あるタカムラーの墓碑銘

高村薫さんの作品とキャラクターたちをとことん愛し、こよなく愛してくっちゃべります
関連アイテムや書籍の読書記録も紹介中

「我らが少女A」 第3章 22~29 (連載第88~95回)

2017-11-27 01:15:52 | 我らが少女A 雑感
自分のモタモタ、ノロノロ具合には呆れるしかないですが、お付き合いしていただいている皆さんに、改めて感謝の意を表します。

この堅実な、というより不器用な二人には、そんなことは大きな問題ではない。

雄太くんと優子ちゃん、これも<ゆうゆうカップル>ですな。偶然? (「ゆうこ」以外の読み方もあるかもしれませんが、「ゆうこ」でいいよね?)
本家本元は言わずもがなの、義兄弟の祐介と雄一郎。


あのね、べつにいいんだけど、あの何とかという幼なじみの人の事件からこのかた、雄太さんの時間が止まっているみたい。
詰問するというのではない、砂を食んだ貝のような、見えない棘を含んだ優子の物言いが、小野の優柔不断や集中力の欠如をかき混ぜ、かすかな不機嫌の泡を発生させる。
まだ半月だろ。事件でも事故でも、人が死ぬのはやっぱり気が重いよ。それに、ここのところ眼の調子も悪いし。


いくら死者とはいえ、過去に好きだった女の存在がちらつくのは、やはりいい気はしないよね、優子ちゃん。

一方の雄太くん、朱美ちゃんを想っていたことは事実だし。いなくなったことで存在が大きくなるという状況も、その気持ちも、分からないではない。

そういえば、合田さんもそういう状況の経験者だったんだ! 別れた元妻・貴代子さんが突然すぎる死に方を迎え、十数年経ても未だに気持ちの落ち着き場所が見つかっていないようだから。

でも、それはそれでしょうがないんだろうねえ。


警察は、朱美が野川事件について何か知っているとでも考えているのだろうか。かわいそうに、死んだ朱美はもう何を言われても抗弁できないのに--。

死んだ者(娘)にはとっくに語るべき言葉はないし、生きている人間(母)にも死者のことは分かる範囲でしか分からない。 亜沙子さんの苛立ちは痛いほど分かる。
それでも何かの手がかりを、藁の一本でも掴もうとする警察の思いも、理解できる。

被害者家族と警察が永遠の平行線のままなのは、その部分なんだろうなあ・・・。


どこかの女子高生を買春していたバカ。
いや、今夜の雪子の鬱屈は孝一ではなく、真弓の夫の佐倉亨が運んできたものだった。


にこりともせずに義理の母を問い詰めてくる銀行員のバカ。

どんな中身であっても個人差があろうとも、「男」という存在をまとめて「バカ」の2文字で一蹴できるのが、「女」の特権なのだなあ。

いや、もう、「バカ」以外の表現は、出来ないと思う。
「バカ」と「アホ」で、感じ方の微妙なニュアンスの違いは、読み手の皆さんの生まれ育った地域で差があるでしょうが、大阪で生まれ育った私の感覚では、孝一さんも亨さんも「バカ」です。この言葉には、一片の愛情も含まれておらず、蔑んでいるだけ。


十二年前は恐喝の常習犯だった少女が、いまは未婚のまま一児の母になり、ピンク色のエプロンをつけて老人保健施設で介護職員をしている。表向きの社会生活に限ったことかもしれないが、人間の可塑性の大きさには特命班の刑事たちもちょっと驚かずにはいられない。

栂野孝一に恐喝をしていた少女の一人、井上リナちゃんの現在の姿。
「昔は悪いことをしていたのに、今は真面目に」という、よくあるパターンの一つかもしれませんが、はてさて、それで片づけられるのかどうか。

しかし俗に言う「ブルセラショップ」って今もあるの? 今ならば、○ルカリなどで販売してるのかねえ?
日本の男の「性」に関する底なし沼のような貪欲さは、ほとほと呆れますね。世代が変わっても、これだけは変わらないんですね。ホントに「バカ」ですね。


リナは、自分も父親に復讐しているつもりだった、と言う。大手商社勤めで、いつも終電で帰宅し、妻がパート先の男と不倫しているのにも気づかない自信過剰人間。娘の夜遊びを知っても怒る勇気もない現実逃避人間。十二年前も同じ話をしており、それが調書に残っている。もっとも、リナの父親にしろ、栂野孝一にしろ、多感で恩知らずな思春期の娘たちの、勝手な思い込みや価値観の餌食になったというほうが正しいだろう。

またもや個人的な話になりますが、思春期の頃に一時的にでも父親を汚らわしく感じる時期を経ていない娘がいるということに、私は違和感を覚えることがあります。

両親が離婚して同居していないとか、父親が単身赴任やら、彰之のように漁船に乗っていて長期不在やら、そういう状況の場合は嫌悪感を抱かないだろうけれど・・・(逆に恋しくて仕方が無いでしょうから)

不幸なことかどうかは分かりませんが、上手に<「父」になれない「男」>が、多い気もしますね。あるいは、<「大人」になれない「男」>と言い変えてもいい。

かつて電車でたまたま隣に立っていた若い男性二人(推定20代)の会話を耳にして、特にそう思った。

片方の男性が、
「子どもが生まれて、嫁さん、俺の相手してくれへんねん」 「子どもが一番で、俺のことは後回しや。構ってくれへん」
と、愚痴をこぼしてて。
「旦那>赤ちゃん」でないと拗ねるのか!? 奥さんは旦那さんの「母親」じゃないぞ! どこまで子どもやねん! と。

同じ年齢であっても、総じて女性よりも男性のほうが精神年齢が低いですが、男が精神的に死ぬまで「子ども」のままだとマジで辛い。こういう「子ども」たちが、特に国の命運を左右するトップにいるとな。


特命班は母親の上田亜沙子、佐倉真弓、栂野雪子、小野雄太、浅井忍、井上リナを含む高校時代の遊び仲間にあらためて話を聴いて回る。それは、彼らにまた新たな疑心暗鬼をもたらした一方、刑事たちには老女の死という事件の中心から逆に遠ざかってゆく日々になったが、周縁に散らばっているピースを一つ残らず拾い集めない限り、『栂野節子の人生と生活』のパズルは完成しない。

今回の事件は、栂野節子殺しの加害者かもしれない人物が、先日殺害された上田朱美かもしれないという、二重の複雑さであるところが、混乱の元凶。
文字通りの「死人に口なし」。

このせいなのか不明ですが、「読むのを止めた」という人が多少はいるとかいないとか?
「分かりやすいことは書かない」のが高村作品の特徴ですから、「簡単で且つ分かりやすさ」を求めるのは、お門違いというもの。

この複雑さとやるせなさが、いいんじゃないですかー! 後々のちょっとした光明を感じ取り、カタルシスを味わえるのが、醍醐味なんですよー!

「我慢して読み続ける」のも、大切ですよ・・・と助言しても、読むのを止めた人が、この記事を読んでいるとも思えないですね、ははは。


真弓は最初の仕分けにひとまず成功していたのかもしれない、と刑事たちは思い直す。しかし、真弓が守ろうとしているものは、依然として分からない。かつての親友の名誉か、それとも自分自身の何かの秘密か。

被害者遺族の一人であり、事件当時は高校一年で予備校の冬期講習に出ていた佐倉真弓、旧姓栂野真弓について、特命班の刑事たちは、現時点で上田朱美よりもむしろ不透明な顔を覗かせているように感じる一方、その印象を生み出しているものを、なかなか整理することができない。

父親の孝一がやっていたこと、殺された祖母の節子のこと、その祖母と仲が悪かった母親の雪子のこと・・・。
それらが一斉に降りかかってきたのが、当時の真弓ちゃんの状況だったんだから、封印して忘れた記憶もあって当然だろうし、年月という戻せない時間もあるしで、現在の真弓ちゃんも、どうしようも無い状態でしょう。

それでも、これが何かのきっかけで封印された蓋が開かれる場合があるわけで。警察が賭けるのは、この一点だけなんでしょうね。



コメントを投稿