あるタカムラーの墓碑銘

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「我らが少女A」 第3章 47~48 (連載第113~114回)

2018-01-02 01:14:36 | 我らが少女A 雑感
しかし、自分の職務ではないものの、潰せるものは完全に潰したかと言えば、まだ潰してはいない。真弓。雪子。浅井忍。こちらから外壁を破るのは困難でも、仮に彼ら自身が破れてくれたなら、そこから新たな糸口が開けることもある。一線にいない自分には時間があり、待つことができる。いまはそれが自分の役目だ、とも思う。

年月という長い時間をおいて、見えてくることもありますよね。

合田は一瞬、自分も大人になった少女Aの顔を知りたいと思ったが、いましばらくは事件前後の十五歳の少女に張り付いていようとこころに決める。

合田さんが確実に見知っているのは、「十五歳の上田朱美」だもんね。

警大をそのまま通り過ぎ、榊原記念病院に向かう。加納は、ペースメーカーが不調だと言いながら、裁判の日程が詰まっていて診察を受けに来られず、結局定期検診で心電図を取り直すはめになった。結果次第では機械のセンシング感度の再設定だけではすまないかもしれないというのは穏やかでない。

か、加納さん・・・(うるうる)

ちょうどこの日、夏にお母さまがペースメーカーを装着する手術をされたお友だちとランチバイキングへ行ったので、それとなくペースメーカーのことを訊いてみたんですよ。

・書店やレンタルビデオ店などに置いてある万引き警報装置のような、磁力のある場所には近づけない

・普通に運動したり旅行したりする人も、たくさんいる

・人によっては不具合があって、水が溜まったりして、違うペースメーカーに付け替えることもある

・よっぽどペースメーカーと相性の良くない人は、外してしまうらしい

・30年くらい、ペースメーカーを付けている人もいる

幸いにしてお友だちのお母さまは、不具合がないそうです。

私があまりに根掘り葉掘り訊ねたみたいで、彼女に不審に思われて、「実は・・・」と加納さんのことを話したら、

「57歳でペースメーカー!? それ、むっちゃ早すぎるわ!」

と驚かれてしまいました。 ・・・加納さん、早すぎるってよ。

ロビーで半時間ほど待ち、かろうじて再手術は免れたという表情の加納に会ってほっとする。それでも、心臓にエイリアンを棲まわせている生活が快調のはずもなく、その頬からは肉が落ちて、一目で少し痩せたのが分かる。本人曰く、男更年期の鬱だというが、最近は体調以上に、仕事と人生のちょっとした迷いが友人を追い込んでいるふしもある。

加納さんも更年期に加え、鬱の状態かあ・・・。

なあ。司法修習の同期がこの春、松江に異動になってな、島根原発の運転差し止め訴訟の控訴審を受け持つことになったんだが、そいつがなんとか地裁に差し戻せないか頑張ってみたいって言うんだ。俺と違って家族もいるのに、どこかの家裁に飛ばされるのも覚悟の上だって。いったい何が、彼と俺の生き方をここまで分けたんだろうな--。

『マークスの山』で貴代子さんが絡んだ出来事を、思い出しますね。因縁というか、因果というか・・・。

贅沢なことを言ってやがる、と思う。ふだんなら、もう十分に出世した男ならではの無いものねだりだと一蹴してすませるが、今日はケンカをしに来たのではないし、この友人の、歳に似合わない青臭さは嫌いではない、とも思う。

加納さんが心臓を患ってからの合田さん、加納さんに対して何かとキツくないですか?

大学で出逢ってから学生同士で付き合った時代、合田さんが貴代子さんと結婚しての義兄弟時代、後に離婚して、東京で仕事に打ち込んでいた合田さんと、各地を転々としていた加納さんの時代、加納さんが東京に戻ってから過ごした時代、加納さんが判事に転職し、東京と大阪に離れ離れになり、貴代子さんがNYの同時多発テロで亡くなった時代・・・とありますが、何のしがらみも無かった、学生同士の時代の二人に戻ったような感覚なんでしょうか。

「歳に似合わない青臭さ」というところから、特にそう思えます。 加納さんは基本的にはお坊ちゃん育ちの良い点・悪い点を兼ね備えているし、合田さんとは相容れない部分もあるだろうし。
だから付かず離れずの程よい状態が保たれて、ようやく対等な関係が再び築かれているような・・・。

それに、おまえ、いまは心臓のその機械になんとかして慣れるほうが先だ。ステロイド剤を服用していて痩せるなんて、どうかしている。お昼、蕎麦を奢るから付き合えよ。
タクシーを拾い、多磨霊園の正門から人見街道を少し西へ行ったところにある小さな蕎麦屋に入る。


ステロイド剤は副作用がいろいろとあるので、大変でしょうねえ。
でもって、奢るのがお蕎麦・・・。加納さんにはもうちょっといいものを食べさせてあげて! とも思うが、肝心の加納さんの食が細いのなら、しょうがないかもしれませんね。

それにしても合田さん、すっかり東京に馴染んじゃったのかあ、と一抹の寂しさも。うどんを食べていた合田さんが懐かしい。
大阪のうどんと東京のうどんは違いがあるから、もしかしたら東京のうどんは食べられないのかもしれない、合田さん。東西でそんなに差が無いお蕎麦を選ぶのは、合田さんなりの妥協なのかもしれない・・・なんて思ったり。

そうして友人と蕎麦を食い、請われてまたちょっと少女Aの話をする。前方宙返りをしながら例のCMソングを歌う話に、友人は大いに笑う。

この後も何度か出ますが、加納さん、上田朱美のことを気にしすぎだよね。合田さんが気にかけて絡んでいるから、という理由からなのか。はたまた他に理由があるのか、ないのか。

「黙っていたが、実は上田朱美を個人的に知っていた」なんて、止めてよね加納さん!



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