あるタカムラーの墓碑銘

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『我らが少女A』 加納祐介さんの登場場面の毎日新聞連載時と単行本の抜き書き・比較 その3

2019-07-29 23:57:01 | 我らが少女A 雑感
その2 の続きです。

引用部は、○印・・・毎日新聞連載時  ●印・・・単行本  で区別します。 異なる部分は下線を引きます。 その後、変更部分を指摘する、という形式です。

メインは加納祐介さんに関連するところですが、大空翼くんには岬太郎くんが欠かせないように、加納さんには合田雄一郎さんが欠かせない部分が出てくるので、その点も取り上げている場合があります。

ついでに加納祐介さんに該当する固有名詞・名詞・単語等は強調しています。


加納は、心臓のペースメーカーを埋め込んで七日目に病院を抜け出し、高裁の部総括の奥さんの、御歳九十七になる母親の葬儀に出かけていった。式場が病院から近い日華斎場だったのはまったくの偶然だが、それにしても上司の妻の親の弔事にまで雁首をそろえるヒラメたちの一匹に、友人が本気でなろうとしたはずもない。急な入院で仕事に穴をあけた失点は、厳しい見方をすればもはや完全には挽回不能というほうが正しいし、そうであればわざわざ安静第一の身体を押して、いまさらヒラメになる必要もないからだ。  (第2章 30)

きっかけをつくったのは、入院中の友人の高裁判事だ。

昔からときどき奇矯な行動に出る加納は、
心臓のペースメーカーを埋め込んで七日目に病院を抜け出し、高裁の部総括の奥さんの、御歳九十七になる母親の葬儀に出かけていった。式場が病院から近い日華斎場だったのはまったくの偶然だが、それにしても上司の妻の親の弔事にまで雁首をそろえるヒラメたちの一匹に、友人が本気でなろうとしたはずもない。急な入院で仕事に穴をあけた失点は、厳しい見方をすればもはや完全には挽回不能というほうが正しいし、そうであればわざわざ安静第一の身体を押して、いまさらヒラメになる必要もないからだ。
 (単行本p106~107 13)

【相違点】

●きっかけをつくったのは、入院中の友人の高裁判事だ。 (新規追加。新聞連載に無し。1行分空白があるのは、単行本がそのようになっているからです。)

○加納は、
●昔からときどき奇矯な行動に出る加納は、


「昔からときどき奇矯な行動に出る加納」って……何? 『LJ』のあれとか、それとか? 『太陽を曳く馬』の雑誌で掲載されて単行本でカットされたアレとか?


案の定、友人は<無事、戻った。予想以上に疲れた>とメールをよこし、続けて<日華斎場は、美術教師が殺された野川事件のときにおまえが話していた場所だと思いだしたので、覗きに行ってみた。白と青の小型機が飛んでいるのを見た>などと書いてきた。
斎場の話をした──? 合田は十二年前に自分が事件の話を友人にしたこと自体を忘れてしまっていたが、並外れて記憶力のいいが、そうは言っても昔の話を一つ思いだしたからといって、わざわざその現場を見に行ったというのには、直感的に違和感を覚えた。昔からときどき突飛な行動に出るではあるが、マイペースというのとは違う、見えない糸に操られて、まだガーゼも取れていない術後の身体を、大して意味があるとも思えない場所へ運んでみた末に、<疲れた>と吐露する。これも、思いがけない病気から来た鬱か。あるいは、ステロイド投与で身体の不調が強く出ているのか。
 (第2章 30)

案の定、加納は<無事、戻った。予想以上に疲れた>とメールをよこし、続けて<日華斎場は、美術教師が殺された野川事件のときにおまえが話していた場所だと思いだしたので、覗きに行ってみた。白と青のドルニエ機が飛んでいるのを見た>などと書いてきた。
斎場の話をした──? 合田は十二年前に自分が事件の話を友人にしたこと自体を忘れてしまっていたが、並外れて記憶力のいいが、そうは言っても昔の話を一つ思いだしたからといって、わざわざその現場を見に行ったというのには、直感的に違和感を覚えた。何事もマイペースなではあるが、まだガーゼも取れていない術後の身体を、大して意味があるとも思えない場所へ運んでみた末に、<疲れた>と吐露する。これも、思いがけない病気から来た鬱か。あるいはステロイド投与で身体の不調が強く出ているのか。
 (単行本p107 13)

【相違点】

○友人
●加納

○白と青の小型機
●白と青のドルニエ機

○昔からときどき突飛な行動に出る男ではあるが、マイペースというのとは違う、見えない糸に操られて、
●何事もマイペースな男ではあるが、

○あるいは、ステロイド投与で
●あるいはステロイド投与で


「昔からときどき突飛な行動に出る男」というのが、形を変えて、1ページ前の「昔からときどき奇矯な行動に出る加納」になったんですね。


あれこれ思いめぐらせた末に、合田は<帰りに寄る>と返信し、夕方、あまり顔色のよくない当人に会った。これまでゆっくりゆっくり動いていた心臓が、いきなりぴくぴく精勤に動きだしたら、そりゃあ気持ち悪いに決まっているだろう。友人は言う。まるで誰かが身体のなかにいるみたいだ、何をしていても落ち着かない。日華と聞いて突然、昔おまえに聞いた事件を思いだしたりする。あのときおまえが見たと言っていた小型機が今日も飛んでいたよ。あの事件はどうなった? 
友人の脳内で何かが起きているのだろうか。合田は臓腑に冷たい金属が触れるような不安を覚えながら、俺がおまえに小型機の話をしたって? 何を考えていたんだろうな、言葉を濁し、無理に笑みをつくってみる。
 (第2章 30)

あれこれ思いめぐらせた末に、合田は<帰りに寄る>と返信し、夕方、あまり顔色のよくない当人に会うと、曰く、これまでゆっくりゆっくり動いていた心臓が、いきなりぴくぴく精勤に動きだしたら、そりゃあ気持ち悪いに決まっているだろう、ということだ。加納は言う。まるで誰かが身体のなかにいるみたいだ、何をしていても落ち着かない。日華と聞いて突然、昔おまえに聞いた事件を思いだしたりする。あのときおまえが見たと言っていた小型機が今日も飛んでいたよ。あの事件はどうなった? 
友人の脳内で何かが起きているのだろうか。合田は臓腑に冷たい金属が触れるような不安を覚えながら、俺がおまえに小型機の話をしたって? 何を考えていたんだろうな、言葉を濁し、無理に笑みをつくってみる。
 (単行本p107~108 13)

【相違点】

○当人に会った。これまでゆっくりゆっくり動いていた心臓が、いきなりぴくぴく精勤に動きだしたら、そりゃあ気持ち悪いに決まっているだろう。
●当人に会うと、曰く、これまでゆっくりゆっくり動いていた心臓が、いきなりぴくぴく精勤に動きだしたら、そりゃあ気持ち悪いに決まっているだろう、ということだ。

○友人は言う。
●加納は言う。


長文に変更。


○●その子? 関係者って子どもか。 (第2章 31)  (単行本p108 13)

新聞連載時、単行本ともに、相違点なし。 これは加納さんの発言。


そうして話していた間に、友人はまたどんな想像をめぐらせたのだろう。十六歳の被告にまんまと騙されて観護措置の決定を見送った判事を知っている、などと言うは、いつもの恬淡とした顔つきに戻っており、なにがしかの異変はこちらの気のせいだったのかもしれないと、合田もわずかに白々とする。
では、捜査線上に上がっていた子どももいたわけか?
いや、そこまでは行かなかった。女優志望のものすごい美少女はいたけど。
へえ、そいつは続きを聞かないわけにいかないなあ。友人はついに笑い出す。
そのうち機会があったらな。それより、退院祝いしてやるから、早く元気になれ。急がないと桜鯛の季節が終わってしまう。
かすかなさざ波を含んだ春の一日はこうして過ぎ、二人のの頭上では、伊豆諸島からの小型機が一機、また一機、調布に降りてゆく。
 (第2章 31)

そうして話していた間に、加納はまたどんな想像をめぐらせたのだろう。最近の話だが、十六歳の被告にまんまと騙されて観護措置の決定を見送った判事を知っている、などと言うは、いつもの恬淡とした顔つきに戻っており、なにがしかの異変はこちらの気のせいだったのかもしれないと、合田もわずかに白々とする。
では、捜査線上に上がっていた子どももいたわけか?
いや、そこまでは行かなかった。女優志望のものすごい美少女はいたけど。
へえ、そいつは続きを聞かないわけにいかないなあ。加納はついに笑い出す。
そのうち機会があったらな。それより、退院祝いしてやるから、早く元気になれ。急がないと桜鯛の季節が終わってしまう。
かすかなさざ波を含んだ春の一日はこうして過ぎ、二人のの頭上では、伊豆諸島からの小型機が一機、また一機、調布に降りてゆく。
  (単行本p108~109 13)

【相違点】

○友人
●加納

●最近の話だが、 (新規追加。新聞連載に無し)



加納さん登場場面、新聞連載の第2章はここまで。次回は第3章です。



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