Bankの秘密基地

個人日記兼つれづれなるままに

官民ファンド設立でREITは復活するか

2009年08月03日 | 金融市場
 既に報道されているのでご存知の方もいるかもしれないが、現在国土
交通省で「不動産市場安定化ファンド(官民ファンド)の設立・運営に
関する検討委員会」というものが開かれている。その目的を簡単に言え
ば資金的に困窮しているREITのリファイナンスを支援する。還元すれば
REIT救済のためのファンドの設立が検討されている。検討会は6月に一回
7月に2回開かれ、3回目に中間とりまとめの報告が作成された。8-9月まで
に最終報告が作成される予定。当然のことながら投資家サイドでは歓迎
ムードが一般的だが、その中身に関してはあまり知られていない。今回
その中身について検討をしようと思う。

 ファンドの目的は不動産市場での買い手であるREITの破綻が市場に負
のスパイラルを起こし、経済活動に悪影響を起こすのを阻止するのが第一
の目的である。不動産市場の流動性を高め健全なREITの育成を図るのが
主たる目的となっている。とりわけREITで問題となっているのは投資法人
債の存在で現在では投資法人債の買い手がほとんど存在しておらず、金融
機関も償還資金の為の新規融資にかなり慎重になっている。これは高い格
付けを誇るREITでさえ状況は変らず、資金繰りから破綻するREITが続出
するのではないかと市場関係者は予想していた。暦年ベースでみると償還
スケジュールは

2009年  670億円
2010年 1508億円
2011年  680億円

となっており、とりわけ今後3年間のリファイナンスを支援するのが官民フ
ァンドの目的である。ファンドも設立から2年半で解散する予定になってお
り、緊急支援の色合いが強い。特に今年にリファイナンスを迫られるREIT
は日本レジデンシャル、日本ビルファンド、プロスペクトリート、クレッ
シェンド、日本プライムリアルティ、日本賃貸住宅などがあり、日本ビル
ファンドを除けばほとんどのREITがリファイナンス問題に直面する。
当面、1000億円の資金を準備し、支援ファンドを設立する予定で償還需要
の資金貸付をメインにファンドを運用する。既に日本政策投資銀行、野村
証券をアセットマネジャーにし、住友信託を受託者として設定するとみら
れている。この官民ファンドだが、今年に償還を迎えるREITにとって必ず
しも救世主とはならない可能性がある。以下にその理由を記しておこう


(1) 格付けによる制約が課される可能性がある。

 中間とりまとめには明記していないが、官が出資することから間接的に
税金が使われることになる。従ってモラルハザードを起こすような融資を
行うことはできない。従って、貸し付けたい者の線引きとして格付けが利
用される可能性が高い。報道ではBBB格以上と言われている。 現在、BBB
以下のREITとしては日本コマーシャル、日本レジデンシャル、ジャパンシ
ングル、ジャパン・オフィス、日本賃貸住宅などが上げられる。日本レジ
デンシャルは伊藤忠が買収しアドバンスレジデンスと合併との報道もあり、
格付けは改善される可能性が高い。日本コマーシャルもスポンサーはつく
だろう。ジャパンシングル及びジャパンオフィスは投資法人債を発行して
いない。プロスペクトはBBB格ではあるが、JCRである。プロの機関投資家
の間ではJCRでBBBならR&Iでは2ノッチ以上下と考えるからかなり厳しいか
もしれない。日本賃貸住宅はR&IでBB+でアウトルックがネガティブ。普通
なら対象にはならない可能性がある。

(2) 借入れコストが高く、借りると業績下方修正のリスクがある。

 中間とりまとめに書かれているが、官民ファンドは税金を使うといっても
官が損するようなことは絶対にできない。しかもエクイティ出資などの
キャピタルゲインは考えられないので貸付によって十分なマージンを得る必要があ
ることから貸付条件は借り手にかなり厳しい。ベースレートはTIBORであるが、
スプレッドはLTV、資産規模、P/NAVから機械的に算出されるスプレッドマトリックスを
利用して決定される。スプレッド幅は150bpから550bpでAAAでも取らない限り
200bp以上のスプレッドが確実に必要となる。従ってファンドから借りることは
ペナルティの金利水準で資金手当てをすることに等しく、業績の下方修正要因
になりうる。しかも当然有担保で借りることになる。

 ところでこの官民ファンド自体、設立のスケジュールから考えるとどうやら日本レ
ジデンシャル、日本コマーシャルの救済を目的としているようで、あまり他のREITの
ことを考えていないふしがある。9月にファンドが設立されるのも償還が9月
11日(60億円)、10月23日(120億円)にぶつけようとしているし、来年の3月
には日本コマーシャルが7月、9月に日レジの償還がある。この2つのREITは破綻し
たパシフイックの傘下で現在スポンサーがない。しかも規模がでかい。この2つが
破綻すると上位REITでも返り血を浴びかねない。現在は市場が落ち着いて
きているが、下位REITの破綻リスクはまだなくなっていないことに注意すべき
だろう。

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