【少年と罪 第4部 ネットの魔力】⑤劣勢 驚く研究力 捜査後手 ⑥私刑 唐沢貴洋弁護士 ⑦脱却 竹内和雄兵庫県立大准教授(中日新聞2017/11/8~)

2017-11-16 | 少年 社会

<少年と罪 ネットの魔力>第4部 (5)劣勢  驚く研究力 捜査後手
2017/11/8 朝刊
  がらんとした部屋の白い壁に、三台の大型液晶ディスプレーが横一列に並んでいた。デスクトップとノート型のパソコンが一台ずつ。むき出しの配線が足元で絡み合う。今年四月の早朝、北海道中央部にある民家の家宅捜索に入った岐阜県警の捜査員は、その光景に驚いた。「まるで株式トレーダーの部屋だ」
 中学3年の少年(15)がコンピューターウィルスを作り、保管していた事件。少年は「城」としてきた自室で「中学1年の時から6千個のウィルスを作った。知識はすべてネットで得た」と語った。
 捜査を指揮した警部の佐藤功(55)によると、立件できたのは2個だけ。サイバー犯罪捜査は、実際に作動させてウィルスが機能することの裏付けを取るなど、特有の手間と時間がかかる。「彼らの知識の吸収力には目を瞠る。そのスピード感についていけず、捜査は後手に回っている」
 少年は小学6年の授業で初めてパソコンに触れ、わずか1年で最初のウィルスを作った。感染させた他人のパソコンに付いているカメラやマイクを遠隔操作で起動させたり、勝手にファイルを開いたりしていた。動機は「ウィルスが狙い通りに動くことを確認したかった」。
 警察庁によると、不正アクセス事件で摘発された年代別の人数は近年、14~19歳が最多。2016年は62人で全体の3割を超えた。パソコンを強制的にロックし、復旧と引き換えに金銭を要求する「ランサム(身代金)ウェア」の作成など、悪質な事例もある。
その上、彼らは「研鑽」を積む。滋賀県警などが7人を摘発した不正アクセス事件では、面識のない少年らがインターネット通話「スカイプ」でつながり、ウィルス作成や通信妨害の「腕」を競い合っていた。サイバー犯罪対策課長の滝岡秀典(53)は「ハイテク犯罪に強い捜査官を充てているが、毎日、研究している連中には追いつかない」。
 滝岡は長年、殺人などを扱う捜査一課の刑事として凶悪犯と向き合ってきた。彼らは彼らなりに、現実社会の被害者の痛みが分かるから、取り調べ室で罪の意識を持たせ、反省させることができた。
 「少年サイバー犯は違う」と滝岡。被害者が見えないから、罪悪感を持ちようがない。取り調べで「負けました」と容疑を認めても「次は捕まらずにやってやろう」という“軽さ”を感じてしまう。「摘発が反省の契機にならない」
 長くウイルス解析を担当してきたトレンドマイクロ社(東京)の岡本勝之(51)も、こうした犯罪のほとんどは「稚拙な手口」としたうえで、特徴を「何をしたら罪になるかが分からないうちに、一線を越えてしまうこと」とみる。
 しかも、学校などのネット教育は「被害に遭わないため」との視点ばかり。「犯罪者にならないため」は欠落している。
 この状況に、少年らと対峙した滝岡は懸念を膨らませる。捜査側の劣勢を尻目に、罪の意識を持たないままサイバー犯罪の世界で技能を高め続けたら---。腕試しの行き着く先は「東京五輪・パラリンピックなどを標的にした国際的なサイバーテロになりかねない」。 (敬称略)

 ◎上記事は[中日新聞]からの書き写し(=来栖)
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<少年と罪 ネットの魔力>第4部 (6)私刑  匿名の攻撃 実害次々 
中日新聞 2017/11/9 朝刊
 目の前に座っているのは、自分を「殺す」と宣言した十九歳の少年だった。
 2年前の春、東京都港区の法律事務所。弁護士唐沢貴洋(39)の前で、関東地方の男子浪人生が項垂れていた。インターネットの掲示板に、唐沢を「ナイフでメッタ刺しにする」と書き込んだ。警視庁のサイバーパトロールで見つかり、自宅近くの警察署へ出頭。その後、両親と謝罪に来た。
 「投稿している時は嫌なことを忘れられた。過激な内容を書くと、周りが反応するから」。動機は、受験の失敗などによるストレスの発散だった。
 唐沢は弁護士として、ネット上の名誉毀損や不正アクセス問題に取り組む。巨大掲示板の旧「2ちゃんねる」を巡る弁護活動を契機に、ネット空間で「標的」になった。依頼人の高校生への悪質な書き込みの削除を掲示板で要請したら、自分への中傷が始まったのだ。
 「僕は『遊び場を荒らす人物』と見做されたのだろう」。まもなく「殺す」と書き込まれた。この投稿を境に、脅迫や嫌がらせはネットの中から外へも広がり、現実の生活が危険にさらされるようになった。
 唐沢の事務所が入居するビルに掲示板の利用者が不法侵入して、その動画を公開。実家の住所を晒されて、近くにある祖父の墓はスプレーで落書きされ、やはり画像が公開された。事務所や裁判所の周辺には不審な若者が潜むようになった。唐沢の盗撮が目的だ。
 「一線越えたやろ」「もうちょっと面白い嫌がらせしろよ」。ネット空間が“炎上”するたびに、匿名の攻撃は過激化していった。
 殺害予告は手口や日時を記すなど具体化した。なりすましも横行、北海道から沖縄までの学校や役所に唐沢を名乗る爆破予告メールが相次ぎ、警備強化や休校が続いた。事務所の表札に「死ね」と落書きした男子高校生は、駆け付けた唐沢を見ても薄ら笑いを浮かべただけだった。
 もちろん、犯罪だ。唐沢によると、これまでに十数人が威力業務妨害や脅迫の容疑で立件された。半数近くは未成年で、殺害予告で書類送検された大分県の男子高校生=当時(16)=は「目立つと思ったから」と供述した。
 「僕は彼らの“ネタ”にされているだけ」と唐沢。盗撮を避けるために通勤ルートを頻繁に変え、買い物や外食は控える。気が休まるのは事務所の一室だけ。その事務所も嫌がらせへの防犯対策などで2回の移転を強いられた。
 唐沢は、投稿者を簡単に特定できるようにするなど、悪質な書き込みへの法整備が必要と訴える。そして、何より大切なのは学校教育。相手の痛みを感じ取りにくいネット空間の怖さと、すぐに標的が変わる流動性を教えてほしいと願う。
 唐沢を揶揄するサイトには、殺害予告をした少年らの顔写真も“仲間”によって晒されている。まるで、騒ぐ理由を求めているだけに見える。唐沢は自分と重ねて、言う。「加害者と被害者は紙一重。誰がいつ僕と同じ目に遭ってもおかしくない」 (敬称略)

 ◎上記事は[中日新聞]からの書き写し(=来栖)
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<少年と罪 ネットの魔力>第4部 (7)脱却  答え 現実の中にこそ
2017/11/10 朝刊
 ホワイトボードの前に立つ姿が様(さま)になっている。慣れ親しんだ教壇と何ら変わりはない。背後に瀬戸内海が広がることを除けば。
 兵庫県立大准教授の竹内和雄(=52)は8月、同県姫路市の離島にいた。自ら企画した「オフラインキャンプ」の講師として。住民は片手で数えるほどの小さな島で、小学5年から高校3年までの13人と「ネット断ち合宿」に臨んだ。
 スマートフォンやインターネット上のゲームに依存する子どもたちが、スマホを預け、カヌーや野外炊飯などの自然体験を満喫。4泊5日を乗り越えた彼らに、関西弁で語りかけた。「ネットの外にも楽しいことはあるって、分かったやろ」
 もともとは「機械音痴の国語教師」。郷里の大阪府寝屋川市で20年間、中学の教員を務めた。ある事件が人生を変えた。
 2005年、同市の小学校で起きた教職員3人殺傷事件。犯人の少年=当時(17)=は、かつて竹内の教え子だったのだ。
 少年の中学時代、竹内は生徒指導を担当。当時、はっきりと虐めなどが確認されたわけではない。ただ2年生で不登校となり、その後は一度も登校できずに卒業。今も不可解に思う。「襲ったのが、なぜ小学校だったのか」。恨むなら、嫌な思いをした中学校のはず。「本当に殺したかったのは、おれではないのか」
 法定で少年は不登校の日々を語った。事件当日まで自室のパソコンでネットの世界に浸っていた。
 もともと「死」への恐怖が大きかった少年。それを克服するために、大量の死体の写真や処刑の動画に触れていた。同世代が未成年で起こした「神戸連続児童殺傷事件」や「西鉄バス乗客殺傷事件を熱心に調べた。
 彼には、好意を寄せる女性がいた。バレンタインデーだった事件当日、彼女のブログを見た。自分ではない、恋人と過ごす日々がつづられていた。自宅を出たのは、その直後。「西鉄事件の犯人がそうだったはずだから」と、凶器の包丁2本を買って母校へ向かった。そして凶行に及んだ。
 竹内にはネットが、現実社会で居場所を見失った彼の「逃げ場」だったと思える。「加害者だが、被害者でもある。ネットに追い込んだ大人の社会にも責任はある」。その思いが今の問題意識につながる。
 スマホの登場で、世界中の情報が子どもたちの片手に収まる現状を「人類が有史以来、直面したことのない事態」と感じる。講演に呼ばれると各地で、ネットが事件を誘発した例を必ず伝える。「悲しいけれど、それが一番、響くから」
 離島合宿の最終日。あの時の少年と同じ年頃の子どもたちに問いかけた。「どうすればネットに依存せんで済むやろ?」。家族と話す。ルールを決める。友達と遊ぶ。映画を観る。ありふれた言葉と方法。それでも勇気づけられた。
 全国を回って講演を重ねるうちに、いつか自分の言葉が少年に届く日が来るかもしれない。竹内は、諭すように話す。「ネット問題の解決法はネットの中にはない。リアルの中にこそ、ある」 (敬称略)=終わり

 ◎上記事は[中日新聞]からの書き写し(=来栖)
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【少年と罪 第4部 ネットの魔力】④誇示 「ばかでした」。後悔して反省し「今後はホワイトハッカーになりたい」と更生を誓うが
【少年と罪 第4部 ネットの魔力】③目的---カネと注目 求めた末 「つまようじ少年」ユーチューブ
【少年と罪 第4部 ネットの魔力】②中傷---言葉の暴力 続く立件 青森市の中2女子自殺
【少年と罪 第4部 ネットの魔力】①聖域---11歳の殺人 漂う偶像 佐世保小6女児同級生殺害事件
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<少年と罪>第3部 塀の中へ再び [1]更生の道 なぜ捨てた 17歳でストーカー殺人 出所後に通り魔事件(中日新聞2017/8/17)
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神戸連続児童殺傷事件20年 <少年と罪 「A」、20年> 第2部(6)拒絶 (中日新聞 2017/7/1)終わり
神戸連続児童殺傷事件20年 <少年と罪 「A」、20年> 第2部(1)共感 (中日新聞 2017/6/25) 
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