やるで、やりたい、とブログ開設当初から書き込み続けて早や何年経ったことか・・・。念願の「キャラクター考察」です。
第1回目にこの人を選んだのが、吉と出るか凶と出るか(苦笑) いろいろとツッコミ甲斐がある人だし、キーボード入力もスイスイと進みそうなんですよねえ~。
ところがいざやってみると迷走もいいところ。かなり試行錯誤しました。延べ何時間かかったことか。
今回は単行本版の秦野組長でやります。もちろん文庫版の秦野組長もやる予定です。
以下、ネタバレありますので、未読の方はご注意下さい。
【秦野耕三(単行本版) 基本情報】
1992年、二千人の舎弟を抱える秦野組の第六代組長に就任。秦野組五代目組長の次男。1993年(平成5年)現在38歳。ちなみに現在(2009年・平成21年)存命だったら54歳!? ひええ~!
慶応大学出身。大手企業に十年勤め、四年ほど前(1989年・平成元年)に江東区にある秦野組傘下の大手産廃会社の経営を引き継ぐ。他にも系列の不動産会社や土木建設会社の役員も兼任している。普段は現場に出て、営業もし、週に一度は接待ゴルフに行く生活をしている。
合田雄一郎さんとの「個人的な面識」とは、二年ほど前(1991年・平成3年)に、秦野の会社のダンプが起こした事故で、たまたま板橋署にいた合田さんが面倒を見て世話になったため、盆暮の付け届けをし、その都度送り返されるという程度のもの。
愛人は所沢市荒幡のマンションに住まいを与えられており、そこで合田さんとテホンビキを行う。小学生の頃に祖父にテホンビキを教えられ、負けると原稿用紙に漢字を書かされた。
・・・どんな顔して大手企業に勤めていたのか、全く想像が出来ない・・・。営業スマイル、振りまいていたんだろうか。満員電車に揺られ、会社と家を往復してたんだろうか。カラオケに行ったり、飲み会の幹事をしたり、得意先の接待をしてたんだろうか。
【秦野耕三(単行本版) 人物像】
どのように描写されているのか、ここぞ! という部分をピックアップ。
★とたんに、粘りつくような鋭い眼光を放って、男はカッと白い歯を見せた。 (p105)
★男は握手を求めて片手を差し出してきた。そして、雄一郎が片手を出すやいなや、男はすかさず、差し出した自分の手をかわして雄一郎の手首をがっしりと掴んだ。そういう大胆な所業に出てはばかるところもない一種独特の男の威風は、秦野組六代目組長を襲名する前から備っていた。 (p105)
★刑事一人の手首を掴んだまま、男は直截な物言いをしてにやにやした。金と組織の力をもってしても、こちら側へなびいてこないお上に対してはとりあえず無力だと知っている渡世人の鋭利な自嘲が、その眼光に浮かんでいる。同時に、一介の刑事一人をからかう口の下には、すきあらばと狙っている蛇の舌も光っている。 (p106)
★男は慰みか挑発か、雄一郎のポロシャツの襟を指先で弾いてみせた。 (p106)
★構成員二千人の組を背負っている男の、どこから切っても一般人とは目つきも風貌も違う三十八歳の男の顔がそこにあった。修羅場の上に純白の布を広げたような、残忍な感じのする折り目正しさだった。 (p319~320)
★目は笑っていないが、若々しい顔はきれいに笑う。 (p321)
★秦野は鋭いものを目の端にたたえて微笑み、首を横に振った。 (p322)
★ここで逃してなるものか、さあ入ってこい、扉を開けて入ってこい、と秦野の目は誘っていた。 (p326)
★秦野の鋭利な目の奥で、苛立ちと嘲笑と疑念が入り交じるのが見てとれた。 (p328)
今更ですが、これって全部「合田さん視点」でいいんですよね・・・? これじゃ読み手も勘違いどころか、邪な感情を抱くのも当然過ぎるほど当然かも、です。「秦野組組長」の肩書きがなかったら、別の解釈できそうです。
【秦野耕三(単行本版) 独断と偏見の問わず語り】
理路整然とはいきません。錯綜してますので、ご了承下さい。
この方を語る時、
「じゃあ、あなたの身体」 (p327) ・・・の台詞は切っても切れない。「秦野組長といえば、この台詞」と断言しても異論はないでしょう・・・多分。
実際に
単行本『照柿』(講談社)を読む前に、いろんなファンサイトさんでこの人の言動で盛り上がっていたので、その先入観を抱いたままで読んだのが、良かったのか悪かったのか。・・・今でも分かりません。
(それ以上の衝撃受けたのが、合田さんの
「一瞬、その気になったので」 (p327)・・・だったかも。これは冗談のつもりの軽口なのか、それとも本気だったのか。どちらともとれそうだ)
組長の発言があまりに強烈だったため、再読してもなかなか平静に読めなかったですよ。三回目くらいからやっと慣れて、平常心を保てるようになったかな・・・。
では、平静に語ってみましょう(←出来るのか) ある意味別人なので、文庫版の組長との比較はしません。
登場場面は僅かですが(二段組の約500ページ足らずの単行本で、名前が記されてるのは20ページもない)、全て合田さん絡みであることも含めて、僅かだからこそ却って鮮烈で多大なインパクトを読み手に与えたんだろうと、今ならそのように思えます。主人公・合田さんが霞むくらいの言動と存在感は、充分すぎるほどありました。
逆にそれくらいでないと、二千人もの組員を抱える組長は務められないし、舎弟たちも組長についていかないでしょう。
そんな「侠気」のある部分も、秦野組長の魅力の一つ。女の私だって「甲斐性あり!」と、ついていくかも知れないですよ(笑) ・・・ヤーさんでなけりゃなあ・・・惜しいなあ・・・(本音)
更に魅力を挙げるとするなら、気障の一歩手前か、あるいはぎりぎりの状態で繰り出される「発言」ですね。下記でも取り上げてますが、その発言のいくつかには含みがあって、抑えた色気も滲み出ている。そういう匂いを感じ取り、深読みして、悶えてしまうのですよね。
だからこそ、単行本版の秦野組長は合田さんに色目を使っていると言っても否定できないかもしれません。組長の決して下品でない、色気のあるいやらしさを感じられる台詞があちこちに散りばめられているので、私に才能があればそれだけをピックアップして、二次創作小説をでっち上げたいくらいだ(笑)
最も有名な
「じゃあ、あなたの身体」 の発言を巡っての見解は、読み手の数だけあるはずです。この台詞だけで組長を語ってはいけないことは分かってますが、避けて通れないことも否定できないでしょう。
1.借金の支払いとして欲しいのか。(腕一本、臓器一個くらい売って、金を作れとか?)
2.刑事として必要なので欲しいのか。(やくざとしては、警察内部に一本でも通じるパイプが欲しいもんだ。但し合田さんがそれにふさわしいかどうかは判じかねる)
3.上記を抜きにして、個人的に合田雄一郎が欲しいのか。(ちょっかいを出しているうちに、合田さん個人に興味を抱いたか?)
今まで自分のブログではっきり述べるのをあえて避けてましたが、もう逃げられないか・・・。
上記に挙げた3つが、いつもグルグルと回っています。どれも正解だと思ってます。思ってますが・・・
どうせなら合田さん、一度くらい秦野組長に抱かれてしまえー!
・・・というのが、隠れた本音です。
もしもそうなっていたら、この時期にウジウジしていたあなたの状態も、打破されたかもしれないのに、ねえ?
えーい、隠しついでにもう一つ。
「合田×加納」派の私ですが、「秦野組長×合田」もOKです。(後腐れなしの一回きりならね。つまり身体で借金の支払いをしたという設定で) どんなふうに口説いて最後までもっていくのか、その手腕を見せて欲しいもんです(爆)
・・・ああ、文字を隠してるとはいえ、ついにカミングアウトしてしまいましたよ・・・(ドキドキ)
だけど、そう思った途端に、即座に否定してしまう自分もいるんです。万に一つもないでしょうが、もしもそんなことになったら合田さんは墓場まで持っていくしかない秘密と弱みを抱えることになるし、何より刑事としても失格。義兄にも顔向け出来ず、知られたとしたら「問答無用」のメモどころじゃないでしょう。
それ以前に合田さんの性格からして、身を委ねるなんて到底考えられない。
だからこの二人の肉体関係(爆)があるとしたら、それは想像の世界、二次創作の世界だけ。この場で語ることではありません。(オフでは喋ってますが)
思った途端に即座に否定とは、そういうことです。そして懲りずに、あるいは飽きずにまた思うんですよねえ・・・。それくらいの想像の余地は、読み手の特権として必要悪だ(笑)
ともあれ秦野組長は、どう転んでも根っからのやくざさんなわけで、それ以外にはなれない。合田さんが、刑事以外の何ものにもなれないのと同じことで。
そこに秦野耕三というキャラクターの限界も見えるというもの。合田さんが刑事で、秦野さんがやくざである限り、この二人が腹を割って打ち解けるような、台頭の個人と個人の関係を築けるかといえば、まずは無理な話。
それでも読み手に忘れがたいイメージを植えつけたキャラクターであることは、間違いありません。
単行本版の秦野組長には、決してマイナスイメージを抱いてはいません。ヤーさんの一面を除けば、魅力溢れる人間であると認めています。
・・・それが文庫版ではあんなふうに変更されるとは・・・(ガックリ)
【秦野耕三(単行本版) 独断と偏見の名台詞・名場面】
一部「再読日記」と重複してますが、ご了承下さい。
★「国税当局とケンカする気はないが、この不況で事業税まで納めて、その上、二千人の舎弟をこの腕で食わせなきゃならないんだ、私は」 (p106)
大企業の会社社長も顔負けのこの矜持! 昨今の現状からしても、秦野組長を見倣ってほしいもんです。
★「下っぱのお上相手に、何をおっしゃる」
「そう言って、あなたはまた逃げる」
「何から」
「この秦野耕三の食指から」 (p106)
気障だよなあ・・・。かっこいいよなあ・・・。組長しか言えないよなあ・・・。
「いい歳して何ですか、この恰好は。たまには上から下まで決めてらっしゃいよ」
「誰のために」
「この秦野と仲良く記念写真でも撮りましょうや」
「蛇と鼠の見合い写真になる」 (p106)
蛇=秦野組長、鼠=合田さん、ですか。
★《盆ですか。それをバラせというのは、あたしに死ねってことですよ》 (p239)
何てことない台詞なんですが、ここで見逃せないのは「あたし」という一人称なんですよ。唯一、使用されてます。それ以外は「私」か「この秦野」の表記なので、ひょっとして、間違いか?
★《ま、手土産はいらないから、捨ててもいい金をいくらか用意してらっしゃい。たまには遊びましょう》 (p239)
秦野さんの冷静な闘志と意気込みが垣間見えるかのよう。千載一遇のチャンスだからね。
★「限界というのは何ですか。良くも悪くも、現役である限りは前進しなければ潰される。あなたは潰されて黙ってる人には見えませんよ。なけなしの貯金をはたいても、捜査のためにこの私に何かを言うためにやってくる人だ。そうでしょう? ……というわけで、もっとあがきなさい。地獄の手前ぐらいまで行ったらよろしい」 (p326)
★「あなたにもいろいろ事情はおありでしょうが、この秦野とサシで遊んでいる以上、だめですよ。あなたはまだまだ傷なんか負ってない。自分の都合で退いて済む世界じゃないんだということを、勉強しただけでも元が取れるというもんだ」 (p326)
上記2つの引用。何だか出来の悪い生徒を諭している先生のようにも見える(笑)
★「女房」
「いません」
「車」
「ない」
「じゃあ、あなたの身体」
冗談とも思えない秦野の目つきに無様に臓腑が縮んだ。
「三十半ば近くまで生きてきて身体しか持ってないというなら、それ、もらいましょう」と秦野はくりかえした。
「私が五十万ですか」
「百万。当たればよし。当たらなければまあ、この秦野の胸先三寸で好きにさせてもらいます」
「急に言われても」
「考える時間を上げましょうか」
「いえ、結構」
「合田さん、なぜ笑う」
「秦野さんこそ、なぜ笑う」
「合田さんこそ」
「一瞬その気になったので」
「その気になって、私の秘書にでもなりますか。ご冗談を」 (p327)
ここのやりとりを全部挙げたのは今回が初めてなのですが、読めば読むほど混乱を増しますなあ。どこからどこまでが本気で、冗談なのか。合田さんに百万の価値があるのか、ないのか。
強いて言うなら、笑ってるところで冗談と化してしまったような・・・。
★「まったくあなたという人は……」 (p328)
★「あなたは腐っても刑事だな……」 (p328)
引上記2つの引用から、合田雄一郎の人となりを理解しているように見えます。今までの付き合い、そしてテホンビキの勝負を通したことで、合田さんは「堕ちない」と判断し、ここで手を打とうとしたのが、秦野組長の潔いところ。
★「合田さん、ホシを取るか、あなた自身が潰されるかの話でしょう。だから言うのだが、中途半端は、お互い命取りになりますよ。話は了解しました。合田さん、ホシだけは取んなさい。あなたにはそれしかないのだから」 (p330)
カッコええよねえ・・・。最後の最後まで締めてくれる。
そう、これが秦野組長の最後の台詞、最後の登場。あとは合田さんの回想で、名前が出てくるだけ。
***
長文になってしまって申し訳ございません。読んでいただいて、ありがとうございました。
次回は文庫版の秦野耕三さんを取り上げる予定です。