goo blog サービス終了のお知らせ 

無煙映画を探せ  

映画のタバコシーンをチェック。FCTC(タバコ規制枠組条約)の遵守を求め、映画界のよりよい発展を願うものです。

ツナグ 特別論評

2012-10-17 | 無煙映画特別論評
「ツナグ」 平川雄一朗監督

 死んだ人と一度だけ会うことができるというおとぎ話です。「ツナグ」と呼ばれるのはその仲介人のことで、祖母からその役割を引き継ぐための修行をしている高校生が主人公です。母親に病名を告知せず死なせたことを後悔する中年の男、交通事故で急死した親友の最後の言葉が気になる女子高生、行方不明になって7年にもなる婚約者のことが忘れられない青年などがオムニパス形式で登場します。どの逸話もありふれたものではありますが、樹木希林、仲代達矢、八千草薫といったベテラン俳優の安定感ある演技と松坂桃季、橋本愛、桐谷美玲、大野いとなどの期待の若手俳優たちの熱のこもった競演で感動させます。また、仲代達矢の「見えるものだけが真実ではない。本当に大切なものはこころの中にある」という言葉が重く響きます。
 演技だけでなくひとつひとつの小道具がとても気が利いていて生活感がありました。映画は映るものすべてに心がこもっていることで完成度が高くなり、だからこそ人の琴線にふれる作品になるのだと思います。 
「ツナグ」などという存在は科学的にはあり得ないことかもしれません。しかし、私たちはいつも亡くなった人々に守られて、というか一緒に生きています。別に「ツナグ」の力を借りなくてもその場にいない人を思って行動することもしばしばあります。ですから「ツナグ」は決しておとぎ話ではないことに気づきます。そして今、生きていることを再確認することができます。死んでしまった人々からパワーをもらってくじけそうになっても生き続けることができるのです。
 なお、この作品の見どころはエンディングクレジットの日蝕の太陽です。輝いていた太陽が消え再び現れることで「再生」の象徴としたラストは最後まで席を立たずに観ていた人だけに与えられる感動です。


新しい靴を買わなくちゃ 特別論評

2012-10-17 | 無煙映画特別論評
「新しい靴を買わなくちゃ」 北川悦吏子監督

 物語は恋人に会うために日本からパリへやってきた妹の付添いの兄がセーヌのほとりで置いてきぼりにされ、たまたま通りかかったパリ在住の日本女性と出会い、そして恋をする3日間を描いています。
 宇宙人が攻めてくるわけでもなく、CIAが暗躍することもなく、エイリアンもバンパイアも出てきません。アクションもバイオレンスもハダカもありません。近未来を暗示するテーマもなく変身ロボットやヒーローもいません。おまけにギャグで笑わせることもせず、シニカルなユーモアもありません。と評すると「退屈な作品」と思われそうですが意外にそうでもないのです。
 オープニングが抜群にいいです。モノクロの写真が次々登場し、そのテンポが早くなりいつのまにか普通に動きだし色もついています。バックに流れる音楽が心地よく「いい曲だな」と思う頃クレジットに「音楽 坂本龍一」と出て、「なるほど」と納得し物語の世界に期待して入り込めます。
 主人公のふたりの行動を通してパリの観光名所も随所に紹介され、その上ちょっとさみしい年上の女性と素敵な若者との恋だから女性客には嬉しい設定です。素晴らしいのは主役の若者もその妹の恋人も料理を率先して自分でするところです。妹が恋人とすっきり別れるのも潔くて好感が持てます。女性監督らしい細やかな演出です。主人公のふたりも靴のヒールが折れたことがきっかけで出会い、最後に新しい靴が届いて新しい人生がそれぞれ前向きに始まる予感で終わりあとくされもなくさわやかです。
 映画の基本である映像がまれに見る美しさで、その場に合ったいい曲が流れゆったりと落ち着いた気持ちになります。常にガチャガチャとにぎやかに動き回っている騒々しい作品ばかりが大宣伝して観客を呼び込んでいますがそのわりに若者の洋画離れに歯止めがかからないと聞きます。ハリウッドだけが映画ではないことをもっと伝えてほしいものです。