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幕末の攘夷論と開国論 (宮﨑市定全集22)を読みながら考えた。

2022-12-28 16:09:15 | 日記

幕末の攘夷論と開国論 (宮﨑市定全集22)を読みながら考えた。

 佐久間象山とは、昔日本史で習った人だけど何をした人か忘れてしまっていた。開国論を唱えてそこを幕府に見込まれ京都で公家たちに開国論を説いて回っている最中に暗殺された人だという。自分の主張と幕府の主張がたまたま一致していたためにいいように使われてしまった。あの時代に言いたいこと言えたから幸せだったのかそれとも不幸せだったのかよくわからないヒトだ。どうも思想というのは、取り扱いが厄介なものらしい。

 今頃になってやっと攘夷論が理解できた。鎖国体制にあるから密貿易で儲かる。開国されたら密貿易の利権を失うようなものだから、攘夷論といういかにもこっちの言うことが筋が通ってますよという理屈を並べ立てて昔に戻せと言い募った。当たり前だけどいったん開国して貿易利権が幕府の手に渡ったら幕府がそれを手放すはずがない、理屈で世の中が動くはずがない。そこで今度は、幕府を倒す挙に出た。その時せっかく筋が通っていると自慢の理屈を正義の旗印にして倒そうとした。倒した後は自慢の正義では今度が自分たちが儲からなくなるのだからさっさと正義の旗を降ろしてしまう。

 人々が何を言ってるかは聞いても仕方のないことなんだな、どの利権を欲しがっているかを見ることが重要なんだなと思わせる事件であった。お猿さんがボスの座を争うときに、おれの方が筋が通ることを喋ってると言いますか?どうも人間は言葉を発明してからというもの言葉に囚われてしまうところがある。さらにいけないことに論理的整合性に美しさを感じるところがある。ちょうど平面幾何の問題がすーと解けた時の気持ち良さに中毒するところがある。

 仕事をして物をつくったりするときは言葉は大事で論理的整合性に中毒するところも大事だけど、会社の中で出世するときには言葉も論理の美しさも関係ない争いをしないといけないということのようだ。市定先生によると「ちょっと脳の弱い」象山を殺傷した某は、明治になっても三条実美にいつ攘夷をおやりになりますかと毎日尋ねてずいぶん疎まれたという話である。

 してみると言葉の正しさや論理の美しさが大事と思ってる人は、「ちょっと脳の弱い」人になるのか。わたくしは、中学の時幾何の問題を解くのが得意であったのでこれは気を付けねばいけない。言葉でモノを考えては間違う。ヒトがなにを欲しがっているのかをよーく見ないといけない。

 これは歴史家のごく短い講演録だと思うけど、読んで自分のことの反省ができて有難い文章だった。



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