本日、単行本『我らが少女A』を読了しました。
後半の畳み掛けるような、疾走感と加速度のある展開に圧倒。これよ、これこれ! これが高村作品の醍醐味なのよ!
新聞連載では一日の分量が決まっているため、この感覚が味わえなかったなあ、と感じました。
何よりも、まとまった分量で読めるのが非常に有り難い。自分のペースで読めるのもいい。
で、本題。読了したら私の好きなキャラクター、加納祐介さんの登場場面の抜き書きをやると決めてました。何回か分割して、更新します。
『冷血』では「サンデー毎日」連載時も単行本も文庫も、電話やメールなどで間接的な登場はしていても、1度も名前が出てなくて、悲しかったですね。
それに比べれば『我らが少女A』は、加納さんの初登場時から衝撃的な展開でしたね。
***
引用部は、○印・・・毎日新聞連載時 ●印・・・単行本 で区別します。 異なる部分は下線を引きます。 その後、変更部分を指摘する、という形式です。
メインは加納祐介さんに関連するところですが、大空翼くんには岬太郎くんが欠かせないように、加納さんには合田雄一郎さんが欠かせない部分が出てくるので、その点も取り上げている場合があります。
ついでに加納祐介さんに該当する固有名詞・名詞・単語等は強調しています。
○まあ、ここだとおまえも近くにいるし──。四畳半ほどの広さの個室のベッドの上で、照れ隠しの言い訳をする男は、古い友人の東京高裁判事で、合田とは違って戸籍にバツ印もない独り身を続けている。名を加納という、その男が昨夜の遅い時刻に久しぶりに電話をかけてきて、なにやら地下の霊安室のような声の響きだと耳をすませたとたん、実はいま入院しているんだ、ときた。 (第1章 6)
●まあ、ここだとおまえも近くにいるし──。十畳ほどの広さの個室のベッドの上で、照れ隠しの言い訳をする男は、古い友人の東京高裁判事で、合田とは違って戸籍にバツ印もない独り身を続けている。名前を加納祐介という、その男が昨夜の遅い時刻に久しぶりに電話をかけてきて、なにやら霊安室にいるような声の響きだと耳をすませたとたん、実はいま入院しているんだ、ときた。 (単行本p17 2)
【相違点】
○四畳半ほど
●十畳ほど
○加納
●加納祐介
○地下の霊安室のような
●霊安室にいるような
加納さん、初登場の場面。比較してビックリ。病室が四畳半と十畳では、倍以上の広さがありますね。
そして単行本ではフルネームに! ありがとうございます。
○すると向こうも、こういう反応はあらかじめ予想できたし、だから構えていたのだというふうに、たまたま同級生の医者がいるからこの病院にしたんだが、おまえ、心臓サルコイドーシスって知っているか? どうやらそれらしいよ、先週、高裁の廊下で倒れて救急車の世話になって、不整脈だとか言われて精密検査をしたら、そのサルコイドーシスだということになって──と早口に事の次第を説明し、大したことはないんだが──と結んでみせる。
日々煩雑な行政訴訟の裁判資料に埋もれて暮らし、読むだけで骨の折れる精密な判決文を書く男が、自分の身体のこととなると、順序も結論も要を得ない、ぐちゃぐちゃの説明になる。 (第1章 6)
●すると向こうも、あらかじめそういう反応を予想して構えていたのだというふうに続けて曰く、たまたま同級生の医者がいるからこの病院にしたんだが、おまえ、心臓サルコイドーシスって知っているか? どうやらそれらしいよ、先週、高裁の廊下で倒れて救急車の世話になって、不整脈だとか言われて精密検査をしたら、そのサルコイドーシスだということになって──と早口に事の次第を説明し、たいしたことはないんだが──と結んでみせる。
日々煩雑な行政訴訟の裁判資料に埋もれて暮らし、読むだけで骨の折れる精密な判決文を書く男が、自分の身体のこととなると順序も結論も要を得ない、ぐちゃぐちゃの説明になる。 (単行本p18 2)
【相違点】
○こういう反応はあらかじめ予想できたし、だから構えていたのだというふうに
●あらかじめそういう反応を予想して構えていたのだというふうに続けて曰く
○大したこと
●たいしたこと
○自分の身体のこととなると、順序も結論も要を得ない
●自分の身体のこととなると順序も結論も要を得ない
加納さんが話す前の部分が変更されましたね。
漢字とひらがなの違い、読点の有無等も、気付けば指摘します。
○人間には最期があることに思い至る自分のバカさ加減に、心底悄然としながら、合田は久々に会った旧友の顔に見入る。 (第1章 6)
●人間には最期があることに思い至る自分のバカさ加減に悄然としながら、合田は久々に会った旧友の顔に見入る。 (単行本p18 2)
【相違点】
○バカさ加減に、心底悄然としながら
●バカさ加減に悄然としながら
「心底」が削除されたんですね。
○できるだけ運動はしているし、健康診断で心電図の異常もなかったのに、不整脈なんて誰が想像する。何かだるいなあと思ったら意識が遠のいて、気がついたら救急車のなかだった。ああ、やっと東京に戻ってきたと思ったら、これで一敗地に塗れたなあ──。
公僕の誇りと、虎の尾を踏まない慎重さと、日和見と忖度と見て見ぬふりで裁判官の熾烈な出世競争を生き抜いてきた男も、さすがに動転しているのかもしれない。いまはあえて下世話な雑談をしていたいらしい友人の、左手手首の内側には真新しい絆創膏が貼ってある。 (第1章 7)
●加納は不本意そうに口を尖らせる。できるだけ運動はしているし、健康診断で心電図の異常もなかったのに、不整脈なんて誰が想像する。歩いていて何かだるいなあと思ったら意識が遠のいて、気がついたら救急車のなかだった。ああ、やっと東京に戻ってきて、地方巡りの後れを挽回するときだと思っていたら、これで一敗地に塗れたなあ──。
公僕の誇りと、虎の尾を踏まない慎重さと、日和見と忖度と見て見ぬふりで裁判官の熾烈な出世競争を生き抜いてきた男も、さすがに動転しているのかもしれない。いまはあえて下世話な雑談をしていたいらしい友人の、左手手首の内側には真新しい絆創膏が貼ってある。 (単行本p18~19 2)
【相違点】
●加納は不本意そうに口を尖らせる。 (新規追加。新聞連載に無し)
○何かだるいなあ
●歩いていて何かだるいなあ
○やっと東京に戻ってきたと思ったら
●やっと東京に戻ってきて、地方巡りの後れを挽回するときだと思っていたら
新規追加部分が多いですね。嬉しいですけど♪
○それで、どのぐらいの徐脈なんだ? 低いときは毎分四○ぐらい。 (第1章 7)
●それで、どのぐらいの徐脈なんだ? こちらから尋ねると、低いときは毎分四○ぐらい、という返事だ。 (単行本p19 2)
【相違点】
●こちらから尋ねると、 (新規追加。新聞連載に無し)
○毎分四○ぐらい。
●毎分四○ぐらい、という返事だ。
まだ途中ですが、新聞連載は単語や文章を削りに削ってたんだなあ、とわかりますね。
○それはちょっと落ち込むなあ。合田は同情し、心臓だからなあ、友人もやっと少し我に返ったというふうにうなだれる。昔から身だしなみのいい男が、白昼のパジャマ姿一つですっかり病人風情になっているのも、近ごろは白のほうが目立つようになった頭頂で、寝かしつけるのを忘れられた白髪が数本枯れすすきになっているのも、なんだか可笑しいような、寂しいようなだ。 (第1章 7)
●それはちょっと落ち込むなあ。合田は同情し、心臓だからなあ、加納もやっと少し我に返ったというふうにうなだれる。昔から身だしなみのいい男が、白昼のパジャマ姿一つですっかり病人風情になっているのを目の当たりにすると、さすがに茶化す気も起こらないが、近ごろは白のほうが目立つようになった頭頂で、寝かしつけるのを忘れられた髪が数本枯れすすきになっているのが、なんだか可笑しいような、寂しいようなだ。 (単行本p19 2)
【相違点】
○友人
●加納
○病人風情になっているのも
●病人風情になっているのを目の当たりにすると、さすがに茶化す気も起こらないが
○白髪が数本枯れすすきになっているのも
●髪が数本枯れすすきになっているのが
「加納」表記が増えてるのも嬉しい♪
○おまえの警大のほうはどうだ? 時間がありすぎて、余計なことばかり考えるよ。たとえば? そうだなあ、おまえに貸したままの『色道十二番』とか。 (第1章 7)
●おまえの警大のほうはどうだ? 今度は加納のほうが尋ねてくる。時間がありすぎて余計なことばかり考える、と答える。たとえば? そうだなあ、おまえに貸したままの『色道十二番』とか。 (単行本p19 2)
【相違点】
●今度は加納のほうが尋ねてくる。 (新規追加。新聞連載に無し)
○時間がありすぎて、余計なことばかり考えるよ。
●時間がありすぎて余計なことばかり考える、と答える。
またも加納さんに関して、新規追加。
ところで、『色道十二番』は合田さんが貸したのか、加納さんが貸したのか、どっち?
私は「合田さんが貸した」と思ったんですが、「加納さんが貸した」と解釈している方もいて、どっちなのかなあ、と。この違いは大きいですよ。
○どちらも還暦まで三年という年齢になり、相談したいことはいくらでもあるが、いつものように足腰のちょっとした痛みや日常の停滞感や惰性などに阻まれて、いっこうに実のある話にならない。しかも、一時期は合田が相手の妹を妻にしていた関係で、互いにいまも身内感覚が抜けず、当たり障りのない世間話で間を持たせるような気づかいもしない。
そういえば、明日で東日本大震災から六年だなあ。早いなあ──。何か欲しいものはある? そうだなあ、新しい心臓を一つ。
もう若くはない二人の男の沈黙の上で、すぐ近くの調布飛行場を離陸した小型機のゆるい爆音が南の空へ伸びてゆく。 (第1章 7)
●どちらも還暦まで三年という年齢になり、相談したいことは多々あるが、いつものように足腰のちょっとした痛みや日常の停滞感や惰性などに阻まれて、いっこうに実のある話にならない。しかも、一時期は合田が相手の妹を妻にしていた関係で、互いにいまも身内感覚が抜けず、当たり障りのない世間話で間を持たせるような気づかいもしない。
そういえば、明日で東日本大震災から六年だなあ。早いなあ──。ところで何か欲しいものはある? そうだなあ、新しい心臓を一つ。
もう若くはない二人の男の沈黙の上で、すぐ近くの調布飛行場を離陸した小型機のゆるい爆音が南の空へ伸びてゆく。 (単行本p19~20 2)
【相違点】
○いくらでもあるが
●多々あるが
○何か欲しいものはある?
●ところで何か欲しいものはある?
これで新聞連載2回分、単行本では4ページ分の、加納さんの該当部分ですよ。むっちゃ情報量が多いでしょ?
初見の新聞連載時に「こっちの心臓が止まりそう」と動揺したのを思い出します。加納さんショックで、日常生活に支障が出そうでしたもん。
本当は新聞連載の第一章の分で1回分アップしようと思ってたんですが、予想以上に単行本の新規追加も多かったため、力尽きました。
こんな感じで、やっていきます。 不定期更新になりますが、お付き合いしていただけると嬉しいです。
後半の畳み掛けるような、疾走感と加速度のある展開に圧倒。これよ、これこれ! これが高村作品の醍醐味なのよ!
新聞連載では一日の分量が決まっているため、この感覚が味わえなかったなあ、と感じました。
何よりも、まとまった分量で読めるのが非常に有り難い。自分のペースで読めるのもいい。
で、本題。読了したら私の好きなキャラクター、加納祐介さんの登場場面の抜き書きをやると決めてました。何回か分割して、更新します。
『冷血』では「サンデー毎日」連載時も単行本も文庫も、電話やメールなどで間接的な登場はしていても、1度も名前が出てなくて、悲しかったですね。
それに比べれば『我らが少女A』は、加納さんの初登場時から衝撃的な展開でしたね。
***
引用部は、○印・・・毎日新聞連載時 ●印・・・単行本 で区別します。 異なる部分は下線を引きます。 その後、変更部分を指摘する、という形式です。
メインは加納祐介さんに関連するところですが、大空翼くんには岬太郎くんが欠かせないように、加納さんには合田雄一郎さんが欠かせない部分が出てくるので、その点も取り上げている場合があります。
ついでに加納祐介さんに該当する固有名詞・名詞・単語等は強調しています。
○まあ、ここだとおまえも近くにいるし──。四畳半ほどの広さの個室のベッドの上で、照れ隠しの言い訳をする男は、古い友人の東京高裁判事で、合田とは違って戸籍にバツ印もない独り身を続けている。名を加納という、その男が昨夜の遅い時刻に久しぶりに電話をかけてきて、なにやら地下の霊安室のような声の響きだと耳をすませたとたん、実はいま入院しているんだ、ときた。 (第1章 6)
●まあ、ここだとおまえも近くにいるし──。十畳ほどの広さの個室のベッドの上で、照れ隠しの言い訳をする男は、古い友人の東京高裁判事で、合田とは違って戸籍にバツ印もない独り身を続けている。名前を加納祐介という、その男が昨夜の遅い時刻に久しぶりに電話をかけてきて、なにやら霊安室にいるような声の響きだと耳をすませたとたん、実はいま入院しているんだ、ときた。 (単行本p17 2)
【相違点】
○四畳半ほど
●十畳ほど
○加納
●加納祐介
○地下の霊安室のような
●霊安室にいるような
加納さん、初登場の場面。比較してビックリ。病室が四畳半と十畳では、倍以上の広さがありますね。
そして単行本ではフルネームに! ありがとうございます。
○すると向こうも、こういう反応はあらかじめ予想できたし、だから構えていたのだというふうに、たまたま同級生の医者がいるからこの病院にしたんだが、おまえ、心臓サルコイドーシスって知っているか? どうやらそれらしいよ、先週、高裁の廊下で倒れて救急車の世話になって、不整脈だとか言われて精密検査をしたら、そのサルコイドーシスだということになって──と早口に事の次第を説明し、大したことはないんだが──と結んでみせる。
日々煩雑な行政訴訟の裁判資料に埋もれて暮らし、読むだけで骨の折れる精密な判決文を書く男が、自分の身体のこととなると、順序も結論も要を得ない、ぐちゃぐちゃの説明になる。 (第1章 6)
●すると向こうも、あらかじめそういう反応を予想して構えていたのだというふうに続けて曰く、たまたま同級生の医者がいるからこの病院にしたんだが、おまえ、心臓サルコイドーシスって知っているか? どうやらそれらしいよ、先週、高裁の廊下で倒れて救急車の世話になって、不整脈だとか言われて精密検査をしたら、そのサルコイドーシスだということになって──と早口に事の次第を説明し、たいしたことはないんだが──と結んでみせる。
日々煩雑な行政訴訟の裁判資料に埋もれて暮らし、読むだけで骨の折れる精密な判決文を書く男が、自分の身体のこととなると順序も結論も要を得ない、ぐちゃぐちゃの説明になる。 (単行本p18 2)
【相違点】
○こういう反応はあらかじめ予想できたし、だから構えていたのだというふうに
●あらかじめそういう反応を予想して構えていたのだというふうに続けて曰く
○大したこと
●たいしたこと
○自分の身体のこととなると、順序も結論も要を得ない
●自分の身体のこととなると順序も結論も要を得ない
加納さんが話す前の部分が変更されましたね。
漢字とひらがなの違い、読点の有無等も、気付けば指摘します。
○人間には最期があることに思い至る自分のバカさ加減に、心底悄然としながら、合田は久々に会った旧友の顔に見入る。 (第1章 6)
●人間には最期があることに思い至る自分のバカさ加減に悄然としながら、合田は久々に会った旧友の顔に見入る。 (単行本p18 2)
【相違点】
○バカさ加減に、心底悄然としながら
●バカさ加減に悄然としながら
「心底」が削除されたんですね。
○できるだけ運動はしているし、健康診断で心電図の異常もなかったのに、不整脈なんて誰が想像する。何かだるいなあと思ったら意識が遠のいて、気がついたら救急車のなかだった。ああ、やっと東京に戻ってきたと思ったら、これで一敗地に塗れたなあ──。
公僕の誇りと、虎の尾を踏まない慎重さと、日和見と忖度と見て見ぬふりで裁判官の熾烈な出世競争を生き抜いてきた男も、さすがに動転しているのかもしれない。いまはあえて下世話な雑談をしていたいらしい友人の、左手手首の内側には真新しい絆創膏が貼ってある。 (第1章 7)
●加納は不本意そうに口を尖らせる。できるだけ運動はしているし、健康診断で心電図の異常もなかったのに、不整脈なんて誰が想像する。歩いていて何かだるいなあと思ったら意識が遠のいて、気がついたら救急車のなかだった。ああ、やっと東京に戻ってきて、地方巡りの後れを挽回するときだと思っていたら、これで一敗地に塗れたなあ──。
公僕の誇りと、虎の尾を踏まない慎重さと、日和見と忖度と見て見ぬふりで裁判官の熾烈な出世競争を生き抜いてきた男も、さすがに動転しているのかもしれない。いまはあえて下世話な雑談をしていたいらしい友人の、左手手首の内側には真新しい絆創膏が貼ってある。 (単行本p18~19 2)
【相違点】
●加納は不本意そうに口を尖らせる。 (新規追加。新聞連載に無し)
○何かだるいなあ
●歩いていて何かだるいなあ
○やっと東京に戻ってきたと思ったら
●やっと東京に戻ってきて、地方巡りの後れを挽回するときだと思っていたら
新規追加部分が多いですね。嬉しいですけど♪
○それで、どのぐらいの徐脈なんだ? 低いときは毎分四○ぐらい。 (第1章 7)
●それで、どのぐらいの徐脈なんだ? こちらから尋ねると、低いときは毎分四○ぐらい、という返事だ。 (単行本p19 2)
【相違点】
●こちらから尋ねると、 (新規追加。新聞連載に無し)
○毎分四○ぐらい。
●毎分四○ぐらい、という返事だ。
まだ途中ですが、新聞連載は単語や文章を削りに削ってたんだなあ、とわかりますね。
○それはちょっと落ち込むなあ。合田は同情し、心臓だからなあ、友人もやっと少し我に返ったというふうにうなだれる。昔から身だしなみのいい男が、白昼のパジャマ姿一つですっかり病人風情になっているのも、近ごろは白のほうが目立つようになった頭頂で、寝かしつけるのを忘れられた白髪が数本枯れすすきになっているのも、なんだか可笑しいような、寂しいようなだ。 (第1章 7)
●それはちょっと落ち込むなあ。合田は同情し、心臓だからなあ、加納もやっと少し我に返ったというふうにうなだれる。昔から身だしなみのいい男が、白昼のパジャマ姿一つですっかり病人風情になっているのを目の当たりにすると、さすがに茶化す気も起こらないが、近ごろは白のほうが目立つようになった頭頂で、寝かしつけるのを忘れられた髪が数本枯れすすきになっているのが、なんだか可笑しいような、寂しいようなだ。 (単行本p19 2)
【相違点】
○友人
●加納
○病人風情になっているのも
●病人風情になっているのを目の当たりにすると、さすがに茶化す気も起こらないが
○白髪が数本枯れすすきになっているのも
●髪が数本枯れすすきになっているのが
「加納」表記が増えてるのも嬉しい♪
○おまえの警大のほうはどうだ? 時間がありすぎて、余計なことばかり考えるよ。たとえば? そうだなあ、おまえに貸したままの『色道十二番』とか。 (第1章 7)
●おまえの警大のほうはどうだ? 今度は加納のほうが尋ねてくる。時間がありすぎて余計なことばかり考える、と答える。たとえば? そうだなあ、おまえに貸したままの『色道十二番』とか。 (単行本p19 2)
【相違点】
●今度は加納のほうが尋ねてくる。 (新規追加。新聞連載に無し)
○時間がありすぎて、余計なことばかり考えるよ。
●時間がありすぎて余計なことばかり考える、と答える。
またも加納さんに関して、新規追加。
ところで、『色道十二番』は合田さんが貸したのか、加納さんが貸したのか、どっち?
私は「合田さんが貸した」と思ったんですが、「加納さんが貸した」と解釈している方もいて、どっちなのかなあ、と。この違いは大きいですよ。
○どちらも還暦まで三年という年齢になり、相談したいことはいくらでもあるが、いつものように足腰のちょっとした痛みや日常の停滞感や惰性などに阻まれて、いっこうに実のある話にならない。しかも、一時期は合田が相手の妹を妻にしていた関係で、互いにいまも身内感覚が抜けず、当たり障りのない世間話で間を持たせるような気づかいもしない。
そういえば、明日で東日本大震災から六年だなあ。早いなあ──。何か欲しいものはある? そうだなあ、新しい心臓を一つ。
もう若くはない二人の男の沈黙の上で、すぐ近くの調布飛行場を離陸した小型機のゆるい爆音が南の空へ伸びてゆく。 (第1章 7)
●どちらも還暦まで三年という年齢になり、相談したいことは多々あるが、いつものように足腰のちょっとした痛みや日常の停滞感や惰性などに阻まれて、いっこうに実のある話にならない。しかも、一時期は合田が相手の妹を妻にしていた関係で、互いにいまも身内感覚が抜けず、当たり障りのない世間話で間を持たせるような気づかいもしない。
そういえば、明日で東日本大震災から六年だなあ。早いなあ──。ところで何か欲しいものはある? そうだなあ、新しい心臓を一つ。
もう若くはない二人の男の沈黙の上で、すぐ近くの調布飛行場を離陸した小型機のゆるい爆音が南の空へ伸びてゆく。 (単行本p19~20 2)
【相違点】
○いくらでもあるが
●多々あるが
○何か欲しいものはある?
●ところで何か欲しいものはある?
これで新聞連載2回分、単行本では4ページ分の、加納さんの該当部分ですよ。むっちゃ情報量が多いでしょ?
初見の新聞連載時に「こっちの心臓が止まりそう」と動揺したのを思い出します。加納さんショックで、日常生活に支障が出そうでしたもん。
本当は新聞連載の第一章の分で1回分アップしようと思ってたんですが、予想以上に単行本の新規追加も多かったため、力尽きました。
こんな感じで、やっていきます。 不定期更新になりますが、お付き合いしていただけると嬉しいです。
今回も握手はお願いできませんでしたが(緊張すると手が汗ばむため)、髙村先生の笑顔にきゅん♡としました。
さて、新聞と単行本の比較、ありがとうございます。
微妙な差ですが、並べてみると面白いですね。文章のリズムもそうだし、印象も少し変わる。
例えば、「何か欲しいものはある?」に「ところで」を付けたことで、合田さんは、入院に必要な日用品で欲しいものはないか?という意味で聞いたことが強調されているように思います。だからこそ、心臓という答えが返ってきた時、不意を突かれて、胸が痛んだんじゃないかというのが、より鮮明になっている気がします。文章のテンポは新聞版の方がスマートかもしれないけど。
それから、「加納は不本意そうに口を尖らせる」の部分は、あれ?こんな可愛い仕草してたっけ?と引っ掛かったんですが、やっぱり追加されてたんですね。
まだ読み始めたばかりで、今、楽しんでいる最中です。やっぱり髙村薫はいいなあ~。
サイン会、参加されたのですね。よかったです。
>微妙な差ですが、並べてみると面白いですね。文章のリズムもそうだし、印象も少し変わる。
そうなんですよね。 比較してみて、「まさか、ここまで」とびっくりしました。
>文章のテンポは新聞版の方がスマートかもしれないけど。
新聞連載1回分でも、上下にぎっしり文字が詰まってましたね。
それでもやはり、足りないと思われるところを足したり、変更されたりしている。
>「加納は不本意そうに口を尖らせる」の部分は、あれ?こんな可愛い仕草してたっけ?
合田さんの前だから、でしょうね。一番、心を許せる者同士ですから。
読書、ぜひお楽しみください。