kirekoの末路

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短編『スーパーライト三国志演義、俺流解説赤壁の戦いまで』

2008年04月21日 16時57分10秒 | 短編
短編『スーパーライト三国志演義、俺流解説赤壁の戦いまで』



 昔、中国に四百年も続いた漢っていう国があった。
劉邦(りゅうほう)っていう人が、頭がまわる天才野郎とか、
パワー馬鹿たちと一緒に、すげー頑張って築いた国だった。
でもその後、色んな事があって、王様がハブられてた。
そん時に王様の代わりに国を動かしてたのは、王様の部下だった。
そりゃもう、王様を言いくるめて思うままに操ってた。
で、ほんと、やりたい放題やってたら、国民が飢えて、不満がボンバーして、国が傾きかけた。
そしたら張角(ちょうかく)っていう新興宗教が反乱をおこした。

 これには国もぶちきれて、本気出して張角をぶっ潰そうとした。
そん時に出てきた曹操(そうそう)とか、劉備(りゅうび)とか言う奴らも
「俺らもやってやろうじゃねえか」って喧嘩に加わって、
色んな人が集まって新興宗教をボッコボコにした。
はい、張角死亡。新興宗教滅亡。

 でも、そんなことがあっても王様は、やっぱり政治の世界ではハブられてた。
そのストレスのせいで、王様は毎日晩酌三昧。
そんな無茶な生活がたたって、王様が死んだ。

 で、王様の息子が新しい王様になる予定だったんだけど、王子は二人いて、
一人は、何進(かしん)っていう肉屋あがりの将軍の妹、
何后(美人だけど性格が超悪い)が産んだ弁王子と、
もう一人は、王美人(イギリスのダイアナ元妃的な奴)の産んだ協王子だった。
で、王様選びでもめて、すったもんだの末、
それまで国の甘い汁を吸ってた全員は死んだ。
とりあえず王様は、何后の産んだ弁王子に決まった。

 で、涼州(りょうしゅう)っていう荒地出身の董卓(とうたく)って人が
時代の尻馬にのって上手い具合にのし上がってきた。
とりあえず気にくわなかったから、自分が偉くなるために、
王様を弁王子から協王子に変えてみた。
そしたら丁原(ていげん)って言う奴が「なに王様勝手にかえてんだよ」とマジギレした。
でも、そんな丁原も、息子の呂布(りょふ)が董卓の部下に言いくるめられて、
可愛がってた自分の息子に裏切られて死んだ。

 今度は董卓が、王様にかわって色んなことやった。
そんなこんなで董卓に逆らう奴らが多くなって「調子のってんじゃねえぞ董卓」的な感じで
劉備とか曹操とか、色々な不平不満があった人が集まって、
ボンボン育ちで調子に乗りやすい袁紹(えんしょう)を『とりあえず』ボスにして
董卓をぶっ倒そうと、同盟軍を起こした。

 でも董卓は「とりあえず呂布とか使ってみようかな」って思って
前線守らせてみたけど、見事に馬鹿丸出しちゃんは突破されやがって、
これにマジギレして、今住んでる都会を燃やししつつ、昔の王様の墓を荒らしつつ、
小銭をためながら、自分の近くの田舎に引っ越した。

 都会が燃やされてショックを受けた同盟軍は、「もう董卓とかよくね?」って
やる気なくして、皆、田舎に帰った。
これで董卓は、うっしっし、鼻高々、もう田舎でやりたい放題。
「俺って最強じゃね?」って感じでヤンチャしてたら、
司徒(副総理)の王允(おういん)って奴の娘の貂蝉(ちょうせん)に騙された呂布が、
恩があるはずの董卓を、思わず殺しちゃった。

 呂布は強かったけど、女に甘いお馬鹿ちゃんだったので、
部下は凄い仕える奴が揃ってたけど、色々判断ミスやってるうちに、
ドサクサに紛れて王様を救って力をつけてきた曹操に追い込まれて、
最後は部下に裏切られて死んだ。

 で、今度は曹操が、世の中を動かそうとした。
スルーされがちだった王様の一族の劉備は、曹操に嘘ついて、
秘密裏に王様に媚売って曹操を殺そうとした。
でも曹操は頭が良かったから、劉備は逆に殺されそうになった。
とりあえずヘタれな劉備は、部下がバラバラになりながら逃げて逃げて逃げまくって、
荊州(けいしゅう)にいる同属の劉表(りゅうひょう)さんとこにお世話になった。

 で、「まあ逃げる奴追ってもしかたねーべ」と思った曹操は、
自分家の近くで暴れまわってた友達の袁紹ちゃんと戦って
最初は頑張ってた袁紹ちゃんだったけど、最後は半べそかきながらストレスの病にかかって死んだ。
袁紹ちゃんの領地は、全部曹操のものになった。

 あ、そういえば、言ってたなかったけど、
南のほうで力を増してた孫策(そんさく)って言うパワー野郎が死んで
弟の孫権(そんけん)っていう奴が呉(ご)という国を造って一大勢力を築いてたらしい。

 そんなこんなで、荊州でやる気ねー毎日を送ってた劉備は、
劉表の部下の蔡瑁(さいぼう)って言ういじめっ子に会って、
殺されるまがいのイジメにほとほと困ったので、とりあえず街に出て友達集めしてた。

 で、街中で徐庶(じょしょ)っていう奴に会った。
頭がキレる奴で、曹操ちゃんが大軍で攻めてきた時には、頭使って超頑張って追い返した。
でも徐庶はマザコンだったから、囚われた母親のために曹操ちゃんの所に向かった。
帰り際に、
「この近くに孔明(こうめい)っていう天才ニートが居るから訪ねてみな」
って劉備に言った。

 劉備は、
「徐庶がそこまで言うなら、その孔明ちゃんを部下にしようじゃねえか」
と思って、家に押しかけた。

 でも孔明ちゃんは、
「ニートなので働きません」の一点張りで、頭下げてる劉備に向かって、
めんどくさそうに、言い訳して二回も追い返した。

 劉備の義兄弟、
パワーに定評のあるオヒゲの関羽(かんう)と、
パワーだけの猪野郎の張飛(ちょうひ)は、兄貴が馬鹿にされてマジギレした。
そんで「もうこのままじゃ我慢ができねえぜ」といって
ニート孔明の家に火をつけようとした。

 でも偽善者劉備が止めた。
「とりあえず人の目もあるし、もう一回こようぜ」
って言って、弟達をなだめた。

 ニートの家に頭下げに行く事、三回目。
ついにニート孔明は、田舎から上京した。

 ニートを脱却した孔明は、徐庶が言うように頭が良かった。
曹操ちゃんの自慢のパワー馬鹿たちを、手の上で躍らせるように
ホイホイホイっと頭を使って退けた。
 劉備は、『すげー出来る奴』孔明にぞっこんだった。
関羽と張飛はジェラシーな毎日を送ってたけど
とりあえず頭の良い奴だったので信頼した。

 そしたら今まで劉備たちを囲ってくれていた同属の劉表が死んだ。
荊州は、すったもんだの裏切りの連続で、曹操に降伏した。
いじめっ子の蔡瑁は、曹操に取り入って偉い出世した。

 劉備に何度もやられて、怒っていた曹操は、劉備を殺そうと動いた。
でも逃げるのに定評のある劉備は、逃げた。
なんか世間体を気にして民衆も連れて逃げた。
孔明には「民衆は置いてけ」って否定はされたけど、
これまた幸運にも、パワー馬鹿の趙雲(ちょううん)とかのおかげで
なんとか安全地帯の江夏(こうか)って所まで逃げ切った。

 曹操は「孔明怖ぇーから、先に孫権倒せばよくね?」って思って
軍勢を率いて、孫権の住んでる呉(ご)ってところに、宣戦布告した。
孫権ちゃんは、キレやすいけど優柔不断野郎だったので、迷いに迷った。
孫権の部下たちは「曹操と戦うべきだ」って奴と、
「いやもう降伏でよくね?曹操強いし」って奴が半々ぐらいで毎日ミーティングしてた。

 そんなときに、呉で大人気の魯粛(ろしゅく)って人が、
スピリチュアルカウンセラーとして有名だった孔明の噂を聞いて江夏に来て、
「これから呉はどうすりゃいいんだ?とりあえず国に来てアドバイスくんね?」
って感じで勧誘に来た。

孔明は
「この話にのって、孫権と同盟すりゃ、曹操を倒すチャンスじゃね?」
と思って、魯粛の口車にのって呉に行った。

 呉に入った孔明は、いきなり呉のディベート会に呼ばれた。
とりあえず船旅でストレスが溜まった孔明は、誰それかまわず毒舌を振りまいて、
真面目なディベート会を荒らして荒らしまくって、皆をドン引きさせた。

 んで、魯粛の紹介で、気難しくて吐血癖のあるイケメンの周瑜(しゅうゆ)に会った。
周瑜は、呉の国で一人スマップ的なくらい人気がある国民的アイドル将軍だった。
この人は、孫権の兄孫策とも仲が良くて、
この人が「戦争YES」といえばYESだし、「戦争NO」といえばNOとなるぐらい
影響力の強い人だった。

 突然だが、孔明は、頭もキレるが、口もすげー上手かった。
すったもんだ色んな言葉で、周瑜ちゃんの痛いところをついて、
周瑜ちゃんの口から「戦争YES」と言わせた。

 孫権ちゃんは、ついに曹操ちゃんと大喧嘩することを決めた。
濡須口(じゅしゅこう)の先、赤壁という場所に兵隊を進めると、曹操ちゃんとのガチンコ対決に臨んだ。
孫権ちゃんの国は、すげー栄えていたけど、戦争はあんまり慣れてなかったし兵隊も少なかった。
それに比べて曹操ちゃんは、戦争続きで、もうそれはやる気満々な兵隊揃いで、数も多かった。

 とりあえず孫権は、「このままじゃ勝てないけど、どうすんべ?」って思って、
色んなこと考えた末に、周瑜をリーダーにして、魯粛ちゃんと孔明ちゃんをアドバイザーに添えた。
周瑜は、出来すぎる天才の孔明を嫌ってたけど、魯粛が「まあまあ仲良くしろよ」と
その仲を取り持って、結局、一時的に手を組んだ。

 作戦会議の末、「火」で燃やすのが一番効率が良かったと思ったので、
火を使いたかった二人だったけど、今の季節は風が逆向きで、
例えば火をつけたら、こっちがアッチッチのボォボォで
焼き鳥ならぬ焼き軍隊になっちゃう感じだった。

 周瑜が悩んでたら、孔明が
「俺、風変えれる術知ってるぜ?だから風向き変えればよくね?」
って意味不明の言葉を言い出した。
「なんだこいつ」と思った周瑜だったが、とりあえずやらせてみようと思った。

 その間に、周瑜は曹操の部下に偽手紙を持たせて、いじめっ子の蔡瑁を濡れ衣で曹操に殺させた。
次に周瑜は、国一番の粋なオッサンである黄蓋(こうがい)さんに、火付け役を頼んだ。
最後に周瑜は、ホウ統(ほうとう)っていう人に頼んで、曹操の陣地を燃えやすくしてもらった。
これで、風向きが変われば、火付けに必要な準備は全部整った。

 そして孔明が妖しげな術を使い始めて日にちが経った。
孔明ちゃんは、やる気をなくして祈ってた祭壇から降りると、見守ってた兵士達に
「そろそろ風吹くから、おまえらも周瑜のところいきな」っていって
江夏から劉備ちゃんの命令を受けて、迎えに来ていた趙雲と一緒に、江夏に逃げた。

 そしたら風向きが変わってた。
もう周瑜ちゃんは大喜びで、部下に命じて、燃えやすい曹操の陣に向かって、
黄蓋さんの燃えやすい船を突っ込ませて、曹操ちゃんの陣を燃やした。
もうそりゃ、ありえないぐらいにボォボォ燃えて、曹操ちゃんは涙目で逃げ出した。

 これを見て、曹操の前で逃げてばっかりだった劉備ちゃんは、
「ここで仕返ししなきゃ、いつ仕返しできるかわかんねえから、とりあえず嫌がらせしようぜ」
って言って、調子に乗って曹操を追いかけて、イジメられた報復を、これでもかとした。

 苛め抜かれた曹操ちゃんは追い詰められて、命乞いをしてまで逃げていった。
実は内なるドSだった劉備ちゃんと孫権ちゃんは、勝利したことに笑いがとまらなかった。
こうして、赤壁の戦いは終わった。でも実はまだ、三国志は始まってない。


【終】



―――――――――――――――

■あとがき

ライトなものがやりたかった。
桃尻語訳なんたらなんたらを三国志でやるということしか
念頭に無かった。歴史観に関しては間違っているかもしれない。

第八回『鏃門橋の陽動作戦』

2008年04月21日 00時51分56秒 | 『英雄百傑』完全版
― 鏃門橋 ―

 川を挟む長い鏃門橋を、砦に向かって足早に駆けるミケイ率いる1千の陽動部隊は、長大な黒い雲が覆う光無き闇夜の中、砦の敵の矢が届かない橋の中間まで来ると、一時その行軍を止めた。

 「もっと上に松明を掲げよ!もっと喚声を上げよ!」

 部隊は、若き指揮官ミケイの指揮により、暗闇の中で煌々と燃える松明を一糸乱れず掲げると、川に波紋を浮かばせるような大きな喚声をあげた。攻城戦に詳しいものであれば、大体理解はつくと思うが、敵に対して少ない兵数で挑む夜襲戦法は、敵のふいを突く奇襲と同じで、見つからず、情報が伝わる前に素早くやるからこそ勝ち目がある兵法なのだが、ミケイがとったのは、わざわざ敵に発見されるような奇妙な行動であった。
 そう、それはあたかも自分達の位置を砦の敵兵に知らしめるようなものであった。

 「よし、そろそろ良いだろう。皆、隊列を整えよ!」

 この行動を数度繰り返すと、ミケイは部隊の指揮を始めた。
実は、このミケイ部隊の奇怪な行動。それは敵を誘う、陽動作戦の一つであった。
陽動…つまり、作戦の要であるミレム達の決死隊が、川下りの最中、万が一にも発見されないように、砦の敵の目を釘付けにする必要があった。そのため、わざと見え見えの位置から光と声をあげさせたのだ。

 ヒュン…ヒュン…!

 次の瞬間、届かぬ距離から放たれる敵の矢が部隊の前に刺さる。
砦の兵が放った矢だろう。ミケイはこれを見てニヤリと笑った。
 視界の悪い暗闇の中で、迫る敵が目の前に居るのを見せられれば、どうしても飛びついてしまうのが普通の将兵の性(さが)である。そう、ミケイの作戦の第一段階は、見事に敵の視線を捉えていた。

 「良し!歩兵隊は大盾を構えよ、工作隊は鉄の傘の中に隠れよ!」

 ミケイは、馬の手綱を握り、その場でくるりと反転すると、率いた部隊の兵達に指揮を飛ばした。
 ミケイの号令が飛ぶと、ザッ!という足踏みの音と供に、人一人が悠々隠れられそうな横長の鉄の大盾を持った歩兵隊が、一斉にその大盾を天にかざす。それは、瞬く間に兵達の姿を覆うと、天へと延びる一面の鉄の壁となった。

 そして、歩兵隊の隊列の合間には、燃料と火付け道具を持った工作隊が、僅かな歩ける隊列の隙間を見つけて、一人、また一人と盾の影の中へともぐりこんでゆく。

 「騎馬隊は後方にて待機せよ!砦の門が開くまで、決して突撃してはならん!弓隊は中間で私の指示を待て!」

 ミケイは声高に号令を続けた。
そして再び、馬の手綱を強く握ると、隊列が整った歩兵隊の後方に移動した。

 矢筒と小弓を携えた弓兵達の前に座陣したミケイの周りには、兵はいたが、将軍らしい将軍は一人も居なかった。それもそのはず。総指揮官のジャデリン将軍の逆鱗に触れ、大口を叩いたミケイ将軍の作戦に手を貸すような郡将は、官軍の中に一人も居なかったからである。

 「…やはり兵1千を分けるとこうなりますか。私一人で、分かれた全部隊へ上手く指揮を飛ばすことが出来ましょうか…」

 ミケイは、ふと呟いた。
最後尾に並ばせていた騎馬隊を、弓隊の後ろに少し離すように配置すると、橋の中腹を境目に、歩兵工作隊、弓隊、騎馬隊の三つの隊に別れた陽動部隊は、目に見える難攻不落の砦を攻略するには、余りにも少なかった。

 「しかし、勝てない戦ではないはず。たとえ指揮する将が、私一人でも」

 だがミケイは、遠巻きに消えてゆく僅かな騎馬隊と歩兵隊の影を追いながら、あくまでも自信満面な表情を浮かべた。それは若き知将の絶対の自信であった。

 「歩兵隊!行くぞ!ゆるゆると前進だー!」

 「「「 オ ー ッ ! 」」」

ゆっくりと歩兵隊が動き始めた。



― 鏃門橋の砦 ―


 「はっはっは!見ろ兄貴!なんじゃあれは!少ない兵が更に少なくなって突っ込んでくるぞ。それになんだ、あの光は。まるで自分の場所を教えているようなもんじゃないか!」

 鏃門橋の砦の城壁に構える守将ズビッグは、2千の兵が守備するこの砦へと突っ込んでくるミケイの部隊の数を見て笑い、すっかり侮りきっていた。

 「最初の勢いと比べて、なんと鈍足な夜襲だろうか。あのように兵数を少なくして、かかってくるとは、兵法を知らぬ奴だな。ふふふ、率いている将は余程の兵学者と思ったが、どうやら勘違いだったようだ」

 始めは罠ではないかと多少の用心をしていたエウッジであったが、余りにも鈍足過ぎる前面の歩兵隊を見て、その気持ちは一変していた。

 「用心するまでもなかったな!後方の援軍が来れば、あのような小勢、蟻のようなもの。いくらでも蹴散らせるわ…」
 「へへへ、兄貴。その前に、ちと奴等に戦を教えてやろうぜ」
 「わかっておる。さあ、ズビッグ!あの阿呆どもに矢の雨を浴びせよ!」
 「任せとけ兄貴!よーし!矢を用意しろ!よーく狙えよ!」

キリキリキリ…!!!

 砦の城壁に沿うように横列で守備する頂天教軍の兵士達は、ズビッグの号令に従って、前方に向かって、軋む弦の音が聞こえるほど強く弓を構えた。

 「放てーッ!!」

ヒュンヒュンヒュンヒュンヒュン!!!!!!

 ズビッグの号令と供に、兵士達の指が離れる!
ビィンと小気味良く弾かれる弦の音が聞こえると、兵士たちが構えた矢は一瞬にして夜空を裂き、砦の城壁から、速度を増した無数の鋭い鉄の矢の雨が官軍に向かって放たれた!

 「上から矢が来るぞ!踏ん張れ!歩兵隊!」

 歩兵隊の最後方で指揮をとるミケイが、城壁の動きを察知すると、スッと手を動かし、兵士達に号令をする。

 バッ!!

 すると、工作隊を含む歩兵隊は、その場で強く足を踏ん張ると、それまで掲げていただけの鉄の大盾を両手に握ると、強く頭上に押し上げるように腕に力を入れた!


 ガッガッガッガッ!!カツン!カツン!カツン!カツン!


 その刹那!まさに瞬間の出来事であった!
大盾により一面を覆う力強い鉄の壁へと変わった歩兵隊は、城壁から迫り来る、威力を持った弓矢を難なく弾き飛ばすことに成功した!大盾に防がれて威力を無くした矢は、歩兵隊を捉えることもできず、兵士達の横に、斜めに、後ろに、前に無残に散った!

 「後続部隊は火を絶やすなよ!歩兵隊、進めー!」

 ミケイの号令によって、ジリジリと迫るように大盾を持った歩兵隊が移動する。
矢を放った砦の兵士達は驚き、慌てて数度矢を放ってみたが、その度に矢は鉄の大盾に弾かれ、まるで利かない様子だった。
まさにこれは、文字通り鉄壁の行進であった。

 城壁に居たズビッグは、この光景に苛立ちを露にした。

 「おのれ!あのように矢が何度も弾かれるとは…!ええい、こうなれば俺が出て…!」
 「慌てるなズビッグ。あのように煌々と松明を照らすような凡将に対して、お前が慌てる事はない」
 「いや、兄貴!ここは俺に行かせてくれ!あんな奴ら、俺の大斧で引き裂いてやるぜ!」
 「良く考えろ。お前は鉄の盾が、矢を何度も防いでくれると思うか?」
 「え…?」
 「いいから、次の矢だ。弾かれても良いから、矢を絶え間なく放つのだ!」
 「わ、わかった。おい!次の矢だ!」

 慌てて打って出ていこうとするズビッグの肩を強く掴み止めると、エウッジは鋭い眼でズビッグを見た。ズビッグは指示に従い、守備兵達に矢を構えさせると、再び矢の雨が官軍を襲った。

 しかしやはり、ミケイ率いる鉄壁の行進を止める事は適わず、矢は使い物にならないほど四散していった。

 「あ、兄貴!」
 「…ふふ、落ち着け」
 「だけどよぉ!敵はもう橋を渡りきっちまうぜ!?」
 「武勇一辺のお前も、そろそろ気付くかと思ったが…まあよい。ズビッグ!まずは頭を真っ白にして、大盾の構造を想像してみろ」
 「う…ううん…?」
 「外側表面は鉄といえども、大盾の内側は木。例えば数百の矢が一斉に弾かれたとしても、その衝撃と威力は木造部分に軋み、外側部分の鉄は剥げるであろう?すると表面は矢傷が残り、鉄の表面に小さな溝が出来る。そこに勢い良く次の矢が放たれれば、どうなる?傷の溝は深くなり、軋んだ内側の木造を貫き、敵兵の胸へと刺さるのだ!」
 「と、いうことは!」
 「そう、あれほど重く、硬い大盾を用いても、何度も矢を防ぐことは難しいはず。しかもその持ち手が同じ人間なら、なおさら!体の疲労という劣化もある」
 「な、なるほどな!流石兄貴だ!」
 「わかったら次々に矢を放て。敵が自分の位置を知らせてくれている内にな」
 「よぉし!あのウスノロどもに一泡吹かせてやるぜ!」

 兄の言葉を聞いて納得したズビッグは、次の矢を放つ号令を兵士達に聞こえるように高らかに放った。無数に飛ぶ矢の影を見据えながらニヤリと笑うエウッジ。たしかに、この時のエウッジの推察力は見事であった。


 だが…


 「よし、今だ!全軍!全ての松明の明かりを消せ!工作隊!全速で砦の前へ進み、城壁に井草を投げ込め!」

 ミケイは声と供に前後の部隊に手を振って号令を飛ばした!
すると、陽動部隊を照らしていた煌々と光る松明の火は、一瞬にして消され、その姿は夜の闇へと消えてしまう。

 そして、ミケイの作戦通り、歩兵隊の隊列に隠れていた工作隊が、大盾を構える歩兵隊の横を素早く通り抜け、足の続く限りの全速力で砦の前に向かった!
 素早く駆ける工作隊の手には、火打ち石が握られ、背中には一つに纏められ、良く燃える油の滲み込んだ井草が背負われていた。

 一方、城壁に居たエウッジ、ズビッグ兄弟は明かりが消えたことに対して冷静だった。

 「ふふ、今さら火を消してどうなる。闇に紛れて城壁を登るとでも言うのか?愚かな奴め…ズビッグ!やれい!」
 「おう兄貴!任せておけ!弓隊ッ!もっと矢を放って敵を近づけさせるな!」

ヒュンヒュンヒュンヒュン!!

 守備兵達に号令を飛ばすズビッグだったが、矢は闇に動くミケイの部隊を捕えることは出来なかった。

 そう、弓矢を持った敵の守備兵は、矢の狙いを定めるために、今まで煌々とついていた官軍の松明の明かりを長時間見続けていたため、焦点が呆け、網膜には光の残像が見え、明暗の差で錯覚を起こし、視界が悪くなっていた。

 「どうした!矢が弾かれる音が消えたぞ!敵はおそらく前進し、城壁の下にいるのだ!下を狙え!」

 矢を放つ音だけが空に聞こえ、たまらずエウッジが怒声をあげる。
号令に従い、守備兵たちは城壁の下の闇に向けて、一斉に矢を放つ!

ヒュンヒュンヒュンヒュン!

 しかし、ドサッドサッと土に刺さる音ばかりで、まるで手ごたえがない。
おそらく居るであろう、ミケイの歩兵部隊に当たっていないのだ。

 「おのれぇ!ウスノロ官軍め!どこだ!どこにいる!」

 高い城壁の上から、官軍の影を追い、唸りをあげるズビッグ。
しかし、矢が当たらないのには、眼の錯覚以外、もう一つの理由があった。
難攻不落と呼ばれた、この砦の城壁の高さが災いしていたのだ。

 元来、弓を下に向けて、直角に近い角度で敵を射るというのは相当難しい技術であり、ろくに訓練も積んでいない賊上がりや、平民上がりの百姓上がりの兵で構成された頂天教軍に、そのような高等な射撃術が出来るはずはなかった。


 「まんまとかかりましたね…さあ!工作隊!火を放つのです!」


 ミケイの号令と供に、砦の前に突出していた工作隊が城壁の下に設置した井草の前で、火打ち石で火をつける。

カチッ、カチッ、ボォォォォォ!ボォォォォ!

 小さな燻りの点滅から、次第に轟々と燃え始めた井草!
メラメラと燃える火は、砦の前のあらゆる物を焦がし、炎は高い城壁を立ち上り、焦げる井草からは、特有の匂いと供にもくもくと黒煙が舞い上がった!

 「火!火だ!」
 「ゲホッ!ゲホッ!煙で前が見えねえ」
 「砦が燃えちまうー!誰か水を持ってくるんだ!」
 「たすけてくれー!焼け死んでしまうー!」

ゴォォォォ!ゴォォォォ!!

 良く燃えるように油をしみこませた井草の火は、城壁の前面を徐々に囲むようにして燃え盛り、平地の塵や木の葉に引火すると、大きな炎のうねりが城壁を登ってゆく。河川から流れる強い風も影響し、それはすぐに黒い消し炭となって、焦げた匂いと供に上昇し、弓を持って構えていた砦の守備兵の喉と鼻に入る。余りに早い火の回りに驚く者、大きく咳き込む者、逃げ惑う者。

 いつしか砦の周囲が、炎と黒煙に包まれると、それまで正気を保っていた者まで動揺しはじめた。それもそのはず、守備兵たちは、今まで近づかれたこともない不落の砦でだからこそ、戦を前にしても余裕であった。それが官軍の接近を許し、火をかけられたのだ。動揺しないはずがなかった。

 今まで安全だと思っていた位置が、危険と感じると、人間というのは不思議なもので恐怖が倍増してしまうのだ。だから、たとえいくら士気の高い精兵だとしても、その不安と恐怖は、独りでに伝染してしまう。

 一人騒ぎ出せば、また一人騒ぐ。

些細な混乱が、大きな混乱へと変わっていく。
中には、並んだ隊列を乱して右往左往し、逃げ出そうとする者も居た。

 逃げ惑う兵士の中、砦の守将エウッジは違った。
混乱する守備兵達の平静を取り戻すため、手振りと大声を交えて、右へ左へ指揮を飛ばす。

 「兵達よ!落ち着け!隊列を乱すな!砦を焼けるほどの火ではないわ!ただのこけおどしだ!おい、お前!逃げる兵を落ち着かせよ!」
 「だめです!なにせ火に慣れるものが少なくて…」
 「言い訳はいい!一人でも早く、部隊を纏め上げるのだ!」
 「は、はい!」

 だが、そんなエウッジの声もむなしく、炎と煙に怯え、隊列を乱す兵は後を絶たず、守備兵2千のうち、半数以上が既に前面の戦列から抜け、火の届かない北門の城壁へと移っていた。

 「むうう…おのれ、やはり敵は相当の兵学者か。こちらの心理まで突くとは、なんたる大胆な火計よ」

 そこへ、兵を纏めていたズビッグが駆け込んでくる。

 「兄貴!このままじゃだめだ!動ける兵で打って出て、全体の士気を回復させよう!」
 「馬鹿者!それこそ敵の術中にはまるようなものだ!ここは守備し!援軍と総力をもって敵に当たれば、何も恐れることは無い」

 砦の守備兵達を指揮するエウッジの将才は、冷静沈着で確かなものだった。
たしかに城壁の一部が燃えているものの、炎のうねりは風に煽られて大きく見えるだけであり、恐怖を煽ったものの、兵達に直接危害が及ぶという事ではない。それに、この砦の正面の門は分厚い鉄で出来ていたため、ちょっとやそっとの火では、打ち破れないほど強固なものである事をエウッジは知っていた。

 「使える兵だけを前面に出し!煙を吸い込ませぬよう、水で布を濡らして口に挟むように伝えよ!動揺した兵たちは、ズビッグに指揮させ、下がらせよ!」
 「はっ!!!」

 この戦略を易々と行ってしまうミケイも凄かったが、敵とはいえ砦の守将エウッジは流石の勇士であり、判断力に長けた有能な指揮官だった。

 指揮系統を乱したまま、平地で戦うことが多くの消耗を招くことを知っていたエウッジは、武に頼る弟ズビッグの進言を素早く諌め、まだ士気のある兵を纏め上げると、すぐに砦の隊列に戻すように指示した。

 「官軍が、いくら攻めてこようと、ここは難攻不落の鏃門橋!そうそう落とせるものではないわ!皆のもの!矢を放つ手を止めるな!火の隙間から矢を射掛けろ!今は撃つのだ!敵を撃って撃って撃ちまくれ!!」

 エウッジの号令は、守備兵達の平静を取り戻させるには、十分なものであった。
怯えていた守備兵達は、力をなくした弓を取り、城壁の炎と煙の隙間を見ては、闇雲に矢を放った!

 ヒュンヒュンヒュンヒュン!!!
 ガン!ガン!ガシッ!ドスッドスッ!

 「うわーーー!」
 「ギャアーッ!」
 「ぐうう、た、盾が持たん!」

 炎の城壁越しに、無数の矢がミケイの部隊めがけて飛んでくる!
ミケイの歩兵隊は、とっさに大盾を構えるが、何人かの兵士が勢いに負けて、あるものは勢いに負け大盾ごと河に吹っ飛ばされ、あるものは耐え切れずその場に倒れ、次に来襲した無数の矢に射られ、無残な死体を陸に晒した。

 「混乱をこれほど早く纏め上げるとは…敵の将もなかなか…!くっ、歩兵隊!ここが正念場ぞ!ひるまず大盾を構えて、この場を死守せよーッ!誰か!後方の弓兵にも伝えよ!城壁に向かって威嚇射撃の用意をせよと!」

 降りかかる矢に臆する兵士達を見て、ミケイが指揮を飛ばす!
万が一として予想していたことながら、これほど早く敵の体勢が立ち直ると思っていなかったからである。敵ながら天晴れ、と少し感心しながらも、ミケイの心の中は、徐々に焦りが沸いていた。今は炎と煙が邪魔をして、敵の攻撃もまばらだが、時間が経ち炎が消えれば、一転して不利になる現状。


 「…(この勝負、長引けば我が軍に攻略の余地は無い。まだか…決死隊!)」


ミケイは白銀の剣を振りながら、指揮を執り続けた。




― 鏃門橋の砦 西門城壁 ―

 一方その頃、三勇士率いる決死隊百人は、鏃門橋の砦の西に位置する、川沿いの森林に筏をつけると、一路砦の西門へと向かった。兵士達は、先ほどのミレムの鼓舞が利いているのか、目はギラギラとし、足は力強く大地を踏む。顔にはやり遂げるという意思が見え、どの者も意気に満ちていた。

 そして、その勢いもそのままに、ミケイの陽動作戦にかかり、殆ど敵の兵士の居ない西門の城壁を三勇士と百人は登り始めた。

 スワトを先頭にして、その横をポウロ、後を続けとばかりに進む決死隊は、城壁に縄杭(太い縄を巻いた杭を城壁に引っ掛けて、足場を作りながら登る道具)をつけて、高い城壁をするすると登っていく。高い城壁を登るのは、一苦労だったが、南門で起こる陽動作戦のおかげで、音を立ててもまったく勘付かれずに登れるのが救いだった。

 「あのミケイとかいう将軍。大口を叩くだけのことはあるでござるな!敵兵は前面に集結し、それがし等は楽々城壁を登れる、なんと見事な陽動でござろうか」
 「うむうむ。しかし…それに比べて我が大将ときたら…」

 スワトとポウロが、ミレムを見る。
すると、戦場に場違いな音が聞こえる。


 「ンガーー!!ンゴーーー!」


 さっきまで意気揚々だったミレムは、余りに強い酒を飲みすぎたのか、すっかり熟睡していた。戦場で、自分達の明主をそのままにするわけにもいかなかったポウロとスワトは、苦肉の策として、とりあえずスワトの背中に落ちないように綱を巻き、まるで乳飲み子のように背負いながら城壁を登ることにした。

 「グゴーッ!グゴーッ!」

 「まったく。うちの御大将は図太い精神でござるな。この大薙刀を持ちながら人一人を背負って城壁を登るのは大変だというのに!」
 「騒がない騒がない。我々は隠密、それに敵を前にしてこれほどの高いびきをかけるものは他には居ないでしょう。ははは」

 内心、なんとも緊迫感の無い男なんだと思ったスワトとポウロであったが、唸るような高いびきで眠るミレムの顔は、なんとなく憎めない子どもにも似た清々しいものがあった。



― 鏃門橋の砦 南門 ―

 未だ官軍と頂天教軍の間に、圧倒的な意気の差は出ていないものの、ミケイの心中の不安は、その通り的中しつつあった。
 一刻、また一刻と時間を重ねるうちに、城壁では着々と意気の高い兵士の纏め上げと、後方の援軍を迎え、迎撃する準備が出来上がっていった。

 「やっと兵が落ち着いてきた。ズビッグ!お前に頼みがある」
 「なんだい兄貴!」
 「お前は、ここの兵を数十人連れて、後方の援軍のために北門を開け!援軍が来たら、南門を開け、前の敵軍を討ち果たすのだ!」
 「へへっさすがは兄貴!じゃあ早速行って来るぜ!」

 命令を言い渡されたズビッグは、大手を振って兵をかき集めた。
そして、兵達を連れ、城の北門に向かって西の城壁沿いに走り始めた…



 その時であった。




なんと城壁を登りきった、三勇士率いる決死隊と遭遇してしまったのだ!