今までの議論の延長線上での話ですので「時間の遅れは基準慣性系に対する相対速度で決まる」が前提になります。
そうであれば円運動をしているアリスの時間は運動の接線方向にある速度ベクトルの大きさ V だけで決まり、進行方向の横方向に作用している向心力の影響は受けない、という事になります。(注1)
運動方向に対して直交する方向に作用する力は運動方向を変える事はできますが、速度ベクトルの大きさを変える事はありません。
そうしてこの事実はμ粒子に円運動を行わせて寿命を測定したセルンおよびブルックリンの実験によって確認されています。
それで、ここでテーマとして取り上げるのは「慣性系に対しての相対速度 V の大きさを変化させるような加速度について」という事になります。
そうであればここで扱う加速度はアリスの運動方向に沿った方向に作用する加速度、それによってアリスの基準慣性系にたいする相対速度の大きさは変化する事になります。
それでその様な時のアリスの時計の遅れはどうなるのか、というお話です。
以下「運動すると時間が遅れる件・相対論」:http://fsci.4rm.jp/modules/d3forum/index.php?topic_id=3863#post_id27192 :を参照します。
『・・・相対速度 Vは光速Cで割って規格化しておきます。
つまり Vは0以上、1以下の数値になります。
それから時間の遅れ=時間軸方向の速度 Vtを導入します。
これは時間軸方向の速度を示すもので、基準慣性系=静止系では1となり、光の速度で動くとゼロになります。
その様に設定しますと時間の遅れのローレンツ変換は以下の様に書けます。
Vt=sqrt(1-V^2) ・・・①式』
V が一定の時はVtも一定であってしたがって基準慣性系での経過時間を T としますとアリスの経過時間 Ta は
Ta=T*Vt=T*sqrt(1-V^2)
となります。
それでこの式は相対論電卓で時間の遅れを計算する時の式と同じになります。
さてそれで基準慣性系での固有時刻tに対してVはV(t)と書けるとします。これは「相対速度Vを基準慣性系の固有時tの関数として見る」という事です。
そうすると
V=V(t)=A*t
となります。ただしここでAは加速度を表し、今回Aは時間変化はないものとします。
そうしてVtが一定の時はTaはVtを0からTまで動かした時の積分と同等でした。(注2)
従ってVt=A*tの場合も同様にしてtを0からTまで積分すればTaが求まる事になります。
Vt=sqrt(1-V^2)=sqrt(1-(A*t)^2) ・・・②式
Taは②式をtをゼロからTまで積分すれば求まります。
そうして積分、といえばウルフラム君の出番です。
但しこの積分を行うにあたり、時刻Tでゼロからいったいどこまで速度Vを持ち上げるのか決めておく必要があります。
そうして最終到達速度V(T)は当然、光速C=1未満でなくてはなりません。
それが決まりますと具体的な数字がAに入ります。
例えば20日間の加速で0.8Cまで宇宙船を加速し、そこから慣性飛行にうつるとします。
そうなるとAは
A=0.8/20
となり、②式は
sqrt(1-(0.8/20*t)^2) ・・・③式
となります。
それでこの式を20日まで積分してやります。
sqrt(1-(0.8/20*t)^2)をtが0から20までの範囲で積分
上記文をウルフラムにいれてポチります。
https://ja.wolframalpha.com/
答えは17.5912日となります。(注3)
こうして一定加速度A=0.8C/20日で20日間加速して、最終速度が0.8Cに到達した時の宇宙船の中の時計の針の位置が分かるのでした。(注4)
注1:具体的には「荷電粒子の進行方向を変える粒子加速器のローレンツ力による向心力の影響は受けない」という事になります。
加えて「横Gは作用しても時間の遅れは発生しない」という「驚くべき内容」でもあります。
注2:0.8Cで飛行する宇宙船の中の経過時間は、たとえば20日間それで飛行したとしますと、0.8Cで飛行した時の時間のおくれ速度VtはVt=0.6でしたから
0.6をtが0から20までの範囲で積分
という事になります。
上記文をこののまウルフラムに入れますと
https://ja.wolframalpha.com/input/?i=0.6%E3%82%92t%E3%81%8C0%E3%81%8B%E3%82%8920%E3%81%BE%E3%81%A7%E3%81%AE%E7%AF%84%E5%9B%B2%E3%81%A7%E7%A9%8D%E5%88%86
答えが12日と求まります。
つまり基準慣性系では20日経過したが、宇宙船の中では12日経過したに過ぎない、となるのです。
注3:以下は実施例
https://ja.wolframalpha.com/input/?i=%EF%BD%93%EF%BD%91%EF%BD%92%EF%BD%94%EF%BC%88%EF%BC%91%EF%BC%8D%EF%BC%88%EF%BC%90%EF%BC%8E%EF%BC%98%2F%EF%BC%92%EF%BC%90%EF%BC%8A%EF%BD%94%EF%BC%89%EF%BC%BE%EF%BC%92%EF%BC%89%E3%82%92t%E3%81%8C0%E3%81%8B%E3%82%89%EF%BC%92%EF%BC%90%E3%81%BE%E3%81%A7%E3%81%AE%E7%AF%84%E5%9B%B2%E3%81%A7%E7%A9%8D%E5%88%86
注4:船の中の時計では加速期間は17.5912日。
それだけの加速期間で最終速度が0.8Cに到達した、ということは、「船にとってみれば平均加速度は0.8C/17.5912日」という事になりそうです。
船にとってこの加速度が船内時間経過によらない一定加速度であったかどうかは疑問が残りますが、等価原理によれば「一定加速度であった」という事になるのでしょうか?
ちなみにこの場合の縦G加速による縦Gの発生、そうしてそれによる船内時間の遅れはゼロである、が前提になっています。
それで「 縦Gは横G同様に時間の遅れは発生させない」が実験事実となります。
このあたり「等価原理では発生したGは重力と同等であり、重力場が持つポテンシャルによる時間の遅れ、あるいは進みがあるのでは?」と言う疑問については当方、現状は答えを持っておりませんのであしからず。
但し実験事実は「 縦Gは横G同様に時間の遅れは発生させない」です。
↓
時間の遅れの実験的テスト
https://en-m-wikipedia-org.translate.goog/wiki/Experimental_testing_of_time_dilation?_x_tr_sl=en&_x_tr_tl=ja&_x_tr_hl=ja&_x_tr_pto=sc
『双子のパラドックスと移動する時計
ベイリー等(1977)CERNミューオンストレージリングのループの周りに送られた正と負のミューオンの寿命を測定しました。この実験は、時間の遅れと双子のパラドックスの両方を確認しました。
つまり、時計が送り出されて元の位置に戻るという時には、静止している時計よりも遅いという仮説です。[27] [28]
双子のパラドックスの他の測定には、重力時間の遅れも含まれます。
Hafele-Keating実験では、実際のセシウムビーム原子時計が世界を周回し、静止時計と比較して予想される違いが見つかりました。
時計の仮説-加速の効果の欠如
時計の仮説は、加速の程度は時間の遅れの値に影響を与えないと述べています。
上記の以前の実験のほとんどでは、崩壊する粒子は慣性系にありました。つまり、加速されていませんでした。
しかし、ベイリーらでは(1977)粒子は、最大10^18Gの横方向加速度を受けました。
結果は同じであったため、加速は時間の遅れに影響を与えないことが示されました。[27]
さらに、Roos 等では(1980)0.5と5.0×10^15Gの間の縦方向の加速を受けたシグマバリオンの崩壊を測定しました。
この場合も、通常の時間の遅れからの逸脱は測定されませんでした。[29]』<--「通常の時間の遅れ」=特殊相対論での計算による時間の遅れの事
↑
参考文献[27]が「横Gは時間の遅れに影響を与えない」で
[29]が「縦Gは時間の遅れに影響を与えない」となります。
追伸
時間の遅れについてのローレンツ変換の式を素直にみますと「円の式になる」という事はすでに指摘しました。
そうしてY軸が時間軸、X軸が空間軸なのですが、それぞれがその方向への速度の大きさを示す図となり、半径が1の円となります。(但しC=1としています。)
それで基準慣性系で見た時に「静止状態」では時間軸方向に対象物は速度1で進んでいます。
これが空間軸方向に速度Vで運動すると、X軸成分としてV/CがX軸の値で、それを上に伸ばして円とぶつかった所のYの値が時間軸方向の速度Vtとなります。(そうなるとローレンツ変換は言っているのです。)
従って何のことはない、半径が1の円の半径部分がY軸から角度ΘでX軸方向に回転した、その時のX軸方向の速度成分はSinΘでY軸方向の速度成分がCosΘになる、と言っているだけの事であります。
そうであれば保存しているのは半径=1=Cという事になります。
PS:相対論の事など 記事一覧
https://archive.fo/BAuGW
https://archive.fo/qIFH1