あるタカムラーの墓碑銘

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『我らが少女A』 加納祐介さんの登場場面の毎日新聞連載時と単行本の抜き書き・比較 その6

2019-08-15 22:58:11 | 我らが少女A 雑感
その5 の続きです。

引用部は、○印・・・毎日新聞連載時  ●印・・・単行本  で区別します。 異なる部分は下線を引きます。 その後、変更部分を指摘する、という形式です。

メインは加納祐介さんに関連するところですが、大空翼くんには岬太郎くんが欠かせないように、加納さんには合田雄一郎さんが欠かせない部分が出てくるので、その点も取り上げている場合があります。

ついでに加納祐介さんに該当する固有名詞・名詞・単語等は強調しています。

合田は、仕事ばかりでろくにカレンダーも見ていない友人の判事と、久しぶりに高尾山へハイキングに出かけた。友人の希望で大混雑のケーブルカーには乗らず、稲荷山展望台を通って山頂へ向かうコースを、時間をかけてゆっくり登りながら、どちらからともなく退職後の話をした。判事の定年は六十五だが、ひょっとしたら友人はそれを待たずに公務員を辞めるのかもしれない。 (第4章 6)

合田は、仕事ばかりでろくにカレンダーも見ていない友人の判事と、久しぶりに高尾山へハイキングに出かけた。加納の希望で大混雑のケーブルカーには乗らず、稲荷山展望台を通って山頂へ向かうコースを、時間をかけてゆっくり登りながら、どちらからともなく退職後の話をした。判事の定年は六十五だが、ひょっとしたら加納はそれを待たずに公務員を辞めるのかもしれない。 (単行本p200 24)

【相違点】

○友人
●加納
(2回とも変更)



一方、合田が民間企業に天下りする気がないのを知っている友人は、近ごろは定年後、どこへ住むつもりかと遠回しに尋ねてくるが、合田の気持ちはまだ定まっていない。もう十年以上も農作業の手伝いをしている野菜農家の仕事を続けるのなら、千葉。猫の額ほどの畑地を譲ってくれるという知り合いの誘いに乗るのなら、琵琶湖の湖北。あるいは、ここへ来て友人の健康という新たな心配事も出てきたことから、このまま都内に残ることも考えないわけではないが、本人には内緒だ。 (第4章 6)

一方、合田が民間企業に天下りする気がないのを知っている加納は、近ごろは定年後、どこへ住むつもりかと遠回しに尋ねてくるが、合田の気持ちはまだ定まっていない。もう十年以上も農作業の手伝いをしている野菜農家の仕事を続けるのなら、千葉。猫の額ほどの畑地を譲ってくれるという知り合いの誘いに乗るのなら、琵琶湖の湖北。あるいは、ここへ来て友人の健康という新たな心配事も出てきたことから、このまま都内に残ることも考えないわけではないが、本人には言っていない。 (単行本p200 24)

【相違点】

○友人
●加納

○本人には内緒だ。
●本人には言っていない。



○●友人の判事に注意されていたので、自身の携帯電話の番号を教えることはしなかったが、<用事があるなら多磨駅で会おう>と便箋一枚にメモ書きし、曜日と時刻を指定して守衛室に預けたのが、五月十八日のことだ。 (第4章 24) (単行本p227~228 27)

相違点はありません。


野菜の収穫に出た日は、たいがい穫れたての春キャベツやそら豆やロメインレタスを担いで判事のマンションへ行く。ついでに近くで旬のホタルイカやはしりのイサキでも買ってゆけば、昔から料理だけはうまい加納が魚を塩焼きにし、茹でたり炒めたりした山盛りの野菜を並べて、ワインなどを開ける。 (第4章 25)

野菜の収穫に出た日は、たいがい穫れたての春キャベツやそら豆やロメインレタスを担いで加納祐介のマンションへ行く。ついでに近くで旬のホタルイカやはしりのイサキでも買ってゆけば、昔から料理だけはうまい加納が魚を塩焼きにし、茹でたり炒めたりした山盛りの野菜を並べて、ワインなどを開ける。 (単行本p229 27)

【相違点】

○判事
●加納祐介



その日は合田のスマホに入っているBBSの『吉祥寺JKを語ろう』と、池袋のガールズバーのスナップ写真一枚が肴に加わり、いつもよりちょっと盛り上がる。加納の専門は行政と民事だが、元検事の頭はそれなりに全方位で、BBSの書き込みを一読して、235はやってるな、こいつ──と見抜いてしまう。うん、たぶんな。合田も異論はない。 (第4章 25)

その日は合田のスマホに入っているBBSの『吉祥寺JKを語ろう』と、池袋のガールズバーのスナップ写真一枚が肴に加わり、いつもよりちょっと盛り上がる。加納の専門は行政と民事だが、元検事の頭はそれなりに全方位で、BBSの書き込みを一読しただけで、235はやってるな、こいつ──と見抜いてしまう。うん、たぶんな。合田も異論はない。 (単行本p229 27)

【相違点】

○一読して
●一読しただけで



ガールズバーのクリスマスパーティーのスナップに写っている朱美の姿は、さらに友人の妄想を掻き立てたようで、いつになく多弁になる。裁判所という孤島に棲む判事たちは、ひとたび法衣を脱げば市井が腰を抜かすような趣味に走る者もいるらしいが、加納の場合は江戸の春画だの、マルキ・ド・サドだの、蓮實重彦や澁澤龍彦だの、高踏的な退廃がお気に入りだ。いいなあ、この娘! にこにこと朱美の姿を見つめながら、いったい何を想像したことやら。かと思えば、ここに写っている客には全員当たったのか? ふいと捜査の状況を尋ねてきたりする。
 (第4章 25)

ガールズバーのクリスマスパーティのスナップに写っている朱美の姿は、さらに友人の妄想を掻き立てたようで、いつになく多弁になる。裁判所という孤島に棲む判事たちは、ひとたび法衣を脱げば市井が腰を抜かすような趣味に走る者もいるらしいが、加納の場合は江戸の春画だの、マルキ・ド・サドだの、蓮實重彦や澁澤龍彦だの、高踏的な退廃がお気に入りだ。いいなあ、この娘! にこにこと朱美の姿を見つめながら、いったい何を想像したことやら。かと思えば、ここに写っている客には全員当たったのか? ふいと捜査の状況を尋ねてきたりする。 (単行本p229 27)

【相違点】

○クリスマスパーティー
●クリスマスパーティ


但し、「蓮實重彦や澁澤龍彦」の「彦」の字は正字なので、新聞や書籍では正しく印刷されていますが、ネット上では文字化けします。ご了承ください。


なあ、写真もう一度見せて。今夜の友人はまるでエロ爺さんだ。いいなあ、この娘! 『愛の嵐』のころのシャーロット・ランプリングだ──。体内に飼っているエイリアンは、今夜はすこぶる調子がいいらしい。  (第4章 25)

なあ、写真もう一度見せて。今夜の友人はまるでエロ爺さんだ。いいなあ、この娘! 『愛の嵐』のころのシャーロット・ランプリングだ──。
体内に飼っているエイリアンは、今夜はすこぶる調子がいいらしい。
 (単行本p230 27)

【相違点】

細かいところですが、「体内に飼っているエイリアンは、今夜はすこぶる調子がいいらしい。」の一文、新聞連載では改行されていませんでした。


しかし加納さんをさす言葉に、「エロ爺さん」という単語が出てくるとは……。



2 コメント

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ショックでしたね… (つるぎ)
2019-08-18 01:02:57
からな様、いつも、詳細な分析、有難うございます!

いや、「エロ爺さん」は、朝刊開いた直後、固まってしまいました。
義兄・加納さんというと、「涼風」をまとった外見のイメージがあった…のは、若き日(だけ)の事だったのか?
合田さんの「ヴァイオリン」同様、作品ごとに、高村先生のなかで変わってきてしまったのか?
などなど、色々と考えてしまいました。
大体、加納さんが「愛の嵐」観てる所、想像できません!
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つるぎさんへ (からな)
2019-08-18 22:53:42
こんばんは。

>義兄・加納さんというと、「涼風」をまとった外見のイメージがあった…のは、若き日(だけ)の事だったのか?

検事時代のほうが「聖人」でしたよねえ? 「聖書」や「北越雪譜」やドストエフスキーなど、影も形もないですよね。

本物の「聖人」の判事に転職してから、傾向がガラッと変わったみたいで。
○田誠を好むというのも、つるぎさんがご指摘の「愛の嵐」も、なんだかねえ?

合田さんとは「元義兄弟の友人」の位置のままなので、鬱屈した思いが、そういう好みに反映されているんですかねえ?

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