あるタカムラーの墓碑銘

高村薫さんの作品とキャラクターたちをとことん愛し、こよなく愛してくっちゃべります
関連アイテムや書籍の読書記録も紹介中

「そんなに迫らないでくれ」 (上巻p419)

2008-12-21 17:01:00 | レディ・ジョーカー(単行本版)再読日記
2008年12月5日(金)の 『レディ・ジョーカー』 (毎日新聞社) は、第三章 一九九五年春――事件の上巻p382から最後まで、つまり上巻読了。

今回のタイトルは、久保っちがネタ元の一機捜の警部補に、ずいっとにじり寄って情報提供を迫っている場面から。この時の久保っちは芸者の衣装を着てるんじゃないかと思うほどの迫り方だ(笑)


【今回の名文・名台詞・名場面】

申し訳ございません。後日追加します。


「もういいよ。あんたの香典代わりだ」 (上巻p357)

2008-12-21 16:53:07 | レディ・ジョーカー(単行本版)再読日記
2008年12月4日(木)の 『レディ・ジョーカー』 (毎日新聞社) は、第三章 一九九五年春――事件の上巻p345からp382、神崎一課長の五回目の朝礼まで。

今回のタイトルは、証券業界紙の編集部へ電話をかけた根来さんが、「株価が一万五千円を割ったら窓から飛び降りる」と嘆く相手へ発した台詞。
現在はこの時代から12、3年経ってますけど、同じような心境の人たちも多々いるんだろうなあ・・・。今なんて、この値段(一万五千円)のほぼ半額ですからね。


【今回の名文・名台詞・名場面】

申し訳ございません。後日追加します。


「それぞれが言ったこと? ぼくはチクショウと言ったし、貴方はクソと言った」 (上巻p331)

2008-12-21 16:39:33 | レディ・ジョーカー(単行本版)再読日記
2008年12月3日(水)の 『レディ・ジョーカー』 (毎日新聞社) は、第三章 一九九五年春――事件の上巻p308からp345、日之出ビールの臨時取締役会の終了まで。

今回のタイトルは、倉田副社長がいろいろと含むところのある発言をしたため、それを取り繕うために白井副社長がフォローした発言から。
白井副社長大好きな私ですが、下記の名台詞に取り上げるのもどうかと思い、タイトルへ持ってきました。


【今回の名文・名台詞・名場面】

申し訳ございません。後日追加します。


「密会? ……ああ、密会だ」 (上巻p294)

2008-12-21 16:18:00 | レディ・ジョーカー(単行本版)再読日記
言い訳はしない。自分を追い込むためだけの、とりあえずのスペース確保。せめて上巻の分だけでもやってしまおう。

2008年12月2日(火)の 『レディ・ジョーカー』 (毎日新聞社) は、第三章 一九九五年春――事件の上巻p280からp308、城山社長の事情聴取の前まで。

今回のタイトルは合田さんの発言なのですが、密会相手が義兄でないのが残念ではあります(←そういう問題か?)


【今回の名文・名台詞・名場面】

申し訳ございません。後日追加します。


「ないものはない、としか申し上げられません」 (上巻p274)

2008-12-08 00:21:26 | レディ・ジョーカー(単行本版)再読日記
うひーん、1週間もたまってしまった。
卑怯な手ながら、とりあえずのスペースを一つでも確保しておこう。

というわけで、2008年12月1日(月)の 『レディ・ジョーカー』 (毎日新聞社) は、第三章 一九九五年春――事件の上巻p254からp280、義兄からの留守電を確かめたところまで。
この時の合田さんは会議室から出て行って留守電を確かめた・・・と思い込んでいたことに、愕然。会議室内では、ちょいとまずいんじゃありません?

今回のタイトルは、記者会見の寺岡部長の発言から。内容が内容なので、微笑ましい部分があまりないのですよね。(ひょっとしたら変えるかもしれません)


【今回の名文・名台詞・名場面】

申し訳ございません。後日追加します。


〈忍耐、忍耐、忍耐〉 (上巻p249)

2008-11-30 22:59:37 | レディ・ジョーカー(単行本版)再読日記
大津市での講演会は、行けませんでした。
昨日届いた喪中のはがき。私たちの家族・親戚が大変お世話になったお医者様が、今年2月に亡くなられたとのこと。知らなかった・・・! 身内だけで葬儀を済ませていたそうです。
「これは伺わねばならん」と先方に電話をかけ、「30日の午前中なら」と許可をいただき、急遽そちらへ行くことに決定。・・・大津市へはとても行ける状態ではありません。

お供えの品も必要なので、昨日の夕食後、私が梅田の百貨店へ買いに行くことになり、閉店30分前に梅田に到着。往復の電車のお供はもちろん、『LJ』

というわけで、2008年11月29日(土)の 『レディ・ジョーカー』 (毎日新聞社) は、第三章 一九九五年春――事件の上巻p229からp254、根来さんが検察庁へかけた電話が終わったところまで。

今回のタイトルは、合田さんが誘拐に使用された車を探す担当に決められた際に、心で唱えた言葉。区内、都内、更に全国の盗難車・レンタカー。そりゃあ忍耐が必要でっせ・・・。


【今回の名文・名台詞・名場面】

★合田とて、捜査本部に引き上げられただけでもほっとしたというのが本心だった。ほんとうを言えば、痴話げんかで包丁を振り回しただの、酔っ払いのケンカだの、浮浪者の行路死体だのはもうたくさんだ。何でもいいから大きな事件に当たりたかったのだと思いながら、合田は腕枕の上で目を閉じた。事件が欲しかったのだと思う、その反動のように、被害者の妻や息子の顔が脳裏を走った。 (『LJ』上巻p243~244)

「大きな事件に当たりたい」と、警察に勤めている人間なら誰でも思うことらしいですね。しかし大半は「地味」という言葉で終わってしまう事件を担当することが、圧倒的に多いそうです。

以下は、根来さんと合田雄一郎さんの義兄の検事の発言から。もちろん共通の話題は合田さん。(検事の名前は未だに出ず。上巻の最後、多摩川の場面で出てきます)

★《あれは、ご存じの通りの堅物ですから。ここのところ、彼も少し人間が変わりましたが、本質的には三児の魂百までで。それに本人も、なかなか難しいところに差しかかっているようで……》 (『LJ』上巻p253)

ホンマに「兄上様」(文庫版『照柿』(上巻))の物言いですな、義兄・・・。

★検事は、義弟の話をするとき、普段の淡泊さとは少し感じの違う個人的な感情を覗かせ、その口調もいくらかあいまいになる。義弟の合田雄一郎という人物は、根来が知る限り、この独身の検事のささやかな私生活を窺わせる唯一の人間であり、検事がそうして誰かのことを語る唯一の人間でもあった。 (『LJ』上巻p253)

うーん、さすが老練な新聞記者・根来さん! 早々と見抜いてる!

★「男の三十代半ばは難しいですね」 (『LJ』上巻p253)

この言葉、そっくりそのままあなたにもお返しします、義兄。

★そのときちょうど、ある事件の捜査の真っ只中にいた捜査一課の切れ者の、人のことなど眼中にない鬼気迫るような目つきを鮮明に覚えていた。それが今、どんなふうに人間が代わったのか知らないが、そういえば当時も、冷徹な鬼の目の端々から覗いていた生身の脆さや若さの片鱗の方が印象的だったと思い出すと、下心はともかく、一度会いたいという思いが膨らんだ。 (『LJ』上巻p254)

蛇足ですが、「ある事件」が『マークスの山』のこと。
しかし根来さん、「鬼の目」って・・・何という表現ですか。

★「仕事の話は抜きでいいです、一度一緒に呑みましょう。ぼくは三年ぶりに合田さんに会いたい。何というか、引力のある目をしていましたよ、彼は」
根来がそう言うと、電話の向こうで検事はまた、軽い苦笑いを漏らし、次いで微かなため粋が聞こえた。
《時期を見て、電話下さい。本人がうんと言うかどうか分からないが、あれも、ちょっと外の空気を吸う方がいいんです。若輩者ですが、ぜひ付き合ってやって下さい》
 (『LJ』上巻p254)

「兄上様」というより「保護者」ですな、義兄・・・。外野からおせっかいを言わせてもらうと、少々過保護に過ぎるのではありませんか?


『あなたも歌えるカラオケ百選』は、一曲も歌えない。 (上巻p206)

2008-11-30 00:45:39 | レディ・ジョーカー(単行本版)再読日記
2008年11月28日(金)の 『レディ・ジョーカー』 (毎日新聞社) は、第三章 一九九五年春――事件の上巻p205からp229、久保っちが日之出本社に到着したところまで読了。

え? 短い? それは合田さんが登場したせいですよ。その理由は後ほど。

今回のタイトルは、合田さんの蔵書のタイトルから。
・・・後々、これも処分したんだろうか? 「処分した」に10000点!(←リアルタイムで「クイズダービー」観ていた人しか、分からんネタだ)


【今回の名文・名台詞・名場面】

★ダスターコートの男が一人、人けもない公園を横切って歩いていく。合田は義兄だろうかと思い、ちょっとそれを目で追った。 (『LJ』上巻p205)

何てことない文章なんですけど、ここを読むと、いつも「やったー♪」と思う。「ときめく」と言ってもいい(苦笑) 「義兄か」と思う合田さんに同化しているかのように。

今回読んだ部分では、それとなく、何気なく、合田さんは義兄のことを数回思い出してますでしょ? その度に読み進むのを止めて、合田さんが物思いにふけっているように、私もあれこれと義兄弟のことを物思いにふけってるんです(苦笑)

申し訳ございません。後日追加します。


競馬新聞、読み方を変えれば8割当たる (上巻p196)

2008-11-27 23:57:44 | レディ・ジョーカー(単行本版)再読日記
「yom yom」vol.9をパラパラ見ていたら、手嶋龍一さんの「あまりにも体験的なスパイ小説ガイド」と、太田光さん(爆笑問題)の「なぜ私はミステリーを愛読するのか」で、高村作品が取り上げられていました。

太田さんが『マークスの山』を挙げているのは当然として、のけぞったのは手嶋さんの方。「スパイ小説」だとタイトルにあるから、てっきり『リヴィエラを撃て』だろうと思ったら、何と『李歐』!! しかも一彰の名台詞、

「君は大陸の覇者になれ、ぼくは君についていく夢を見るから」

を引用する惚れっぷり(?)!
ええーっ!? てなもんです、はい。確かに李歐もスパイをやってましたけどね・・・。

しかも手嶋さんのエッセイの最後の締めくくりは、ポール・ニザン『アデン、アラビア』のあの有名な冒頭部分をもじっておりますな(苦笑)


2008年11月27日(木)の 『レディ・ジョーカー』 (毎日新聞社) は、第二章 一九九四年――前夜の上巻p169からp201、つまり第二章まで読了。
明日から合田さんが本格的に登場だよー♪ 嬉しいなったら嬉しいな♪

今回のタイトルは半田さんがヨウちゃんにプレゼントした新書の題名。ちょっと調べてみたら、約20年前に発売された、よく似たタイトルの書籍がありました。


【今回の名文・名台詞・名場面】
前回実施分と合わせて、とりあえずピックアップだけします。(そう、早い話が手抜きです) 後日、追加します。

★「計画を作るというのは、実行することだぜ」 (『LJ』上巻p172)

★「男の人生なんてつまらんな。こつこつ働いても、出世出来なきゃ、死んでも窓際だ。出世したらしたで、心にもない弔辞で賑々しく見送られなきゃならない。お棺を送り出すとき、俺なら化けて出てやると思った」 (『LJ』上巻p178)

★「爺さんは日之出ビールから金を搾り取る、と決めた。動機は、と聞かれたら困るんだが、人生には、何かがふいとやって来るタイミングみたいなものがあるだろう?」
「魔がさした、という説明しか出来ない犯行は確かにあるが、その場合でも、下地は必ずあるもんだ」
 (『LJ』上巻p179)

★「しかし、俺は社会へ出るときに入口を間違ったことだけは確かだ。警察官という職業自体は合っていると思うが、警察という組織が合わないんだ」 (『LJ』上巻p179)

★「だいいち、この俺が何を考えているか、相手が知らないってのが愉快だ」
「へえ……」
「要は、俺の堪忍袋の緒は、人一倍丈夫に出来てるってことだ。だから、妄想の出番もある」
 (『LJ』上巻p180)

★《俺の引いたジョーカーが消えない限り、答えは変わらんと思う》
「ジョーカーというのは、レディのことか……」
《ああ。俺たち夫婦は千人の赤ん坊に一人か二人混じってるジョーカーを引いたんだ。ほかに言いようがあるか》
 (『LJ』上巻p186)

★「あんたの人生は全部〈何となく〉だろう。何となく自衛隊に入って、何となく結婚して、何となく子供を作って、何となく育ててきて、気がついたらどうにもならないところまで来ていて、初めて自分の頭で考えた結果が、蒸発だ。違うか」 (『LJ』上巻p194)

★「レディ・ジョーカーというのは、どうだろう」
「どういう意味だ……」
「布川が先日、娘のことをジョーカーを引いたと言ったんだ。そのとき、ふと思いついた名前だ。異論はあるだろうが、人が望まないものをジョーカーと言うんなら、爺さんたちこそジョーカーだろう」
 (『LJ』上巻p198)

★相手の男も半田を見ており、同じようにこちらを凝視したが、次の瞬間その口元が緩んだかと思うと、唇が左右に裂け、ぱっと花が開くように白い歯がこぼれた。
「お名前は半田さん……でしたっけ」と男は先に口を開いた。声の質は昔と同じように低く硬かったが、昔聞いたのとは違って、すかっと抜ける響きがあった。明るいといってもいいほどの響きが。
 (『LJ』上巻p199)

スカッと爽やか●カ●ーラ(←違う)

半田さん視点の合田さんの描写をピックアップ。(後日追加します) これだけでも「半田さん視点の合田さんの描写が好み」と主張したのが分かるでしょ?
何よりも、高村さんの合田さんへの「愛」が感じ取ることが出来ますよねえ・・・。振り返ってみると、『太陽を曳く馬』には、そういう描写がほぼ皆無だったように思われる。気のせいか?

★あいつは何者だ。突然目の前に現れ、大根を自転車のカゴに入れて、ヴァイオリンを弾きに行くと言って消えてしまったあいつは、まるで面を切って行くように、いきなり横っ面を張り飛ばしていくように、一瞬ほくそ笑むように、俺の前をかすめていきやがったのだ。 (『LJ』上巻p200)

★そうか。おれはいずれ、あの男に苦汁をなめさせることになるのか。あの顔が青ざめるのを見るのか。
よし。ついに〈何か〉が見つかったぞ、と半田は思った。警察という妄想の糧を自分で食い潰してなお余りある〈何か〉が、四年ぶりに顔を合わせた刑事一名だったというのは、予想もしなかった結果だったが、運命とはこういうものだろう。もはや一つ一つは意味をもたなくなっている憎悪や鬱屈の巨大な靄が、たった今自分を横切っていった一人の男に向かって急激に収斂し始める中、半田はこれまでにない生々しい気分を味わった。
警察にしろ企業にしろ、個々の顔がないものをいくら苦しめても、得るのは抽象的な自己満足だけだったが、苦しむ奴の顔が具体的に見えるというのは、何よりの御馳走だった。間もなく左遷された先の小さな所轄署の刑事部屋で、いかにも端正な優等生の男が一人、挫折と屈辱と敗北感にまみれてすすり泣くのだ。
今日まで積み上げてきた企業襲撃計画の一つ一つに今、そうして合田某という血肉がつき、肌に張りつくような生身の感覚を伴って息づいているのを感じながら、半田は悶絶した。これだ。この俺が犯罪をやるのは、この感覚を味わいたいからなのだ、と思った。
 (『LJ』上巻p201)



「これ、ダウンタウン?」「とんねるず」「似たようなもんだ」 (上巻p168)

2008-11-26 23:54:28 | レディ・ジョーカー(単行本版)再読日記
2008年11月26日(水)の 『レディ・ジョーカー』 (毎日新聞社) は、第二章 一九九四年――前夜の上巻p131からp169、物井さんが悪鬼を再び目覚めさせたところまで読了。

今回のタイトルは、物井さんとヨウちゃんの会話。「似てない」とだけは断言しておこう。
まあ、イマドキのアイドルも似たり寄ったりで、区別がつかないことを思えば、物井さんの発言も笑えませんね。


【今回の名文・名台詞・名場面】

申し訳ございません。後日追加します。


「お宅は昼寝が出来るだろう」 (上巻p96)

2008-11-26 23:49:18 | レディ・ジョーカー(単行本版)再読日記
2008年11月25日(火)の 『レディ・ジョーカー』 (毎日新聞社) は、第一章 一九九〇年――男たちの上巻p78からp128、第一章読了。

今回のタイトルは、半田修平さんに向かって吐いた、七係の巡査部長のイヤミ。これ、誰が発言したんだろうなあ。未だに謎だ。


【今回の名文・名台詞・名場面】

申し訳ございません。後日追加します。






「あの人、誰」 (上巻p66)

2008-11-24 23:58:10 | レディ・ジョーカー(単行本版)再読日記
はい、気を取り直してもう一度入力。やさぐれてたので、前置きなしでいきます。・・・そうか、前置きに時間をかけたからパーになったのか・・・?

2008年11月21日(金)の 『レディ・ジョーカー』 (毎日新聞社) は、第一章 一九九〇年――男たちの上巻p49からp78、城山恭介社長と白井誠一副社長の会見が終わったところまで読了。

今回のタイトルはこれといって笑える部分がなかったので、悩んだ末これにしました。地味な顔立ちの城山社長、若い頃は営業で得意先に顔を覚えてもらえず苦労し、常務になってもすれ違った社員たちにすらこう囁かれたという・・・。お気の毒に。


【今回の名文・名台詞・名場面】

★差別という深いトンネルの出口で、まだ一部に残されている柵を楯にして物を言う人々は、たしかにいた。仮に柵が取り払われたら、今度は見えない柵を楯にする。柵の外には無知無策と無責任しかないが、内側には、人間の尊厳や平等を唱える口の下に深い怨恨の根が生えている。柵を作る側に事の理解が足らず、柵を楯にする側に妄執が消えない限り、この不毛な応酬は続くのだろうが、それをこうして聞かされている者は、どれほどの忍耐を持てばいいのか。しかも、誰のための忍耐で、いつまで続くのか。 (『LJ』上巻p53)

秦野浩之さんの長年押し殺してきたかのような感情。ですが、「差別」を今儲けている人々にとっては、恐らく永遠に答えの出ない問いかけでもあるんですよ。

★日之出ビールに入って三十一年。その三分の二を営業の第一線で過ごした性根は、六月に新社長に就任した今も、基本的には変わっていなかった。いや、能力的に性格的に、変えようがなかったことを城山は知っていた。性根といっても実に淡泊なものだが、その淡泊ささえもまた、変えようがないのだ。 (『LJ』上巻p63)

★責任者以下大勢の知恵や感性を認めるのが仕事だが、それでもなお、そんなふうに現場の目線にちまちまと執着しているあたりの器の小ささは、実に身の丈相応だというべきだった。 (『LJ』上巻p64)

★九時の始業までの半時間弱。毎朝のその半時間の積み重ねが、城山のささやかな矜持だった。各報告書と中間財務諸表の四つを同時に開いてデスクに並べ、一緒に目を走らせ始める。数字は毎日毎日見ていなければ、勘が働かない。会計処理の細かな点をつつくつもりはなく、経営会議でも自分の口からは一切数字に触れることはないが、会社が毎日進んでいる道が順当なものか、歩みに異変はないか、広範囲に数字を見ておれば、諸々の判断を下す際の決断力の一助にはなる。 (『LJ』上巻p68)

前回の再読日記では取り上げなかった、城山社長の描写。
ワンマンでもなく、扱いやすそうというのでもなく、ごくごく普通の人物が社長の地位に就いた・・・という感じがします。

★一方、白井誠一の方は名実ともに役員であり、十把一からげで〈阿吽の呼吸〉と言われた保守的な日之出経営陣の伝統に終止符を打ち、日之出を変えてきた男だった。風体こそ城山と五十歩百歩で目立たないが、三十五人いる取締役のうち、将来を見抜く慧眼と実行力にかけては右に出る者はいない。 (『LJ』上巻p71)

★城山はときどき窓から眼下を眺め、企業を統括する経営者の目とはおおむねこんなものかとなと思うことがあるのだが、白井の目にはさしずめ、この地上三十階の風景はすみずみまでもっとも効率よく機能すべきラインそのものに映っているに違いなかった。そこにあるものはシステムであって、人間でも物でもない。
翻って、城山自身は、日々重たかったり軽かったりするこの自分を動かして、二十年以上この手で物を売ってきたという感覚がまだいくらかあるせいか、私情を言えば、白井とは感覚的にも合わないのだった。
 (『LJ』上巻p71)

★城山の当惑をよそに、白井の事務的な声は響いた。白井というのはフグだ、と城山はよく思う。本人は、何があっても自家中毒を起こすことがなく、理路整然と言うべきことを言ってくるが、しばしば周りの人間が毒にあたる。 (『LJ』上巻p74)

★筋を通すために、こうして周囲に一本一本ピンを刺して、道を確保していくのが白井のやり方だった。 (『LJ』上巻p76)

★「被害を受けてからでは遅い。実を言うと、ぼくは何かしらいやな予感がして……」白井はそんなことを言い、腰を上げた。
「予感とはまた……」
「根のない予感などない。祈りを知らない者に啓示は訪れないのと同じです」
城山がクリスチャンで、白井が無宗教であることを白井はときどき引き合いに出すのだが、そういうとき白井は観念の議論に疲れた青年のような表情になる。
 (『LJ』上巻p78)

続いては、副社長の一人・白井さんの描写。主な日之出ビール経営陣の面々で、一番好きなのが白井誠一さんです。本当はもっと取り上げたかったんですが、自制しました。この人の、軽やかな喋り方と物の見方が好きなんですよね。(「軽々しい」ではない)
城山社長は個人的には合わないらしいですが、恐らく白井さんは城山社長を愛すべき人物だと思っている。(つまり分かりやすい人物であると) またそれを気付かせないところが、白井さんらしいじゃありませんか。

日之出経営陣については、2005年12月にあった朝日カルチャーセンターの特別講演での、高村さんの言葉が忘れられません。

「こんな経営陣、現実にいるわけありませんよ」

教室では笑いが巻き起こりましたが、私は苦笑いしてました。しかも心ではグッサリとナイフが刺さったかのような状態で。
・・・ええ、分かってます。分かってますとも! 現実には城山社長も白井副社長も倉田副社長も、こんな企業のトップはいないってことは!
でも、カッコいいんだもん。そんな夢を見させてくれるのが、高村さんの上手いところ。
その後暴露された某新聞社トップの発言について比べても、あまりにギャップがありすぎて・・・。所詮、現実ってこんなもんよ。(この発言については、オンラインでは公にしませんので、悪しからず)

現実にいないと分かっても、叶うならこの人の愛人になりたいわ・・・。向こうが愛人にしてくれるかどうかは分かりませんが(苦笑)

ここ数年、おあずけ状態になっている「キャラクター考察」なんですが、まずはご贔屓の白井副社長を取り上げてみたいなあ・・・とずーっと思い続けてるんです。
しかし「白井さんが好き!」と公言しているのは、少なくとも私くらいじゃないのか? 一体、誰が喜ぶというのか。


「日曜はいつも、キレてる」 (上巻p35)

2008-11-23 00:41:35 | レディ・ジョーカー(単行本版)再読日記
はい、気を取り直してもう一度入力。
『レディ・ジョーカー』、通称『LJ』、最近知った呼び名が『レディジョ』の再読を、11月20日から始めました。

再読するのは4年ぶり。このブログを開設して初めての再読日記がこれだったのですよ。月日の経つのは早いものですね。
4年前は映画が公開される頃で、書店には山積みになってました。その中から「版数の重ねたもの」をわざわざ選んで、買ったのでした。(上巻10刷、下巻8刷)
これのおかげで、半田さんの台詞の違いが判明したのでした。  過程はこちら  結果はこちら

今回の再読は、上巻・下巻ともに初版でやります。だからといって、違いを探すのが目的ではなく、ただ純粋に「読みたい」という思いだけがあります。なぜか『LJ』は、晩秋から初冬に読み始めたくなるのですよ。

前回実施した再読日記では、初めてということもあって、かなり控えめなものになっていました。その当時は文字数制限が3000字から5000字くらいだったんですよ。
今回は遠慮なくいきます。文字数制限も10000字になりましたしね。少し趣向も変えたいな、とは思っているのですが、どうなることやら。
個人的には「高村作品で好きなものを3作選べ」と問われたら、必ず入れる作品です。気合も入ります。
(残りの2作品は何でしょうね~? 当ててみます?)

まあ、入力記事が一度流れたおかげで、多少は冷静に構成を考える時間が合ったことは事実ですがね・・・(←恨みごと)

しかも中途のままの神の火(新版)再読日記 や 李歐再読日記 を放り出してやります。ごめんなさい。

それではいつものように、注意事項です。
最低限のネタバレありとしますので、未読の方はご注意下さい。よっぽどの場合、 の印のある部分で隠し字にします。
また、取り上げる名文・名台詞等が前回の再読日記と重複する場合もありますが、ご了承下さい。


***

2008年11月20日(木)の 『レディ・ジョーカー』 (毎日新聞社) は、一九四七年――怪文書 から、第一章 一九九〇年――男たちの上巻p49、秦野浩之が自宅で来客を待っているところまで読了。

遅れましたが今回のタイトルは、ヨウちゃんが高克己を称した言葉です。

★今回の新発見★  ・・・何のことはない、今回の再読で今まで見落としていたこと、忘れていたことをピックアップするだけのコーナー。(絵文字で遊ばさせてもらいます)

 吉田茂の名前が出てるやん。

 最初だから当たり前というかしょうがないというか、ヨウちゃんを表す地の文が「松戸」になってたんだ!

 サブちゃん(北○三○さん)の持ち馬が登場してたんだ! (競馬には全く明るくないんですが、「キタサン」とつくのがこの人の持ち馬だというのは知っている) しかも勝ってるやん・・・。

 半田さんの登場の仕方が、えらく爽やかだ(笑) 後々のことを思ったら、ギャップがありますねえ。

余談ながら、こちらで紹介した鹿島茂さんの対談の中で、「競馬場の取材は一回だけ、30分ほど」というようなことを高村さんが仰ってました。
・・・それだけで、あれほどの描写が出来るのか・・・! 恐るべし、と驚嘆するしかありませんね。


【今回の名文・名台詞・名場面】

★一つは人間であること、一つは政治的動物ではないこと、一つは絶對的に貧しいことです。實に其のことを云ひたいため爲に是を書くのです。野口がそうしろと云つた譯ではありません。たゞ此の世に生まれた意味を今以て理解しかねてゐる一人の人間が、この先成佛せんが爲に書くのです。 (『LJ』上巻p9)

★小生は物音や臭ひに敏感です。醫者は其をノイローゼだと云ひますが、生家にあった物音や臭ひから何處へ逃げられると云ふのでせう。 (『LJ』上巻p12)

★「(前略) 日々働いて食つて寝るだけの營みの中に、飢ゑる記憶が沁みついてゐるのが卑しい。冷静になれないのが卑しい。其の意味では日本中が卑しいのだと俺は思ふ。  (中略)  何が惨めと云つて、貧しい者が貧しい國へ攻めていくほど惨めなものはないよ。其を一番よく分かつてゐるはずの自分が、殺さなければ殺されると云ふんで、必死に殺したのだから、人間と云ふのはやり切れない。 (後略)」 (『LJ』上巻p25)

★「(前略) 個人的には、俺は實つて頭を垂れる稲より、實つても直立してゐる麥になりたいと思ふがね」 (『LJ』上巻p26)

★しかし思ふに、野口勝一と云ふ男は一人の日本人であり、今小生の病室を掃除している小母さんも、廊下で何やら大聲でわめいてゐる子供も、今窓の下を歩いている女給風情の女も、病室の小生も、皆均しく日本人であり、黙々と營みを續ける蟻の一匹であり、かうした各々の歩みが國の姿となるのです。 (『LJ』上巻p27)

「怪文書」と処理されてしまった岡村清二の手紙から、いくつか引用しました。事件の遠因でもありますから、ここは読み飛ばしてしまうと後々の展開や状況が理解しづらくなりますね。私も再読するたび「ああ、そうだったのか」と忘れていること、見落としていたことが見つかります。
特に、野口勝一の発言が奥深いですね。
何だか現首相や政治家たちにも読んでもらいたい部分もありますがね・・・。ただ現首相には、読んでも理解できるのかどうかが難しいところだ(苦笑)
(原文は旧字体ですが、パソコンで変換できない漢字がありますのでご了承下さい)

★今さらながら、尻に鞭を入れられ、頸に静脈を浮き立たせて泥を蹴る馬を、物井は不思議に思うのだ。大地の危うさや粘りを感じながら己の四肢の重量を知る一歩一歩は、結局のところ、隠微な興奮を馬に催させるものなのだろうと物井は考えてみる。そういうふうに生まれついているのでなければ、ただ殴られて走る生きものなどいるはずがない。 (『LJ』上巻p32)

物井さんの思いではありますが、多分、高村さんの見解でもあるだろうと思われますね。


終章。

2005-01-09 19:57:05 | レディ・ジョーカー(単行本版)再読日記
どう書いていいのか、さんざん迷った。何を書いてもネタバレになってしまうから。

ええい、いっそネタバレ込みで、本日の名文・名台詞  からなのセレクト だけアップします。原文に勝ることなし。

***

★☆★本日の名文・名台詞  からなのセレクト★☆★

★死ぬはずだったものが生き返り、葬り去られるはずだったものが甦っても、この世界に結局、劇的な変化や転換は起こらなかった。 (『LJ』下巻p433~434)
そう、そんなもんです、世の中って……。

★「君は俺を何だと思っていたのだ。俺を置いて死ぬ気だったのか」 (『LJ』下巻p435)
『LJ』中、加納さん最後の台詞。最後の最後に、まあこの方は、読み手と合田さんを混乱させるような意味深な台詞を残して・・・。

★「なぜ憎悪なのでしょう」
「分かりません。当初はともかく、私自身、頭が爆発しそうだったからだと思いますが。しかし、実はそのとき、私はこの身体のどこかで、突然、自分が生きていることを感じていましてね。変でしょう……? 悦びではなくてただ苦しいだけでしたが、一人の人間を相手に、驚いたり、後悔したり、憎んだりしている間、無性に自分が生きていることを痛感しました。何というか、全身が傷口になってずきずきしているような……。こんな経験は、ほんとうに生まれて初めてでした。人のことを思い煩うというのが、こんなに苦しいことだとは。本当に驚きました……」
 (『LJ』下巻p435)

★答えを知っているのは自分しかいないが、そうして毎度新たになる混沌から抜け出せないまま、合田は首を横に振った。答えが見つからないのは、こうして話をしている間にも、自分を絶え間なく揺さぶり続けている、<生きている>というびりびりするような感覚の出所も同じだった。
ありていに言えば、俺はこうしている今もただ、苦しいのだと思いながら、「私には、まだ分かりません」と合田は応えた。
 (『LJ』下巻p436~437)

★「多分、私は今生まれたばかりで、何もかも怖いのだと思います。こうして生きていることが。ひとりの人間のことを昼も夜も考えていることが。人間は、最後は独りだということが……」 (『LJ』下巻p437)

★そうして自分の腹の底を覗きながら、合田はなおも深い泥に埋まり続けていたが、その泥は微妙に振動しており、ときには大きく揺れ動いたり、ねじれたりしながら、奇妙に生理的であったり、暴力的であったり、また優しかったりする様々な感情を作り出していた。しかも、その一つ一つが今は、苦しみなのか何なのか、はっきりしない。ときどき、漠然と胸が締めつけられるような感覚に陥ると、その中に悦楽や心地よさが含まれているのを発見して唖然となるし、最近は、前へ前へ、早く早くと気持が逸ったり、身を焦がすような何かの思いに駆られることもある。それを合田は、まとめて人生のリズムのようだと感じ、ここへ来て、少なくともそのリズムに身を委ねることに、苦しみや憎悪は感じなくなっていた。 (『LJ』下巻p437~438)

★そのとき男は、草地に向かって「レディ!」と声を上げ、草地の方へ軽く駆け出していきながら、もう一度「レディ、トマトだぞ!」と叫んだ。 (『LJ』下巻p443)
久保っちが全てを察した(かもしれない)瞬間。この直後、私も久保っちと一緒に、鳥肌が立ったような感覚を覚えましたよ・・・。


・・・例の合田さんの手紙はあまりに有名なので、挙げていません(笑)

クライマックス

2005-01-04 16:16:31 | レディ・ジョーカー(単行本版)再読日記
本日アップ分は、第五章 のp399~p429まで。終章 は訳あって次回にします。

城山社長は、地検の人間と面会。実はその加納検事は、かつて自分を護衛していた合田刑事の義兄と言うのだ。仰天しつつも、岡田経友会と酒田代議士との癒着を語る城山社長。
久保っちが入手したネタと、加納さんが仕入れた城山社長の話と情報交換。
合田さんは半田さんを手紙で追い込む一方、身辺整理。
白井さんは、城山社長と倉田さんを背任で告訴する形を取りたいと申し出る。会社のためにはそれがいいと、承諾する城山社長。日之出ビール経営陣交代の前夜、秘書の野崎孝子が自分を慕っていたという手紙を読んで、驚愕。
新体制になった日之出ビールはすぐに、城山社長・倉田副社長を告訴。岡田経友会代表・岡田朋治と顧問・田丸善三も逮捕。
潮時かな、と合田さんは半田さんと会おうとする。
『ソロソロ話ヲシヨウカ』 この挑発に半田さんの屈折した喜びは、頂点に達する。
そして自らが日之出ビールに脅迫電話をかけた電話ボックスで、合田さんと対面する半田さん・・・。

***

今回の個人的ツボは手短に。
1.城山社長を魅了する加納さん。
2.城山社長と訣別する白井さん。
3.加納さんのことをぼんやり考える合田さん。

そして最大のツボ。
4.合田さんの手紙をもらって歓喜に震える半田さん。
ここはもう、『LJ』中、最大最高の名場面でしょう。p422は、半田ファンは丸暗記して下さい、と私は言いたい。(私が熱心な半田ファンだったら、当然丸暗記しています。でも覚えられないんですよ・苦笑)

合田さんと半田さん。名前からして相反するこの二人のキャラクター。「合」と「半」だものね。(こじつけ? いえ、私は真剣にそう思っていますが)
<合田シリーズ>と呼ばれる一連の長編では、合田さんと相対する犯人(・・・と言うと語弊があるかもしれませんが)は、まるで合田さんを映し出した鏡のような、精神的双子のような、そういう存在なんですよね。犯人の存在を自分に引き付ける、引き寄せる、同化させるなどして、少しでも犯人に近づこうとする合田さん。犯人の心境を知らずして、犯人には手は届かないと思っている節がある。まるで犯罪者のような心境になれる刑事、それが合田さん。(←おいおい)

そのクライマックス前夜の合田さんと半田さんの心理、月とすっぽんほどの落差があるんですが、それを知らない半田さんは当日拍子抜けしてしまうので、気の毒といえば気の毒(苦笑)

***

★☆★本日の名文・名台詞  からなのセレクト★☆★
今回は、半田さんに勝るところはなし!

★十一月六日夜、半田修平は合田雄一郎の四十通目の手紙を開き、歓喜に震えた。日を追う毎に、頭と身体が分かちがたくなっていく形で愉悦は深まっていたが、いったい合田は人の腹が読める千里眼なのか、書きよこす内容といい、タイミングといい、自分とは最高に息が合っているのだった。
ソロソロ話ヲシヨウカ。
こいつはまるで、自分と同じリズムで呼吸をしているのか。隣で息をしている、と思うほどだった。 (・・・略・・・) そうして抑えがたく興奮しながら、半田は、定規とボールペンを使って便箋に一字一字線を引いている男の姿を額に張りつけ、それを自分の目で撫で回し、舐め回して堪能した。
社会にとって、組織にとって、事件にとって、とくに何かの象徴になるわけでもない合田という刑事は、だからこそこれ以上はない純粋な生贄と言えたが、この生贄は子羊や豚とは違い、じっくり愛でる愉しみがあった。せいぜい全自動洗濯機や冷蔵庫程度の話とはいえ、庶民に望みうる限りの高品質だと思っていた男が、実は、自分の方から陰湿な挑発をくりかえしてすり寄ってくる変態だったのだ。それが今、いかにも清潔そうな小さい頭に種々の妄執を詰め込んで、寂しい一人暮らしのアパートで、この自分に宛てた手紙を毎夜書き続けている、この異様、この滑稽。 (・・・略・・・) 半田には、その心臓の鬱々とした悩ましげな鼓動が聞こえるような気がし、倒錯とした恍惚感に浸された。
ソロソロ話ヲシヨウカ。そう囁く生贄の声は、いつぞや蒲田の教会で聴いたバッハの音色にも重なり、共鳴して震える楽器の振動や、連綿とし肌を撫で上げてくる空気の振動は、ほとんど男の魂の震えのようだった。そうか。貴様、この俺と話がしたいか。ここまで来て、話の一つも出来なければ、その小さな胸が張り裂けるか。
 (『LJ』下巻p422)

★半田はもう一言、「俺はもう考えるのに飽きた」と口にしてみた。すると谺のように「俺もだ」と言う言葉が返ってきたと同時に、その口元には意味不明の笑みが滲んだ。
それを目の当たりにしながら、半田は最後のめくるめく物思いに頭を引き裂かれた。こいつもまたどうでもいい人間の一人に過ぎないくせに、この期に及んでまだ、この俺に謎を突きつけてくる、まるで未だに何者かであるような面をして、俺の前に立ってやがる。その目は何だ。その笑みは何だ。こいつは、これでも自信に満ちた順調な人生の途中のつもりか、それとも狂ってるのか。狂った頭で四十一通もこの俺に手紙を書いたのか。俺をからかったのか、説教でもする気だったのか。
 (『LJ』下巻p428)

消えてゆく人たち

2005-01-03 23:10:12 | レディ・ジョーカー(単行本版)再読日記
本日アップ分は、第五章 のp348からp399まで。

三好管理官の焼身自殺の知らせに動転した合田さんは、義兄の元へ駆け込む。警察という組織、それに潰された一人の人間。慙愧の念に耐え切れず、半田を追い込むのは自分しかないと、ある手段に出ることを思いつく。
半田さんにとっても、かつての上司の焼身自殺は衝撃だった。
そんな中で、バラバラになっていくLJのメンバーたち。在日の複雑な関係に縛られた高克己は、離脱。ヨウちゃんは工場を辞め、引越し。妻が植物人間状態になった布川淳一は、娘のレディを捨てて蒸発を考えているようだった。
城山社長は、再度倉田副社長と話し合いを。しかし「虚しい話し合い」と決意の固い倉田さんに一蹴される。
久保っちは、根来史彰と佐野純一の失踪に関する有力なネタを入手。ただ、それをどう扱っていいのかが解らないのだった。
倉田さんが地検と話し合っていることを知った城山社長は、白井副社長と面談。社長は城井さんにするが、自分も倉田さんと共に法廷に立つと宣言し、白井さんを慌てさせる。
物井さんは競馬場で、久しぶりに半田さんと会う。彼を尾行している刑事に気づくが、半田さんはどこ吹く風。楽しんでいるようにも見えた。
その後、布川さんの姿を見かけたが、レースが終わってもレディの傍にやって来ない。ついに布川さんは蒸発することに決めたのだった・・・。

***

今回のツボ、その1。三好管理官の死に対する合田さんの激しい怒りと悲しみを、加納さんは淡々と受け止めて、流しているようにも見えます・・・が! 義兄の意味深な発言が何とも言えないんですよ~! しかし合田さんは自分のことと半田さんのことで精一杯。後から思うと、発言のタイミングが悪いですよ、義兄(笑)
そしてここが、第五章で義兄弟が対面する最後の場面になったのでした。

今回のツボ、その2。破綻していくLJメンバー。唯一成長したといえるのが、ヨウちゃんくらいですね。高さんの吐いた言葉と物井さんの詠嘆が、全てを表しているでしょう。

今回のツボ、その3。半田さんの妄想、加速(笑) いや、もうそれしか楽しみがないんですよね、半田さん。しかもそれを知っているかのような、合田さんの挑発。定規で一文字ずつ文章を書いて、半田さんに送りつけてるんだから。そういう合田さんが、半田さんよりも一層怖いかもしれん・・・。

***

★☆★本日の名文・名台詞  からなのセレクト★☆★

★三好の死を悼む自分が、同時に自分を嫌悪するという混乱や、もう理屈も何もない悲痛に駆られて、合田は暗がりに向かって「祐介!」と大声で義兄の名を呼んだ。
「辛いんだ、何とかしてくれ! 辛くて、頭が変になりそうだ」
 (『LJ』下巻p352)

★「納得する必要はない。辛いことが、辛くなくなることはない。自分の腹に収める場所を見つけるだけだ。俺もそうしてきた……」
「根来のことか」
「……いや。人生のいろんなことだ。君は、俺を聖人だと思っていたのか……?」
 (『LJ』下巻p352)
ああ、義兄・・・  人生の教訓にしたいくらいの義兄最高の名台詞なんですが、タイミングと言った相手が悪いですよ・・・(苦笑)

★単純かつ非生産的な回答が二つあるだけなのだ。一つは、ほかに何かやりたいことがあるわけでもないという現実であり、一つは、自分でも抑えられない半田修平一名に対する妄執だった。今、自分から半田修平を除いたら、金も家族も地位も名誉もない、人生の目標も見通しもない、神はおろか人間すら愛したことのない、三十六歳のオス一匹が残るだけだ。  (『LJ』下巻p353)
三十六歳のオス一匹・・・この表現、もの凄く好き。合田さんにふさわしいですわ。

★「実家の会社さえなかったら、俺はずっと、あんたらと競馬場にいたと思う。あのころが一番良かった」 (『LJ』下巻p357)
あのころが一番良かった。これは誰でも一度は思うこと・・・。高さんにとっては、これが過去への訣別であり、どうにも逃げられない、避けられない現実のしがらみに巻かれてしまったという事実を、示しているのですね・・・。

★「値段のつけられないものは、いっぱいある。たとえば、こうして蒲鉾食ってる、この生活」 (『LJ』下巻p364)

★ときどき、自分の周りの空気がピシッと音を立てて締まってくることがある。今もまた空気というか闇というか、何かがピシッと締まってきて、物井は独り慄然とした。彼岸に向かって緩やかに流れている時間の川が、こうしてときどき何かの拍子に変調をきたし、とうの昔に観念したと思っている本人に、お前はほんとうに分かっているのかと念を押してくる。ゆるゆると蛇行しつつ流れていく老いの時間とはきっと、誰にとってもそうしたものであるに違いなかった。 (『LJ』下巻p365)

★死者に抗議を突きつけられた者たちは、死者のためではなく、和解や弁明の機会を永遠に失った自らのために、涙しなければならないのだ。 (『LJ』下巻p367)

★「刑事さ。俺に惚れてやがるんだ」
(・・・略・・・)
「せいぜい遊んでやって、最後に地獄を見せてやる。……必ずな」
 (『LJ』下巻p360)

★「辛いなあ……」物井は自分自身と、レディと、布川夫婦と、自分たちが生きているこの時代の全部の人間に向かって、そう呟いてみた。孫の孝之が亡くなったときと同じように、自分でどうにか出来ることではない辛さだった。 (『LJ』下巻p397)

★どこにも出口のない人生はほんとうにあったのだ、と物井は自分に呟いた。まさに今、ここに二つ。 (『LJ』下巻p399)