

 「作業をするのは下請けや孫請けで、ゼネコンはマージンが狙い。被ばくリスクの考慮から、通常より3割は高額になるなど“うまみ”のある仕事だ」と指摘する。

 「原子力機構やゼネコン各社は原発建設を推進してきた。今回の事故についても責任の一端はあるはずなのに、恥ずかしくないのか。除染でも原子力ムラの中でカネを回すという仕組みが、何ら変わっていない

 工学院大の田尾陽一客員教授(70)も、ゼネコンの独占的な参入に疑問を抱く一人だ。田尾客員教授は六月に研究者有志らと「ふくしま再生の会」を結成。同県飯舘村を拠点に住民らの除染活動を支援してきた。同教授は「除染の専門家はいまだにいない。除染は地域再生のためのステップであって、金もうけの手段ではない」と批判する。

 「一度除染しても、傾斜地などでは雨によってすぐ高線量に戻ってしまう。繰り返さなければならない。住民グループに委託し、長期的に実施する方が効果があるし、雇用創出にもつながる。せめて原子力機構とゼネコンは、除染前後のデータを公開するべきだ」 

 現段階での除染そのものに批判的な研究者もいる。東京農工大の瀬戸昌之名誉教授(環境科学)は「取り除いた汚染土壌は行き先がなく、積んでおくだけなので解決にはならない。高線量地域は居住をあきらめ、そこに遮蔽型の置き場をつくるしかないのではないか」と提言した。

 ところで、本紙が入手した経済産業省資源エネルギー庁の資料では、今回、除染モデル事業を受注した鹿島、大林組、大成建設の3社は、全国全57基の原子炉建屋の建設実績でも、そのベスト3を占めている。

 鹿島は24基、大林組は11基、大成建設は10基を受注。以下、竹中工務店(7基)、清水建設(5基)と続く。原子炉建屋での実績が、そのままモデル事業の受注にも反映された形だ。(略)

  除染モデル事業を委託された原子力機構は、事故隠しを重ねた旧動力炉・核燃料開発事業団(動燃)の流れをくみ、政策仕分けで見直しを指摘された高速増殖原型炉「もんじゅ」(福井県敦賀市)を運営する。その原子力機構と、原発建設に携わるスーパーゼネコンが事故の後始末を再び仕切る構図が浮かぶ。

 11月には、研究者らでつくる「環境放射能除染学会」が発足した。「旧来の学問領域を超えていろいろな分野の専門家が集まり、議論と情報交換ができる場が必要」という設立趣旨だが、発起人の所属先をみると、鹿島や竹中工務店、電力九社の出資による財団法人「電力中央研究所」といった名前もある。日本原子力学会会長で、事故後も原発推進の旗を掲げる東京大大学院の田中知教授も名を連ねている。

 定期的に福島入りし、住民とともに除染活動を続けている京都精華大の山田国広教授(環境学)は「住民にとり、一番大事なのは放射線量を下げること。それができるならゼネコンでも何でも構わない」としつつ、「現段階でゼネコンが効果的に除染をやれるとは思えない。恣意的に仕事を回し、利権を与えているように見える」と話す。

 「除染方法は徐々に改善しながら進めていくしかない。地域ごとに状況は違う。臨機応変に対応するには、現地を知っている市町村に任せることが最適ではないのか」(終了)