PM8時23分 奥の席
トイレの付近で悲鳴が聞こえる。
ドアには、べったりと鈍く赤い血液が滴りおちる。
トイレ付近の客が騒ぎ出し、悲鳴が店内中にこだまする。
「お、おい。あれは・・血じゃないのか?」
岩田は震える声でトイレのドアに指を指した。
指した方向には確実に正気を失った男がうつろにこちらを眺めている。
「な、なんだありゃ・・・」
健二が声を上げる。まるでスプラッター映画の描写のような血飛沫が
トイレを中心として客席に向かいゆるゆると流れだしている。
「と、とにかく逃げよう!非常口に向かうんだ!」
智弘は恐怖の顔を浮かべながら席を立ち、その場にいた皆に言い放つ。
健二は綾香の手をつかみ非常口を確認すると走りだす。
健二を追うように智弘や岩田、他の二人も上着と荷物を持つと走り出した。
座敷
「一体なんだって言うんだ!」
座敷にいた恵の部下が声を上げ、フスマを開けると
そこには恐怖の顔に歪んだ客が逃げまどっている。
「うっ、な、なんだ・・」
ピシャッと部下の顔に液体がつく。
何かと顔を触ってみると、独特の匂いとツーッと広がる赤い色が
手についている。ヒッ!と思わず座敷のほうへしり込みしてしまう。
「血・・・部長!血・・血です!!」
悲鳴を上げる部下は、思わずフスマを閉じる。
フスマの外では恐ろしい悲鳴の数々が聞こえる。
「何が起きている?おいオマエとオマエ。様子を見て来い」
部下の驚きようを目の当たりにした恵だが、意外と冷静だったのか
余裕そうな面持ちで部下に命令する。
「は、はい」
二人の部下は立ち上がり、フスマの前にたち開けようとする。
ドンッ!!ズズ・・・
「うわっ!」
次の瞬間、部下二人はフスマから出てきた何本もの腕に
体ごとフスマをぶち破り引き摺り出されてしまった。
「うわああああああああ!!」
血飛沫がフスマに当たり恐ろしい悲鳴と共に
どよめきに似たうめき声と再度部下の悲鳴がフスマを通して伝わってくる。
貫かれて穴が開いているフスマを恵が覗くと、奥にいた光りを失った恐ろしい男二人が部下に襲いかかっている。
「な、なんだこれは・・・ひぃぃ!」
さっき腰を抜かしていた部下が、立ち上がりながら後ずさりをする。
「これは・・・とにかく逃げるぞ!ついてこい!」
恵は隣の座敷のフスマを大急ぎで開け、ホールへ出た。
「うっ!!」
ホールへ出た恵が自分達の居た座敷のあたりに目をやると、
うめき声と共に部下ではない男が体を引き摺りながらこちらを見ている。
全身から血が出ているようだ。
「う、う・・たすけ・・・グワッ!」
全身から血を流す男の足には顔色が変色したさっきの男達が、
男のふくらはぎ部分からかかとにかけての足の部分に食いついていた。
「うわああああ!!」
恐怖に耐え切れなかったのか悲鳴を上げて大急ぎでその場から走り出す部下。
入り口に向かって走り出した部下を追おうとするが、近くにあったトイレのドアが勢い良く開き、さっきの男達と同じような正気を失った顔の女が出てくる。
「くそっ・・!」
退路を二つ塞がれて恵は周りを見渡し、緑色の蛍光色を放つ機材を目にすると、
冷静な顔に少し焦りの色を浮かべ、トイレ近くの曲がり角を急いで通過し
非常口に向かって走り出した。
非常口
入り口の惨劇に気づいた何人かの客やトイレ付近での惨劇を目の当たりにした客。それら異変に気づいた客が非常口に列を作り、ドアを開けようとしている。
非常口は逃げようとする人で、ごった返していた。
「くそっ、なんで開かないんだ!」
重い金属で出来ている非常口の大きなドアは、
なぜか鍵もかかっていないのに開かない。
何人もの男性客がとっかえひっかえドアをあけようとするが
ドアとドアノブは重い金属音を立てるだけでまったく開きそうにない。
舌打ちと悲鳴が入り交ざる中、携帯に必死電話する女性客や
その場にへたりこむ男性客。その中には怪我を負ったものもいる。
「くそっ・・・なんでこんな時に・・・」
「なんなんだよう・・あの男は・・」
その中に居た健二や智弘は開かないドアに苛立ちを覚えつつ常に周りを
つぶさに見まわしていた。
岩田はドア近くの前列に行ったようだ・・・。
マルさんと茂子はイラツク健二たちの周辺に固まっている。
「な、なんで・・なんでなの・・・」
綾香は、携帯電話で警察に電話をしているが、なぜか繋がらない。
リダイヤルボタンを押す綾香の手は震えている。
「おい早く開けろ!」
前列のほうに居た飛鳥は、怒声とも思える声をあげてドアの前の客に言い放つ。
そうこうしている内に、
さっきまでドアを開けるのに必死だったサラリーマン風の男が言い放つ。
「誰か!この中で力の強いの!手伝ってくれ!五、六人一斉にタックルしてドアにぶち当たれば、その力で開くはずだ!」
群集の中から一人、また一人と屈強そうな男が出てくる。
そして岩田も手を上げ、その中に加わったようだ。
「よしいくぞ・・・せーのッ!!」
ガタイのいい男達がドアから少し助走距離をとり
息を吸い込み一気に力を溜める姿勢になる。
男の掛け声と共に一斉にドアに突っ込む男達。
ドーンッ! ガンッ!
重圧に耐え切れなくなった重い金属製のドアが開く。
ドアを開けた勢いで男達は体ごと外へ出た。
一気に外の冷たくなった空気が入ってくる。
「よし!皆逃げろーッ!」
先頭の男が声を上げると前列の客達がゾロゾロと駆け足で出てゆく。
だが、走り出した客達を待っていたのは、正気を失った緑色の化け物だった。
先にドアから出て行った客は次々と襲われていく。
逃げようとする客も恐ろしい力で引きずり出されていく。
悲鳴を上げてその場に倒れる客の中に岩田もいた。
「うわああ・・!」
走ろうとしていた飛鳥が非常ドアのノブに手をかける。
重い金属のドアがゆっくりとしまりはじめる。
「い、岩田ーーッ!」
健二が大声で襲われている岩田に叫ぶ。
岩田の元へ走ろうとするが急いで非常ドアに逃げかえる客に止められて
身動きが取れない。
「くそっ!け、健二・・うわああ!!」
襲い掛かってくる化け物を払いのけようとする岩田だが、
肩口を噛み付かれ、ぐったりとする岩田の体が見える。
ズゥン・・
「岩田ーーーーッ!!!」
健二の叫びと共にドアが大きな音を立てて閉まる。
その場に崩れ落ちる健二を見て、智弘が叫ぶ。
「くそ!なんでドアを閉めた!」
ドアを閉めた飛鳥に摑みかかり、悲鳴の聞こえるドアの前で
怒号を浴びせる智弘。
「し、しかたねえだろ!化け物が中に入ったら俺達もやられちまう!」
胸倉をつかまれながら、必死に弁解する飛鳥。
ドアノブから離れた手は震え、顔には恐怖の表情が浮かんでいる。
智弘は飛鳥の胸倉から手を離し、ドアの前で崩れた。
マルさんと茂子が智弘の近くに寄ってくる。
「なんてことに・・・なんてことになってしまったの」
綾香が恐怖と悲しい顔を浮かべて肩を落とす二人と同じ気持ちに襲われながら
ポツリとつぶやいた。
非常口の外は悲鳴とうめき声が聞こえる・・・。
この記事を評価する
シナリオ【異変】-6へ
トイレの付近で悲鳴が聞こえる。
ドアには、べったりと鈍く赤い血液が滴りおちる。
トイレ付近の客が騒ぎ出し、悲鳴が店内中にこだまする。
「お、おい。あれは・・血じゃないのか?」
岩田は震える声でトイレのドアに指を指した。
指した方向には確実に正気を失った男がうつろにこちらを眺めている。
「な、なんだありゃ・・・」
健二が声を上げる。まるでスプラッター映画の描写のような血飛沫が
トイレを中心として客席に向かいゆるゆると流れだしている。
「と、とにかく逃げよう!非常口に向かうんだ!」
智弘は恐怖の顔を浮かべながら席を立ち、その場にいた皆に言い放つ。
健二は綾香の手をつかみ非常口を確認すると走りだす。
健二を追うように智弘や岩田、他の二人も上着と荷物を持つと走り出した。
座敷
「一体なんだって言うんだ!」
座敷にいた恵の部下が声を上げ、フスマを開けると
そこには恐怖の顔に歪んだ客が逃げまどっている。
「うっ、な、なんだ・・」
ピシャッと部下の顔に液体がつく。
何かと顔を触ってみると、独特の匂いとツーッと広がる赤い色が
手についている。ヒッ!と思わず座敷のほうへしり込みしてしまう。
「血・・・部長!血・・血です!!」
悲鳴を上げる部下は、思わずフスマを閉じる。
フスマの外では恐ろしい悲鳴の数々が聞こえる。
「何が起きている?おいオマエとオマエ。様子を見て来い」
部下の驚きようを目の当たりにした恵だが、意外と冷静だったのか
余裕そうな面持ちで部下に命令する。
「は、はい」
二人の部下は立ち上がり、フスマの前にたち開けようとする。
ドンッ!!ズズ・・・
「うわっ!」
次の瞬間、部下二人はフスマから出てきた何本もの腕に
体ごとフスマをぶち破り引き摺り出されてしまった。
「うわああああああああ!!」
血飛沫がフスマに当たり恐ろしい悲鳴と共に
どよめきに似たうめき声と再度部下の悲鳴がフスマを通して伝わってくる。
貫かれて穴が開いているフスマを恵が覗くと、奥にいた光りを失った恐ろしい男二人が部下に襲いかかっている。
「な、なんだこれは・・・ひぃぃ!」
さっき腰を抜かしていた部下が、立ち上がりながら後ずさりをする。
「これは・・・とにかく逃げるぞ!ついてこい!」
恵は隣の座敷のフスマを大急ぎで開け、ホールへ出た。
「うっ!!」
ホールへ出た恵が自分達の居た座敷のあたりに目をやると、
うめき声と共に部下ではない男が体を引き摺りながらこちらを見ている。
全身から血が出ているようだ。
「う、う・・たすけ・・・グワッ!」
全身から血を流す男の足には顔色が変色したさっきの男達が、
男のふくらはぎ部分からかかとにかけての足の部分に食いついていた。
「うわああああ!!」
恐怖に耐え切れなかったのか悲鳴を上げて大急ぎでその場から走り出す部下。
入り口に向かって走り出した部下を追おうとするが、近くにあったトイレのドアが勢い良く開き、さっきの男達と同じような正気を失った顔の女が出てくる。
「くそっ・・!」
退路を二つ塞がれて恵は周りを見渡し、緑色の蛍光色を放つ機材を目にすると、
冷静な顔に少し焦りの色を浮かべ、トイレ近くの曲がり角を急いで通過し
非常口に向かって走り出した。
非常口
入り口の惨劇に気づいた何人かの客やトイレ付近での惨劇を目の当たりにした客。それら異変に気づいた客が非常口に列を作り、ドアを開けようとしている。
非常口は逃げようとする人で、ごった返していた。
「くそっ、なんで開かないんだ!」
重い金属で出来ている非常口の大きなドアは、
なぜか鍵もかかっていないのに開かない。
何人もの男性客がとっかえひっかえドアをあけようとするが
ドアとドアノブは重い金属音を立てるだけでまったく開きそうにない。
舌打ちと悲鳴が入り交ざる中、携帯に必死電話する女性客や
その場にへたりこむ男性客。その中には怪我を負ったものもいる。
「くそっ・・・なんでこんな時に・・・」
「なんなんだよう・・あの男は・・」
その中に居た健二や智弘は開かないドアに苛立ちを覚えつつ常に周りを
つぶさに見まわしていた。
岩田はドア近くの前列に行ったようだ・・・。
マルさんと茂子はイラツク健二たちの周辺に固まっている。
「な、なんで・・なんでなの・・・」
綾香は、携帯電話で警察に電話をしているが、なぜか繋がらない。
リダイヤルボタンを押す綾香の手は震えている。
「おい早く開けろ!」
前列のほうに居た飛鳥は、怒声とも思える声をあげてドアの前の客に言い放つ。
そうこうしている内に、
さっきまでドアを開けるのに必死だったサラリーマン風の男が言い放つ。
「誰か!この中で力の強いの!手伝ってくれ!五、六人一斉にタックルしてドアにぶち当たれば、その力で開くはずだ!」
群集の中から一人、また一人と屈強そうな男が出てくる。
そして岩田も手を上げ、その中に加わったようだ。
「よしいくぞ・・・せーのッ!!」
ガタイのいい男達がドアから少し助走距離をとり
息を吸い込み一気に力を溜める姿勢になる。
男の掛け声と共に一斉にドアに突っ込む男達。
ドーンッ! ガンッ!
重圧に耐え切れなくなった重い金属製のドアが開く。
ドアを開けた勢いで男達は体ごと外へ出た。
一気に外の冷たくなった空気が入ってくる。
「よし!皆逃げろーッ!」
先頭の男が声を上げると前列の客達がゾロゾロと駆け足で出てゆく。
だが、走り出した客達を待っていたのは、正気を失った緑色の化け物だった。
先にドアから出て行った客は次々と襲われていく。
逃げようとする客も恐ろしい力で引きずり出されていく。
悲鳴を上げてその場に倒れる客の中に岩田もいた。
「うわああ・・!」
走ろうとしていた飛鳥が非常ドアのノブに手をかける。
重い金属のドアがゆっくりとしまりはじめる。
「い、岩田ーーッ!」
健二が大声で襲われている岩田に叫ぶ。
岩田の元へ走ろうとするが急いで非常ドアに逃げかえる客に止められて
身動きが取れない。
「くそっ!け、健二・・うわああ!!」
襲い掛かってくる化け物を払いのけようとする岩田だが、
肩口を噛み付かれ、ぐったりとする岩田の体が見える。
ズゥン・・
「岩田ーーーーッ!!!」
健二の叫びと共にドアが大きな音を立てて閉まる。
その場に崩れ落ちる健二を見て、智弘が叫ぶ。
「くそ!なんでドアを閉めた!」
ドアを閉めた飛鳥に摑みかかり、悲鳴の聞こえるドアの前で
怒号を浴びせる智弘。
「し、しかたねえだろ!化け物が中に入ったら俺達もやられちまう!」
胸倉をつかまれながら、必死に弁解する飛鳥。
ドアノブから離れた手は震え、顔には恐怖の表情が浮かんでいる。
智弘は飛鳥の胸倉から手を離し、ドアの前で崩れた。
マルさんと茂子が智弘の近くに寄ってくる。
「なんてことに・・・なんてことになってしまったの」
綾香が恐怖と悲しい顔を浮かべて肩を落とす二人と同じ気持ちに襲われながら
ポツリとつぶやいた。
非常口の外は悲鳴とうめき声が聞こえる・・・。
この記事を評価する
シナリオ【異変】-6へ