(3)更新料の法的な性格
いよいよ問題の更新料に関する議論を見ることにする。敷引きの問題と異なり、日本全国
の大家の利害が一致する分野だ。まずは双方の意見を見てみよう。なお、原判決は文章の
べたうちなのでエクセルに落として見やすく加工してある。
更新拒絶権の対価とはよく考えたものだと感心するが、確かに一度貸してしまうと
家主には「正当な事由か゜ない限り更新の拒絶ができない」ことになっている。その
意味では対価を受け取ることには正当性があると思う。自分の保有する物件でもそろ
そろ売却しようと思っている物件があるが、あいにく賃借人がおり、とりたてて滞納
などの問題がない為、更新拒絶はできない。不動産のオーナーなら知っていると思う
が、空室で売却するのとオーナーチェンジで売却するのでは同じ物件でも値段が違って
くる。空室の場合には最終需要家が購入するケースが多いため、比較的高く売れる。
一方で、オーナーチェンジの場合には売る相手が投資家なのでいわゆるその時の投資家
採算利回りで決まってしまう。現在であれば、空室の物件の場合場所がよければ想定
利回りで4-6%でも売れるが、これがオーナーチェンジだと現在の投資家採算利回りで
うる必要がある。立地にもよるが現在の投資家採算利回りは7-9%で、最悪の場合で
半値になってしまう。
その意味からすれば更新を拒絶する権利が元々大家には付与されていないというのは
やはり納得がいかない。更新料はその対価と考えるのはそれほど不合理とは思えない
のたが。②の賃借権の強化というのはロジックとして分かるが少し弱い気がする。確
かに2年であれば、2年間退去要請が起こらないという一つのオプションという見方も
なされるが、やはり現在の借地借家法で規定される賃借人の権利を考慮するとこれは
存在しにくい。でまあ、裁判所はこれもばっさり。
③と④は賃料補充と中途解約権だが、これについての双方の意見は次のようになってい
る。
やはり一番しっくりくるのが賃料補充という点だろう。なんだかんだいって募集賃料を上げ
ると集まらないし物件管理コストを考えると投資回収には必要だという観点というのが実務的
にも合理性がある。例えば私の場合には更新料というのは全て賃貸管理会社への支払いに消え
る。自分で管理しているオーナーは別として大抵のケースでは更新料を自分の懐に入れている
オーナーはあまりいないだろう。募集するためのコスト、退去後の原状回復。大抵の場合には
クロスの交換や畳の表換えなどが対象になるが、それらのコストをなんらかの形で吸収しない
と賃料設定が高くなるというのが本音だろう。オーナーは一般的に賃借人に関して優先的な
地位を持っていると思われがちだが、募集賃料に関してオーナーの選択権はない。常に市場の
相場水準で決めないと店子が集まらないので価格決定権に関してはオーナーは持っていないと
いうのが実情だ。
賃料の自由な設定権限もなく中途解約も更新の拒絶もオーナーに許されていないのだ
から、更新料という形でのコスト吸収は許されてもいいのではというのが私の意見だ。
何もオーナーが懐に入れているのではなく、募集するための部屋の修繕や募集活動の
コスト吸収をしたいと思っているだけならだから。という主張も裁判所には通じないら
しい。
裁判所の判断は家主側の主張を全て否定する。敷引きに関しては関東の人間ということも
あってそうかなという気もするが、更新料は違うだろう。大岡裁きをしたつもりなんだろう
けれど、実体経済を知らないとしか思えない。そう言えば、最近消費者金融の過払い金訴訟
で最高裁判決がでてから、今まで払った金利に加えて貸した元本までまで借りた人間に払え
という無茶苦茶な事態になっている。アイフルが私的整理に追い込まれたのもそのせいだ。
最近の裁判所はなんか変だ。「弱きを助ける」のはいいが、「強きを殺す」態度にはいささか
閉口する。しかも「助ける」のではなく、「失った以上のものを与える」ような判断は世の中
をいたずらに混乱させるのではないか。
しかも納得がいかないのは判決の根本的な判断基準は敷引き、更新料に関する規定が契約書
に明示してあるものの、家主側の示した根拠が具体的に説明されていないことが消費者契約法
10条に違反するとの趣旨だが、じゃあ契約書に明示したら違う判決がでるのかという点には
触れていない。むしろ、仮にそれが入っていたとしても家主側が敗訴しそうな雰囲気である。
不動産オーナーの受難は続きそうな気配である。
(終わり)
いよいよ問題の更新料に関する議論を見ることにする。敷引きの問題と異なり、日本全国
の大家の利害が一致する分野だ。まずは双方の意見を見てみよう。なお、原判決は文章の
べたうちなのでエクセルに落として見やすく加工してある。
更新拒絶権の対価とはよく考えたものだと感心するが、確かに一度貸してしまうと
家主には「正当な事由か゜ない限り更新の拒絶ができない」ことになっている。その
意味では対価を受け取ることには正当性があると思う。自分の保有する物件でもそろ
そろ売却しようと思っている物件があるが、あいにく賃借人がおり、とりたてて滞納
などの問題がない為、更新拒絶はできない。不動産のオーナーなら知っていると思う
が、空室で売却するのとオーナーチェンジで売却するのでは同じ物件でも値段が違って
くる。空室の場合には最終需要家が購入するケースが多いため、比較的高く売れる。
一方で、オーナーチェンジの場合には売る相手が投資家なのでいわゆるその時の投資家
採算利回りで決まってしまう。現在であれば、空室の物件の場合場所がよければ想定
利回りで4-6%でも売れるが、これがオーナーチェンジだと現在の投資家採算利回りで
うる必要がある。立地にもよるが現在の投資家採算利回りは7-9%で、最悪の場合で
半値になってしまう。
その意味からすれば更新を拒絶する権利が元々大家には付与されていないというのは
やはり納得がいかない。更新料はその対価と考えるのはそれほど不合理とは思えない
のたが。②の賃借権の強化というのはロジックとして分かるが少し弱い気がする。確
かに2年であれば、2年間退去要請が起こらないという一つのオプションという見方も
なされるが、やはり現在の借地借家法で規定される賃借人の権利を考慮するとこれは
存在しにくい。でまあ、裁判所はこれもばっさり。
③と④は賃料補充と中途解約権だが、これについての双方の意見は次のようになってい
る。
やはり一番しっくりくるのが賃料補充という点だろう。なんだかんだいって募集賃料を上げ
ると集まらないし物件管理コストを考えると投資回収には必要だという観点というのが実務的
にも合理性がある。例えば私の場合には更新料というのは全て賃貸管理会社への支払いに消え
る。自分で管理しているオーナーは別として大抵のケースでは更新料を自分の懐に入れている
オーナーはあまりいないだろう。募集するためのコスト、退去後の原状回復。大抵の場合には
クロスの交換や畳の表換えなどが対象になるが、それらのコストをなんらかの形で吸収しない
と賃料設定が高くなるというのが本音だろう。オーナーは一般的に賃借人に関して優先的な
地位を持っていると思われがちだが、募集賃料に関してオーナーの選択権はない。常に市場の
相場水準で決めないと店子が集まらないので価格決定権に関してはオーナーは持っていないと
いうのが実情だ。
賃料の自由な設定権限もなく中途解約も更新の拒絶もオーナーに許されていないのだ
から、更新料という形でのコスト吸収は許されてもいいのではというのが私の意見だ。
何もオーナーが懐に入れているのではなく、募集するための部屋の修繕や募集活動の
コスト吸収をしたいと思っているだけならだから。という主張も裁判所には通じないら
しい。
裁判所の判断は家主側の主張を全て否定する。敷引きに関しては関東の人間ということも
あってそうかなという気もするが、更新料は違うだろう。大岡裁きをしたつもりなんだろう
けれど、実体経済を知らないとしか思えない。そう言えば、最近消費者金融の過払い金訴訟
で最高裁判決がでてから、今まで払った金利に加えて貸した元本までまで借りた人間に払え
という無茶苦茶な事態になっている。アイフルが私的整理に追い込まれたのもそのせいだ。
最近の裁判所はなんか変だ。「弱きを助ける」のはいいが、「強きを殺す」態度にはいささか
閉口する。しかも「助ける」のではなく、「失った以上のものを与える」ような判断は世の中
をいたずらに混乱させるのではないか。
しかも納得がいかないのは判決の根本的な判断基準は敷引き、更新料に関する規定が契約書
に明示してあるものの、家主側の示した根拠が具体的に説明されていないことが消費者契約法
10条に違反するとの趣旨だが、じゃあ契約書に明示したら違う判決がでるのかという点には
触れていない。むしろ、仮にそれが入っていたとしても家主側が敗訴しそうな雰囲気である。
不動産オーナーの受難は続きそうな気配である。
(終わり)