<少年と罪 ネットの魔力>第4部 (3)目的 カネと注目 求めた末
2017/11/6 朝刊
待ち合わせ場所で記者の姿を見つけると、男性(22)はマスクを外して一礼した。黒い短髪、色白の肌。使い古したリュックサックとスニーカーは二年半前の逮捕時と同じという。
19歳の冬、東京都内のスーパーやコンビニで万引きを装ったり、自分で持ち込んだスナック菓子「じゃがりこ」の空容器につまようじを刺したりする姿を撮影し、動画サイト「ユーチューブ」に投稿。ネット上で「つまようじ少年」と呼ばれ、偽計業務妨害などの容疑で逮捕された。
警察を挑発しながらの「逃走劇」を、テレビは繰り返し放送した。非難、犯人捜し、悪ふざけの“応援”。世間の反応はスマートフォンを通じて伝わった。「何とも言えない感情だった。おかしすぎて笑えてくるような。『これで捕まるな』って開き直りも交じっていて」。動画で「逃亡宣言」をした4日後、滋賀県のJPR米原駅に停車中の列車内で身柄を確保され「ああ、終わった」と感じた。
一連の投稿の目的は「カネだった」と言う。ユーチューブには、広告掲載の登録をして承認を受けると、再生数などに応じて収益が得られる仕組みがある。当時は広告掲載をしなかったが「注目されて再生数が上がれば、将来は生活費くらい稼げるようになると考えていた」。
男性は中学3年の夏、不登校になった。「特別な理由はない。ただ人生に疲れていた」。15歳と17歳の時にもネット上で犯罪の予告をして逮捕された。「こんな自分が普通の仕事をして普通の生活を送ることは無理だと思っていた」。間違ったことをしている自覚は持ち続けていた。
「つまようじ事件」で2年間、医療少年院に収容され、今春に社会復帰した。生活保護を受けながら、平日は作業所で働く。「更生目指して努力中」とツイッターを始め、ユーチューブも再開。動画は自分が犯した罪の回顧や雑談が中心で、再生数が数千から2万回に上ることもある。
誰もが気軽に写真や動画をネットに公開する現代。事件当時、動画制作をなりわいとする「ユーチューバー」が認知され始めていた。企業と連携して億単位のカネを稼ぐ存在が脚光を浴び、民間調査で小中学生の「なりたい職業」上位の常連にもなった。
一方で、十代がいたずらの域を超えた犯罪行為を投稿する例が後を絶たない。ネットニュース編集者の中川淳一郎(44)は「手っ取り早く注目を集めるために過激さを競う状況。特に十代は、ネットが世界につながっていることを十分に認識していない」と話す。「ネットは1度の失敗も許さない空間で、攻撃対象を常に探している。『元つまようじ少年』として発信する限り、餌食になるだけだ」
過ちを何度、繰り返しても「現場」ち言うべきネットに寄る辺を見いだしてしまう。そんな自分を、男性は「ネットに依存している」と客観視する。
同時に「他人に迷惑をかけない内容で、感じたことを発信していく。人とつながることもネットの目的の1つなので」とも。動画内では素顔を隠す男性が、記者の目を見て言った。(敬称略)
◎上記事は[中日新聞]からの書き写し(=来栖)
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