kirekoの末路

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4、GERAO抹殺計画

2013年10月30日 17時48分08秒 | 仮面ライダー笑

4、GERAO抹殺計画

 

 突如として街中に吹き出した非現実。
 黒い衣装に身を包んだ謎の女の放った蜘蛛の化物は、結果的に多くの死傷者を出した。
 それを倒した異形の戦士、ゲラオ。
 刺激的な情報を常に求め、事件の真相を人々の好奇心を満たすために死に物狂いで探るマスコミは、こぞって勝手な見出しを出し、推測の域を出ない論議を重ねたが、事実は何もわからないまま、非日常の緊張感を情報として垂れ流すだけだった。

 猟奇というには奇怪に余り、奇怪というよりも現実的な凄惨さが、そこにはある。
 その事実だけが、電波を通じて報道されていた。

「……裏切り者、仮面ライダーゲラオ」
 街頭の巨大モニターから流れる不安感を隠しきれない好奇の報道を見上げながら、黒い衣装の謎の女は呟いた。
 キャスター、コメンテーターの話を対岸の火事のように冷ややかに見守り、ゆっくりと歩いては通り過ぎて行くスクランブル交差点の群衆。
 その中で一人、マネキンの入ったショーケースの鏡に向かって白い手袋を手をスッと伸ばす謎の女。

「その命、永らえても待っているのは永遠の孤独と知っていても、か。だが、邪魔をするならば……」
 何の感情も呟きからは察せれない。
 冷淡な。
 いや、その唇からでる温度の感じない言い方でさえ、女の心中を何も教えてはくれない。
 白い手袋の先から吸い込まれるような黒い渦が生まれ、女は一瞬にしてその渦に飲み込まれていった。
 永遠の黒が充満した暗黒の先にある、何処かへ消えていったのだ。


 群衆の中には勿論その一部始終を見ている者もいた。
 だが、誰もがそれを見間違いだと思い、気に留めず。
 記憶にも残さなかった。


――――――


 無限の暗黒の先にある、白い枠線で囲われた閉鎖空間。
 四方と天井と床に無地の白壁、一つの漆喰の黒いテーブルと、二つの赤色のドアと、三つの銀色の椅子だけがある部屋。
 そこには四人の男がいた。

「ドウヤラ、作戦ワ、失敗シタヨウダナ」
 カタコト言葉で喋りながら、手にもった飴玉を口に運び、舐めもせずそのままバリバリと音を立ててかじる、怪しい赤紫の色のサングラスを引っさげた大柄の男。

「Dの裏切り者が出てくるとは、あの女も案外詰めの甘い……!」
 壁にもたれかかり、シワの寄った眉間に何かを睨みつけるような視線を浮かべ、腕を組む長身の男。


「まーまー、先輩。優しすぎるゲームをやるよりは、はるかに面白くなってきたじゃないすかー」
 椅子の背もたれを腕と胸で抱くように座り、ただ携帯ゲームのボタンを押しながら無邪気な少年のように笑顔を浮かべる男。

「それにしても我々が全員招集されるとは……どうやらタダゴトではない様子ですね」
 三者三様の有り様を冷静に見て、言葉穏やかに眼鏡の位置を直すスーツ姿の男。


 キィー……。

 部屋のドアの一方が開き、か細い照明器具の明かりを飲み込むような大きな闇が部屋中に広がる。
 バタン、というドアの閉まる音と共に闇が引き、照明器具の明かりが現れた謎の女の風体を晒す。

「よろしい。全員集まっているようだな」
 謎の女が入ってきた瞬間、四人の男の視線は女に向かった。

「秘密結社Dに忠誠を誓うライダーシステムの体現者。貴様らにDの命令を伝える」
 部屋の中にいる大の男四人の誰しもが、唇を動かす女の顔を見て、背筋の冷たさを感じる。
 頭の頂点から足の指先に至るまで、震えるような恐怖に纏わりつかれるように緊張感が走る。 

「手段や、方法は問わない。Dの血の掟を破りし裏切り者。仮面ライダーGERAO(ゲラオ)をこの世から抹殺しろ」
 実際、それまでと声の大きさは余り変わらない。
 だが、命令を伝える女の口ぶりを聞いていた四人の男たちには、内側から打ち震えるようなドス黒い殺意が感じられた。
 凡人が人を殺害するにあたり最も単純な動機となるべき憎しみなど、女の口には一欠片もない。
 あるいは機械的とも思える、混じりっけのない純粋さ。
 感情無き、純粋な殺意の伝達。
 それが、四人の男たちの脳にインプットされ。
 それが、仮面ライダーゲラオ抹殺という行動にアウトプットされるのだ。


 無限の暗黒が先にある、あけられたドアに消えていく四人の男たちの後ろ姿を見て、謎の女は壁に『D』と書かれたエンブレムに向かって一つまた呟く。


「Dの最終計画と、究極のライダーシステムの完成。このGERAO抹殺計画には二つの意味と意義があります。首領D。これで計画はまた一つ進みます」
 その言葉を聞いたDのエンブレムは、まるで頷くように、赤く点滅した。