あるタカムラーの墓碑銘

高村薫さんの作品とキャラクターたちをとことん愛し、こよなく愛してくっちゃべります
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第五話 凶弾  <捜査一課第三強行犯捜査第七係>

2005-10-10 17:57:52 | <七係シリーズ> 再読日記
第五話 「凶弾」 のご紹介。初出誌は「小説現代」1993年12月号です。

【柱の一文】
シリーズ完結/“外国人犯罪”の壁にぶつかった<警視庁第七係>刑事たち

【事件の発端】
東池袋でアジア系の射殺死体が発見される。国内の事件とは違って国際問題にもなりかねないため、捜査は難航していく・・・。

【今回のメインの刑事たち】
合田雄一郎警部補 林省三警部(モヤシ)
・・・ということにしておこう(笑) まあ、ほとんど全員絡んでますが、今回は珍しくも林係長が係長らしい働きを見せるので。

【感想】
<七係>シリーズ もこれでおしまい。「警察」とはいえ、出来ることと出来ないことの境界線や限度を味わう、合田さんのやりきれない思いが印象に残ります。・・・これはどれを読んでもそうなのですが・・・(苦笑)

しかし、腐っても合田さんは刑事だ。刑事である合田さんは、やっぱりいいですね~

但しこれも 第四話 「情死」 と同じく、ページ数が足りない~! と感じます。今はネタバレ出来ませんが、「パラレル・ワールド」と解釈した方がいい、と私は最初の頃に書いておいたのですが・・・読まれた方は、その意味がお分かりになったかと思います。

そしてラストを読まれた方で、『レディ・ジョーカー』 も既読の(特に腐女子の)方は、ある想像と妄想を働かせてしまうようです。実は私も、そうでした(笑)

【第五話のツボ】
七係の陰険漫才 も、これで読み納め・・・。

久々に、捜査の最初からキレかけている合田さん。ピリピリ神経のたっている合田さんには近づきたくはないけれど、こういう合田さんを端から見ている分には好きな私(笑) ああ、矛盾・・・。

実は合田さんより、お蘭の方が広東語や韓国語が分かるという事実。・・・「能ある鷹は爪を隠す」か、お蘭?(笑)

再三、見られていると思う合田さん。刑事という商売も、辛いとこですね・・・。

合田さんとお蘭の、かみ合わない会話・その1とその2

七係の絶妙のコンビネーションも、これで見納め・・・。

このシリーズ中、初と言っていいほどの林係長の見事な推理。「現場のたたきあげ」は、やはり強いのか・・・見直した、係長! あんたも腐っても「刑事」や!(←暴言)

今回の最大のツボ。襲撃され、撃たれてしまった 合田さん。(ネタバレのため、隠し字。セレクトでネタバレはしています。ごめんなさい) しかし、その後がまた合田さんらしいというか・・・。好き  (笑)

***

【名文・名台詞・名場面】
今回は最後ということもあって、「刑事・合田雄一郎」 に焦点を当てたいと思ってますが・・・上手くいくでしょうか?

★「賭けようか」路地にぐるりと目を巡らせた吾妻が合田をつついた。「本部は立たんな、これ」 (中略)
「いや、立つ」と合田は応えた。
「俺は立たない方に千円」と吾妻。
「俺は立つ方に千円」
「立たなきゃ野郎やめろって」横から又三郎が口を出し、けだるい笑い方をした。

今回の「七係の陰険漫才」 又さん、二枚目なんだからあんまり下ネタは言わないでね・・・と思うのは、私だけだろうか? ・・・私だけだろうな(苦笑) こういう軽口叩けるのが、又さんの魅力なんだものね。

★いいとか悪いとかの問題ではなかった。そう思わなければ、今の東京で刑事はやってられない。

★機捜の男の言いぐさは否定できない部分はあるものの、そこにあるものはさなざまの不条理だった。在ってはならないことと、現に在ること。したくないことと、しなければならないこと。その溝の上に警官一人ひとりが立ったとき、結局は職務の遂行しかないのだから、怖いなどという感情を持っても一銭の足しにもならない。
上記二つの引用。何度も出ている、合田さんの刑事の心得のようなもの。矛盾だ、理不尽だ、と分かっていても、やらなきゃならない「刑事」という仕事。いや、刑事に限らず、仕事をしている人間の大半はそうですよね。

★歩いて街を見たかった。よく知っている街だが、一つ事件を孕むたびに、知らない街になる。
ああ、「刑事の眼差し」だなあ・・・としみじみ感嘆してしまいます。

★「アジアやなあ」と思わず呟いたら、隣の傘の下で、森が買い食いの握り飯を喉に詰めて何かぶつぶつ言った。
「今ごろ何ですか」
「いや。東京も遂にアジアになったと……」
「今までは、東京は何だったんですか」
「東京」
森はもう返事もしなかった。

合田さんとお蘭のかみ合わない会話・その1。
しかしこれには前段があって、
★その猥雑で旺盛で真摯な活力が、ガラス張りの超高層ビル群の真下にあるというのが、この極東の島国の掛値なしの現在だと、合田は最近よく思う。
・・・という合田さんの感慨が口に出てしまった、というところです。これも高村さんの感慨でもあるのでしょうね。

「アジア」に関する表記、もう一つ挙げておきましょうか。

★この東京にうなる金、高度な先端技術、豊富な情報に海の向こうから引き寄せられる人々は、共存ではなく奪取のために集まり、夢破れても尽きない金に群がって当座の居直りを決め込み、自国の生活感覚を持込んで、地域とは融和しない生活圏を作り上げる。大陸の華僑が東南アジアに根づいた在り方に代表されるように、住みながら交わらず、多様な文化がそのまま交錯し衝突する、その在り方がアジアなのだ、と。金満ボケで自国の方向感覚を失った東京の足元は、今や虫食いのアジアそのもののように自分の目には映る、と。
こう語った合田さんに対して、お蘭はどう思ったやら。それは次をお読み下さい。

★「それで?」
「俺の頭の中身が、時代についていけるかどうか、心配で」
「人間は悩むうちは努力する、と言ったのは誰でしたっけ」
「ゲーテ」
「とにかく、心配ないです」森は白けた面でさらりと言ってのけた。「交わらなくても、話は出来ます。主任と私みたいに」
ズレているような、的を射ているような。森と相対していると、頭の中心軸がきりりとねじれてくる。

合田さんとお蘭のかみ合わない会話・その2。 トドメはお蘭の名台詞! これはお蘭の一本勝ち! 合田さんの負け!(笑)

事件はこの後、それ相応の展開があるのですが、割愛させて下さい。以下は、とりあえずひと段落ついた後の出来事です。「刑事・合田雄一郎」の在り方を、しかとご覧あれ。


★合田とて限界を感じないわけではないが、幸か不幸か日々の現場ではやることが多過ぎて恐怖を懐いているヒマがない。少なくとも、今回の東池袋の射殺事件まではそうだった。あの路地ではたしかに、これまでは必要なかった種類の神経が働いた。法と警察で守られてきた治安の根底が、すでに破れ始めている予感。強行犯における怨恨・物取り・痴情の三本柱の動機が通用しない犯罪の予感。犯罪の常識が次々と覆されていく今、警官も安全ではない時代が来ているのかもしれない。

★しかし、だからといって、問題は刑事が武装することで解決するわけでもない。拳銃を携帯しなければ危なくて地どりも出来ないような時代が来る前に、国も自分もしなければならないことがある。そんな風に考えるのは半分は建前だが、建前があるから自分たちは毎日こんなことをやっていられるのだ。
かなり長いですが、上記二つの引用。これも「合田さん=高村さん」の視点でしょうね。改めて驚くべきことは、これが10年以上も前に書かれた作品であること。ここだけ読むとちっとも古びてません。10年後の社会を予言しているかのようにも思えますし、それとも現実の社会が(悪い意味で)小説に追いついたというようにも見えます・・・。確かに、何が起こってもおかしくないイヤな世の中になりました(苦笑)

★合田は、刑事仲間の本音など聞きたくはなかった。傷を舐めあうヒマがあったら、猥談をやっている方がマシだ。
猥談やってる合田さんなんて、想像出来ないわ! まさか加納さんとは、やってないでしょうね!?(←またまたポイントずれてます)

★合田はしっかり這っていた。這いながら、どこを撃たれたのか冷静に考え、致命傷ではないとこれも落ち着いて考えていた。 (中略) 生命の証としての痛みと、それを感じる余裕に対する喜びが生温かい血の中にあった。それをあざわらう別の心痛や、頭半分が真っ白になったような驚愕も、血の中にあった。
これよ、これこれっ! こういうところが、「ああ、やっぱり合田さんやわ・・・」と思わせるところ・その1。

★俺はどれも要らない、どれもうさんくさい、どれも狂ってると腹の底でわめきながら、合田はそろそろと這い進んだ。
そうそう、これよ、これなのよっ! というのが、「ああ、やっぱり合田さんやわ・・・」と思わせるところ・その2。

この後、合田さんは病院へ行くのですが・・・その後の展開は、全て読者の想像におまかせ、というところ。「パラレル・ワールド」と言い切った私見が、分かるかと思います。
一つだけ言わせてもらうなら、果たして加納さんは病院へ駆けつけたのか!? 例の名台詞を言ったのか!? ・・・それは永遠に闇の中・・・。


***

後日、追加と修正の予定ではありますが、ひとまず <七係>シリーズ再読日記 は、完結いたしました。
ここまでお付き合い下さいまして、ありがとうございました! 私も楽しかったです♪


第四話 情死  <捜査一課第三強行犯捜査第七係>

2005-09-07 01:06:47 | <七係シリーズ> 再読日記
第四話 「情死」 のご紹介。初出誌は「小説現代」1993年10月号です。

【柱の一文】
新直木賞作家の人気シリーズ/ベテラン刑事・肥後の不可解な行動
↑これは 『マークスの山』(単行本版 早川書房) のことです。 

【事件の発端】
事件番の朝、一週間前に南荻窪で起きた殺人事件の捜査本部が立てられ、七係が担当することに・・・。

【今回のメインの刑事たち】
合田雄一郎警部補  肥後和己巡査部長(薩摩) 吾妻哲郎警部補(ペコ)
柱の一文では肥後さんが中心ではありますが、ペコさんもちょっと絡んでくるので・・・。今回は肥後さんとペコさんの両方が、トラブルメーカーですね。

【感想】
第三話 「失踪」 が脱線した物語だったので、これは意外と堅実で地味な話に感じられるかと思われます。事件そのものも、結局は「男女の仲」に関するもの。
とはいえ、少しは笑える場面もあるので、そこの部分が私は好きですね~。「笑い」のある話は、全五話中、これだけかもしれないなあ。

「笑い」を抜きにしますと、特に中年以上の男性の方には、「わかる、わかる」と共感できる部分も多い話ではないでしょうか。

ただ、今回はページ数が足りなかったのかな~と感じられるような終わり方。特にラストの合田さんと肥後さんの会話を読んでいると、無理矢理カットしたというか・・・。珍しく、ほとんど会話だけで締めくくっているんですよね。

【第四話のツボ】
<肥後とジャケット>の逸話。肥後さん、侮れません!

同じく、肥後さんのヴェルサーチのジャケット。四十代でヴェルサーチ着ている男性って・・・ どんなもんなんだろうか・・・。

同じく、肥後さんのヴェルサーチのジャケットに対して、七係それぞれの反応

出動が決まる前後の、七係の漫才

合田さんの名台詞。経験した男でないと、これは言えませんね。

キレそうになるのを辛うじて抑えているのが、ありありと分かる合田さん。

今回の最大のツボ。伊勢丹のブティックに入って、スーツやジャケットの値札を見て驚き、こそこそ引き揚げる合田さんとお蘭。

中年男の心境を、合田さんに語る肥後さん。十年の差は大きいだろうなあ・・・。

***

【名文・名台詞・名場面】

★肥後は、多摩で手広く進学塾を経営しているやり手の奥さんと折り合いが悪いらしく、始終よそに女をつくっているのだが、女を取り替えるたびにジャケットもついでに取り替えるのが習わしになっている。なぜそうなるかというと、今日でお別れという女の家に、わざと自分のジャケットを記念に置いてくるからだ。そして次のゴミの収集日に、その家のゴミ袋をわざわざ見に行く。ゴミ袋に自分のジャケットが入っていたら、これで後腐れなしと思いきり、もし入っていなければ、また折々に電話でもしてやろうかなと思うのだという。
これが名高い<肥後とジャケット>のエピソード。なかなか合理的で、未練がなくて良いかもなあ。こういうサバサバした男なら、女にとっては楽ですねえ(笑)
もしも私がこの女性の立場なら、どうだろうなあ。捨てるかな? 捨てないかな? 分からないな。恐らく、こういう立場の女にはならないと思うけど? 

★「おう、やったぜ」 (又さん)
★「今度は気合が入ってるぞ」 (ペコさん)
★「まあ……な」 (合田さん)
★「ウワッハッハッ」 (十姉妹ちゃん)
★「サバの鱗ですな」 (雪さん)
以上は、新しい肥後さんのジャケット見ての七係の反応。台詞だけピックアップしてみました。(十姉妹ちゃんは、台詞といっていいのかどうか・苦笑)
どんなジャケットかと言うと、ジャケットの生地は、たしかに何だかきらきら青光りしていた。そこに銀の細いストライプ。
・・・「派手地味」というか、「地味派手」というか・・・。

★「今日は事件が入らないって、新宿の八卦見が言ったんだ」という声は肥後だった。「だからこれを着てきたんだよ、俺は」
「デートか」と又三郎。
「ばかやろう、人生、もっとマジな話もあるんだ」
「離婚話で家裁へ行く、とか」
「家裁は判事が盆休み」と雪之丞。
「お前らには分からんさ」と肥後。
「分かってたまるか、中年男のロリータ・コンプレックスなんか」
「うるせえ、低脳ども」
うはは、と十姉妹が忍び笑いをした。

毎度お馴染み、もはや名物の「七係の陰険漫才」。十姉妹ちゃんの笑いで、シメ!

★とびっきり優秀だが、とびっきり勝手な奴だ。こんな奴がいるから、残りの者は無難になるしかない。
合田さんのペコさん評。「無難になるしかない」って・・・自分自身も含めてですか、合田さん?(苦笑)

★「女が絡んだ諍いなら、《敵》云々いう言葉はちょっと違う」合田は無意識に、個人的なその場の感情に任せて余計なことを言った。「嫉妬いうのは、作るもんやなくて、生まれるもんや。敵を作るというのとは、ちょっと違う」
今回の合田さんの名台詞! どころか、 <七係>シリーズ 中、合田さん屈指の名台詞でしょう。
しかし言われた独身のお蘭には、その真意はさっぱり伝わらなかったようです・・・。

★「貴様、俺をなめとるんか」という怒号も引っ込み、代わりに「報告ありがとう」ととりあえず応えた後、「で、君は何が言いたいんや」と穏やかに尋ねた。
肥後さんと組んでいる多田巡査の「注進」を聞いた合田さんの反応。人、これを合田さんの「外面似菩薩、内面如夜叉」という・・・かもしれない。(「外面似菩薩、内心如夜叉」は、本当は女性に対してのみ使うんですけどね。何となく、この言葉が思い浮かんだの)

★何食わぬ顔で森と二人、秋物に変わったスーツやジャケットなどを数点眺め、値札を見、顔を見合わせた。どれもこれも完全に桁が一つ多い。声も出ずに、こそこそ引き揚げた。
デパートを出てから、森が「肥後さんのジャケット、三万じゃなくて三十万ですよ、あれ」と呟いた。

肥後さんのジャケットの入手先をたまたま知った合田さんとお蘭が、こんな値段の世界もあるということも初めて知ったのですね。
ちなみに私はあんまりブランド品には興味はないですね。

★都内の住宅街の路地は、昼間はそれなりに閑静であったり、逆に雑然とした生活臭があったりするが、夜になるとどこも荒涼とした感じになるのは、街灯のわびしい蛍光灯のせいなのか。それとも、表通りの賑やかな猥雑さから逃れて休らう住人たちの、息づかいの希薄さのせいか。
普段は忘れているが、夜の路地を一人で歩くとき、自分もそうした住人の一人なのかと思い、寂しいような気分になることがある。

久しぶりに「都市・街・町」の描写を取り上げてみました。合田さんからの視点に托しています。

以下は、事件がひと段落ついた後の合田さんと肥後さんの会話からピックアップ。哀れで悲しいという言葉で片付けられない、中年男性や夫婦関係の心理が窺えます。合田さんのみならず、私にもいろいろ勉強になりましたわ(笑)

★「やっと自分の財布が持てるようになったら、一度ぐらい女の前で金をはたいてみたいと思うもんだ。言っておきますが、私のことを言ってるんじゃないですからね」
事件の関係者の一人・井原亨(いはら・とおる)のことを評した、肥後さんの台詞。

★「女が四十にもなると、そう簡単に《あれか、それか》という話にはならんのですよ、多分」
井原の妻・康子に対する肥後さんの台詞。そう、女も悲しい生き物なのですよ・・・。私はまだそういう心境に達してはいませんけどね(苦笑)

★女房に頭の上がらない男は多いが、肥後の場合、自嘲だけでなく、出来ることなら投げ出したいといった苦い思いが見え隠れしている。諦めでは収まらない、危険な揺れを抱えて女の間を渡り歩くのも、《あれか、それか》という話ではない。
肥後さんは、進学塾を経営している奥さんのことを、<うちの女史>と呼んでいます。
しかし・・・何で肥後さんって愛人が次から次へと出来るんだろうか・・・。私もお蘭と一緒で、この件に関しては良く分からないや。

★「ほんとは、瑠璃子に少しは惚れたんでしょうが。ここのとこ、ぼんやりしてたくせに」
「さあね……。そんな気持ちになれるもんなら、なってみたいですな。若いきれいな子を見て、ふらふらとなることも出来ないのが、齢四十五の現実だ。主任、あんたもそのうち私の気持ちが分かるようになると思うが、十年早いですよ、十年」
「ま、覚悟してます。乾杯」
「乾杯」

これが第四話の締めくくり。檜山瑠璃子(ひやま・るりこ)も事件に間接的に関係している人物で、肥後さんがジャケット買った時の担当店員でもありました。彫りの深い知的な顔だちの美人だ。どことなく皇太子妃に似てなくもない。 とは、合田さんの瑠璃子評。
・・・しかし合田さん・・・他人の恋愛事情は見抜くくせに・・・(ごにょごにょ)

***

後日、追加と修正の予定。

さて、残りは第五話のみ。えらく時間かかってますが、ご了承くださいませ。

第三話 失踪  <捜査一課第三強行犯捜査第七係>

2005-08-30 00:48:54 | <七係シリーズ> 再読日記
第三話 「失踪」 のご紹介。初出誌は「小説現代」1993年8月号です。

【柱の一文】
日本推理作家協会賞受賞第一作/気鋭が挑む注目の警察小説
↑これは 『リヴィエラを撃て』(新潮社) のことです。 

【事件の発端】
110番に、上田哲司(うえだ・てつじ)という男から「大倉一夫(おおくら・かずお)を殺した」という電話があり、その後上田は飛び込み自殺。失踪事件ということで招集のかかった七係、調べが進むうちに、有沢三郎(又三郎)に不審な行動が・・・。

【今回のメインの刑事たち】
合田雄一郎警部補  有沢三郎巡査部長(又三郎)
今回は又さんが、半分は主人公なものです。なぜなら珍しくも、又さんの視点から描いた場面があるからです。

【感想】
全五話中、最大の異色作と目される理由の一つは、上記にも書きました。もう一つの理由の隠れたテーマとしては、刑事の「私」と「公」と「逸脱」・・・かもしれない。又さん、辛いよねえ・・・。

今回は又さんの「私生活」と「過去」が判明するお話でもあります。又さんのとんでもない過去に、ぶっ飛んだファンは多いと思われる・・・。
私は <七係>シリーズ を読む前に、又さんの有名な台詞とその前後のことを先に知ってしまっていたので、あまり驚きがなくて、それが残念ではありましたが(苦笑)

あうう、本筋の事件のことも書かねば。今回の事件も結構、複雑。恨み、勘違い、恐れが招いた殺人・・・になりますか。
その殺人に、自分の知人が絡んでいるとなると、誰でも平静ではいられないもの。『照柿』(講談社) の合田さんしかり、今回の又さんしかり・・・。

【第三話のツボ】
四課の吉原警部。 『マークスの山』(旧版・新版) でも、一癖も二癖もある存在感を示していましたが、今回もいい味出してます。今回の最初の方でも独壇場でしたし。私が好きなのは、物語の中盤に出てくる、秦野幸吉の女(←名前がない)との会話です。

雨が窓から吹き込み、びしょぬれになった台所のビニールタイルの床を見て、途方にくれる合田さん。結局、誰が掃除したんだろう。合田さん? 加納さん?

ペコさんのダジャレ。オヤジギャグと言うべきか・・・。

合田さんと又さんの二人きりの秘密の会話。(後で紹介します) 又さんの名台詞、続出!

又さんの逸脱した行為と、その手段。捜査一課一の二枚目、口八丁手八丁の色男でないと出来ないわ・・・。

今回の最大のツボは、又さんと関東青竜会若頭・秦野幸吉(はたの・こうきち)との会話、全部。この二人の関係が、今回のミソでもあります。これまた、又さんの名台詞、続出!
遅くなりましたが、秦野幸吉さんは、『照柿』 の秦野耕三組長とは赤の他人、無関係。混乱しないように。

逸脱した又さんの危機に、逆上して一致団結する七係メンバー

ストッキングをかぶって、入院している容疑者を脅しに行く合田さんとお蘭。どこから入手したの? 買ったの? それとも女性警官から借りたの? どのみちそのストッキングは、使い物にはなるまい・・・(苦笑)

十姉妹ちゃん、唯一の見せ場のアクションシーン

***

【名文・名台詞・名場面】

★口八丁手八丁、男気と愛嬌で誰にでも好かれ、暴力団であろうが平気で口をきき、それなりの情報網を築いてきた実力はある。その立ち居振る舞いがあちこちの羨望や中傷を買っても、さっさと笑い飛ばす度胸もある。しかし、それはかなりの部分、負けず嫌いの虚勢や、投げやりな反抗や屈折の複雑な所産であって、なかなかひと筋縄ではいかない男盛りの又三郎だった。だいいち、みんなの予想を裏切って、私生活では同郷のしごく地味で物静かな女性と所帯を持っている。
長い引用ですが、第三話は「有沢三郎」という男にも焦点を当てているので、この部分は欠かせないなと思いました。

★「殺人があったのかもしれないのだぞ。これが重要でなくて何なのだ」と練馬署の幹部が顔をしかめた。
「《かも知れん》じゃ話になりません。私らは、いるかいないか分からないホトケを探すほどヒマじゃないんだ」
「時計がある!」
「そんなもの、ほうっトケイ!」と吾妻。

はい、ペコさんのダジャレです。・・・こんなダジャレを言ったことある人、挙手!
ちなみに捜査会議は笑い声が起こり、合田さんはペコさんの足を蹴って黙らせました。

★「あのな、主任。俺がヤアさんと飲めるのは、ネタの売り買いをしないからよ。覚えとけ。俺は、情報網を作るためにこの顔を売ってるわけじゃねえ。どこかの組が大倉殺しにかかわっているなら、俺はやることをやるだけだ」
又さんの台詞。彼の矜持が見え隠れしていますね。

★そうは言うが、親しくなれば人情で情報は流れる。仁義に則ってネタを使わないというのなら一種の怠慢か裏切りであるし、潔くネタを捨てているにしては、又三郎は現実に優秀な成績を上げ過ぎている。
しかし、合田は詭弁だとあげつらうつもりはなかった。わずかの危惧を残しつつ、いつもの通り、大筋ではこの男を認めた。ある意味で単純明快な又三郎の浪花節を笑うほど、自分は偉くもない。

合田さんから見た又さん評・その1。合田さんも大阪人だから、浪花節の何たるかは痛いほど解るよね・・・。(←ポイントずれてます)

★「それも結構だがよ、いざというときにやることがやれないのは、腰抜けだぞ」
又さんの台詞。男気に溢れてます。

★いつも軽快な衣の下の素顔は、人一倍固く、人一倍大きな自負に満ちているのだが、そこの部分に触れると、とたんに激しく反応する。自分の仕事に自負を持っていたという鉄筋工の上田哲司に、少し似ているのかもしれない。又三郎は怒っているのだと、合田は遅ればせながら考えた。怒らせたのは自分だった。その生き方の大事な部分に不信を懐いたのは事実だから。
合田さんから見た又さん評・その2。

★又三郎は一日潰して、女を落としたのだった。青竜会幹部の女を相手に、脅したり、丁々発止とやり合ったわけではあるまい。男と女がなるようになる次元で、取るべき果実をとったのだろう。考えると、呑み下せない熱い塊が喉につかえ、身震いが出た。
踏むべき道を踏まず、番外地で一気に核心に食らいつくようなやり方は問答無用で一蹴できるが、個人の動かしがたい必要にかられて、やってはならないことをやり通す常念の強さと爆発力には、言葉がなかった。自分とて機械ではなく、又三郎以上に感情も欲望もあるのに、発露の仕方が違い、結果の出方が違う。そのことに、うちのめされた。理性では一蹴しながら、嫌悪や嫉妬の塊に火がつく思いがした。
女に吐かせた……? なんてことをするのだ。なぜ、そこまでするのだ。

ちょっとネタバレしますと、又さんは青竜会若頭・秦野幸吉の女に近づき、大倉一夫の殺しと失踪に関する重大な情報を掴みます。
その又さんとのあまりの違いに、愕然とする合田さん。しかし又さんがそこまでする理由は、判りません。
合田さんは残りの七係を召集して、又さんの逸脱と危機を知らせます。このことが公になれば、自分たちのクビにも関わってくるからです。

この間、吉原警部は秦野幸吉の女の所へ行き、又さんは女からの情報を元に、銀座にいる秦野幸吉に会いに行きます。


以下、今回のメイン、有沢三郎と秦野幸吉の会話をピックアップ。

★「こんなことは最初で最後にしてもらおう」
「二度したくても出来ねえようにしてやる」
「……若いな。あんたは。御上も下司も、人間、冥土は一つよ」

秦野幸吉の車に乗せてくれ、と頼んだ又さんと、受けた秦野幸吉の二人の名台詞がこれからボンボン出てきます。

★「三郎。……仕事の話はしたら最後だ」
「分かってる。そのつもりで来た。殺しは見逃すわけにはいかん」
「何の話か分からんな」
「もう証拠は挙がってる。目撃者もいる。死体が出てくるのは時間の問題だ」

幸吉さん、「三郎」と呼び捨てに。この二人の関係って、一体・・・?

★「何が言いたいんだ」
「地獄に落ちろって。自分のやったことを悪いと思ってないんだろう? 俺はそういう奴は犬以下だと思っているからな」
「ヘッヘッ、あんたはどれほど偉いんだ」
「少なくとも俺は恥じる心がある。人殺しと兄弟の杯交わしたのかと思うと眠れん。同郷の恥だ。俺もあんたも」
「同郷の恥? 神奈川県川崎市の恥か」

何とこの二人は、昔馴染みの関係のようです!

★「多摩川緑地でよ、お前と俺とで女をナンパしたの忘れたか。浮島の方の空を見たら、煙突の火が赤と緑に燃えててよ。その時お前が言ったの。人生虚しい、って。さんざん出したあとによ。覚えてるか」
「今はもっと虚しい。人殺しと3Pやったのかと思うと」

幸吉さん、又さん共に、衝撃の台詞!

★「だから?」
「心中しようぜ。兄弟だろ?」

出ました、又さんの名台詞!

★「おい……」
「要するに、人一人殺したら、取り返しがつかねえってことよ。あんたは改心する見込みはねえし、ひとりで罪を償う勇気もねえだろ。だから一緒に死んでやると言ってるんだ。さあ、行こう」
「タチの悪い酔い方しやがって……!」
「人殺しが何を言うか!」

キレたら怖い又さん、怒ってます。だけど合田さんと野田達夫の関係よりは、マシかもよ・・・?

この間に合田さん・お蘭・雪さんは、関係者の一人・山岸隆雄(やまぎし・たかお)が入院している病院へ行き、脅して情報を得ます。その情報を受けた林係長は、ペコさん・肥後さん・十姉妹ちゃんに知らせて、守山博史(もりやま・ひろし)の身柄を確保します。


★全員が逆上していた。普段ならやらないことをした。それならの自制、あるいは保身のための防御は働いていたにしても、朝にはせせら笑っていた事柄について、夜にはこんな風になる自分たちの短絡にほとんど気付くこともなく、普段はてんでんばらばらの仲間が突然一枚岩になる不気味さに気も付かず、皆がほとんど無意識に走ったのだった。
これはいったい何だろう。合田がそんなことをあらためて考えたのも、ずっと後になってからのことだった。

ホンマにこんなことは二度とないでしょうねえ・・・。

★「秦野が自首してきたぞ」と合田は言った。又三郎は「へえ」と鼻先で応えただけで、振り向きもしなかった。さまざまな思いを押しつぶして、低く吐き出すような声だった。
「俺はな……自分が情けねえのよ」

入院している又さんを見舞いに来た合田さん。今回の事件に関する又さんの締めくくりの言葉が、全てを表しているでしょう。

「有沢三郎と秦野幸吉の関係」と、「合田雄一郎と野田達夫の関係」は、表裏一体かもしれないなあ。前者の関係を参考に、発展させて深く掘り下げたのが、『照柿』 での後者の関係・・・と言ったら、穿ちすぎでしょうか?
(この時点では、『照柿』 は上梓されていません)

***

今回はかなり力入れたなあ・・・。ああ、眠い・・・ 

多分、後日追記します。

第二話 放火(アカ)  <捜査一課第三強行犯捜査第七係>

2005-08-27 04:46:44 | <七係シリーズ> 再読日記
第二話 「放火(アカ)」 のご紹介。初出誌は「小説現代」1993年6月号です。

【柱の一文】
警察小説の傑作/同じ団地の少年から友達が殺人を犯したと密告された刑事

【事件の発端】
広田義則(雪之丞)が、中学生の野村治幸(のむら・はるゆき)に声をかけられ、同級生の倉田和己(くらた・かずみ)が放火をして祖母を殺した、と打ち明けられる。
・・・ところが実際は管轄が違うので、<七係>にとってはメインの事件ではないんですよね。さて、どうやって係わっていくんでしょうか?

【今回のメインの刑事たち】
合田雄一郎警部補  広田義則巡査部長(雪之丞)  森義孝巡査部長(お蘭)
雪さんはメインとはいいつつも、あまりメインでもないような気も・・・(←どっちやねん)

【感想】
私のご贔屓、雪さんの「私生活」の一端が判明するお話でもあるので、個人的には嬉しい♪ 私がどれくらい雪さんが好きかと言ったら、偽装結婚してもいいくらい好きなのだ~ (大笑) 雪さんはおとなしいし、真面目だし、生きるのにちょっと不器用な人かもしれないけど、そういう部分に私は惹かれる。

さて、今回の話の内容は重くて、濃いですよ。「少年犯罪」がメインテーマ。いかにも高村さんらしい切り口で描かれているので、心に何かが引っかかり、虚しいものが残り、後味もあまり良くはない。
だけど「少年同士の確執」という言葉で簡単には片付けられないんですよね。

「大人」と呼ばれる年代になってしまった今となっては、この年代の人たちは、「大人」は「分からない」・・・というより、「永遠の謎」と言い切った方がいいかもなあ・・・。
「少年」って、いくつになっても謎の存在だ。

それにしても十年も前の作品なのに、テーマが古びていないのが、やはり凄い。これは現実の社会が、十年前とちっとも変わっていないという証拠? 毎日のように、「少年犯罪」と一括される事件が起こっているもの。その事件の内容は、「なぜ?」と思わずにいられないほど、多種多彩だ・・・。

【第二話のツボ】
義兄から 「読め」と押しつけられた 本、《ローマ・ある都市形成の歴史》 を読んでいる合田さん。くそ食らえ。 はないでしょう(苦笑) ところでこの本、まだ存在するのかなあ。さしずめ今で言うところの、『ローマ人の物語』 みたいなものかしらん?

第一話で登場したお蘭の持っているテープは、全二十巻もあることが判明。一体いくらだったんだ? 一括払いか、ローンか? (←ほっといてやりなさい)

合田さんと雪さんの二人きりの秘密の会話。(後で紹介します)

サングラスをかけて、ガラの悪い男を演じるお蘭。お蘭にサングラスは似合わない気がするけど・・・。

地検にいる読書狂の義兄 という、今度は11文字だけで存在を示している「義兄」こと加納祐介さん。 義兄 という単語は、後にも先にもこれ限り!

その義兄を差し置いての今回の最大のツボ。付き合っている《女》の写真を合田さんに見せる雪さん。・・・何でわざわざ合田さんに見せるの~!? (これ以上は自爆しそうなので、ノーコメント)

***

【名文・名台詞・名場面】

★傍で、肥後部屋長のオッサンがいきなり「ケツの穴とかけて、雪之丞と解く」などと言った。すると、例によって声のでかい有沢《又》三郎が「そのココロは」と受け、声を低くして「クサイ、クサイ」と笑う。
「おう、クサイぞ、そこの二人!」と吾妻主任のくそったれまでが調子を合わせた。
 
今回の「七係の陰険漫才」。合田さんと雪さんがひそひそ話をしているのを見ての、おちゃらけ会話(笑) 七係メンバーって、仲がいいのか悪いのか、どうもよく分からないわ・・・。

★事情が何であろうが、余計な労力、余計な時間を割いて、余計な事柄で頭を使うこと、そのこと自体にいつも忸怩となる。
雪さんが面倒なことに巻き込まれたと知っての、合田さんの述懐。ホンマに他人には優しくないよね、合田さん。(第一話を参照) だけど裏を返すと、これは人間のギリギリの本音かもしれない。『レディ・ジョーカー』 で生まれ変わる前の合田さんは、他人に拘わるのを極端に嫌がっていたきらいがありましたからね・・・。 

★「主任たちもそうだろうが、俺は一歩外へ出たら、自分がどこそこのなにがしだということは誰にも言ったことはない。それなのに、見ず知らずのガキから『本庁の刑事さんですか』と言われたんだ」
この雪さんの台詞で分かるのは、「刑事は素性を隠すべし」ということですね。 『マークスの山』 で写真を取られたお蘭が、捜査から一旦外されたのは、そのせいか。
隠しておかないと、大変な目に遇うことは想像に難くない。
「刑事だ」と言ってしまうと、両極端の反応に分かれるとは思う。根本的に苦手な人・毛嫌いしている人と、まるでスーパーマンを見るみたいに、依頼心・依存心を表明する人と。

★なにせ、春の夜に男一人で寝ていると、ろくでもない事を考え過ぎる。欲も得もなく疲れきるまで、床には就かないのが一番で、ただそのために歩いているというのが正直なところだった。かなり、消極的な人生だ。
これは合田さんのこと。こんな男はなかなかいない。

★耳には、いつものウォークマンのイヤホン。この森に、音楽で精神の何かをコントロールするとかいうインチキ・テープ全二十巻なるものを売りつけたセールスマンは偉い。
こういうテープ、十数年も前に流行ったことがありましたねえ・・・。今なら「ヒーリング・ミュージック」というものでしょうか? ところでこういうのをまだ持っている人、いるんでしょうか? どんなものなのか、一度聴いてみたいわ(笑) 

★さすがにこれ以上ガキの話に首をつっこむのは願い下げだと思う一方、そうした小さなトゲはペンチを持ちだしても引き抜かなければ気がすまないのが、合田の神経だ。
刑事の習性ならば致し方ないところですが・・・細かいぞ、合田さん!

★「新宿のどこで」
「三丁目」
「三丁目のどこ」
数秒置いて「十八歳未満お断りの映画館」と雪之丞は吐き捨てた。それから「最悪だな」と自分で呟く。
ばかばかしい。笑う気にもなれず、合田は「そのときは一人だったのか?」と続けた。
雪之丞は首を横に振る。
「連れがいたのか。……男か」
「まあ……近い」

合田さんと雪さんの会話・その1。雪さんに「同級生が人を殺した」と声をかけた野村少年の態度が癇に障ったので、「以前に面識があったんじゃないか」と訝る合田さんに問いつめられた雪さん。ここで初めて雪さん本人の口から、同性愛者だと匂わす言葉が出てきます。

★そういうことなら、話は分かる。同性愛者の雪之丞が、連れ合いと一緒のところを治幸に見られたというのなら、一種の悲劇だ。
ばかばかしい。合田は腹立ち紛れに「そうか」と一言うなずいた。
「最悪だな」と雪之丞は自分で呟く。
「ビデオ、借りたらええものを」
「機械、持ってない」

合田さんと雪さんの会話・その2。雪さん、「最悪だな」 と繰り返し、合田さん、ばかばかしい。 と繰り返すところが、珍しいような気が・・・。
雪さんがビデオ持ってないのは、何となく雪さんらしいなあ、と思えるのも不思議だ。

★「別に」
若い連中のいう、この《別に》のおかげで、大人の常識はちょくちょく振り回される。とぼけているのではなく、ただたんに《別に》という気分がある。しかし治幸の《別に》は、明らかにシラをきっている感じがあった。

今では便利な相槌の言葉になっているけれど、使い方一つで、不快感を増す言葉でもありますね。

★「なあ……、この前、電車で和己が読んでた本、何やったっけ」
「《ボヴァリー夫人》」
「よもや自殺などせんだろうな……」
「さあ。砒素は飲まないでしょうが」

合田さんとお蘭の会話。ここで判るのは、二人とも《ボヴァリー夫人》を読んだことがある、ということだ。よもや今流行の「あらすじ本」で読んだわけではあるまい。もしもそうなら、二人を軽蔑してやる(苦笑)
ちなみに私は、読んだことありません。でも簡単なあらすじは知ってますし、テレビでやっていたフランス映画でも観た覚えがあります。
ところで《ボヴァリー夫人》は、男性が読んでいて面白いんだろうか・・・?

★合田は考えるのを止めた。考えて不条理に陥るくらいなら、考えない方がマシなのだ。
待つという行為。その時間。それを一番楽にやり過ごす方法は人それぞれだが、合田はいつも出来るだけ荒唐無稽な本を選ぶ。《ローマ・ある都市形成の歴史》は、なかなかのものだ。

この辺りの合田さんには、非常に共感できる。グタグタ考えて心身ともに悪い影響を与えるよりも、現実逃避した方がいい場合もある。普段は「刑事」という現実世界を生きている人だからね。雪さんが映画を観に行くのも、十中八九、そのせいだろうなあ。

★これが刑事のろくでもない勘だ。やがて起こるかもしれない悲劇を、何かの形で感じる。事実と証拠に照らし合わせて何がどう、ということは言えず、打つ手もないまま、たいていの場合は目をつむることになるが。
「警察」という組織とはいえ、所詮は人間。限度と限界はある。何かの事が起こると「警察は防げなかったのか」とよく言われるが、悲しいけれど無理な場合も、あるんですよね・・・。

★「私らが見て見ぬふりをしても、破滅する子は破滅する。せめて誰が見ている者がいた方がいい。刑事なんか、本人には孤独な腹の足しにもならんでしょうが」
今回の合田さんの名台詞ではなかろうか。

★ある種の不条理な思いを含めて、合田はいつも思う。死者は生き返らない。そして一度犯した過ちは取り消せない、と。
これは警察の考え方であると同時に、世間一般の通念だ。更生という言葉を虚しくするのは、往々にして世間だし、口から口へ伝えられていく前科の噂でもある。そういうことを考えると、犯罪者と被害者はともに、不幸な巡り合わせで二度と戻後戻り出来ない断崖から転落するようなものだと、合田はいつも思うのだ。
そうそう、燃えてしまった家も、二度と元には戻らない。
 
第一話にもありましたが、上記とこの部分は、合田さんのみならず、高村さんの心境そのままでしょうね。

★合田がしばしば思い知らされるのは、人間の心には明かす必要のない部分があるということだ。《動機の解明》はたんに法律上の便宜であって、司法の理解の及ばない心の襞に、司法が分け入る権利はない。
これも合田さんのみならず、高村さんの心境でしょうねえ。人間の「感情」や「想い」は、「心のケア」という言葉と行為で解決できるほど、単純明快なものではありませんものね。

★雪之丞がちらりと一枚のスナップ写真を見せてくれた。去年の暮れに新宿の映画館前で一緒だった人物だという。
見覚えのない若い《女》の顔が写っていた。もっとも、女に興味のない雪之丞だから、正体は聞くまでもない。「きれいやな」とだけ、合田は言った。

雪さんの心境からすると、自分の隠していた秘密を合田さんにバラしたついでに、相手をちゃんと知っておいて欲しかったんでは、と推測されます。また、他の七係メンバーではきちんと受け止める度量がないだろう、と雪さんは踏んだのかもとも思えます。
人を見る目はあるよね、雪さん。雪さんも刑事だもんね。

***

うーん、この記事だけで、延べ5時間はかかったよ・・・。後日、追加予定があるかもしれません。

***

今から3年ほど前に某国営放送で、強行犯捜査第七係 というドラマが放映されました。そう、つまり<七係>シリーズ のドラマ化です。

原作全五話のうち、「第二話 放火(アカ)」 「第三話 失踪」 を上手く絡ませたものになっていました。
文章ではさらりと読み流していた部分も、映像として見せられると、目を剥いてしまうところもありましたが(一例として、上記に挙げた雪さんとその恋人のエピソード・笑)、今までの「高村薫作品の映像化作品」の中では、これが最も満足のいく、白眉の出来でした。原作に9割は忠実だったのが良かったんでしょうね~。

舞台は東京から大阪に移ってましたが、それも良かった要因の一つかもしれません。
キャスティングも良かったですよね。今はハリウッドの住人になってしまった、渡辺謙さんが合田さん役。(ドラマでは名前は違ってましたが) 今となっては貴重かも、ですよ。
(後日、「映像化された作品」のカテゴリで思いっきり語りますわ)


第一話 東京クルージング  <捜査一課第三強行犯捜査第七係>

2005-08-22 23:45:12 | <七係シリーズ> 再読日記
第一話 「東京クルージング」 のご紹介。初出誌は「小説現代」1993年4月号です。

【柱の一文】
新警察小説に挑む/都会の垢と澱につきあう警視庁強行犯第七係の男たち

【事件の発端】
雪が降っている深夜未明、京成上野駅で、福岡から東京に出張中の中年男性の変死体が発見される。

【今回のメインの刑事たち】
合田雄一郎警部補  森義孝巡査部長(お蘭)
まあ、合田さんは主人公だから・・・。お蘭は合田さんと組まされることが多いですし、とりあえずということで(苦笑)

【感想】
シリーズ第一話ということで、七係メンバー紹介も兼ねてます。それぞれのニックネームが面白いですね。
(ニックネームに関しては、<七係>シリーズ・・・とは、何ぞや!? をご覧下さい)

何で合田さんだけがないんだろう・・・? 恐らくニックネームをつけられたら、ぶちぎれると思うぞ、合田さんは!(笑) それが怖くて、周囲の人間はつけなかったんだろうか。
もしもニックネームがあったとしたら、「信長」というのがファンの中では最有力候補らしい。これは「お蘭」に対する「信長」という視点だろうなあ。
・・・個人的には、「信長」はあまりしっくりこないなあ(苦笑)

以上はあくまで仮定と想像のお話。やっぱり合田さんは、「合田さん」でええやん! と思う。

今回の事件の被害者は、父親からすれば「孝行息子」、妻からすれば「会社と家を往復しているだけの夫」の、隠れた私生活が暴かれるという悲劇もあるわけで・・・。世に言う「普通の家庭」って、一体何なんだろうと考えてしまいたくもなる。

【第一話のツボ】
今夜の桃色は、どこのオカマか と合田さんが表現した、又さんの着てきたスキージャケット。奥さんのを借りてきたって・・・。

雪さんに、「何とかしろ」 と言われた、十姉妹ちゃんの着ていたリバーシブル(赤と黄色)のダウンジャケット。

「よく降りやがるな、この雪……!」 と低く唸って虚空に拳を繰り出す又さん。カッコええ~ 

雪さんと又さんがコンビを組んでいること! 実はこの二人のコンビが、一番好きだったりする。「静の雪さん、動の又さん」という雰囲気が、私にはたまらないのさ~♪

《情緒安定》コース《自己啓発》コースのテープを聴くお蘭。

合田さんの読みかけの本、『石版東京図絵』。加納さんが「読め」と薦め、否応なく送りつけた本だろうと推測される。ところでこの本って、今もあるのかしらん?

何たって最大の隠れたツボは、地検にいる古い友 という、たった8文字だけで存在を証明している「義兄」こと加納祐介さんに尽きる!

***

【名文・名台詞・名場面】

★「遅いじゃねえか」と肥後が森をつつく。
「ホトケ、ほしけりゃ、やるぜ」と又三郎。
「ホシをください」とだけ、森は応える。
 
出ました、《お蘭》こと森義孝の名台詞!
変死体の見つかった現場に到着したお蘭に、七係の面々が冷やかした場面。「和気あいあい」という雰囲気とはかけ離れた七係メンバーの距離の取り方が、何となく窺えますね。
このような「七係の陰険漫才」(笑)は、しょっちゅう出てきますので、私のお気に入りを紹介できたらいいなと思います。

★「テレホンクラブは、俺が代わってやるよ」と、そっと森の肩を叩いたのは、物静かな広田《雪之丞》だった。「そういうのは俺の仕事だ。お前は外回りをしろ」 (中略)
雪之丞に続いて、「俺も代わってやろう」と又三郎が言い出した。「お蘭に任せておいたら、女と口きく前に、ぶん殴ってモメるのがオチだからな」
これも七係メンバーの特徴が分かる事例だと思うので、ピックアップ。
事件の被害者の女遊びの調査を、最初に託されたのはお蘭なのだが、物事には向き不向きというものがあるわけで・・・。雪さんの場合は100%好意からの申し出でしょうけど、又さんの場合は、真意は別にあるわけで・・・(苦笑) まあ5年の差とはいえ、人生経験も含めたら、お蘭よりもこの二人が適任でしょう。結局、お蘭も二人に委ねます。

★実際のところ、無為というのは一番神経が消耗する。 
これは合田さんの述懐。刑事の仕事の一つに「張り込み」というものがありますが、これはホンマに大変やわ・・・。 『マークスの山』 の、特に単行本版(早川書房)を読むと、辛いものを感じます(苦笑)

★合田は、心底鬱々としたものを感じた。これでまた、あの福岡の遺族に電話をしなければならない。《真面目一方の孝行息子》あるいは《会社と家の往復だけの人生だった夫》の隠れた私生活を暴いて、得するものは誰もいない。死者本人、遺族、ユリ子、みなを不幸にする電話をかけて、捜査書類を整えるのが警察だ。
いくら「警察」とはいえ、そういう厭な仕事をするのは「人間」なんだものね・・・。

★林係長が淡々と福岡から送られてきたファックスを読み上げる間、真剣な目を光らせていたのは若い十姉妹だけだ。
やがて「ふう」と溜め息をつき、「女もいろいろだな」と利いたふうなことを呟いた。
「そうよ、いろいろなのよ、お前も決断する前にとっくり考えろよな」と薩摩肥後が、にやにやした。
「でなきゃ肥後の二の舞だ」と吾妻が鼻先で付け足した。

七係メンバーの特色が、これも良く現れている場面だと思うので、ピックアップ。
最年少の十姉妹ちゃんには恋人がいて、彼女と婚約できるかどうか・・・という瀬戸際らしい。一方の肥後さんは、奥さんの他に愛人もいて、たまに愛人宅から現場に出勤する図太い神経の持ち主。ペコさんはそれを揶揄している。
以上を踏まえたら、この台詞の重みと意味が、更に良く分かると思うの。

★自己啓発、か。
何日か前、合田は地検にいる古い友に手紙を書いた。その中で、ちょうど、《自己啓発の方法があったら教えてくれ》と書いたばかりだった。ときどき自分が空っぽだと感じるのは、周期的に訪れる気分の起伏というより、もっと切実な、飢えのようなものだ。

「空っぽ」という表現は、高村作品キャラクターには良く出てきますね。
余談だが、先日行った本屋さんで「自己啓発」のコーナーがあったのに気付いて、思わず振り返って呆けてしまった。行きつけの本屋さんなのに、今まで気付かなかったのよ・・・。それほどに、市民権を得ているジャンルなの?

★日々事件に追われ、一つの事件が終わると、また次の事件が来る。それは、自分の頭に蓄えた情報をそっくり流して、また次の新たな情報を詰め込んでいく繰り返しだが、そこから自分自身の血肉になるものを見出し、学んでいくというのは、合田には仕事の延長としか思えず、充足感とも遠かった。そのくせ、ほとんど個人生活を持たないような生き方をしているのは、現実に忙し過ぎるという理由ではなく、どうやって個人を生きればいいのか分からないからだ。離婚してからとくに、分からなくなった。 
「事件」を「読書」に変えると、私にも当てはまるかもしれない・・・。「自分自身の血肉になるものを見出」すために、ブログ運営もやっているのかもしれません。

★それでも、ときどき漠然とした生理的欲求が起こる。何でもいいから、自分のためだけの心浮き立つような世界が欲しいという思いは、飢えより激しい痛みになってくる。で、何をするかと言えば、アルコールを呷り、本を読むのがせいぜいで、結局、元の木阿弥のもやもやした気分で終わってしまうのだ。
この辺りは合田さんのみならず、高村さんの心境そのままかもしれませんよ。
私の場合は、お茶を飲んで、本を読んで、パソコンでネットして・・・がせいぜいかも。

★未だ会ったことのない若い女ひとりのことを、どこまで真剣に案じることが出来るか、という点で、お蘭は自分より確実に心やさしい。そう思うと、合田はまた胸苦しくなった。
性格的に、不特定の人間にやさしくなれないのはともかく、やさしい気持ちを持てる特定の人間は欲しかった。そういう女を一人失った後は、なかなか代わりがいない。

はいなくても、がおるやろ! とツッコミ入れた人、挙手!
合田さんがそのことに気付くのは、まだまだ先のことです・・・。

***

【追記】2005.8.23 内容を一部追加修正しています。・・・ひょっとしたら、また追記するかもしれない・・・。


<七係>シリーズ ご紹介の前に

2005-08-22 21:24:53 | <七係シリーズ> 再読日記
お待ちいただいている方がいるかどうかは不明なのですが、もしもいらしたら、気を揉ませて申し訳ございません。どう紹介したものか、未だに試行錯誤の最中なんです。

『警視庁捜査一課第三強行犯捜査第七係』 、通称 <七係>シリーズ のあらすじをご紹介・・・をしようと思ったのですが、私が書くと何もかもネタバレになってしまいそうなので、困ってしまう~(苦笑)
いつものように紹介するセレクトでも、ちょいちょいネタバレしてますから、改めてあらすじ紹介しなくてもいいかな~、とも思ったりもしてまして・・・。

ということで、迷った末に今回は以下のように取り決めました。

【各話共通事項】
1.表紙の横の柱に載っている一文を添えます。
2.事件の発端と、各話ごとのメインの七係メンバーを記します。
3.簡単な感想文と、個人的なツボと、名文・名台詞などの見どころをアップします。


・・・これでご容赦下さいませ。

そうそう、書くのが遅くなりましたが、雑誌掲載でしたので挿絵があります。<七係>シリーズ全五話は、北村公司さんが挿絵を担当されています。

***

各話紹介に入る前に、シリーズ全体の感想や特徴などを簡単に述べてみましょうか。

高村さんは、密度の濃い長編よりも多少は気楽・気軽に物語を紡いでいるな~という気がします。
いえ、手を抜いているという意味ではありません。思わず考え込んでしまう事柄や社会のこと、上手いと唸らせる描写も、もちろんあります。

主人公の合田雄一郎さんに関しては、「公」の立場は刑事ですから、どうしても「事件」がメインに。「私」の立場もちょっとは出てきますが、それが合田さんファンには物足りないかもしれません。
(「刑事である合田雄一郎ファン」の私には、充分に満足できるのですけどね)

特筆すべきことは、<七係>シリーズ には「義兄」こと加納祐介検事は、全く出てまいりません。名前も書かれていません。かろうじて第一話と第二話に、ほのかに匂わす程度でしか存在を示していません。
「私」の部分では親しく交流があっても、「公」の部分の「刑事」と「検事」は似て非なるもの、互いに相容れないしなあ・・・。

他の七係メンバーのファンには、長編では分からなかった「公」と「私」の部分が明らかになるので、そこが嬉しいところかも。
私のご贔屓、《雪之丞》こと広田義則さんの私生活が、間接的であっても垣間見れたのは、やっぱり嬉しかったもの~♪
(他の七係メンバーのファンで特に人気が高いのは、《お蘭》こと森義孝・・・だと思う。 ファンページのサイト もあるくらいだもの)

七係が遭遇する事件はバラエティに富んで、だけど顛末は割り切れないもの、腑に落ちないもの、後味の悪いものが残って・・・というパターン。つまり、現実の縮図。

「勧善懲悪の法則」がお好きな方は、高村薫作品は読まない方が良い、と改めてきっぱり言っておこう。

次回から第一話の紹介に入ります。

<七係>シリーズ・・・とは、何ぞや!?

2005-08-17 23:35:02 | <七係シリーズ> 再読日記
昨夜未明から、<七係>シリーズ を再読しています。

『マークスの山』 『照柿』 『レディ・ジョーカー』 に登場する刑事・合田雄一郎と、彼の所属する、捜査一課第三強行犯捜査班第七係 の面々が登場し、活躍する連作中短編シリーズ。
通称は <七係>シリーズ ですが、正式名は『警視庁捜査一課第三強行犯捜査第七係』 といいます。一回で覚えられたらスゴイよ・・・。(私は無理だった。今も一字ずつ確かめて入力したもん)

これは、単行本にも文庫にもなっていません。高村さん曰く、「フロッピーは破棄したし、本にするつもりもない」 とのこと。書籍になっていないゆえに、「幻の作品」として名高いのです。
何といっても、高村作品キャラクターの中で人気の高い、合田さんの物語でもあることが、要因の一つでしょう。

<七係>シリーズ は、全部で五話の物語です。以下に各話のタイトルを挙げておきます。
  第一話 東京クルージング
  第二話 放火(アカ)
  第三話 失踪
  第四話 情死
  第五話 凶弾


続いて、<七係>の面々。
  林省三(はやし・しょうぞう) 警部。七係の係長。五十三歳。あだ名は《モヤシ》
  吾妻哲郎(あづま・てつろう) 警部補。七係の主任。三十六歳。あだ名は《ペコ》
  合田雄一郎(ごうだ・ゆういちろう) 警部補。七係の主任。三十三歳。あだ名は、何故かこの人だけついてない。
  肥後和己(ひご・かずみ) 巡査部長。七係の部屋長。四十三歳。あだ名は《薩摩》
  有沢三郎(ありさわ・さぶろう) 巡査部長。三十五歳。あだ名は《又三郎》
  広田義則(ひろた・よしのり) 巡査部長。三十五歳。あだ名は《雪之丞》 ←<七係>の中では、合田さんを除いて、私のご贔屓キャラクター 
  森義孝(もり・よしたか) 巡査部長。三十歳。あだ名は《お蘭》
  松岡譲(まつおか・ゆずる) 巡査。二十八歳。あだ名は《十姉妹》

初出誌は「小説現代」1993年の4、6、8、10、12月号です。雑誌に掲載だったので、表紙の横の柱に載っている煽り文句がなかなか面白い。
この1993年は、『リヴィエラを撃て』 で、第46回 日本推理作家協会賞(長編部門) と 第11回 日本冒険小説協会大賞 の二つを受賞、『マークスの山』 で、第109回 直木賞 を受賞した年。受賞後の掲載分には、「日本推理作家協会賞受賞第一作」だの、「新直木賞作家の人気シリーズ」だの、煽る煽る(笑)

時間軸としては、『マークスの山』 の数ヶ月後。『照柿』 にも食い込むかもしれません。
しかしあまり細かいことをいうのも何ですので、<七係>シリーズ に関しては、「パラレル・ワールド」 だと考えた方が、無難でしょう。

さてせっかくの機会ですので、<七係>シリーズ再読日記 のカテゴリを立ち上げました。いつものように、「あらすじ」と「個人的な読みどころ(ツボにハマったところ)」と「名文・名台詞」の三本立てで、既読の方にも未読の方にも楽しめるような記事を綴れたら・・・と思っています。

高村さんの長編を読みなれている方には物足りないかもしれませんし、「どうみてもページ数が足らないな」と思われるような、駆け足で締めくくった物語もあります。高村さんご自身にとっても、不満足な出来のシリーズかもしれません。

でも、それでも、魅力溢れるシリーズであることは、否めません。何とかご自身で満足いくように加筆修正をなさってでも、書籍にしていただきたいと願っている一人です。

復刊ドットコム でも、「何とかして読みたい」という方々の声が集まっています。もしもこの記事を読まれている会員の皆様がおられましたら、よろしければ一票、ご協力下さいませ。