(引用) 奈良市の市税延滞金の着服を繰り返したとして、税徴収業務を担当していた元市幹部2人が奈良県警に業務上横領容疑で逮捕された。市の調査によると、着服総額は4千万円以上に上り、ギャンブル資金や生活費などに流用していたことが判明した。仕事上の知識を悪用し、共謀して4年近くも着服の発覚を免れていた、その巧妙な手口とは-。
■市民の指摘で発覚 逮捕されたのは、奈良市の元総務部参事、土井義文容疑者(60)と元債権整理課長補佐、西田芳光容疑者(59)=ともに懲戒免職。 2人の犯行は、市民の男性の指摘で発覚した。
男性は平成23年8月、市役所の窓口を訪れた。自宅に届いた税務処理の通知書を確認したところ、すでに納付しているはずの市税延滞金70万円が「未納」になっていた。男性は、納付を済ませたことを証明する領収書も提示した。
指摘を受けて市が調査したところ、確かに納められたはずの市税延滞金の納付記録が消えていた。 消えた70万円はどこにいったのか。 市は当時、男性の市税徴収業務を担当していた2人を問い詰めたところ、2人は着服を認めた。
市は2人を懲戒免職処分にするとともに、弁護士と公認会計士でつくる第三者機関で調査。その結果、2人の徴収業務記録などから、着服期間は19年8月~23年6月の4年近くに及び、着服総額は計79件、約4275万円に上ることが判明した。
記事本文の続き 市は、市内の別の男性が納めた市税延滞金140万円分について、先行して奈良県警奈良署に被害届を提出。県警捜査2課などは2月28日、2人を業務上横領容疑で逮捕した。
■システムの欠陥 着服の手口は、市の徴収システムの欠陥を巧妙に突いていた。
2人は市税延滞金の滞納者に対し、あらかじめ電話で滞納市税と延滞金の合計額を通知。正式な金額の書かれた納付書と、延滞金の一部を差し引いた偽造の納付書の計2枚を用意していた。
戸別訪問などをして滞納者から正式な納付書で市税延滞金を徴収した後、市内の金融機関から偽造の納付書で市の口座に振り込み、差額分を着服していた。
一見、すぐに発覚しそうな手口だが、滞納者への催告状を作成する市のホストコンピューターは、こうした延滞金のみが未納となっているケースの場合、自動では認識できない欠陥があった。
こうした“抜け穴”を知り尽くす2人は、仕事上の知識を不正行為に悪用し、巧みに発覚を防いでいた。 さらに2人は、通常は所属課で管理している領収書への受領印も偽造し、使用していたとみられ、偽造納付書を発行するために使った「滞納管理システム」の作業記録も削除するなど、入念な隠蔽工作をしていた。
市の調査後は、市のシステムのバックアップデータが残されていたため、作業記録を確認することができたが、最初に市民の指摘がなければ、その後も2人の犯行は続いた可能性が高いとみられる。
■強い発言力武器に 2人は、いずれも17年4月に管理職に昇進し、市税延滞金を担当する部署に配属された。 20年4月には、市税延滞金の管理に特化して市が新設した「滞納整理課」に、ともに異動。ここで丸2年、コンビを組んで働いていた。
周囲の職員は、口をそろえて2人を「市税の徴収業務を知り尽くしたプロだった」と指摘する。徴収の成績に優れ、その手腕を買われて高額滞納者を中心に担当していたという。
市では従来、管理職自身が直接、徴収業務を担当することはなく、20年度以降は、戸別訪問による徴収も原則禁止していた。 しかし2人は、勤務中に一緒に外出する姿が頻繁に目撃されており、行動を不審に感じる職員もいたという。
2人は22年4月、市税延滞金を直接担当する滞納整理課を異動で離れた後も元部下に納付書を発行させて着服を続けていた記録が確認されており、市の徴収業務に対して強い発言力があったことをうかがわせる。
周囲の高い評価とは裏腹の、極めて悪質な手口。「裏切られた気分だ」。仲川げん市長は着服発覚後の謝罪会見で、苦々しい言葉を口にした。(略)
■不祥事のデパート 奈良市を覆う闇は、市税延滞金の着服だけではなかった。市は2月29日、市税の高額滞納者の個人情報が外部に流出した可能性が強まったとして、地方公務員法(守秘義務)違反罪で近く奈良署に告発すると発表したのだ。
市によると、平成22年度の市税高額滞納者の上位20位の個人名や企業名、延滞金額などが記された文書が2月上旬、市議会の会派控え室などに郵送された。
市は、滞納整理課に21年度末以降、在籍した現職職員を事情聴取したが、流出ルートを特定できなかった。 ただ、滞納整理課のシステムを使用する際に職員を個別に識別する番号が記録されており、すでに辞めた元職員の中には、データを印刷したり、USBメモリーなどにコピーした形跡が確認されたという。
滞納整理課には、土井容疑者と西田容疑者も在籍したことがある。
この事案に関して、市は2人に「事情聴取できていない」としており、容疑者不明のまま告発する方針だが、疑惑は晴れないままだ。 「地方自治の住民参加を目的として、社会に奉仕者として貢献したい」「自己の個性、創意、能力を十分に発揮する可能性がある」…。
仲川市長は昨年末の仕事納め式で、2人が市の採用試験を受けた際に志望理由を書いた作文を朗読したうえで、「高い志をもっていた職員が、こういう結果になったことも事実」と指摘。
さらに、現在の市の状況を「『不祥事のデパート』という汚名で全国から注目され、負の遺産が山積している」と嘆いた。
市に自浄作用はあるのだろうか。住民の厳しい監視が必要なのではないだろうか。(終了)