「リストンは臆病者かな?」
「まだわからないな」パターソンは言った。
「誰かに倒されたあと、彼がどうするか見てみないと。
(ゲイ・タリーズ『敗者』)
■記憶に刻まれたスポーツシーン(1)
女子マラソンが競技種目に新たに加わった1984年のロサンゼルス五輪。優勝記録は、ジョーン・ベノイト(米)の2時間24分52秒。そのベノイトのゴールから約20分後、競技場の観客が目にしたものは・・・、ふらつきながらゴールに向かい歩み続けている一人の選手の姿だった。その様子から熱中症にかかっていることは誰の目にも明らかだったが、トラックサイドの係員に対しアンデルセンはゴールする意思表示をし、歩みを止めようとしなかった。トラックサイドの医師のほうもアンデルセンがまだ汗をかいていたことから、身体の恒常性が保たれていると判断、ゴールラインを割るまで競技を続けさせた。
アンデルセンの右足はほとんど動いておらず、右手はぶらつき夢遊病者のような中、競技場の大観衆の声援の後押しを受けて、競技場に入ってから5分44秒後、2時間48分42秒の37位で完走を果たした。