<アキバの傷痕>無差別殺傷から10年 <1>暴走 派遣のゆがんだ共感 中日新聞 2018/6/3

2018-06-08 | 秋葉原無差別殺傷事件

<アキバの傷痕>無差別殺傷から10年 <1>暴走 派遣のゆがんだ共感
2018/6/3 朝刊
 画像;大勢の買い物客でにぎわう現在の秋葉原。10年前に惨劇の舞台となった=東京都千代田区で
 黒光りするダガーナイフが自分に向けられた。警視庁巡査部長だった荻野尚(51)は、警棒を突き出して敵との間合いを探った。家電店やゲーム店のビル街を抜ける道路。大勢の負傷者が倒れて血を流していた。
 目の前に犯人の派遣社員、加藤智宏(35)がいた。当時は25歳。「こんなヤツが…」。痩せた風貌は「オタク」に見え、凄惨な現場との違和感を覚えた。
 ちょうど10年前の2008年6月8日、東京・秋葉原。荻野は秋葉原交番へ出勤する際、上司に警戒を命じられた。インターネットの掲示板に無差別殺人の予告があったからだ。
 昼すぎに、交番近くの歩行者天国にトラックが突っ込んだ。慌てて駆け付ける荻野。悲鳴が上がり、人々が四方へ。運転席から降りた加藤が、逃げ遅れた人をナイフで次々と刺していた。荻野は50㍍ほど走って追いつき、対峙した。
 2人を囲む群衆がカメラ付き携帯電話を向けていた。荻野は警棒を振り回し、加藤を路地へ追い込んだ。左胸付近を刺されたが、防護服が守ってくれた。
 犯行開始から5分ほど。「ナイフを捨てろ」。腰を落として拳銃を構えた。加藤は凶器を手放し、座り込んで泣き始めた。降伏。荻野には、殺意の塊だった加藤から、気力がすべて抜け落ちたように映った。「ゲームオーバーだった」
 加藤は母親に虐待され、進学校を経て派遣社員となり、ネットに没入してトラブルに遭った。
 事件後の報道でそんな過去を知り、荻野は「もともと賢い人間だったのだろうが、社会で孤立した」と感じた。
 事件当時、派遣切りが既に始まっていた。直後に「リーマン・ショック」が起き、トヨタ自動車が赤字に転落。街は派遣切りに遭った人たちであふれた。
 「自分は不要」「世間に認められない」。加藤は犯行前、自暴自棄な言葉をネットに書き連ねていた。職場に大卒新人が配属されると「覇権の私より高給」とも。
 そんな加藤を事件後、派遣の代表と捉え「神」と称賛する書き込みが続いた。犯行は、革命。「事件がもっと起きないと、派遣は人権を獲得できない」。ゆがんだ共感は、安価な労働力として切り捨てられる人たちの、不満と怒りの爆発だった。
 半年後、東京・日比谷公園。派遣切りに遭った人に寝る場所や食事を提供する「年越し派遣村」が設けられた。「村長」だった法政大教授の湯浅誠(49)は事件当日、新聞の号外を手にしたことを覚えている。犯行の背景として派遣の境遇を指摘していた。「貧困と事件を結びつける視点は、それまでなかった。時代の変化を感じた」
 アキバの惨劇は、豊かなはずだったニッポンの現実を明るみに出した。その後、子どもの貧困や下流老人、シングルマザーなど、貧しさの多様な「形」の認知も進んだ。
 いま、子ども食堂の普及を目指す湯浅は「事件を契機に貧困と格差、不安定雇用が可視化された。社会問題と認識され、克服への官民の取り組みが始まった」と話す。「成果はこれから出る」
 そんな希望とは裏腹に、格差は拡大を続けている。それは「階級」として固定化したとの指摘まで広がりつつある。
 (敬称略)この連載は全6回です

 ◎上記事は[中日新聞]からの書き写し(=来栖)
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〈来栖の独白〉
>社会問題と認識され、克服への官民の取り組みが始まった」「成果はこれから出る」
 10年前、優れて良いセンスを感じさせた湯浅氏。10年の歳月を経て、御自身、安定してしまわれたか・・・。何を仰っておられるか(失望)。
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◇ <アキバの傷痕>無差別殺傷から10年 <2>格差 不満の矛先は社会へ 中日新聞 2018/6/4
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「秋葉原無差別殺傷事件」加藤智大被告 母親との関係〈母親に対する証人尋問 2010.7.8.要旨〉 2010-07-28 
秋葉原通り魔事件 加藤智大事件 青森市の名門、県立青森高校(青高せいこう)を卒業して 2008-06-17   
秋葉原無差別殺傷事件 加藤智大被告=記憶つづる日々 「誰にも会わない 何もいらない」 
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◇ 「秋葉原通り魔事件」そして犯人(加藤智大被告)の弟は自殺した 『週刊現代』2014年4月26日号 齋藤剛記者 
『秋葉原事件』加藤智大の弟、自殺1週間前に語っていた「死ぬ理由に勝る、生きる理由がない」 2014-04-11    
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