あるタカムラーの墓碑銘

高村薫さんの作品とキャラクターたちをとことん愛し、こよなく愛してくっちゃべります
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シューメーカー・レビー第9彗星

2009-09-17 22:31:06 | 高村薫作品を読み解くためのキーワード
今回、カテゴリをどれにするか迷いに迷いました・・・。

『カラー版 ハッブル望遠鏡 宇宙の謎に挑む』 (講談社現代新書) という本を読了しました。
約100枚もの美しい宇宙や銀河、星々の写真が掲載されているのですが、その中に木星に衝突したシューメーカー・レビー第9彗星の写真が掲載されてました。

これか、合田さんが「日経サイエンス」で読んだのは! と思わず興奮してしまいました。初めて見たのですよ。木星とシューメーカー・レビー第9彗星の写真を。

え? ネットで検索すればいいって?
確かにそうですが、私はこういう部分ではアナログ人間なのですよ。予期せぬところで、高村作品に関連のある部分を見たり知ったりすることに、楽しみを見い出すタイプなのです。
それにネットで検索しても、「この本に木星とシューメーカー・レビー第9彗星の写真が掲載されている」なんて、読んだ人しか分かりませんでしょ?

8月に発売された新書ですので、興味のある方、ぜひご覧下さいませ。

『レディ・ジョーカー』 (毎日新聞社) 下巻のp378に、該当部分があります。(今回は引用省略)


本日17日(木)の「毎日新聞」朝刊 に、鳩山内閣について高村さんのコメントが掲載されています。


電話ボックス その1 ~今際のひと言~

2006-01-24 19:09:59 | 高村薫作品を読み解くためのキーワード
 このカテゴリはネタバレありです。
特に今回は、登場人物の生死にかかわる部分を取り上げていますので、『リヴィエラを撃て』 『レディ・ジョーカー』 を未読の方でネタバレされたくない方は、今のうちにお戻り下さい。


***

第2回目は、「電話ボックス」 です。
ザッと調べてみたら、ひと口に「電話ボックス」といっても、何パターンかに分類されるんですよね。・・・そのほとんどのパターンに、合田雄一郎さんがかかわっているのが、すごいといえばすごいのですが・・・。

携帯電話が普及した現在、「電話ボックス」の存在は珍しくなり、風化していくのかもしれません。
しかし高村薫作品においては、「そこで重大・重要なドラマが生まれる」という点だけでも、見逃すことはできません。

何よりも「電話ボックス」の効用。それは、まがいなりにも個人(プライヴェート)なスペースと時間を確保できる ことに、あるのではないでしょうか。
畳半分程度のスペースとはいえ、「電話ボックス」と呼ぶからには、ある種の密室状態で、外界と隔離されています。しかも顔の見えない相手に向かって電話をかけ、話をするのです。
それだけでも、高村用語の一つに挙げられる 「隠微」 な香りが漂いませんか?

今回は「電話ボックス その1」として、サブタイトルで「今際のひと言」を添えます。(ネーミングセンスの悪いのは相変わらず)
・・・これだけで勘のいい方は、「ああ、あれか!」と思い当たるでしょうねえ。

それではピックアップ!

『リヴィエラを撃て』 文庫版下巻p334~335より 
反射的に手島は元来た道を駆け戻った。スウィントン・ストリートの角からほんの十歩先の仄明るい公衆電話ボックスの中で、キムは頭を垂れて座り込んでいた。
「バーキン! しっかりしろ! バーキン!」
手島はかがみ、腕を差し出した。
 (中略) キムはぽっかり目を開けた。青い眼球から流れ出たのは赤い血の涙だった。その喉から「メアリー……」という謎の溜め息が漏れると、キムはいきなり両腕を手島の首に伸ばして抱きつこうとし、起き上がろうとしてその腕はすぐにもろく崩れ落ちた。

まずは海外代表、キム・バーキンの場合。
電話をかけていた相手は、キムがその当時、生活を共有していた女性。しかし最後に無意識(・・・でしょう、これは)に呟いたのは、離婚した女性の名前でした・・・。
キムと二人の女性については実際に読んでもらって、各個人でいろいろ思考するのがベストではありますが、キムのこの心情は、手島さんもモナガンさんも充分察していることでしょう。


『レディ・ジョーカー』 下巻p429より 
半田は受話器を置き、自分の身体とボックスのガラス壁にはさんで支えている男の耳元に、「聞こえたか?」と声をかけた。しかし、垂れた頭の下から漏れてきたのは、「ゆうすけ……」という意味不明の吐息の声一つだった。

片や国内代表、合田雄一郎さんの場合。
あわや「今際のひと言」になるところでした・・・。
しかし上記のキムのパターンに当てはめてみると、
「ゆうすけ……」 ではなく、 「きよこ……」 ・・・だった可能性も、あり!?
ひょっとしたら、「ゆうすけ……」 だったおかげで、合田さんは「生まれ変わる」ことができたのかもしれません。(←ホンマかいな)


そうそう、「電話ボックス」以外の「電話」も、いつかは取り上げたいものです。これに関しても、合田さんを外すことはできませんね!

***

今回の記事とは無関係とは言い切れませんが、個人的には「キムと合田さんは似ている」と感じます。(念のため、あくまで「個人的」です。根強い合田さんファンに反発くらいそうですが・・・)
その理由は2~3月に予定している、「リヴィエラを撃て再読日記」で記述できたらいいなと、思っています。・・・記述しないかもしれませんが。

早く『リヴィエラを撃て』を読みたいな~。(その前に「晴子情歌再読日記」を完成させねば)
だけど 『チボー家の人々』 を読了しないと読めないよ~。現在は全13巻のうち、第6巻に入りました。次巻で折り返し。だんだん面白くなってきましたよ。


手を掴む、手首を掴む

2006-01-10 23:29:29 | 高村薫作品を読み解くためのキーワード
 このカテゴリはネタバレありです。ご了承を。

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未完成の記事をあえて中断して、2006年最初の記事らしい記事。風邪で伏せっていた間、失われた気力とやる気を取り戻すためのリハビリも兼ねていますので、テンションをあげるためにも、新カテゴリの記事で。

実は約1年ほど前からあたためていた企画です。からな流・高村薫作品を読み解くためのキーワード。
第1回目は、「手を掴む、手首を掴む」 です。
当然ながら、「男性Aの手が、男性Bの手あるいは手首を掴む」・・・という描写に限定。
女性の私は、こういう描写にすこぶる弱い。高村男性キャラクターの隠れた魅力や色気を感じて、ドキドキしてしまいます。
(但し「握手」という行為は今回の場合は当てはまりません。あんまり色っぽくないんだもん)

それではピックアップ!

『黄金を抱いて翔べ』 文庫版p87~p88より (単行本版は、ちょっと表現が異なりますので挙げません)
幸田は、そう言うが早いかドアに手をかけたが、北川の手の方が早かった。幸田は掴まれた手を振りほどこうとしたが、北川が力をこめてきたその手は、ビクともしなかった。こうしてこれまで、北川という男はいつも、幸田の壁を踏み越えてきたのだった。人の領域を犯し、侵入してくる北川の威圧感は、暴力と君臨の同義語だった。しかしそれはいつも、緩急自在の呼吸と、熱砂のような吐息を伴っている。幸田は反射的にそれを怖れた。普段は忘れているが、思い出すと憎悪が噴き出した。

北川兄は、幸田さんより身長が10センチ高いし、体重も20キロ重いし、簡単には振りほどけませんよね。
・・・という部分に注目するのではなくて。
北川兄に「手を掴まれる」行為で、幸田さんが抱いた数々の感情がポイント。「威圧感」=「暴力」+「君臨」に加え、「緩急自在の呼吸」「熱砂のような吐息」という、読み手を惑わすような表現は見逃せません!


『神の火』(旧版) p265~p266より
真夜中に、ふと自分の手を江口に掴まれて目覚めた。江口が、繰り返し耳元で何か呟いていた。
「しかしね、君は違うよ。君は私とは違う。良がそう言った。彼が初めて君に会ったのは、あの揚松明の夜だったそうだが、あの後大阪で彼と話したとき、彼は君のことをひどく気にしているような口ぶりだった。あの剛直な若者にしては、珍しいことだった。彼は君のことをこう言っていたよ。あの人は救い主を探している、とな。君が神を探しているのなら、私とは違う……」


江口さーん! あなたって人は、まったく油断も隙もありませんな!
言っている内容はおいておくとして、島田先生の手を掴んで、「真夜中」「繰り返し」「耳元で」「呟」くというのがポイント! 「呟いて」というよりは、「囁いて」と読み替えた方がいいかもしれません。
余談ながら、旧版の良ちゃんって「剛直」・・・なんですね・・・。新版の良ちゃんに馴染んでいる私としては、ちょっとした違和感が拭えません・・・。


『神の火』(新版)  文庫版下巻p9より
江口は、頬杖をついた左手の指先で軽やかにとんとんと拍子を取りながら、空疎な笑みを舞台に投げ続けていた。その間、珍しいことに、いつの間にか空気のように、空いている右手を伸ばしてきたかと思うと、それを島田の手に重ね、軽く握った。
「(私たちはイタリアへ行くのさ、絶対に)」
「(ほら、彼女が呼んでる)……」
島田は江口の手を押し返して苦笑した。

(台詞は原文ではロシア語です。気が向いたらロシア語も添えます)

江口さーん! 旧版より大胆になっていませんか!?
だってこれ、ザ・シンフォニーホールの座席での一場面。つまり公衆の面前で、島田先生の手を握ったというわけ。さすがの島田先生も、苦笑せざるを得ませんね。(まるでパトロンとお稚児さんのようだ・爆)
「珍しい」「いつの間にか空気のように」という表現がポイント!


『照柿』  p105より
男は握手を求めて片手を差し出してきた。そして、雄一郎が片手を出すやいなや、男はすかさず、差し出した自分の手をかわして雄一郎の手首をがっしりと掴んだ。そういう大胆な所業に出てはばかるところもない一種独特の男の威風は、秦野組六代目組長を襲名する前から備っていた。

『照柿』 p106より
「下っぱのお上相手に、何をおっしゃる」
「そう言って、あなたはまた逃げる」
「何から」
「この秦野耕三の食指から」
刑事一人の手首を掴んだまま、男は直截な物言いをしてにやにやした。金と組織の力をもってしても、こちら側へなびいてこないお上に対してはとりあえず無力だと知っている渡世人の鋭利な自嘲が、その眼光に浮かんでいる。同時に、一介の刑事一人をからかう口の下には、すきあらばと狙っている蛇の舌も光っている。


最後に大物を持ってきました(笑) 秦野組長、合田さんの手首を掴む! です。
ここは何もかもがポイントですね。秦野組長の起こした、さりげなくも大胆な行動ひとつで、こんなにもドキドキしてしまうなんて・・・罪なお人だわ。
ところでこの二人の邂逅シーン、秦野組長は合田さんに押し退けられるまで、ずーっと手首を握っていたんでしょうか・・・?
合田さん、よく我慢してたなあ。それとも「秦野組長、さすがだなあ」と言うべきか・・・。

***

企画自体は楽しいと私は思いますが・・・ピックアップするのが結構疲れますね、これ。記憶力を試される企画でもありますね。月に一回実施できたらいい方かなあ。

ところで、「これを忘れてない?」という描写がありましたら、コメント欄でちょこっとご指摘していただければ幸いです~。追記いたしますので・・・。(十中八九、挙げ忘れていると思う・・・)

また、「このキーワードでやってみたら?」というリクエストもありましたら、よろしくお願いします~! すぐにネタ切れになりそうなので・・・。