ビタミンP

苦心惨憺して書いている作品を少しでも褒めてもらうと、急に元気づく。それをトーマス・マンはビタミンPと呼んだ。

がん光免疫療法、「条件付き早期承認制度」適用で、早ければ年内に承認の可能性

2020年09月12日 19時12分33秒 | Weblog

新薬申請で期待高まる、がん光免疫治療の実用化

小林久隆・米国立がん研究所主任研究員に聞く

(WEDGE Infinity 中西 享/経済ジャーナリスト 2020年7月30日) 

 

 近赤外光を使った新しいがん治療法として注目されてきた、がん光免疫療法に使う医薬品と医療機器の実用化を担っている楽天関連会社の楽天メディカル社(本社米カリフォルニア州サンマテオ、三木谷浩史会長)が、厚生労働省に対して3月に医薬品と医療機器の製造販売の承認申請をした。この元となる治療法の研究を長年続けてきた、米国立衛生研究所(NIH)の一部門である国立がん研究所の小林久隆主任研究員にがん光免疫療法の可能性について聞いた。

 

Q 申請にまで到達した感想は。

小林主任研究員 抗体を用いた新規がん治療開発の研究に研究生活の大半を費やしてきたので、考えてみれば長かった気がする。抗体については医学生のころから研究していたが、光免疫というこのコンセプトたどりついたのが2003年か04年ごろだった。それからありとあらゆる方法を試行錯誤して、やっと今の治療法に到達した。

 

Q これからの実用化に向けては、三木谷会長の率いる楽天メディカル社に期待することになるが。

小林 大きな製薬会社に開発を任せると、既存の販売している商品とシェアがかち合うことがあるが、ベンチャー企業由来の新会社である楽天メディカル社には「これにすべてをかける」と言ってもらっているので、全面的に信頼している。新しい会社なので、しがらみがなく、最高のスピードで開発が進むだろうと期待している。

 今回の承認申請をした医薬品が第一歩で、再発した頭頚(とうけい)部がんが治療の対象だが、同じ標的(分子)に抗体がくっつくがん細胞を狙った動物実験では、頭頚部がん以外にも子宮がん、乳がん、肺がんなどでも効果が認められているので、適用できるがんの範囲を拡大することがこれからの研究課題になる。

 動物実験の次の段階の臨床治験については、胃がん・食道がん等で楽天メディカル社が日本や海外の病院と連携して行われている。

 

Q 実用化される時期については。

小林 承認申請されたものが厚労省でどのように判断されるかにかかっている。臨床患者の国際共同第三相臨床治験が進行中であるが、今回は「条件付き早期承認制度」が適用されると聞いており、早ければ年内に承認される可能性もあると思っている。

 

Q 小林先生の開発したのは治療法を分かりやすく説明すると。

小林 まず、がん細胞の表面にある標的(分子)にくっつくことができる光吸収物質のついた抗体を注射して1-2日程度がんに届くのを待つ。次にこのがん細胞にくっついている光吸収物質のついた抗体に近赤外光を当てるとスイッチが入り、そのがん細胞を壊してくれるが、正常な細胞には傷をつけないという治療である。

 この開発した技術は、ある特定の標的細胞にくっつく抗体を使うと、その狙った(がん)細胞を体内で選択的に破壊できる汎用性の高い独自な基盤技術だ。その一つ目の抗体を使ったものが、今回新薬申請した薬「ASP-1929」になる。ほかの標的を介してがん細胞にくっつく別の抗体を使えば、この基盤技術を使って治療対象になるがんの種類を増やすことができるはずである。

 

Q これまでのがんの治療法との大きな違いは。

小林 がんのこれまでの基本治療は、手術、放射線、抗がん剤があるが、腫瘍内と周辺の正常な細胞もがん細胞ともにも焼き尽くすか取り切ってしまうため、免疫細胞もダメージを受けてしまうので免疫力が下がってしまう欠点があった。

 一方、免疫チェックポイント阻害薬「オプジーボ」のような免疫治療薬は、防御する側の免疫細胞を活性化させて免疫細胞にがん細胞を殺してもらうが、治療自体によって直接がん細胞が減るわけではない。私の治療方法は、直接がん細胞を壊してがん細胞を減らしながら、免疫活性は理論的には上がっていく、いわばこれまでの治療法の良いとこ取りであり、基本的なコンセプトがこれまでの治療法と違う。同様の治療法は世界的に見てもない。

 また、がん治療で課題となる再発と転移については、われわれの動物実験ではこの治療法で1カ所にあるがんをたたくことで、転移しているほかのがんもやっつけた上に、一旦完治すればワクチン効果ができて再発しないことが認められている。

 

Q NIHでも新型コロナウイルス感染症の治療薬の研究などは行っているのか。

小林 NIHもエボラウイルスや新型インフルエンザ蔓延の時と同様に、新型コロナウイルスの治療、研究は行っている。ワクチンも企業と組んで開発している。私の働いているベゼスタキャンパスでも一時は数十人の感染者が出て3カ月ほどロックダウンの状態になっていた。NIHの中にある感染症アレルギー研究所(NIAID)のファウチ所長は、これまでも世界から情報を集め、その経験と科学的なデータに基づいて新型コロナによる対処法や死者の予測などを世界に向けて発信してきており、頼りがいのある人物だ。

 トランプ大統領には耳に痛いことも発言してきており、新型コロナの感染者が出始めた最初の段階で、十分な対処をしないでいると米国の死者が20万人になると警告していた。米国の状況はそれに近い状況になりつつあるように思える。

 

Q 医師としては、まだ新規感染者が多く出ている新型コロナへの対策と、死者の数では新型コロナよりはるかに多いがんの研究と、どちらを優先すべきか。

小林 半分近くのがんは治るようになってきたにもかかわらず、がんで亡くなる方は日本で年間約40万人、世界では1000万人もいる。この新型コロナのせいで、治療ができなくてがんにより亡くなった患者がたくさんいる。新型コロナ感染が急速に拡大した4、5月ごろはNIHを含めてこの地域のほとんどの病院が、急変などの救急を除くがん患者の受け入れを原則ストップしていた。しかし、これだけ多くの人が亡くなるがんは待ってくれない。これ以上、病院機能をストップし続けることはできないという事情がある。

 NIHでもがんの治療、研究を一時は中止していたが、既に再開している。NIHのあるメリーランド州(人口約600万人)の感染状況は、感染者7万5000人(一日約800人増加)、死亡者約3200人(7月14日時点)で、今でも東京よりもかなり悪いと思うが、それでも、6月から経済的な機能が再開し、病院はがん患者の受け入れを再開している。

 ということで、米国は社会の正常化に向けてかじを切ってきている。新型コロナで亡くなった患者は現状では数十万人であるのに対し、がんで亡くなるのは毎年約1000万人になるので、がん治療を止めることはできない。もちろん一時期のニューヨークのように対処がない状態で新型コロナが燃え盛っているような状況では、新型コロナの患者を優先すべき期間が必要かもしれないが。


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日本で新型コロナウイルス感染症による死者が欧米と比べて少ない理由

2020年09月12日 18時50分45秒 | Weblog
BCGワクチンに新型コロナウイルス感染症からの「保護効果あり」との研究結果、
その期待される“免疫訓練”のメカニズム
 
(NATURE 2020.09.05 SAT 10:00 TEXT BY SANAE AKIYAMA)
 
 日本で新型コロナウイルス感染症による死者が欧米と比べて少ない理由のひとつとして、BCGワクチンが挙げられるのではないか──。そんな仮説を裏付ける可能性がある論文が、このほど世界最高レヴェルの学術誌『CELL』で公表された。論文によると、BCGワクチン接種には、ウイルス性呼吸器感染症全般に対する保護効果があるのだという。いったいどんなメカニズムなのか。
 
 
 新型コロナウイルス感染症(正式名称はCOVID-19)が2019年12月に中国の武漢で初めて報告されて以来、これまでに世界で約2,650万人もの感染者が発生し、そのうち約87万人が命を落とした。現時点では、新型コロナウイルスに対して予防効果が期待できるワクチンはまだない。
 だが、効果が期待できる抗ウイルス薬は数多く考案され、臨床試験が進められている。ランダム化臨床試験の成果のなかでも、RNAポリメラーゼ阻害剤であるレムデシビル、そしてステロイド系抗炎症薬のひとつであるデキサメタゾンは、COVID-19への有用性が認められ承認された治療薬だ。
 こうしたなか、世界的に注目されていた結核のワクチンであるBCGワクチンの呼吸器感染症全般における保護効果が、医学・分子生物学・生化学の分野における世界最高峰の学術誌である『CELL』で公表され、話題になっている。
 
■BCG接種国は罹患率や死亡率が低い?
 
 子どものころに接種されるBCGワクチンは、結核とは無関係な感染症においても保護効果があり、生存率を向上させることが、これまでの研究で明らかになっている。今回の二重盲検ランダム化比較試験では、新型コロナウイルス感染症で重症化しやすい高齢者へのBCG接種においても、同様の効果が期待できることが確認された。
 BCGワクチン接種は、免疫力の弱まった高齢者においても自然免疫を“訓練”する作用があるという。このためCOVID-19を含むウイルス性呼吸器感染症全般に対する保護効果があると示唆されている。
 COVID-19に関するデータによると、この病気の罹患率と死亡率は、国によって劇的に異なることが明らかになっている。その要因は複雑で、民族性、生活習慣、気候、社会的行動、遺伝的差異などが挙げられる。そしてもうひとつ、潜在的な要因として注目されていたのが、BCGの接種国であるかどうかだ。
 
 というのも、新型コロナウイルスによるパンデミック(世界的大流行)の当初、BCGワクチンが義務化されている国、接種を中止した国、接種しない国におけるCOVID-19のデータを比較すると、有意な差が認められたのだ。BCGが義務化されている国ではBCGワクチンを接種しない国に比べ、すべての年齢層においてCOVID-19の罹患率と死亡率が減少していることがわかった。この傾向は、気候、食生活、遺伝的起源などの変数が本質的に一致している国同士を比較しても、BCGの有無の差が有意に認められたのである。
 
 
 新型コロナウイルスの世界的な感染拡大は、世界をどう変えるのか? いま知っておくべきこと、研究開発のいま、社会や経済への影響など、『WIRED』ならではの切り口から最新情報をお届けする。
 
■結核以外の呼吸器感染症にも予防効果
 
 オランダにあるラドバウド大学メディカルセンター内科学のミハイ・ネテハ教授は、BCGワクチンのさまざまな感染症に対する「訓練された免疫」と呼ばれる防御効果について研究してきた。「わたしたちは2年前、BCGワクチン接種が脆弱な高齢者を感染症から保護できるか示すことを目的とした『ACTIVATE』と呼ばれる試験を開始しました」と、テネハ博士は説明する。
 
「入院した65歳以上の患者たちを対象に、退院時にBCGワクチン接種を受けるか、プラセボワクチン接種を受けるかランダムに割り当てたのです。そしてBCGが幅広い感染症から患者を保護できるか確認するために、1年間の追跡調査を実施しました」
 この研究は新型コロナウイルスによるパンデミック以前に開始されたものだが、COVID-19におけるBCGワクチンの重要性をいち早く伝えるため、この論文は経過報告を発表したものとなっている。それでも198人の高齢者を対象とした臨床試験のうち、150名の中間分析では、すでに明確な差が認められている。
 臨床試験の結果、プラセボ群(78人)では高齢者の42.3パーセントが感染症を発症したが、BCG群(72人)では25パーセントにとどまった。また、BCG群ではワクチン接種後に平均16週間で新規感染が報告されたのに対し、プラセボ群では11週間と短かった。なお、副作用に差はなかった。
 
 共著者であるギリシャのアティコン大学病院内科のエヴァンゲロス・ジアマレロス=ブルブーリス教授は次のように述べている。「一般的な感染症におけるBCGワクチン接種の明確な効果に加えて、今回の最も重要な経過観察は、BCGが主に呼吸器感染症を予防できることでした。BCGワクチンを接種した高齢者は、プラセボを受けた高齢者に比べて呼吸器感染症が75パーセント減少したのです」
 BCGワクチン接種は、新規感染の発生率を低下させ、特にウイルス性呼吸器感染症の予防に最も効果があることがわかったのだ。
 
■自然免疫の訓練に寄与するという研究結果
 
 それでは、この研究で示されたBCGによる「免疫の訓練」とはどういったものなのだろうか?
 それは自然免疫細胞(顆粒球、マクロファージ、単球などのミエロイド系細胞やナチュラルキラー細胞など)のエピジェネティック、転写、機能的な再プログラミングのプロセスのことである。結果、細胞間の情報伝達に必要なサイトカイン産生能と抗菌機能が向上するのだという。
 
 論文によると、感染症や死亡率に対する非特異的な保護を調査した疫学研究では、BCGワクチン接種によりアフリカの小児における呼吸器合胞性ウイルス感染症の発症率が減少した。またインドネシアと日本では、高齢者を呼吸器感染症から保護する効果があることが示唆されてるという。
 このことから、BCGワクチンの接種は獲得免疫のように特定のウイルスに特化した攻撃性はないが、個人の自然免疫を高めて感染症からの予防や重症化を低下させるものとして期待される。
 
■少なくともひとつの要因になる
 
 とはいえ、この知見はBCGが新型コロナウイルスに確実に有効であることを証明したものではない。今回の研究では、確かに一般的なウイルス性呼吸器感染症に対する予防効果が確かめられた。しかし、COVID-19に対しては被験者の有病率が低かったので、確定的なことはいまだ断言できない状況にある。
 
 実際にBCGワクチンが義務化されている国々のいくつか(ブラジル、ロシア、インドなど)は、政策やマスク普及率、そして上記に挙げられたさまざまな要因はあれど、いまだ感染に歯止めがかかっていない状況にある。おそらくBCGに新型コロナウイルスの感染を完全に防止する能力はなくとも、接種国か否かの違いにより、統計上のデータに有意な差として現れるほどには保護効果があるということなのだろう。いずれにせよBCGワクチン接種は、日本を含むアジア各国での罹患率・死亡率の低さを説明できるひとつの要因にはなりそうだ。
 研究チームは、BCGワクチン接種が新型コロナウイルス感染症からも人々を保護できるかどうかは、今後の追跡調査によって明らかになるだろうと結んでいる。

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