kirekoの末路

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やるだけの事はやる7月23日

2008年07月23日 19時10分55秒 | 小説の感想と批評
苦肉の策は骨身に染みる@kirekoです。

>今日の感想と批評

今日は比較的時間があるので、読めるところまで読んでいこうと思う。
他人が見て口幅ったい事を言うかもしれないが、そこはご了承を。


■企画の意図は、こちら
http://blog.goo.ne.jp/kireko1564213/e/7e03a0212eb392c37028780a1c7f63d9

*感想テンプレ

■(タイトル+小説直リンク) ジャンル(ジャンル) 作:作者名
:あらすじ(小説家になろう投稿時に書いてあるあらすじ)
:感想(kirekoの感想)

*感想テンプレ終わり



============はい開始==============

短編「行列のできる家」 ジャンル 文学 作:鳥海ドゥンガ

:あらすじ
ある住宅街にいつも人が行列している家があった!そこには一人のおばあさんが住んでいるのだが・・。

:感想
おばあさんの気の紛らわし方が設定的に面白い。良い歳してホストにはまる熟女の気持ちが湾曲したら、こんな風になってしまうのかなと想像しながら読んでいた。あくまでも冷静な地の文、落ち着いた語り口、「です、ます」調が崩れるところが無いのが、構成的に好みだったのと、ややどうにでもとれるような難解なオチの『含み』が想像出来るという点、気軽に読めるという点に関しては、かなり作者の目的と合致する部分があるのではないだろうか。ちなみにkirekoは、オチに関して「生前金払いの良かった婆さんだからこそ、残った葬式費用も相当のものだろう」と当て込んだセールスマンが、婆さんの葬式にたかりに来たのだと脳内保管した。


ネコ ジャンル 文学 作:Satsuki

:あらすじ
毎日が退屈でつまらない日々。そんなある日私はネコを見た。

:感想
これは読む人によって、感想がだいぶ変わってしまう作品だと思う。ちなみに自分は、この作品を哲学的に見た。文学という物の一つの形式として、人間の生き方や心理の観察という面がある。そういう目でこの作品の本筋を自分なりに理解すると、日々の退屈が絶対的な自由の拘束に繋がっていると気付いた主人公が、自由に歩く猫を見て、その自由を拘束して自分の退屈を紛らわす。なんとも皮肉な話だと思った。
原文中の
「私の中で何かが弾ける音が聞こえた」
に見える、他者への自由を奪うことを目的とした主人公が、愛玩という支配的な衝動に動かされ、実際一週間という時間をかけて猫の自由を奪い、自身の退屈を紛らわした部分、その後に続く「幸せそうな」という部分が、エゴに満ちた人間的な身勝手を窺わせて、なかなか文章の節々が哲学的に見えてくる。ただ、今まで述べたこれは一般的な解釈ではない。この作品が、小説として面白いかと言うと、決して面白くない。鋭い観察力のある表現や、作者がやりたい事などが、まるで読者に伝わっていないと思う。


此の素晴らしき世界 ジャンル 詩 作:游

:あらすじ
何でも願いが叶う幸福の国、すべてを手に入れた人々が最後に望んだものとは?長編『夜伽語り』の圧縮版。

:感想
不老不死、生死に関わるテーマというのを今まで色々見てきたが、矛盾の無い説得力のある超越した現実世界の構築というのを描くのは、実際書き手として一番難しいところではないだろうか。この作者の驚くべき点は、まさにそこにある。台詞文が殆ど無いのに、読者を飽きさせない展開演出と構成にも恐れ入るが、想像力の付加価値として必ず説得力のある文が出てくるのが魅力的だ。読者が冷静でいられて、まとまりがあり、作者の嫌味が少しも出ないというのも珍しい。この作品の中で、特に気に入ったのは、犯罪を犯した側の犯人と、それを裁くべき裁判官の心理を言葉で表すシーン。願うだけで不老不死という絶対的な定めが、生死を大事なものでなくならせる。すると、人間の主部分である、悲しみや憎しみなどの感情は無くなり、思考の中で葛藤すればするほど、やっていることの無駄を悟らせてしまう。後半はkirekoによる想像の保管だったが、文の説得力は想像を生むとは、このことだと直感した。詩というジャンルが腑に落ちない以外は、構成など細やかな部分で文句なし。個人的に秀作!


あなたへの贈り物 ジャンル 恋愛 作:ari☆sa

:あらすじ
あたし、幸せでした。死間際の少女が恋人へ贈る言葉。

:感想
人が死ぬ時は、どんなことをした人間も綺麗に見える。この主人公もそうだったのではないだろうか。うーん、困ったな。病気という付加価値に頼り切るような文章を軽く見る体質、薄ら寒い不幸を押し売りするような恋愛というのは、だいたい酷評してしまう傾向があるので、あくまで第三者という目線の感想人として冷静でいたいと思うのだが、こういう作品ばかりだと頭が痛くなるのが本音だ。主人公達の生い立ちが描写されていないため、まだつかめない部分もあるが、少々展開演出とするにはキャラクター描写が欠落しすぎではないだろうか。何と言っても人が死ぬのだから、それに相応しい描写があって当たり前なのに、軽くすませようという、作者の怠惰な心が見え隠れし、読むほうも非常に不快だ。台詞文中のいきなりの改行も目に余るし、発想は良いのに、やけに回想パートがピンボケしているのも否めない事実だと思う。まあ、不幸が好きな人は読めるんじゃないかな。


立ち読みにあらず ジャンル コメディー 作:藤木 了

:あらすじ
立ち読み客に注意をしたのだが‥‥

:感想
表現とか小難しい部分は置いといて、発想力が良いね!昨今のライトでチャチな小細工ばかりやるコメディージャンルに辟易としていた自分としては、かなり笑えた部類だと思う。クライマックスの吊り下げられた立ち読み客(結果的には良いお客さんじゃないか)の姿を想像して面白かったし、男一人をフックに吊り下げることの出来る腕力ある店員にも驚きを感じてしまった。


POST ジャンル ホラー 作:海上なつ

:あらすじ
お昼の家での出来事。佑晴はポストに届いたある手紙を読むことで、短い時間に最悪の状況と化す。その差出人とは――自分自身。それは彼の触れてはならない過去を思い出させてしまう。とても悲しい物語。

:感想
よく方向性の違いという理由でバンドが解散することがあるが、これはkirekoと作者の根本的なホラージャンルへの方向性の違いが如実に現れた作品だった。雰囲気は良い、発想も悪くない。が、怖いと思う部分がまるで見当違いなのだ。オカルト物を感じさせない導入(幼少の遊び心が火事になってしまった事、それに繋がる手紙の話)は、非常に良いと思ったのに、オチがあっけなさ過ぎるというか、前半に比べ、後半の文章のスタミナの無さは何だと、眼を疑いたくなる。逃げても逃げても追いかけられるスリルを期待していた自分としては、なんともガッカリなオチだった。せっかく導入部分で読者が食いついても、クライマックスが盛り上がりに欠けるのでは、面白くない。良かったはずの前半部分は基より、作品全体の完成度が歪んで見えてしまう。作者がまた今度、ホラーを描く時は是非、読者の感情を揺さぶるような大衆的なホラー展開と、その描写を怠らない事を所望する。


笑う男と歌う女  ジャンル ファンタジー 作:椿山 昇

:あらすじ
むか~し、むかし、この世界は、暗黒の世界になってしましました。けど、それをどうにかしようとする、勇敢な勇者は現れませんでした。そのまま長い長い年月が経った後のお話・・

:感想
キャラクターの設定は面白いが、世界観と本筋がくだらんし、一々「はいそうですか」と読者を飽きさせる語り口も不快極まりない。そこらのガキんちょの書いた三文小説のほうが、展開演出は面白いと思う。いかに誰もが簡単に手を付けられるライトファンタジーといえども、小説として面白くなければ文字を打つだけ無駄だ。『気軽に読める』のと、『手を抜く』のは理由が違う。台詞なり、場景なり、もう少し描写に拘るべきだ、と思う。実際ジャンルの層は相当ミーハーだが、大衆にうける作品を考えるのは至難の技だ。そういう意味で、この作者はジャンルを甘く見ていると言わざるをえない。自分の創りだす作品や、キャラクターという創造物質において、もう少しプライドをもって接していただきたいところだ。そういう意味で、作者の意識の低さが浮き彫りになった作品ではないだろうか。


…逢魔が時… ジャンル 文学 作:水音灯

:あらすじ
誰ぞ彼は。そう問いかけたくなるような黄昏時を、少年が二人歩いている。不意に、日常を襲う魔にとりつかれ、少年の片割れは夕暮れに吸い込まれそうになるのだが・・・。

:感想
とりあえず背景と文字色に目を痛める。歴史的知識に関してはkirekoも堂々と人を指差すことの出来ないぐらい浅いものだが、問題はそこじゃない。なぜ旧仮名、旧漢字を使ったのか、後書きから察するに、そのちっぽけな作者の自己満足が、短絡的な感情に動かされ、読み飽き易い現代っ子に通用するのだろうか?と、そういう挑戦心には感服するが、作者の文章の質が誤魔化しきれていない部分が、また滑稽だ。何が言いたいというより、何がやりたいんだ。設定は荒削りな痛々しさ丸出しだし、展開が面白いとはいえない。導入部の最初に芥川の神神の微笑の名前があるが、おそらく芥川を目指した作者が唯一達成できたのは、その言い回しだけだったようだ。作者が勘違いしている部分をあえて指摘するなら、芥川の短編が面白いのは、人間的な側面の描き方と展開の上手さにあるからだと思う。が、この作品にはどちらも欠けている。作家の名前を挙げて、その作家への挑戦する気持ちは良いが、そういう大それたことをしようと思うのなら、匹敵するべきレベルになってから書け。と言った感じだった。


気配 ジャンル ホラー 作:飯野こゆみ

:あらすじ
夏ホラー2008~百物語編~参加作品車を買い換えたころから聞こえる幻聴。助けられていたのだけれど、それは始まりでしかなく――既に主婦の運命は決まっていた。

:感想
くそっ、さっきのと相まって目がいてえ。でも、大がつくほど好きだぜこういうの。久々に本格的なホラーテイストの作品にめぐり合えたんじゃないだろうか。冷静で冷ややかな主観で進む話なのだが、作者の小説として読ませる力が大幅に加味し、その完成度を高めている。個人的には文句なし。この作品の特筆する点としては、平素、つまり怖さを少しずつ感じさせる日常の描写、その焦らし方が上手いところだ。台詞描写と背景描写、展開と動作表現のバランスが完璧なのだ。ホラーの核心である車の生い立ちを隠しつつ、細やかで質感のある描き方には、読み手としても、同じ書き手としても好感を覚える。作者は後書きで謙遜しているが、少々オカルトなホラーを嫌うkirekoにとって、これ以上無い怖さが伝わってきた。特に、肉体的に精神的にやつれていく主人公が最期に車に乗車した後の声、そして主人公が何の疑問も持たずに、また新たな…という展開には、清々カラりとした地の文の書き方と、実はジトッとした展開というギャップが、読者の目を釘付けにし、創造の世界で背筋を寒くする。まさにホラーとは、こういうものであると、思った作品。秀作!


===========終わり===========


>人生良作ありゃ、駄作もあるさ
( ゜д゜ )まさにそんなことを考えさせられる作品群だった。
( ゜д゜ )うーむ、どの作品にも、それぞれの味があるねえー。
コメント (2)
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