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『我らが少女A』 加納祐介さんの登場場面の毎日新聞連載時と単行本の抜き書き・比較 その8

2019-09-23 22:37:36 | 我らが少女A 雑感
間が空きましたね、ごめんなさい。
その7 の続きです。

引用部は、○印・・・毎日新聞連載時  ●印・・・単行本  で区別します。 異なる部分は下線を引きます。 その後、変更部分を指摘する、という形式です。

メインは加納祐介さんに関連するところですが、大空翼くんには岬太郎くんが欠かせないように、加納さんには合田雄一郎さんが欠かせない部分が出てくるので、その点も取り上げている場合があります。

ついでに加納祐介さんに該当する固有名詞・名詞・単語等は強調しています。


一方、その様子に判事の友人は何かしら危うさを覚えたか、自身もサドの作品に供された会田の表紙絵がお気に入りのくせに、今回ばかりはふだん口にしない苦言を呈して、珍しくケンカになる。しかし、少し時間をおいてそれぞれ頭を冷やしてみると、どちらも確たる理由はない、なにがしかの熱病のような気分の伝染だったと気づいて逆に落ち着かない心地になったりもしたことだ。 (第6章 15)

一方、その様子に判事の友人は何かしら危うさを覚えたか、自身もサドの作品に供された会田の表紙絵がお気に入りのくせに、今回ばかりはふだん口にしない苦言を呈して、珍しくケンカになる。しかし、少し時間をおいてそれぞれ頭を冷やしてみると、どちらも確たる理由はない、なにがしかの熱病のような気分の伝染だったと気づいて逆に落ち着かない心地になったりもする。 (単行本p319 42)

【相違点】

○心地になったりもしたことだ。
●心地になったりもする。



○●そうして話しながら、合田はちょっと時計を見る。このあと定期検診に来ているはずの判事を迎えに病院へ行く予定だが、近ごろ体調がすぐれないのはステロイド剤の副作用ばかりではないのかもしれない。あれこれ考えだすと、気が散って授業に集中できない。  (第6章 22) (単行本p330 44)

相違点はありません。


○●合田が警大を出て友人のいる病院へ向かったころ、多磨霊園では、浅井隆夫が妻の見舞いを理由に管理事務所を早退して霊園の正門を出る。 (第6章 23) (単行本p330 44)

相違点はありません。


午後三時に警大を出、あと十メートルで榊原記念病院に着くというときに、そこに定期検診に来ているはずのがよこしたメールに<築地の国立がんセンターに来ている。鮨桂太で会える?>とあったのだ。国立がんセンターと、機会があったら近々行こうと話し合ったばかりだった築地の新しい寿司店の名前が並んだ短い文面が、液晶画面でふわりとたわんだ。それがよくよく迷った末のことなのか、いつもの天然なのか、もはやどちらであっても大差はない。もつれる指で<すぐに行く>とだけ返信して築地の寿司店へ飛んでゆくと、そこにはわりに清々した表情の当人がいて、どうも濾胞性リンパ腫とかいう病気だそうだ、でも悪性度は低いし、まだ1期だから当面死ぬことはない、放射線治療はするが長い入院の必要もない、などと言う。ともかくこれで建設アスベスト訴訟を放り出さずにすむ、あれだけはやりたかったから、と。 (第6章 26) (単行本p335 44)

夕刻に警大を出、あと十メートルで榊原記念病院に着くというときに、そこに定期検診に来ているはずのがよこしたメールに<築地の国立がんセンターに来ている。鮨桂太で会える?>とあったのだ。国立がんセンターと、機会があったら近々行こうと話し合ったばかりだった築地の新しい寿司店の名前が並んだ短い文面が、液晶画面でふわりとたわんだ。それがよくよく迷った末のことなのか、いつもの天然なのか、もはやどちらであっても大差はない。もつれる指で<すぐに行く>とだけ返信して築地の寿司店へ飛んでゆくと、そこにはわりに清々した表情の当人がいて、どうも濾胞性リンパ腫とかいう病気だそうだ、でも悪性度は低いし、まだI期だから当面死ぬことはない、放射線治療はするが長い入院の必要もない、などと言う。ともかくこれで建設アスベスト訴訟を放り出さずにすむ、あれだけはやりたかったから、と。 (第6章 26) (単行本p335 44)

【相違点】

○午後三時に
●夕刻に

○まだ1期だから
●まだI期だから


数字の表記の違いだけですが。ちなみにここでは、ローマ数字は環境依存文字で機種によっては文字化けするので、アルファベットのIで代用しています。ご了承ください。


口調は相変わらずだが、誰にも言わずにひとりで検査を受けたぐらいだから、ひとりで悶々としてはいたのだろう。そう思うと胸が詰まる一方、どこまでも自分の始末は自分でつけるというのではなく、身近な人間をひょいと頼ってくるこの友人と、そうして頼られている自分の間に、四十年近い年月がつくりあげたなにがしかの情合いがあるのをいまさらながらに発見し、こいつも俺も真に孤独ではないということだろうと、合田は苦笑いを洩らしてもいた。否、体調不良の原因が判明したとはいえ、悪性リンパ腫には違いない以上、真新しい寿司店の晴れやかな空気のなかでは、刑事と判事判事の二人組はやはりちょっと孤独ではあった。 (第6章 26) (単行本p336 44)

口調は相変わらずだが、誰にも言わずにひとりで検査を受けたぐらいだから、ひとりで悶々としてはいたのだろう。そう思うと胸が詰まる一方、どこまでも自分の始末は自分でつけるというのではなく、身近な人間をひょいと頼ってくるこの友人と、そうして頼られている自分の間に、四十年近い年月がつくりあげたなにがしかの情合いがあるのをいまさらながらに発見しては、こいつも俺も真に孤独ではないということだろうと、合田は苦笑いを洩らしてもいる。否、体調不良の原因が判明したとはいえ、悪性リンパ腫には違いない以上、真新しい寿司店の晴れやかな空気のなかでは、刑事と判事の二人組はやはりちょっと孤独ではあったかもしれない。 (第6章 26) (単行本p336 44)

【相違点】
○いまさらながらに発見し、
●いまさらながらに発見しては、

○合田は苦笑いを洩らしてもいた。
●合田は苦笑いを洩らしてもいる。

○孤独ではあった。
●孤独ではあったかもしれない。



まだまだ続きます。


『我らが少女A』 加納祐介さんの登場場面の毎日新聞連載時と単行本の抜き書き・比較 その7

2019-08-27 00:25:47 | 我らが少女A 雑感
その6 の続きです。

引用部は、○印・・・毎日新聞連載時  ●印・・・単行本  で区別します。 異なる部分は下線を引きます。 その後、変更部分を指摘する、という形式です。

メインは加納祐介さんに関連するところですが、大空翼くんには岬太郎くんが欠かせないように、加納さんには合田雄一郎さんが欠かせない部分が出てくるので、その点も取り上げている場合があります。

ついでに加納祐介さんに該当する固有名詞・名詞・単語等は強調しています。


○●午後一番に定期検診を受けにいった友人から、終わればメールが入ることになっているが、検査が増えたのか少し時間がかかっている。 (第5章 13) (単行本p262 32)

相違点はありません。


合田と加納の中高年二人連れは、しけこんだ駒沢の焼き鳥屋で変わり映えしない刑法談義をして雨の夜を潰す。当夜の肴は構成要件だ。犯罪成立の可否を判断する際に、犯罪類型とは別に構成要件の概念が必要になる理由をなかなか理解してもらえないと合田が愚痴をこぼすと、近代刑法の犯罪概念が精密すぎるか、おまえが真面目に説明しすぎるせいか、どっちかだなと友人は一蹴して笑う。いやひょっとしたら、故意か過失か、責任を問えるか否かを問う前提として、一定の法益侵害を生じさせる行為の型をあらかじめ構成要件として厳密に規定しておく必要がある--そんな論理を欲する者に、神は要らないということかも。友人はいきなりそんな飛躍をする。まったく突拍子もないだが、焼酎が進んでいるところを見ると、身体の調子はまずまずなのかもしれない。  (第5章 17)

合田と高裁判事の中高年二人連れは、しけこんだ駒沢の焼き鳥屋で変わり映えしない刑法談義をして雨の夜を潰す。当夜の肴は構成要件だ。犯罪成立の可否を判断する際に、犯罪類型とは別に構成要件の概念が必要になる理由をなかなか理解してもらえないと合田が愚痴をこぼすと、近代刑法の犯罪概念が精密すぎるか、おまえが真面目に説明しすぎるせいか、どっちかだなと加納は一蹴して笑う。いや、こうも言えるぞ。故意か過失か、責任を問えるか否かを問う前提として、一定の法益侵害を生じさせる行為の型を、あらかじめ構成要件として厳密に規定しておく必要がある──なんてことを考えるやつに、神は要らないということかも。加納はいきなり怪しげな飛躍をする。まったく、毛が三本足らないのは自分のほうか。ふだんより焼酎が進んでいるところを見ると、友人の身体の調子はまずまずなのかもしれない。 (単行本p267~268 34)

【相違点】

○加納
●高裁判事

○友人
●加納

○いや、ひょっとしたら、
●いや、こうも言えるぞ。

○行為の型をあらかじめ
●行為の型を、あらかじめ

○そんな論理を欲する者に、
●なんてことを考えるやつに、

○友人はいきなりそんな飛躍をする。
●加納はいきなり怪しげな飛躍をする。

○まったく突拍子もない男だが、焼酎が進んでいるところを見ると、身体の調子は
●まったく、毛が三本足らないのは自分のほうか。ふだんより焼酎が進んでいるところを見ると、友人の身体の調子は


最後の変更部分に「自分」とありますが、これは合田さんではなくて加納さんを示すと思われます。新聞連載の部分と比べても、たぶん、きっと、そう。

全国区の共通の言い回しではないと思うので、関西の言葉に慣れていない方には「?」かも知れませんが、一人称(私、僕、俺など)の「自分」ではなく、二人称(あなた、おまえ、君など)の「自分」という言い方があるのです。

例えば、
「自分、ごはん食べたん?」 (きみは、ごはんは食べたの?)
「自分、あそこ行ったん?」 (あなたは、あそこへ行ったの?)
という言い方、意味合いになります。

だから「毛が三本足らない」のは、加納さん。
東京暮らしが約40年になる、大阪で生まれ育った合田さんだけれど、そういうニュアンスは抜けないと思うんですよね。
(合田さんは高校1~2年生の頃に大阪から東京へ引っ越したので、57歳の年齢から考えて、東京で約40年住んでいます)


そして、自身の体調がよいときは人のことに気が回るらしく、おまえ、また何か抱え込んでいる? 顔に<くそったれ>と書いてある、などと言いだす。この友人の眼はごまかせないので、まあなと適当に答える。野川事件か? まあな。にできることはある? ない。相談も? ない。愚痴は? 口にするだけでも気がへんになりそうだから言わない。合田は言い、だったら言うな、加納は返し、親爺さん、こいつに焼酎をロックでもう一杯、すかさず注文してくれる。アルコールのせいで逆にふくらんだのだろう失意や懸案を、さらにアルコールで溶かしだすことなど出来るわけもないが、そばに友人がいるおかげで慚愧の念もほんの少し緩んでいるのかもしれない。 (第5章 17)

しかも加納は、自身の体調がよいときは人のことに気が回るらしく、おまえ、また何か抱え込んでる? 顔に<くそったれ>と書いてある、などと言いだす。この友人の眼はごまかせないので、まあなと適当に答える。野川事件か? まあな。にできることはある? ない。相談も? ない。愚痴は? 口にするだけでも気がへんになりそうだから言わない。合田は言い、だったら言うな、加納は返し、親爺さん、こいつに焼酎をロックでもう一杯、すかさず注文してくれる。
アルコールのせいで逆にふくらんだ失意や懸案を、
さらにアルコールで溶かしだすことなど出来るわけもないが、そばに友人がいるおかげで、今夜は慚愧の念もほんの少し緩んでいるのかもしれない。
 (単行本p268 34)

【相違点】

○そして、
●しかも加納は、

○また何か抱え込んでいる?
●また何か抱え込んでる?

○すかさず注文してくれる。アルコールのせいで逆にふくらんだのだろう失意や懸案を、
●すかさず注文してくれる。
 アルコールのせいで逆にふくらんだ失意や懸案を、
(改行もされていますので、この表示です)

○友人がいるおかげで慚愧の念も
●友人がいるおかげで、今夜は慚愧の念も



○●何があっても、取り返しのつかないことは忘れるが勝ちだ。霞が関を見習え、厚顔無恥と健忘症で目指すは年金満額受給だ、そら! 友人にけしかけられて三杯目の焼酎で乾杯する。  (第5章 17) (単行本p268 34)

相違点はありません。


○●ほら、いつか話したあの男が現場に舞い戻った──。合田は思わず漏らし、それで? 敏感な友人が微かに眉をひそめる。 (第5章 26) (単行本p280 35)

相違点はありません。


『我らが少女A』 加納祐介さんの登場場面の毎日新聞連載時と単行本の抜き書き・比較 その6

2019-08-15 22:58:11 | 我らが少女A 雑感
その5 の続きです。

引用部は、○印・・・毎日新聞連載時  ●印・・・単行本  で区別します。 異なる部分は下線を引きます。 その後、変更部分を指摘する、という形式です。

メインは加納祐介さんに関連するところですが、大空翼くんには岬太郎くんが欠かせないように、加納さんには合田雄一郎さんが欠かせない部分が出てくるので、その点も取り上げている場合があります。

ついでに加納祐介さんに該当する固有名詞・名詞・単語等は強調しています。

合田は、仕事ばかりでろくにカレンダーも見ていない友人の判事と、久しぶりに高尾山へハイキングに出かけた。友人の希望で大混雑のケーブルカーには乗らず、稲荷山展望台を通って山頂へ向かうコースを、時間をかけてゆっくり登りながら、どちらからともなく退職後の話をした。判事の定年は六十五だが、ひょっとしたら友人はそれを待たずに公務員を辞めるのかもしれない。 (第4章 6)

合田は、仕事ばかりでろくにカレンダーも見ていない友人の判事と、久しぶりに高尾山へハイキングに出かけた。加納の希望で大混雑のケーブルカーには乗らず、稲荷山展望台を通って山頂へ向かうコースを、時間をかけてゆっくり登りながら、どちらからともなく退職後の話をした。判事の定年は六十五だが、ひょっとしたら加納はそれを待たずに公務員を辞めるのかもしれない。 (単行本p200 24)

【相違点】

○友人
●加納
(2回とも変更)



一方、合田が民間企業に天下りする気がないのを知っている友人は、近ごろは定年後、どこへ住むつもりかと遠回しに尋ねてくるが、合田の気持ちはまだ定まっていない。もう十年以上も農作業の手伝いをしている野菜農家の仕事を続けるのなら、千葉。猫の額ほどの畑地を譲ってくれるという知り合いの誘いに乗るのなら、琵琶湖の湖北。あるいは、ここへ来て友人の健康という新たな心配事も出てきたことから、このまま都内に残ることも考えないわけではないが、本人には内緒だ。 (第4章 6)

一方、合田が民間企業に天下りする気がないのを知っている加納は、近ごろは定年後、どこへ住むつもりかと遠回しに尋ねてくるが、合田の気持ちはまだ定まっていない。もう十年以上も農作業の手伝いをしている野菜農家の仕事を続けるのなら、千葉。猫の額ほどの畑地を譲ってくれるという知り合いの誘いに乗るのなら、琵琶湖の湖北。あるいは、ここへ来て友人の健康という新たな心配事も出てきたことから、このまま都内に残ることも考えないわけではないが、本人には言っていない。 (単行本p200 24)

【相違点】

○友人
●加納

○本人には内緒だ。
●本人には言っていない。



○●友人の判事に注意されていたので、自身の携帯電話の番号を教えることはしなかったが、<用事があるなら多磨駅で会おう>と便箋一枚にメモ書きし、曜日と時刻を指定して守衛室に預けたのが、五月十八日のことだ。 (第4章 24) (単行本p227~228 27)

相違点はありません。


野菜の収穫に出た日は、たいがい穫れたての春キャベツやそら豆やロメインレタスを担いで判事のマンションへ行く。ついでに近くで旬のホタルイカやはしりのイサキでも買ってゆけば、昔から料理だけはうまい加納が魚を塩焼きにし、茹でたり炒めたりした山盛りの野菜を並べて、ワインなどを開ける。 (第4章 25)

野菜の収穫に出た日は、たいがい穫れたての春キャベツやそら豆やロメインレタスを担いで加納祐介のマンションへ行く。ついでに近くで旬のホタルイカやはしりのイサキでも買ってゆけば、昔から料理だけはうまい加納が魚を塩焼きにし、茹でたり炒めたりした山盛りの野菜を並べて、ワインなどを開ける。 (単行本p229 27)

【相違点】

○判事
●加納祐介



その日は合田のスマホに入っているBBSの『吉祥寺JKを語ろう』と、池袋のガールズバーのスナップ写真一枚が肴に加わり、いつもよりちょっと盛り上がる。加納の専門は行政と民事だが、元検事の頭はそれなりに全方位で、BBSの書き込みを一読して、235はやってるな、こいつ──と見抜いてしまう。うん、たぶんな。合田も異論はない。 (第4章 25)

その日は合田のスマホに入っているBBSの『吉祥寺JKを語ろう』と、池袋のガールズバーのスナップ写真一枚が肴に加わり、いつもよりちょっと盛り上がる。加納の専門は行政と民事だが、元検事の頭はそれなりに全方位で、BBSの書き込みを一読しただけで、235はやってるな、こいつ──と見抜いてしまう。うん、たぶんな。合田も異論はない。 (単行本p229 27)

【相違点】

○一読して
●一読しただけで



ガールズバーのクリスマスパーティーのスナップに写っている朱美の姿は、さらに友人の妄想を掻き立てたようで、いつになく多弁になる。裁判所という孤島に棲む判事たちは、ひとたび法衣を脱げば市井が腰を抜かすような趣味に走る者もいるらしいが、加納の場合は江戸の春画だの、マルキ・ド・サドだの、蓮實重彦や澁澤龍彦だの、高踏的な退廃がお気に入りだ。いいなあ、この娘! にこにこと朱美の姿を見つめながら、いったい何を想像したことやら。かと思えば、ここに写っている客には全員当たったのか? ふいと捜査の状況を尋ねてきたりする。
 (第4章 25)

ガールズバーのクリスマスパーティのスナップに写っている朱美の姿は、さらに友人の妄想を掻き立てたようで、いつになく多弁になる。裁判所という孤島に棲む判事たちは、ひとたび法衣を脱げば市井が腰を抜かすような趣味に走る者もいるらしいが、加納の場合は江戸の春画だの、マルキ・ド・サドだの、蓮實重彦や澁澤龍彦だの、高踏的な退廃がお気に入りだ。いいなあ、この娘! にこにこと朱美の姿を見つめながら、いったい何を想像したことやら。かと思えば、ここに写っている客には全員当たったのか? ふいと捜査の状況を尋ねてきたりする。 (単行本p229 27)

【相違点】

○クリスマスパーティー
●クリスマスパーティ


但し、「蓮實重彦や澁澤龍彦」の「彦」の字は正字なので、新聞や書籍では正しく印刷されていますが、ネット上では文字化けします。ご了承ください。


なあ、写真もう一度見せて。今夜の友人はまるでエロ爺さんだ。いいなあ、この娘! 『愛の嵐』のころのシャーロット・ランプリングだ──。体内に飼っているエイリアンは、今夜はすこぶる調子がいいらしい。  (第4章 25)

なあ、写真もう一度見せて。今夜の友人はまるでエロ爺さんだ。いいなあ、この娘! 『愛の嵐』のころのシャーロット・ランプリングだ──。
体内に飼っているエイリアンは、今夜はすこぶる調子がいいらしい。
 (単行本p230 27)

【相違点】

細かいところですが、「体内に飼っているエイリアンは、今夜はすこぶる調子がいいらしい。」の一文、新聞連載では改行されていませんでした。


しかし加納さんをさす言葉に、「エロ爺さん」という単語が出てくるとは……。


『我らが少女A』 加納祐介さんの登場場面の毎日新聞連載時と単行本の抜き書き・比較 その5

2019-08-12 23:30:46 | 我らが少女A 雑感
その4 の続きです。

引用部は、○印・・・毎日新聞連載時  ●印・・・単行本  で区別します。 異なる部分は下線を引きます。 その後、変更部分を指摘する、という形式です。

メインは加納祐介さんに関連するところですが、大空翼くんには岬太郎くんが欠かせないように、加納さんには合田雄一郎さんが欠かせない部分が出てくるので、その点も取り上げている場合があります。

ついでに加納祐介さんに該当する固有名詞・名詞・単語等は強調しています。

警大をそのまま通り過ぎ、榊原記念病院に向かう。加納は、ペースメーカーが不調だと言いながら、裁判の日程が詰まっていて診察を受けに来られず、結局定期検診で心電図を取り直すはめになった。結果次第では機械のセンシング感度の再設定だけではすまないかもしれないというのは穏やかでない。 (第3章 49)
 
警大をそのまま通り過ぎ、榊原記念病院で加納祐介に会う。加納は、ペースメーカーが不調だと言いながら、裁判の日程が詰まっていて診察を受けに来られず、結局定期検診で心電図を取り直すはめになったらしい。結果次第では機械のセンシング感度の再設定だけではすまないかもしれないというのは穏やかでない。  (単行本p182 21)

【相違点】

○榊原記念病院に向かう。
●榊原記念病院で加納祐介に会う。

○取り直すはめになった。
●取り直すはめになったらしい。

 

ロビーで半時間ほど待ち、かろうじて再手術は免れたという表情の加納に会ってほっとする。それでも、心臓にエイリアンを棲まわせている生活が快調のはずもなく、その頬からは肉が落ちて、一目で少し痩せたのが分かる。本人曰く、男更年期の鬱だというが、最近は体調以上に、仕事と人生のちょっとした迷いが友人を追い込んでいるふしもある。 (第3章 49)

ロビーで半時間ほど待ち、かろうじて再手術は免れたという表情の加納に会ってほっとする。それでも、心臓にエイリアンを棲まわせている生活が快調のはずもなく、その頬からは肉が落ちて、一目で少し痩せたのが分かる。本人曰く、男の更年期の鬱だというが、最近は体調以上に、仕事と人生のちょっとした迷いが友人を追い込んでいるふしもある。 (単行本p182 21)

【相違点】

○男更年期の鬱
●男の更年期の鬱


新聞掲載時の脱字ですね。


なあ。司法修習の同期がこの春、松江に異動になってな、島根原発の運転差し止め訴訟の控訴審を受け持つことになったんだが、そいつがなんとか地裁に差し戻せないか頑張ってみたいって言うんだ。と違って家族もいるのに、どこかの家裁に飛ばされるのも覚悟の上だって。いったい何が、彼との生き方をここまで分けたんだろうな──。 (第3章 49)

なあ。司法修習の同期がこの春、広島高裁松江支部に異動になってな、島根原発の運転差し止め訴訟の控訴審を受け持つことになったんだが、そいつがなんとか地裁に差し戻せないか頑張ってみたいって言うんだ。と違って家族もいるのに、どこかの家裁に飛ばされるのも覚悟の上だって。いったい何が彼との生き方をここまで分けたんだろう──。 (単行本p182~183 21)

【相違点】

○松江
●広島高裁松江支部

○いったい何が、彼と俺の生き方をここまで分けたんだろうな──。
●いったい何が彼と俺の生き方をここまで分けたんだろう──。



○●贅沢なことを言ってやがる、と思う。ふだんなら、もう十分に出世したならではの無いものねだりだと一蹴してすませるが、今日はケンカをしに来たのではないし、この友人の、歳に似合わない青臭さは嫌いではない、とも思う。まあ、そう言うな。原発差し止めでも何かの当事者訴訟でも、原告にとって重みは一緒だし、判事だけが頼りなんだから。それに、おまえ、いまは心臓のその機械になんとかして慣れるほうが先だ。ステロイド剤を服用していて痩せるなんて、どうかしている。お昼、蕎麦を奢るから付き合えよ。 (第3章 49) (単行本p183 21)

合田さん視点の加納さんに関するところですが、 相違点はありません。

しかし30代の頃は加納さんを「あんた」と呼んでいた合田さん、「おまえ」と呼ぶようになりましたか……。


そうして友人と蕎麦を食い、請われてまたちょっと少女Aの話をする。前方宙返りをしながら例のCMソングを歌う話に、友人は大いに笑う。 (第3章 49)

そうして加納と蕎麦を食い、請われてまたちょっと少女Aの話をする。前方宙返りをしながら例のCMソングを歌う話に、加納は大いに笑う。 (単行本p183 21)

【相違点】

○友人
●加納
(2回とも変更)



『我らが少女A』 加納祐介さんの登場場面の毎日新聞連載時と単行本の抜き書き・比較 その4

2019-08-08 00:24:48 | 我らが少女A 雑感
その3 の続きです。

引用部は、○印・・・毎日新聞連載時  ●印・・・単行本  で区別します。 異なる部分は下線を引きます。 その後、変更部分を指摘する、という形式です。

メインは加納祐介さんに関連するところですが、大空翼くんには岬太郎くんが欠かせないように、加納さんには合田雄一郎さんが欠かせない部分が出てくるので、その点も取り上げている場合があります。

ついでに加納祐介さんに該当する固有名詞・名詞・単語等は強調しています。

電話の相手が推測したとおり、合田はオリンピック公園に面した駒沢公園通りを歩いている。隣には今日退院した友人の判事がいる。玉川通り近くのちょっといい鮨屋で退院祝いをし、締めはウイスキーだろうと言う友人の口車に乗って、公園のすぐそばに建つ友人のマンションへ向かっているところだ。 (第3章 17)

電話の相手が推測したとおり、合田はオリンピック公園に面した駒沢公園通りを歩いている。隣には、今日退院した友人の加納判事がいる。玉川通り近くのちょっといい鮨屋で退院祝いをし、締めはウィスキーだろうと言う友人の口車に乗って、公園のすぐそばに建つ友人のマンションへ向かっている、まさに最中だ。 (単行本p135 15)

【相違点】

○隣には今日退院した友人の判事
●隣には今日退院した友人の加納判事

○ウイスキー
●ウィスキー

○向かっているところだ。
●向かっている、まさに最中だ。



電話を終えたところで、そら、の勘が当たった、野川事件がおまえを追いかけてきたと友人が謳うように言い、笑う。きっと、女優志望の美少女がおまえを呼びに来たんだ。どうかもう少し付き合ってくれ、って。 (第3章 17)

電話を終えたところで、そら、の勘が当たった、野川事件がおまえを追いかけてきたと加納が歌うように言い、笑う。きっと、女優志望の美少女がおまえを呼びに来たんだ。どうかもう少し付き合ってくれ、って。 (単行本p136 15)

【相違点】

○友人が謳うように言い、笑う。
●加納が歌うように言い、笑う。



○●その男、おまえに何かサインを送ってきているんだろう。一つ間違えると、今度はおまえがストーカーされるぞ。気をつけろよ。 (第3章 17) (単行本p136 15)

これは加納さんの発言。 相違点はありません。 これが初めてのことです。


境界型人格障害のような危うさはなく、悪意もないのは確かだが、浅井がふつうの理解を超えた思考回路で生きている以上、友人の言うとおり、まったくの無害ではありえないというのが正しい答えだろう。
ウイスキーはロックでいくか。マンションの階段を上がりながら、友人が楽しげに言う。いや、今夜はストレートだ。合田は応じる。
 (第3章 17)

浅井忍には境界型人格障害のような危うさはなく、悪意もないが、一般人の理解を超えた思考回路で生きている以上、加納の言うとおり、何が起こるか分からないというのが正解ではあるだろう。
ウィスキーはロックでいくか。マンションの階段を上がりながら、加納が楽しげに言う。いや、今夜はストレートだ。合田は応じる。
 (単行本p136 15)

【相違点】

●浅井忍には (新規追加。新聞連載に無し)

○悪意もないのは確かだが、浅井がふつうの理解を超えた思考回路
●悪意もないが、一般人の理解を超えた思考回路

○友人
●加納
(2回とも変更)

○まったくの無害ではありえないというのが正しい答えだろう。
●何が起こるか分からないというのが正解ではあるだろう。

○ウイスキー
●ウィスキー



そういえば野川事件の少し前、最高裁で初めて違法収集証拠排除法則を適用した判決が出て、加納と議論になったのだ。合田は思いだす。違法な逮捕の後に得た証拠だからという理由でその証拠能力をダイレクトに否定した判決は、現場には素朴に<?>だった。加納は、先行する手続きが違法の場合、それに続く証拠収集手続きに違法性が継承されるという従来の考え方が葬り去られたわけではないとして屁理屈をあれこれ並べてくれたが、判決への懐疑は残ったままだ。
その加納は今日から職場復帰して、三分咲きの桜の下を高裁へ登庁し、快気祝いの縮緬小風呂敷を手に、部総括以下への挨拶回りに忙しい。合田も一つ貰った縮緬の小風呂敷は、教科書を包むのにちょうどいい。
 (第3章 18)

そういえば野川事件の少し前、最高裁で初めて違法収集証拠排除法則を適用した判決が出て、加納と議論になったのだ──合田は思いだす。違法な逮捕の後に得た証拠だという理由で、その証拠能力をダイレクトに否定した判決は、捜査の現場には素朴に<?>だった。そのとき、現役判事の加納、先行する手続きが違法の場合、それに続く証拠収集手続きに違法性が継承されるという従来の考え方が必ずしも葬り去られたわけではないと、屁理屈をあれこれ並べてくれたが、判決への懐疑は消えず、いまも残ったままだ。
その加納は今日から職場復帰して、三分咲きの桜の下を高裁へ登庁し、快気祝いの縮緬小風呂敷を手に、部総括以下への挨拶回りに忙しい。合田も一つ貰った縮緬の小風呂敷は、教科書を包むのにちょうどいい。
 (単行本p139 16)

【相違点】

○加納と議論になったのだ。合田は思いだす。
●加納と議論になったのだ──合田は思いだす。

○証拠だからという理由で
●証拠だという理由で、

○現場には
●捜査の現場には

○加納は、
●そのとき、現役判事の加納は、

○葬り去られたわけではないとして
●必ずしも葬り去られたわけではないと、

○判決への懐疑は残ったままだ。
●判決への懐疑は消えず、いまも残ったままだ。



『我らが少女A』 加納祐介さんの登場場面の毎日新聞連載時と単行本の抜き書き・比較 その3

2019-07-29 23:57:01 | 我らが少女A 雑感
その2 の続きです。

引用部は、○印・・・毎日新聞連載時  ●印・・・単行本  で区別します。 異なる部分は下線を引きます。 その後、変更部分を指摘する、という形式です。

メインは加納祐介さんに関連するところですが、大空翼くんには岬太郎くんが欠かせないように、加納さんには合田雄一郎さんが欠かせない部分が出てくるので、その点も取り上げている場合があります。

ついでに加納祐介さんに該当する固有名詞・名詞・単語等は強調しています。


加納は、心臓のペースメーカーを埋め込んで七日目に病院を抜け出し、高裁の部総括の奥さんの、御歳九十七になる母親の葬儀に出かけていった。式場が病院から近い日華斎場だったのはまったくの偶然だが、それにしても上司の妻の親の弔事にまで雁首をそろえるヒラメたちの一匹に、友人が本気でなろうとしたはずもない。急な入院で仕事に穴をあけた失点は、厳しい見方をすればもはや完全には挽回不能というほうが正しいし、そうであればわざわざ安静第一の身体を押して、いまさらヒラメになる必要もないからだ。  (第2章 30)

きっかけをつくったのは、入院中の友人の高裁判事だ。

昔からときどき奇矯な行動に出る加納は、
心臓のペースメーカーを埋め込んで七日目に病院を抜け出し、高裁の部総括の奥さんの、御歳九十七になる母親の葬儀に出かけていった。式場が病院から近い日華斎場だったのはまったくの偶然だが、それにしても上司の妻の親の弔事にまで雁首をそろえるヒラメたちの一匹に、友人が本気でなろうとしたはずもない。急な入院で仕事に穴をあけた失点は、厳しい見方をすればもはや完全には挽回不能というほうが正しいし、そうであればわざわざ安静第一の身体を押して、いまさらヒラメになる必要もないからだ。
 (単行本p106~107 13)

【相違点】

●きっかけをつくったのは、入院中の友人の高裁判事だ。 (新規追加。新聞連載に無し。1行分空白があるのは、単行本がそのようになっているからです。)

○加納は、
●昔からときどき奇矯な行動に出る加納は、


「昔からときどき奇矯な行動に出る加納」って……何? 『LJ』のあれとか、それとか? 『太陽を曳く馬』の雑誌で掲載されて単行本でカットされたアレとか?


案の定、友人は<無事、戻った。予想以上に疲れた>とメールをよこし、続けて<日華斎場は、美術教師が殺された野川事件のときにおまえが話していた場所だと思いだしたので、覗きに行ってみた。白と青の小型機が飛んでいるのを見た>などと書いてきた。
斎場の話をした──? 合田は十二年前に自分が事件の話を友人にしたこと自体を忘れてしまっていたが、並外れて記憶力のいいが、そうは言っても昔の話を一つ思いだしたからといって、わざわざその現場を見に行ったというのには、直感的に違和感を覚えた。昔からときどき突飛な行動に出るではあるが、マイペースというのとは違う、見えない糸に操られて、まだガーゼも取れていない術後の身体を、大して意味があるとも思えない場所へ運んでみた末に、<疲れた>と吐露する。これも、思いがけない病気から来た鬱か。あるいは、ステロイド投与で身体の不調が強く出ているのか。
 (第2章 30)

案の定、加納は<無事、戻った。予想以上に疲れた>とメールをよこし、続けて<日華斎場は、美術教師が殺された野川事件のときにおまえが話していた場所だと思いだしたので、覗きに行ってみた。白と青のドルニエ機が飛んでいるのを見た>などと書いてきた。
斎場の話をした──? 合田は十二年前に自分が事件の話を友人にしたこと自体を忘れてしまっていたが、並外れて記憶力のいいが、そうは言っても昔の話を一つ思いだしたからといって、わざわざその現場を見に行ったというのには、直感的に違和感を覚えた。何事もマイペースなではあるが、まだガーゼも取れていない術後の身体を、大して意味があるとも思えない場所へ運んでみた末に、<疲れた>と吐露する。これも、思いがけない病気から来た鬱か。あるいはステロイド投与で身体の不調が強く出ているのか。
 (単行本p107 13)

【相違点】

○友人
●加納

○白と青の小型機
●白と青のドルニエ機

○昔からときどき突飛な行動に出る男ではあるが、マイペースというのとは違う、見えない糸に操られて、
●何事もマイペースな男ではあるが、

○あるいは、ステロイド投与で
●あるいはステロイド投与で


「昔からときどき突飛な行動に出る男」というのが、形を変えて、1ページ前の「昔からときどき奇矯な行動に出る加納」になったんですね。


あれこれ思いめぐらせた末に、合田は<帰りに寄る>と返信し、夕方、あまり顔色のよくない当人に会った。これまでゆっくりゆっくり動いていた心臓が、いきなりぴくぴく精勤に動きだしたら、そりゃあ気持ち悪いに決まっているだろう。友人は言う。まるで誰かが身体のなかにいるみたいだ、何をしていても落ち着かない。日華と聞いて突然、昔おまえに聞いた事件を思いだしたりする。あのときおまえが見たと言っていた小型機が今日も飛んでいたよ。あの事件はどうなった? 
友人の脳内で何かが起きているのだろうか。合田は臓腑に冷たい金属が触れるような不安を覚えながら、俺がおまえに小型機の話をしたって? 何を考えていたんだろうな、言葉を濁し、無理に笑みをつくってみる。
 (第2章 30)

あれこれ思いめぐらせた末に、合田は<帰りに寄る>と返信し、夕方、あまり顔色のよくない当人に会うと、曰く、これまでゆっくりゆっくり動いていた心臓が、いきなりぴくぴく精勤に動きだしたら、そりゃあ気持ち悪いに決まっているだろう、ということだ。加納は言う。まるで誰かが身体のなかにいるみたいだ、何をしていても落ち着かない。日華と聞いて突然、昔おまえに聞いた事件を思いだしたりする。あのときおまえが見たと言っていた小型機が今日も飛んでいたよ。あの事件はどうなった? 
友人の脳内で何かが起きているのだろうか。合田は臓腑に冷たい金属が触れるような不安を覚えながら、俺がおまえに小型機の話をしたって? 何を考えていたんだろうな、言葉を濁し、無理に笑みをつくってみる。
 (単行本p107~108 13)

【相違点】

○当人に会った。これまでゆっくりゆっくり動いていた心臓が、いきなりぴくぴく精勤に動きだしたら、そりゃあ気持ち悪いに決まっているだろう。
●当人に会うと、曰く、これまでゆっくりゆっくり動いていた心臓が、いきなりぴくぴく精勤に動きだしたら、そりゃあ気持ち悪いに決まっているだろう、ということだ。

○友人は言う。
●加納は言う。


長文に変更。


○●その子? 関係者って子どもか。 (第2章 31)  (単行本p108 13)

新聞連載時、単行本ともに、相違点なし。 これは加納さんの発言。


そうして話していた間に、友人はまたどんな想像をめぐらせたのだろう。十六歳の被告にまんまと騙されて観護措置の決定を見送った判事を知っている、などと言うは、いつもの恬淡とした顔つきに戻っており、なにがしかの異変はこちらの気のせいだったのかもしれないと、合田もわずかに白々とする。
では、捜査線上に上がっていた子どももいたわけか?
いや、そこまでは行かなかった。女優志望のものすごい美少女はいたけど。
へえ、そいつは続きを聞かないわけにいかないなあ。友人はついに笑い出す。
そのうち機会があったらな。それより、退院祝いしてやるから、早く元気になれ。急がないと桜鯛の季節が終わってしまう。
かすかなさざ波を含んだ春の一日はこうして過ぎ、二人のの頭上では、伊豆諸島からの小型機が一機、また一機、調布に降りてゆく。
 (第2章 31)

そうして話していた間に、加納はまたどんな想像をめぐらせたのだろう。最近の話だが、十六歳の被告にまんまと騙されて観護措置の決定を見送った判事を知っている、などと言うは、いつもの恬淡とした顔つきに戻っており、なにがしかの異変はこちらの気のせいだったのかもしれないと、合田もわずかに白々とする。
では、捜査線上に上がっていた子どももいたわけか?
いや、そこまでは行かなかった。女優志望のものすごい美少女はいたけど。
へえ、そいつは続きを聞かないわけにいかないなあ。加納はついに笑い出す。
そのうち機会があったらな。それより、退院祝いしてやるから、早く元気になれ。急がないと桜鯛の季節が終わってしまう。
かすかなさざ波を含んだ春の一日はこうして過ぎ、二人のの頭上では、伊豆諸島からの小型機が一機、また一機、調布に降りてゆく。
  (単行本p108~109 13)

【相違点】

○友人
●加納

●最近の話だが、 (新規追加。新聞連載に無し)



加納さん登場場面、新聞連載の第2章はここまで。次回は第3章です。


『我らが少女A』 加納祐介さんの登場場面の毎日新聞連載時と単行本の抜き書き・比較 その2

2019-07-28 23:58:00 | 我らが少女A 雑感
その1 の続きです。

引用部は、○印・・・毎日新聞連載時  ●印・・・単行本  で区別します。 異なる部分は下線を引きます。 その後、変更部分を指摘する、という形式です。

メインは加納祐介さんに関連するところですが、大空翼くんには岬太郎くんが欠かせないように、加納さんには合田雄一郎さんが欠かせない部分が出てくるので、その点も取り上げている場合があります。

ついでに加納祐介さんに該当する固有名詞・名詞・単語等は強調しています。


教室へ向かう廊下の窓の外に晴れた空があり、小型機が見える。その同じ空の下で入院している旧友へと思いが飛び、気分がふさぐのはあいつのせいもある、と自分に言い訳をする。手術は来週だ。  (第1章 21)

教室へ向かう廊下の窓の外に晴れた空が広がる。白と青の小型機が飛び立ってゆく、その空の下で入院しているへと思いが飛び、気分がふさぐのはあいつのせいもある、と自分に言い訳をする。手術は明後日だ。  (単行本p41 4)

【相違点】
○晴れた空があり、小型機が見える。その同じ空の下で
●晴れた空が広がる。白と青の小型機が飛び立ってゆく、その空の下で

○旧友
●男

○手術は来週だ。
●手術は明後日だ。


単行本は「教室へ向かう~」の前に、新規追加があるんですが、合田さんの描写なのでカットしました。ご自身でお確かめください。


一日は府中の榊原記念病院へ友人の見舞いに行った。友人は十五日にペースメーカー埋め込みの手術を受けたところだ。寝たきりではないが、それほど自由に動けるわけでもないのがかえって所在ないようで、抜糸したらすぐに職場へ復帰するつもりで枕元に積み上げた裁判資料を放り出したまま、巷でベストセラーになっている新書『応仁の乱』を読んだりしているのは、いかにも仕事一途のらしくないことだった。 (第1章 28)

一日は府中の榊原記念病院へ加納の見舞いに行った。加納は十五日にペースメーカー埋め込みの手術を受けたところだ。寝たきりではないが、それほど自由に動けるわけでもないのがかえって所在ないようで、抜糸したらすぐに職場へ復帰するつもりで枕元に積み上げた裁判資料を放り出したまま、巷でベストセラーになっている中世史の新書を読んだりしているのは、いかにも仕事一途のらしくないことだ。  (単行本p51 6)

【相違点】

○友人
●加納
(2回とも変更)

○新書『応仁の乱』
●中世史の新書

○男らしくないことだった。
●男らしくないことだ。


書名、カットされたんですね。この新書、当分の間は中公新書のドル箱の1冊、ロングセラーになるでしょう。


心臓を病んだ身体を養生しながらでは、やはり、仕事もこれまでのようにはゆかないに違いない。それだけでも不本意だろうが、そろそろ独り身が不安になってくる歳なのは自分も同じだ。病気になったときは、どうする──? そんなことを考える傍では友人がわざわざパジャマの前を開いて、触ってみるかと言い、合田はペースメーカーを埋め込んだ友人胸に手を触れてみた。鎖骨の下から乳首あたりにかけて、薄い皮膚の下で金属の本体とリード線が微妙な凹凸をつくって盛り上がっているのが、エイリアンみたいだとつい口に出た。 (第1章 28)

心臓を病んだ身体を養生しながらでは、やはり、仕事もこれまでのようにはゆかない。それだけでも不本意だろうが、そろそろ独り身が不安になってくる歳なのは自分も同じだ。病気になったときは、どうする──? そんなことを考える傍らでは加納がわざわざパジャマの前を開いて、触ってみるかと言い、合田はペースメーカーを埋め込んだ友人胸に手を触れる。鎖骨の下から乳首あたりにかけて、薄い皮膚の下で金属の本体とリード線が微妙な凹凸をつくって盛り上がっているのが、エイリアンみたいだと、つい口に出た。   (単行本p51~52 6)

【相違点】

○仕事もこれまでのようにはゆかないに違いない。
●仕事もこれまでのようにはゆかない。

○考える傍では
●考える傍らでは

○友人
●加納
(2度目の「友人」は単行本も「友人のまま」)

○胸に手を触れてみた。
●胸に手を触れる。

○エイリアンみたいだとつい口に出た。
●エイリアンみたいだと、つい口に出た。


義兄弟、最大にして最高の官能的な場面。

ここは悶えましたよねえ……。
もしも合田さんが触るのを拒否していたら、二人の信頼関係にひびが入ったかもしれません。


加納さん登場場面、新聞連載の第1章はここまで。次回は第2章です。


『我らが少女A』 加納祐介さんの登場場面の毎日新聞連載時と単行本の抜き書き・比較 その1

2019-07-28 01:10:16 | 我らが少女A 雑感
本日、単行本『我らが少女A』を読了しました。

後半の畳み掛けるような、疾走感と加速度のある展開に圧倒。これよ、これこれ! これが高村作品の醍醐味なのよ!

新聞連載では一日の分量が決まっているため、この感覚が味わえなかったなあ、と感じました。
何よりも、まとまった分量で読めるのが非常に有り難い。自分のペースで読めるのもいい。


で、本題。読了したら私の好きなキャラクター、加納祐介さんの登場場面の抜き書きをやると決めてました。何回か分割して、更新します。

『冷血』では「サンデー毎日」連載時も単行本も文庫も、電話やメールなどで間接的な登場はしていても、1度も名前が出てなくて、悲しかったですね。

それに比べれば『我らが少女A』は、加納さんの初登場時から衝撃的な展開でしたね。

***

引用部は、○印・・・毎日新聞連載時  ●印・・・単行本  で区別します。 異なる部分は下線を引きます。 その後、変更部分を指摘する、という形式です。

メインは加納祐介さんに関連するところですが、大空翼くんには岬太郎くんが欠かせないように、加納さんには合田雄一郎さんが欠かせない部分が出てくるので、その点も取り上げている場合があります。

ついでに加納祐介さんに該当する固有名詞・名詞・単語等は強調しています。


まあ、ここだとおまえも近くにいるし──。四畳半ほどの広さの個室のベッドの上で、照れ隠しの言い訳をする男は、古い友人の東京高裁判事で、合田とは違って戸籍にバツ印もない独り身を続けている。名を加納という、その男が昨夜の遅い時刻に久しぶりに電話をかけてきて、なにやら地下の霊安室のような声の響きだと耳をすませたとたん、実はいま入院しているんだ、ときた。 (第1章 6)

まあ、ここだとおまえも近くにいるし──。十畳ほどの広さの個室のベッドの上で、照れ隠しの言い訳をする男は、古い友人の東京高裁判事で、合田とは違って戸籍にバツ印もない独り身を続けている。名前を加納祐介という、その男が昨夜の遅い時刻に久しぶりに電話をかけてきて、なにやら霊安室にいるような声の響きだと耳をすませたとたん、実はいま入院しているんだ、ときた。 (単行本p17 2)

【相違点】
○四畳半ほど
●十畳ほど

○加納
●加納祐介

○地下の霊安室のような
●霊安室にいるような


加納さん、初登場の場面。比較してビックリ。病室が四畳半と十畳では、倍以上の広さがありますね。
そして単行本ではフルネームに! ありがとうございます。


すると向こうも、こういう反応はあらかじめ予想できたし、だから構えていたのだというふうに、たまたま同級生の医者がいるからこの病院にしたんだが、おまえ、心臓サルコイドーシスって知っているか? どうやらそれらしいよ、先週、高裁の廊下で倒れて救急車の世話になって、不整脈だとか言われて精密検査をしたら、そのサルコイドーシスだということになって──と早口に事の次第を説明し、大したことはないんだが──と結んでみせる。
日々煩雑な行政訴訟の裁判資料に埋もれて暮らし、読むだけで骨の折れる精密な判決文を書くが、自分の身体のこととなると、順序も結論も要を得ない、ぐちゃぐちゃの説明になる。
 (第1章 6)

すると向こうも、あらかじめそういう反応を予想して構えていたのだというふうに続けて曰く、たまたま同級生の医者がいるからこの病院にしたんだが、おまえ、心臓サルコイドーシスって知っているか? どうやらそれらしいよ、先週、高裁の廊下で倒れて救急車の世話になって、不整脈だとか言われて精密検査をしたら、そのサルコイドーシスだということになって──と早口に事の次第を説明し、たいしたことはないんだが──と結んでみせる。
日々煩雑な行政訴訟の裁判資料に埋もれて暮らし、読むだけで骨の折れる精密な判決文を書くが、自分の身体のこととなると順序も結論も要を得ない、ぐちゃぐちゃの説明になる。
 (単行本p18 2)

【相違点】
○こういう反応はあらかじめ予想できたし、だから構えていたのだというふうに  
●あらかじめそういう反応を予想して構えていたのだというふうに続けて曰く

○大したこと
●たいしたこと

○自分の身体のこととなると、順序も結論も要を得ない
●自分の身体のこととなると順序も結論も要を得ない


加納さんが話す前の部分が変更されましたね。
漢字とひらがなの違い、読点の有無等も、気付けば指摘します。


人間には最期があることに思い至る自分のバカさ加減に、心底悄然としながら、合田は久々に会った旧友の顔に見入る。  (第1章 6)

人間には最期があることに思い至る自分のバカさ加減に悄然としながら、合田は久々に会った旧友の顔に見入る。  (単行本p18 2)

【相違点】
○バカさ加減に、心底悄然としながら
●バカさ加減に悄然としながら


「心底」が削除されたんですね。


できるだけ運動はしているし、健康診断で心電図の異常もなかったのに、不整脈なんて誰が想像する。何かだるいなあと思ったら意識が遠のいて、気がついたら救急車のなかだった。ああ、やっと東京に戻ってきたと思ったら、これで一敗地に塗れたなあ──。
公僕の誇りと、虎の尾を踏まない慎重さと、日和見と忖度と見て見ぬふりで裁判官の熾烈な出世競争を生き抜いてきたも、さすがに動転しているのかもしれない。いまはあえて下世話な雑談をしていたいらしい友人の、左手手首の内側には真新しい絆創膏が貼ってある。
 (第1章 7)

加納は不本意そうに口を尖らせる。できるだけ運動はしているし、健康診断で心電図の異常もなかったのに、不整脈なんて誰が想像する。歩いていて何かだるいなあと思ったら意識が遠のいて、気がついたら救急車のなかだった。ああ、やっと東京に戻ってきて、地方巡りの後れを挽回するときだと思っていたら、これで一敗地に塗れたなあ──。
公僕の誇りと、虎の尾を踏まない慎重さと、日和見と忖度と見て見ぬふりで裁判官の熾烈な出世競争を生き抜いてきたも、さすがに動転しているのかもしれない。いまはあえて下世話な雑談をしていたいらしい友人の、左手手首の内側には真新しい絆創膏が貼ってある。
 (単行本p18~19 2)

【相違点】
●加納は不本意そうに口を尖らせる。 (新規追加。新聞連載に無し)

○何かだるいなあ
●歩いていて何かだるいなあ

○やっと東京に戻ってきたと思ったら
●やっと東京に戻ってきて、地方巡りの後れを挽回するときだと思っていたら


新規追加部分が多いですね。嬉しいですけど♪


それで、どのぐらいの徐脈なんだ? 低いときは毎分四○ぐらい。 (第1章 7)

それで、どのぐらいの徐脈なんだ? こちらから尋ねると、低いときは毎分四○ぐらい、という返事だ。 (単行本p19 2)

【相違点】
●こちらから尋ねると、 (新規追加。新聞連載に無し)

○毎分四○ぐらい。
●毎分四○ぐらい、という返事だ。


まだ途中ですが、新聞連載は単語や文章を削りに削ってたんだなあ、とわかりますね。

それはちょっと落ち込むなあ。合田は同情し、心臓だからなあ、友人もやっと少し我に返ったというふうにうなだれる。昔から身だしなみのいいが、白昼のパジャマ姿一つですっかり病人風情になっているのも、近ごろは白のほうが目立つようになった頭頂で、寝かしつけるのを忘れられた白髪が数本枯れすすきになっているのも、なんだか可笑しいような、寂しいようなだ。 (第1章 7)

それはちょっと落ち込むなあ。合田は同情し、心臓だからなあ、加納もやっと少し我に返ったというふうにうなだれる。昔から身だしなみのいいが、白昼のパジャマ姿一つですっかり病人風情になっているのを目の当たりにすると、さすがに茶化す気も起こらないが、近ごろは白のほうが目立つようになった頭頂で、寝かしつけるのを忘れられた髪が数本枯れすすきになっているのが、なんだか可笑しいような、寂しいようなだ。 (単行本p19 2)

【相違点】
○友人
●加納

○病人風情になっているのも
●病人風情になっているのを目の当たりにすると、さすがに茶化す気も起こらないが

○白髪が数本枯れすすきになっているのも
●髪が数本枯れすすきになっているのが


「加納」表記が増えてるのも嬉しい♪

おまえの警大のほうはどうだ? 時間がありすぎて、余計なことばかり考えるよ。たとえば? そうだなあ、おまえに貸したままの『色道十二番』とか。 (第1章 7)

おまえの警大のほうはどうだ? 今度は加納のほうが尋ねてくる。時間がありすぎて余計なことばかり考える、と答える。たとえば? そうだなあ、おまえに貸したままの『色道十二番』とか。  (単行本p19 2)

【相違点】
●今度は加納のほうが尋ねてくる。 (新規追加。新聞連載に無し)

○時間がありすぎて、余計なことばかり考えるよ。
●時間がありすぎて余計なことばかり考える、と答える。


またも加納さんに関して、新規追加。

ところで、『色道十二番』は合田さんが貸したのか、加納さんが貸したのか、どっち?
私は「合田さんが貸した」と思ったんですが、「加納さんが貸した」と解釈している方もいて、どっちなのかなあ、と。この違いは大きいですよ。


どちらも還暦まで三年という年齢になり、相談したいことはいくらでもあるが、いつものように足腰のちょっとした痛みや日常の停滞感や惰性などに阻まれて、いっこうに実のある話にならない。しかも、一時期は合田が相手の妹を妻にしていた関係で、互いにいまも身内感覚が抜けず、当たり障りのない世間話で間を持たせるような気づかいもしない。
そういえば、明日で東日本大震災から六年だなあ。早いなあ──。何か欲しいものはある? そうだなあ、新しい心臓を一つ。
もう若くはない二人のの沈黙の上で、すぐ近くの調布飛行場を離陸した小型機のゆるい爆音が南の空へ伸びてゆく。
 (第1章 7)

どちらも還暦まで三年という年齢になり、相談したいことは多々あるが、いつものように足腰のちょっとした痛みや日常の停滞感や惰性などに阻まれて、いっこうに実のある話にならない。しかも、一時期は合田が相手の妹を妻にしていた関係で、互いにいまも身内感覚が抜けず、当たり障りのない世間話で間を持たせるような気づかいもしない。
そういえば、明日で東日本大震災から六年だなあ。早いなあ──。ところで何か欲しいものはある? そうだなあ、新しい心臓を一つ。
もう若くはない二人のの沈黙の上で、すぐ近くの調布飛行場を離陸した小型機のゆるい爆音が南の空へ伸びてゆく。
  (単行本p19~20 2)

【相違点】
○いくらでもあるが
●多々あるが

○何か欲しいものはある?
●ところで何か欲しいものはある?



これで新聞連載2回分、単行本では4ページ分の、加納さんの該当部分ですよ。むっちゃ情報量が多いでしょ?
初見の新聞連載時に「こっちの心臓が止まりそう」と動揺したのを思い出します。加納さんショックで、日常生活に支障が出そうでしたもん。

本当は新聞連載の第一章の分で1回分アップしようと思ってたんですが、予想以上に単行本の新規追加も多かったため、力尽きました。

こんな感じで、やっていきます。 不定期更新になりますが、お付き合いしていただけると嬉しいです。


「我らが少女A」 第3章 54 (連載第120回)

2018-01-09 23:42:47 | 我らが少女A 雑感
一枚のスナップ写真が特命班の長谷川から合田のスマホに転送されてくる。

その写真を、永久保存する気かなあ、合田さん?

合田は、十二年前の少女Aの記憶が、実はかなりあやふやになっていたことにあらためて気づかされる一方、二十六歳になった少女の、半分死んでいるような薄昏さと、それでも十分に魅力的ではある美貌をどう受け止めればよいのか分からない。少女Aに対するかつての個人的な感情の残滓も、未だに自分のなかに収める場所はない。

「薄昏さ(うすぐらさ)」という単語が頻繁に出てきますが、今回のキーワードの一つですね。

もちろん、もしも十二年前に自分たちが少女を検挙していたら、彼女にはまた違った未来が開けていたはずだという後悔はあるが、いま自分のうちに響いているのはそれよりも、ある種の空洞の音だと思う。三十年も独り身だった人生にあいている空洞を、自分は何で埋めている? そういえば、彼女は恋をしたことはあったのだろうか--?

<三十年も独り身だった人生にあいている空洞を、自分は何で埋めている?>
 だと!?
そりゃあ、公には警察のお仕事、私人としては加納さんでしょうが。違うの?

そういえば、彼女は恋をしたことはあったのだろうか--?

朱美ちゃんの恋の話はおいといて。

文庫版『レディ・ジョーカー』で合田さんは「恋」と自覚しましたけどね。
ついでに「失恋した」と本人は思っているらしいが、真剣な話、実のところはどうなんだ!?
加納さんとは友情のままなのか、失恋は合田さんの勝手な思い込み、はたまた勘違いだったのか、恋情が復活したのかどうか!?

そろそろはっきりした正解が欲しいところです。
あれこれ想像するのも楽しいし、いろんな想像を伺うのも楽しいけれど、そろそろ思い巡らすのもしんどくなってきました。


「我らが少女A」 第3章 49~53 (連載第115~119回)

2018-01-09 00:25:30 | 我らが少女A 雑感
いつのまにか第5章が始まっていた! 急がねば・・・。

犯人となった山本晴也二十八歳は、言葉も感情も乏しい影の薄い男のようだ。

ここにきて、初めて上田朱美ちゃんを殺害した同棲相手の名前が出てきました。

初犯で殺したのが一人なら、十年未満の刑期で済むかもしれないこころの余裕と、それでもときおり甦って来ないはずはない殺人の感覚の間で揺れながら髭の手入れというのが、いかにも軽い印象だった。

しかしこの後の刑事たちとの会話を読んだら、殺人したという事実の重みがこれっぽっちも感じられない、山本晴也。

朱美は基本、顔じゃなかったすね。好きなのは元『そとばこまち』の生瀬勝久とか、元『ワハハ本舗』の吹越満とか。

生瀬さんの前の芸名「やりまくり さんすけ」(←漢字変換は堪忍して)というのを、朱美ちゃんは知っていたのか? ・・・と、まず思った私はアホですね、はい。
吹越さんは、NHKで短編集「地を這う虫」をドラマ化した1話と3話で出ていた小谷泰弘役の印象が、今も記憶に残ってます。

でも、本人はへらへら笑ってたっすよ。生まれて初めての脂肪のある生活、とか言って。それで、読んでいたのが『脂肪の塊』とかいう小説で。ほんもののエアポケットですよ、あれは。

『脂肪の塊』は読んだことないなー。

ところで君、朱美さんがときどき夢枕に立つんじゃないのか?
いやだなあ、脅かさないでくださいよ。朱美にも遺族にもほんとうに悪いことをしたとは思うけど、正直、みんな夢だったような気がして俺、実感がないんすよね--。
こんな男に命を絶たれた上田朱美の生前の姿は、なおも薄ぼんやりしている。


何か一本、神経が足りないといった感じの山本晴也。

劇団員が言う、人より一歩でも前へ出るようながむしゃらな情熱は、朱美の人生で一度も見えてこない。独特の色使いながら繊細な透明水彩の絵を描いていた朱美は、むしろ情熱とは相性の悪い夢想家だったのではないか。そんな印象が強くなってゆく。

朱美ちゃんのそういうところに、合田さんは惹かれたのか?

刑事たちは、池袋の心療内科で主治医だった医師にも話を聴いたが、こちらは患者の顔をろくに覚えていないひどさだった。

この医師と、『冷血』に出てきた医師(←合田さんが唯一、題名の「冷血」と評した医師です)って、根本的なところで同じような感覚を持っているんだなあ、と思いました。


「我らが少女A」 第3章 47~48 (連載第113~114回)

2018-01-02 01:14:36 | 我らが少女A 雑感
しかし、自分の職務ではないものの、潰せるものは完全に潰したかと言えば、まだ潰してはいない。真弓。雪子。浅井忍。こちらから外壁を破るのは困難でも、仮に彼ら自身が破れてくれたなら、そこから新たな糸口が開けることもある。一線にいない自分には時間があり、待つことができる。いまはそれが自分の役目だ、とも思う。

年月という長い時間をおいて、見えてくることもありますよね。

合田は一瞬、自分も大人になった少女Aの顔を知りたいと思ったが、いましばらくは事件前後の十五歳の少女に張り付いていようとこころに決める。

合田さんが確実に見知っているのは、「十五歳の上田朱美」だもんね。

警大をそのまま通り過ぎ、榊原記念病院に向かう。加納は、ペースメーカーが不調だと言いながら、裁判の日程が詰まっていて診察を受けに来られず、結局定期検診で心電図を取り直すはめになった。結果次第では機械のセンシング感度の再設定だけではすまないかもしれないというのは穏やかでない。

か、加納さん・・・(うるうる)

ちょうどこの日、夏にお母さまがペースメーカーを装着する手術をされたお友だちとランチバイキングへ行ったので、それとなくペースメーカーのことを訊いてみたんですよ。

・書店やレンタルビデオ店などに置いてある万引き警報装置のような、磁力のある場所には近づけない

・普通に運動したり旅行したりする人も、たくさんいる

・人によっては不具合があって、水が溜まったりして、違うペースメーカーに付け替えることもある

・よっぽどペースメーカーと相性の良くない人は、外してしまうらしい

・30年くらい、ペースメーカーを付けている人もいる

幸いにしてお友だちのお母さまは、不具合がないそうです。

私があまりに根掘り葉掘り訊ねたみたいで、彼女に不審に思われて、「実は・・・」と加納さんのことを話したら、

「57歳でペースメーカー!? それ、むっちゃ早すぎるわ!」

と驚かれてしまいました。 ・・・加納さん、早すぎるってよ。

ロビーで半時間ほど待ち、かろうじて再手術は免れたという表情の加納に会ってほっとする。それでも、心臓にエイリアンを棲まわせている生活が快調のはずもなく、その頬からは肉が落ちて、一目で少し痩せたのが分かる。本人曰く、男更年期の鬱だというが、最近は体調以上に、仕事と人生のちょっとした迷いが友人を追い込んでいるふしもある。

加納さんも更年期に加え、鬱の状態かあ・・・。

なあ。司法修習の同期がこの春、松江に異動になってな、島根原発の運転差し止め訴訟の控訴審を受け持つことになったんだが、そいつがなんとか地裁に差し戻せないか頑張ってみたいって言うんだ。俺と違って家族もいるのに、どこかの家裁に飛ばされるのも覚悟の上だって。いったい何が、彼と俺の生き方をここまで分けたんだろうな--。

『マークスの山』で貴代子さんが絡んだ出来事を、思い出しますね。因縁というか、因果というか・・・。

贅沢なことを言ってやがる、と思う。ふだんなら、もう十分に出世した男ならではの無いものねだりだと一蹴してすませるが、今日はケンカをしに来たのではないし、この友人の、歳に似合わない青臭さは嫌いではない、とも思う。

加納さんが心臓を患ってからの合田さん、加納さんに対して何かとキツくないですか?

大学で出逢ってから学生同士で付き合った時代、合田さんが貴代子さんと結婚しての義兄弟時代、後に離婚して、東京で仕事に打ち込んでいた合田さんと、各地を転々としていた加納さんの時代、加納さんが東京に戻ってから過ごした時代、加納さんが判事に転職し、東京と大阪に離れ離れになり、貴代子さんがNYの同時多発テロで亡くなった時代・・・とありますが、何のしがらみも無かった、学生同士の時代の二人に戻ったような感覚なんでしょうか。

「歳に似合わない青臭さ」というところから、特にそう思えます。 加納さんは基本的にはお坊ちゃん育ちの良い点・悪い点を兼ね備えているし、合田さんとは相容れない部分もあるだろうし。
だから付かず離れずの程よい状態が保たれて、ようやく対等な関係が再び築かれているような・・・。

それに、おまえ、いまは心臓のその機械になんとかして慣れるほうが先だ。ステロイド剤を服用していて痩せるなんて、どうかしている。お昼、蕎麦を奢るから付き合えよ。
タクシーを拾い、多磨霊園の正門から人見街道を少し西へ行ったところにある小さな蕎麦屋に入る。


ステロイド剤は副作用がいろいろとあるので、大変でしょうねえ。
でもって、奢るのがお蕎麦・・・。加納さんにはもうちょっといいものを食べさせてあげて! とも思うが、肝心の加納さんの食が細いのなら、しょうがないかもしれませんね。

それにしても合田さん、すっかり東京に馴染んじゃったのかあ、と一抹の寂しさも。うどんを食べていた合田さんが懐かしい。
大阪のうどんと東京のうどんは違いがあるから、もしかしたら東京のうどんは食べられないのかもしれない、合田さん。東西でそんなに差が無いお蕎麦を選ぶのは、合田さんなりの妥協なのかもしれない・・・なんて思ったり。

そうして友人と蕎麦を食い、請われてまたちょっと少女Aの話をする。前方宙返りをしながら例のCMソングを歌う話に、友人は大いに笑う。

この後も何度か出ますが、加納さん、上田朱美のことを気にしすぎだよね。合田さんが気にかけて絡んでいるから、という理由からなのか。はたまた他に理由があるのか、ないのか。

「黙っていたが、実は上田朱美を個人的に知っていた」なんて、止めてよね加納さん!


「我らが少女A」 第3章 33~46 (連載第99~112回)

2018-01-01 00:41:30 | 我らが少女A 雑感
何か事件が起きると、その周辺ではつねに警察や報道によって被害者や被疑者の昔の顔が呼び起こされることになるが、よほどのことがない限り、あれこれ散漫に思いだされ、語られるそれらはなぜか判で押したような定型になる。

もしも私も何かの被害者になって死んだら、周囲の人たちに、上記のような●ヤチハタ印を押すような感じで言われるのかなあ・・・と考えたことは、何度かある。(年の瀬に物騒な)
知ってから、悪口の方が多いと思うんだよなあ・・・。だけどそれは死人に対して無礼・失礼になるから、当たり障りの無いことを、言うしかないんだろうね。

井伏鱒二とか太宰治といった定番から、ハリー・ポッターまで。

個人的内容ですみませんが、井伏鱒二は未読。太宰治は教科書に載っていた「走れメロス」と、高校の演習や模擬試験でやった「富嶽百景」の一部しか知らない。ハリー・ポッターも読んだこと無い。映画も観てない。通勤電車でハリー・ポッターのラッピング電車は、年に百回は乗ってるのに(苦笑)

そもそも、あまり覚えていない。どんな子だったっけ--。

私も、これと同じこと言われそうな気がする。

中学時代を振り返ると、家と学校と野川と公園ぐらいしかない箱庭の世界で、自分も同級生たちもいまよりずっと自由だったような気がするのだが、実際、朱美や真弓もそうだったのではないだろうか。

狭い世界ほど移動量や情報量が少ないから、深く記憶に刻み込まれるもんなんだよね・・・。

大きなガラス窓とよく茂った観葉植物と庭の緑が何かの雑誌で見たイギリスの古い屋敷の居間のようで、あ、秘密の花園--と亜沙子は思う。

バーネットの『秘密の花園』は少年少女向けの本で持ってましたが、前半部分はほとんど読まず、後半だけ繰り返し読んでましたね。後半の方が楽しくて、面白かったもん。

高校へ入って間もないころ、外で朱美に何かが起こったことは分かっている。警察に言われずとも、いくら鈍感な母でもそれぐらいは分かっている。何があったのか尋ねる勇気がなかったのは責められても仕方ないが、尋ねていたら何か変わっていただろうか?

「あの時こうしていたら、ああしていたら」と、後悔先に立たずの思考を繰り返してしまうのは、もう、どうしようもないんですよねえ。

高校に入ってすぐ、朱美に何があったのだろうか。どこかで恐い目に遭った? 誰かに乱暴された?
男なんて--。いつの日の、どこの誰ともつかない男たちの圧迫感が亜沙子の全身を締めつける。


現時点で確定したわけではないですが、母子二代で男に乱暴されたということ・・・?

亜沙子さんの「男なんて--」の嫌悪感は、私もよく分かる。
小学生低学年だったか、遊びに行った男の子の家で、いきなりのしかかられたんだよね。プロレスみたいにふざけて遊んでいるわけではなくて、そいつはセックスの真似事をしている感じだった。

たまたまそいつの母親が傍を通ったので 「おばちゃん、助けて!」と叫んだが、無視された。

何でや!? そいつの母親、保育士やってたんだけどさ・・・。

この出来事で確実に、「男はケダモノ」「女も頼れない」ということだけは、しっかりと刻まれました。 あー、思い出しても腹が立つ!

亨さんには協力はしてもらうが、子どもを産むのも育てるのも私だ。実の母親に抑圧され続けて、自分の娘と正面から向き合うことをしなかった母のようにはならない。愛情はあっても、結局娘を見失ってしまった朱美のお母さんのようにもならない。鼻孔をふくらませてひとりこころに決める真弓を突き動かしているのは、これからわが子を産み落とす性の孤独と歓びだ。

一方で、新しい命を産み出す真弓ちゃん。
女遊びをしていた父親を嫌悪して、男と付き合いたくないと言っていた真弓ちゃんが、何がどうなってこうなったのか、謎だな。

正直に言えば、母親になるという決意の傍らには、自分がほんとうはどういう心根の人間なのか分からない不安や疑念が、いつも寄り添ってきて離れない。最後の最後まで父を嫌悪した娘。その父と夫婦だったという理由で母を軽蔑した娘。好きと嫌いが背中合わせだった上田朱美。朱美とどんな友だちだったか--? それ以前に、私たちはそもそも友だちだった?

前回の雑感で記しましたが、「友だち」という言葉で収めなくても、「気になる子」って、いるよね。

陣痛が思ったほど強くならず、陣痛促進剤を投与されてやっと本陣痛が来たときには

私の知人の話ですが、彼女は産道が狭くて、帝王切開だろうと覚悟をしていたら、何を考えたのか、それとも他の妊婦と間違えたのか、医師は陣痛促進剤を投与させたらしい。無理矢理産ませようとしても、赤ちゃんの頭が出て来れないんだから、そもそも無茶な話。その後、帝王切開に切り替えて、陣痛抑制剤を投与。話を聞いているだけで、男女問わず素人でも、出産の経験なくても、母体にも赤ちゃんにも悪影響や後遺症が出そうなことは、分かりそうな話だ。

ある家庭において大人や子どもが個々に抱えている問題は、大なり小なりそれぞれの家庭のなかで内に向かって閉じてゆき、何かが起きて初めて世間の知るところとなるが、栂野家もその例に洩れない。

そうだね・・・我が家の出来事も、例に漏れずにね・・・。


「我らが少女A」 第3章 30~32 (連載第96~98回)

2017-11-29 00:31:52 | 我らが少女A 雑感
はい、合田さんのターンですよ。

この二人の交差を見る限り、二人は周囲が考えているほど密接ではなかったということであり、合田はいまさらながらに困惑した。自分たちはいつ、どこで、二人が仲良しの親友だと思い込んだのだろうか。

合田さん並びに警察の眼から見た二人・・・朱美ちゃんと真弓ちゃんは「親友」だと思い込んでいた。

だけどね、しょっちゅう引っ付いているのが「親友」とは、限らないものよ。

小中学校の頃かな、私にも、一定の距離はあったと思うけれど、ある種の「共感覚」とでもいうのかな、そんな共有の感覚を抱いていた友達が一人二人はおりましたよ。

ちょっとしたことで感覚が一致したり、考え方が繋がっていたり、黙っていても話さなくても分かっていたり。
朱美ちゃんと真弓ちゃんも、そんな雰囲気じゃなかったのかな・・・?


週に一度の水彩画教室と、吉祥寺周辺での徘徊と不良行為でつながった二人の少女は、ほんとうはどんな関係で、互いに相手をどう思っていたのだろうか。合田は、自分たちが基本中の基本を見誤っていたことに愕然となる。

男女の感覚の違い、というよりは、大人の男と未成年の少女の感覚の違い、なのかもしれませんね。
警察にとっても「都合のいいように」「思い込んで」 物事を見てしまうんでしょう。

そしてここが、生きている人間が捜査するにあたっての、限界点なのかもしれない。
死者については、生きている人間の言動でしか、判断が出来ないから。


『拝啓
(中略)
                 敬具
平成二十九年四月吉日
              合田雄一郎
長谷川徹様
    侍史            』


出た! 合田さんの必殺技・お手紙攻撃。
思わず 「侍史」の意味 を調べましたよ。

今の時代、メールやLINEでのやり取りが主流になってますが、合田さんは安定してますね。素晴らしい。

メールで思い出したが、私が経験したひどいエピソードを一つ。
取引先に電話して、○○さんが席を外していたため、代わりに電話応対してくれた●●さんに「戻られたら電話をお願いします」と伝えたのよ。●●さんも「分かりました」と。

だけど、いつまで経っても電話がかかってこない。

約1時間後。もう一度○○さんに電話した。
そうしたら「電話がかかってきたなんて、知らん」と言うのよ。

「ええ!? ●●さんに電話をお願いしますって、伝えたんですけど・・・」
「●●? ああ、ちょっと待って・・・ごめん、社内メールで「電話がありました」って入ってるわ」

・・・ な ん じ ゃ 、そ ら 。

ちょっとメモして、○○さんの机に置いた方が、早いんじゃないのか! ○○さんも、いくら仕事でパソコンを使っていても、分刻みでメールチェックできるわけもなかろうが。

「何度注意しても、メモに書いたり、口頭で言うほうがめんどくさいらしくて、メールやLINEで用事を済ますねん。 仕事を休む知らせも、電話をかけてくるんじゃなくて、メールやLINEを使ってくるヤツもおる」・・・とは、○さんの話。

ホンマに呆れましたわ。


ちょっと会おうか。多忙な相手を慮って、合田は翌日自分から小金井へ足を運び、夕刻の乗降客が引きも切らない武蔵小金井駅構内のスターバックスで、出先から戻る途中のかつての同僚の不満を聞く。

ひゃああ、新たな地どり場所が! 既に立ち寄った方もいらっしゃいますか?

しかし私はコーヒーが飲めないので、スタバには一生、縁がないわ・・・。
それでなくても「紙コップで飲む」というのが、何か抵抗がある。紙コップ特有の匂いというものも感じて、美味しく感じない。だから会社でも、よっほどの場合で無い限り、マグカップで緑茶、ほうじ茶、紅茶を飲んでます。


杉並の自宅マンションに帰り、郵便受けに入っていた特命班の長谷川からの返信を開く。

『冷血』では東京都と千葉県の境目に住んでおりましたが、現在は杉並にお住まい。
合田さん! 加納さんに合鍵は渡してるんだろうねえ~!? 渡してなきゃ怒るよ。

警察大学校へ行くために、西武多摩川線を利用しているのは早々に判明しているのですが、加納さんのマンションと警察大学校へ通うルートが、ある程度絞られるんですね?

東京の地理と交通手段がさっぱり分からないので、何卒ご教授ください。


「我らが少女A」 第3章 22~29 (連載第88~95回)

2017-11-27 01:15:52 | 我らが少女A 雑感
自分のモタモタ、ノロノロ具合には呆れるしかないですが、お付き合いしていただいている皆さんに、改めて感謝の意を表します。

この堅実な、というより不器用な二人には、そんなことは大きな問題ではない。

雄太くんと優子ちゃん、これも<ゆうゆうカップル>ですな。偶然? (「ゆうこ」以外の読み方もあるかもしれませんが、「ゆうこ」でいいよね?)
本家本元は言わずもがなの、義兄弟の祐介と雄一郎。


あのね、べつにいいんだけど、あの何とかという幼なじみの人の事件からこのかた、雄太さんの時間が止まっているみたい。
詰問するというのではない、砂を食んだ貝のような、見えない棘を含んだ優子の物言いが、小野の優柔不断や集中力の欠如をかき混ぜ、かすかな不機嫌の泡を発生させる。
まだ半月だろ。事件でも事故でも、人が死ぬのはやっぱり気が重いよ。それに、ここのところ眼の調子も悪いし。


いくら死者とはいえ、過去に好きだった女の存在がちらつくのは、やはりいい気はしないよね、優子ちゃん。

一方の雄太くん、朱美ちゃんを想っていたことは事実だし。いなくなったことで存在が大きくなるという状況も、その気持ちも、分からないではない。

そういえば、合田さんもそういう状況の経験者だったんだ! 別れた元妻・貴代子さんが突然すぎる死に方を迎え、十数年経ても未だに気持ちの落ち着き場所が見つかっていないようだから。

でも、それはそれでしょうがないんだろうねえ。


警察は、朱美が野川事件について何か知っているとでも考えているのだろうか。かわいそうに、死んだ朱美はもう何を言われても抗弁できないのに--。

死んだ者(娘)にはとっくに語るべき言葉はないし、生きている人間(母)にも死者のことは分かる範囲でしか分からない。 亜沙子さんの苛立ちは痛いほど分かる。
それでも何かの手がかりを、藁の一本でも掴もうとする警察の思いも、理解できる。

被害者家族と警察が永遠の平行線のままなのは、その部分なんだろうなあ・・・。


どこかの女子高生を買春していたバカ。
いや、今夜の雪子の鬱屈は孝一ではなく、真弓の夫の佐倉亨が運んできたものだった。


にこりともせずに義理の母を問い詰めてくる銀行員のバカ。

どんな中身であっても個人差があろうとも、「男」という存在をまとめて「バカ」の2文字で一蹴できるのが、「女」の特権なのだなあ。

いや、もう、「バカ」以外の表現は、出来ないと思う。
「バカ」と「アホ」で、感じ方の微妙なニュアンスの違いは、読み手の皆さんの生まれ育った地域で差があるでしょうが、大阪で生まれ育った私の感覚では、孝一さんも亨さんも「バカ」です。この言葉には、一片の愛情も含まれておらず、蔑んでいるだけ。


十二年前は恐喝の常習犯だった少女が、いまは未婚のまま一児の母になり、ピンク色のエプロンをつけて老人保健施設で介護職員をしている。表向きの社会生活に限ったことかもしれないが、人間の可塑性の大きさには特命班の刑事たちもちょっと驚かずにはいられない。

栂野孝一に恐喝をしていた少女の一人、井上リナちゃんの現在の姿。
「昔は悪いことをしていたのに、今は真面目に」という、よくあるパターンの一つかもしれませんが、はてさて、それで片づけられるのかどうか。

しかし俗に言う「ブルセラショップ」って今もあるの? 今ならば、○ルカリなどで販売してるのかねえ?
日本の男の「性」に関する底なし沼のような貪欲さは、ほとほと呆れますね。世代が変わっても、これだけは変わらないんですね。ホントに「バカ」ですね。


リナは、自分も父親に復讐しているつもりだった、と言う。大手商社勤めで、いつも終電で帰宅し、妻がパート先の男と不倫しているのにも気づかない自信過剰人間。娘の夜遊びを知っても怒る勇気もない現実逃避人間。十二年前も同じ話をしており、それが調書に残っている。もっとも、リナの父親にしろ、栂野孝一にしろ、多感で恩知らずな思春期の娘たちの、勝手な思い込みや価値観の餌食になったというほうが正しいだろう。

またもや個人的な話になりますが、思春期の頃に一時的にでも父親を汚らわしく感じる時期を経ていない娘がいるということに、私は違和感を覚えることがあります。

両親が離婚して同居していないとか、父親が単身赴任やら、彰之のように漁船に乗っていて長期不在やら、そういう状況の場合は嫌悪感を抱かないだろうけれど・・・(逆に恋しくて仕方が無いでしょうから)

不幸なことかどうかは分かりませんが、上手に<「父」になれない「男」>が、多い気もしますね。あるいは、<「大人」になれない「男」>と言い変えてもいい。

かつて電車でたまたま隣に立っていた若い男性二人(推定20代)の会話を耳にして、特にそう思った。

片方の男性が、
「子どもが生まれて、嫁さん、俺の相手してくれへんねん」 「子どもが一番で、俺のことは後回しや。構ってくれへん」
と、愚痴をこぼしてて。
「旦那>赤ちゃん」でないと拗ねるのか!? 奥さんは旦那さんの「母親」じゃないぞ! どこまで子どもやねん! と。

同じ年齢であっても、総じて女性よりも男性のほうが精神年齢が低いですが、男が精神的に死ぬまで「子ども」のままだとマジで辛い。こういう「子ども」たちが、特に国の命運を左右するトップにいるとな。


特命班は母親の上田亜沙子、佐倉真弓、栂野雪子、小野雄太、浅井忍、井上リナを含む高校時代の遊び仲間にあらためて話を聴いて回る。それは、彼らにまた新たな疑心暗鬼をもたらした一方、刑事たちには老女の死という事件の中心から逆に遠ざかってゆく日々になったが、周縁に散らばっているピースを一つ残らず拾い集めない限り、『栂野節子の人生と生活』のパズルは完成しない。

今回の事件は、栂野節子殺しの加害者かもしれない人物が、先日殺害された上田朱美かもしれないという、二重の複雑さであるところが、混乱の元凶。
文字通りの「死人に口なし」。

このせいなのか不明ですが、「読むのを止めた」という人が多少はいるとかいないとか?
「分かりやすいことは書かない」のが高村作品の特徴ですから、「簡単で且つ分かりやすさ」を求めるのは、お門違いというもの。

この複雑さとやるせなさが、いいんじゃないですかー! 後々のちょっとした光明を感じ取り、カタルシスを味わえるのが、醍醐味なんですよー!

「我慢して読み続ける」のも、大切ですよ・・・と助言しても、読むのを止めた人が、この記事を読んでいるとも思えないですね、ははは。


真弓は最初の仕分けにひとまず成功していたのかもしれない、と刑事たちは思い直す。しかし、真弓が守ろうとしているものは、依然として分からない。かつての親友の名誉か、それとも自分自身の何かの秘密か。

被害者遺族の一人であり、事件当時は高校一年で予備校の冬期講習に出ていた佐倉真弓、旧姓栂野真弓について、特命班の刑事たちは、現時点で上田朱美よりもむしろ不透明な顔を覗かせているように感じる一方、その印象を生み出しているものを、なかなか整理することができない。

父親の孝一がやっていたこと、殺された祖母の節子のこと、その祖母と仲が悪かった母親の雪子のこと・・・。
それらが一斉に降りかかってきたのが、当時の真弓ちゃんの状況だったんだから、封印して忘れた記憶もあって当然だろうし、年月という戻せない時間もあるしで、現在の真弓ちゃんも、どうしようも無い状態でしょう。

それでも、これが何かのきっかけで封印された蓋が開かれる場合があるわけで。警察が賭けるのは、この一点だけなんでしょうね。


「我らが少女A」 第3章 16~21 (連載第82~87回)

2017-10-30 00:43:26 | 我らが少女A 雑感
更新が遅くなって申し訳ないです。

ふつうよりちょっと長く発信音が鳴り続け、電波が届かないのかと思ったら、ようやく<合田です>と応じる声がある。戸外を歩いているのかもしれない。

次回分で判明しましたが、加納さんと一緒にいるところに不意の電話だもの。そりゃあねえ・・・?


刑事はみな同僚の私生活には干渉しないが、冠婚葬祭だけは例外で (略)

合田さんは差し上げてばかりで、貰ってはないんだよね、きっと。結婚したのはペーぺーの頃だから。


電話の相手が推測したとおり、合田はオリンピック公園に面した駒沢公園通りを歩いている。隣には今日退院した友人の判事がいる。玉川通り近くのちょっといい鮨屋で退院祝いをし、締めはウイスキーだろうと言う友人の口車に乗って、公園のすぐそばに建つ友人のマンションへ向かっているところだ。

加納さん退院おめでとう! 桜鯛は、特別にお造りにしてもらったのかな?

「オリンピック公園」ってどこやー!? → ここだ!
この周辺に加納さんの住まいがあるのか! しかもマンション・・・。

ふにゃー、高村さん、ありがとうございますありがとうございますありがとうございます!

「玉川通り近くのちょっといい鮨屋」って、どこー!? 分からん!
すし屋は『マークスの山』に出てくる「さかき」しか知らない。

地どり特定班の皆さんのご報告をお待ちします・・・。

加納さん、検事時代は馬事公苑の近くに住んでて、高裁判事の現在はオリンピック公園の近くですか。 そういうところがお好きなの?


日本酒が入っているせいで頭があまり働かないのを感じながら、合田は慎重に聞き返す。

相変わらず、お酒はしっかり飲んでいるのですね。 加納さんは、飲酒は大丈夫だったんだろうか?


電話を終えたところで、そら、俺の勘が当たった、野川事件がおまえを追いかけてきたと友人が謳うように言い、笑う。きっと、女優志望の美少女がおまえを呼びに来たんだ。どうかもう少し付き合ってくれ、って。

・・・根に持っているようにも聞こえるし、イヤミのようにも感じるし、ただの戯言のようにも思える、義兄の発言。
合田さん本人は、どう受け止めたのかな?


その男、おまえに何かサインを送ってきているんだろう。一つ間違えると、今度はおまえがストーカーされるぞ。気をつけろよ。

『LJ』の半田さんほどしつこくはないと思うけど(どちらかというと合田さんのほうがストーカーだったか?)、同業者の半田さんとはまったく思考が異なる若者で、読めない分だけ、性質が悪いかもしれませんねえ。


ウイスキーはロックでいくか。マンションの階段を上がりながら、友人が楽しげに言う。いや、今夜はストレートだ。合田は応じる。

合加派だろうが加合派だろうが、思ったことはただ一つ。

「今夜はお泊りですね! 高村さんありがとうございます!」

いや、泊まらない方がおかしいでしょ。不自然でしょ。夜の営みはしなくてもいいから、隣同士で寝て欲しい。

ところで、マンションにエレベーター無いの? それとも下の階にお住まいなの、加納さん? 入院していて運動不足だから、そのために階段を使用したのかな?

それにしてもこのやりとり、二人だけの隠語のようにも思えたのは、私だけじゃないよね? 例えば、

ロック → 69
ストレート → 直にやろう (←何を?) (・・・アレを)

・・・下品でスマン。 だけど、お酒だけじゃ済まないと思いたいのよ!

退院祝いだから・・・二人だけの隠微な時間も必要ですよ・・・。

単にウイスキーを飲んでいるだけでも構わないんですけど、描かれていない何かがあると思うのが、長年、義兄弟を見続けている人間の悲しい性なので。義兄弟に関して、死ぬまで治らない病と言ってもいいです、はい。


そういえば野川事件の少し前、最高裁で初めて違法収集証拠排除法則を適用した判決が出て、加納と議論になったのだ。合田は思いだす。違法な逮捕の後に得た証拠だからという理由でその証拠能力をダイレクトに否定した判決は、現場には素朴に<?>だった。加納は、先行する手続きが違法の場合、それに続く証拠収集手続きに違法性が継承されるという従来の考え方が葬り去られたわけではないとして屁理屈をあれこれ並べてくれたが、判決への懐疑は残ったままだ。

合田さんが疑問に思い、問いかけて、加納さんが解説するというパターンは、今現在もあるんだ! と、内容そっちのけで嬉しくなった。
(加納さんに解説してもらっても、さっぱり分からないというのが本音)

しかし、だな。 ここにきて久々に「加納」の二文字。前回まで「友人」だったのに。腑に落ちん。
『冷血』のときに比べればマシですけどね。「加納祐介」の固有名詞、1度も出なかった!


その加納は今日から職場復帰して、三分咲きの桜の下を高裁へ登庁し、快気祝いの縮緬小風呂敷を手に、部総括以下への挨拶回りに忙しい。合田も一つ貰った縮緬の小風呂敷は、教科書を包むのにちょうどいい。

加納さんと合田さんのものはお揃いの色柄で、挨拶回りで渡しているのは、色柄が異なるものなんだろうか? それは露骨過ぎるかな?
だけど二人の微妙な間柄は、過去の加納さんの勤め先の検察庁内だけでなく、裁判所内でも知れ渡っていると思うしなあ・・・。 加納さんは滅多にいない、<検事→判事>の異例の経歴の持ち主だからね。


そうして教壇に立ちながら、重要参考人ではない関係者たちを追いつめたかつての非情な日々へ、合田の頭は移ろう。

うん・・・捜査の難しいところだよね。
被害者の家族なのに、まるで加害者のように執拗に繰り返し尋問されるのは、たまったもんじゃないだろう。 しかし「犯人は身内」というパターンも多いから・・・。


すでに相当な年月を経て、発生当時の強い感情が抜けてしまった事件の再捜査は、おしなべてバーチャルなゲームの世界に近くなるのだろうか。あるいは、問題は自分自身にあり、何やらこんなふうにして、三十五年の現役時代が少しずつ緩みながら終わりを迎えてゆくということなのだろうか。

『土の記』で、合田さんよりも年上の主人公を描写してらしたから、多少の年齢の差はあれ、こういう感慨を抱いてしまうのは、必然なんだろうかねえ・・・と、しみじみします。

深夜、合田はこれまで経験したことのない所在無さに囚われて、ダイヤグラムと老眼鏡を置く。

ろ う が ん き ょ う ・・・!

この漢字3文字の破壊力!
「ああ、合田さん57歳なんだ・・・」と認識を新たにした。

合田さんの眼鏡といえば、『LJ』で城山社長の警護役を務めたときの変装でかけてたのを思い出しますが、今回はガチで眼鏡なんだもんねえ・・・。

余談ついでに、「眼鏡をかけた加納さん」の絵を描かれる方々も、多かったですよね? 小説では一度も「眼鏡をかけている」などの表現は無かったのに、あれはなぜだったんでしょう?
「エリート検事=眼鏡」という図式があったから? それとも描かれる方々の、単なる趣味や好みですか。