山口 香の「柔道を考える」

柔道が直面している問題を考え、今後のビジョン、歩むべき道を模索する。

スター不在の大会に期待

2009-04-02 14:35:38 | Weblog
 今週末(4月4日、5日)、世界選手権の代表選考を兼ねた全日本選抜体重別選手権大会が行われる。この大会は、強化選手の選考や入れ替えを目的にしたものではないので、各階級の上位8名、敗者復活戦なしで行われる

 敗者復活戦がない理由は、優勝者=世界選手権代表を決める大会であるから、2位や3位は関係ないという前提であった。しかし、ここ数年では優勝者=代表というように簡単なものではなく、優勝者以外から代表が選考されることが多くなってきた。そういった意味では、この大会も2位、3位という位置づけが必要な大会になりつつあり、敗者復活もある意味で必要かもしれない

 今年の大会の特徴は、近年にないスター不在ということだろう。ここ10年、いやそれ以上の長い間、柔道界を牽引してきた選手達が引退、休養など様々な理由から欠場している。男子の野村、井上、鈴木、女子の谷などがそうである。

 スター不在というと一見した華やかさには欠けるものの、実は見所もある。スターの陰に隠れて代表の座を射止めることができなかった選手が、そういった選手がいなくなった状況の中でいかに力を発揮するかである

 北京五輪において100級で鈴木選手が敗退したが、この原因は井上選手の引退にあったのではないかと密かに考えている。なんだかんだいっても、いつも脚光を浴びるのは井上選手であり、鈴木選手はいい意味でその陰に隠れて伸び伸びと力を発揮してこられた。北京五輪では井上選手が引退し、初めて矢面に立たされた。もちろん、それまでもプレッシャーはあっただろうが、2番手としてのものであった。柔道人生の目標でもあったであろう井上選手が突然いなくなり、自分の立ち位置が急に不安定なものになったのではないだろうか

 自分の前に立ちはだかっていた壁が大きければ大きいほど、逆にそれがバネになって頑張る原動力になっていることが多い。そういった意味では、今回、いくつかも大きな壁がなくなった後、2番手、3番手といわれてきた選手達がどういった戦いを見せるかに興味がある。自分が矢面に立たされ、絶対勝たなければならないプレッシャーを受けて初めてトップを走っていた人の背負っていた重みがわかる

 また、これまでは最終選考会といいながらも「この大会で勝っても選ばれないのでは?」といった疑心暗鬼の部分があったに違いない。まあ、今大会でもヨーロッパツアーで成績を残した選手達が有利であることは間違いない。しかしながら、彼らや彼女たちが絶対といえるまでのものもないのも事実だ。そういった状況のなかで、出場選手の多くが「自分でも」という可能性を持って挑んでいける

 最近の柔道は見ていて面白くないという指摘を受けることが多い。私もそう感じる。組み手に時間がかかりすぎること、お互いの手の内を知っていることもあろうが、思い切った技をしかけず小手先の勝負が目立つ

 女子はヨーロッパで行われた国際大会の成績をみても、誰が選ばれてもおそらく世界で全階級においてメダルに絡むだけの力を持っている。ただ、そのメダルが何色になるかが当たり前だが重要だ。この大会で「無難に優勝すれば」ぐらいの戦いだったとしたら金メダルは難しい。世界を目標にするのであれば、この大会はステップに過ぎない。それぐらいの強気の姿勢で負けを恐れず勝負する度胸がみたい。その勝負度胸こそが世界のトップを競う段になれば必須の要素だからである。今大会の出場選手で、実は世界選手権の金メダリストは塚田真希(2007カイロ無差別級金)しかいない。メダルは獲れても金はそう簡単には獲れない

 男子は女子とは比較にならないほど厳しい。金どころかメダルに絡める選手がどれほどいるか。期待できるのは、66kg内柴選手と100kg穴井選手だろう。内柴選手は経験、実績は申し分ないが、ベテランだけに調整次第という部分もある。また、女子の谷本同様に世界選手権では金がない。穴井も力をつけているものの、全幅の信頼をおけるほどではない。ということは、今年の世界選手権を戦うにあたって大黒柱がいないということだ。そういうチームが成功する場合には、意外な選手の活躍など、その大会で生まれるスターがでるかどうかにかかっている。そのスターに成りうるような選手が今大会で出てくるかに期待がかかる。若さと勢い、意外性を兼ね備えた選手が必要だそして日本の男子柔道は、北京の時の石井選手のように苦しい時期に、そういった選手を生み出せる底力があった

 谷、野村、井上という選手達が大スターであっただけに、これに匹敵するスターが出てくるまでにはしばらく時間がかかると思われる。しばらくの間は、スター不在の時代が続くだろう。そういった時代だからこそ柔道の本質が問われる。これまでは、柔道を知らない人でも、スターの名前だけでみてくれたが今はそうはいかない。見るに値する戦いかどうかが問われる。しかし、この時期に認められれば本物でもある。技術が超一流でなくても、引きつけられる試合はある。WBCがなぜあれだけ人々を魅了したのかといえば、普段とは違う(プロで百何十試合もあればある程度割り切った勝負に成るのは仕方がない)彼らの真摯な態度、取り組む姿勢にあった

 今大会に出場する選手一人一人が次の時代を担う一人としての柔道を背負う自覚を持った戦いぶりを期待したい


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12 コメント

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新星 (満腹ボクサー)
2009-04-02 21:03:25
私にとっては、山岸さんも福見さんもスターです。キラキラかがやいて見えます。
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Unknown (Unknown)
2009-04-03 04:43:49
持論です。スターとは作られるものだと思います。
卓球の福原選手。ゴルフの宮里選手、石川選手。
必ずしもそれぞれの競技ではNo.1ではありません。しかしマスコミに出て認知され、テレビで取り上げる事で結果的に集客効果がありました。
なぜ柔道はそういう事が出来ないんですかね。マネジメントっていうんですか。積極的に全柔連が選手や大会をアピールする事により集客率や視聴率は上がります。話題にならなきゃ誰も見ませんよ。逆にマスコミに出るのを避けてるような風潮を感じるのは気のせいでしょうか…
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スターをマスコミにつくられることは堕落 (岩谷堂高校柔道部)
2009-04-03 09:29:12
マスコミの報道の仕方にいつも不満を感じています。
柔道選手に国境の壁は本来なかろうと思います。
どこの国の選手でもすぐれた選手の試合は放送してほしいし、スター選手が日本人であろうがなかろうが構わないと思います。
例えば、youtubeでタングリエフ選手のクラシュでの試合を見ました。超重量級なのにすさまじい投げ技でほれぼれします。(逆に言うと、タングリエフ選手を封じた石井選手の守りのすごさも分かります)
試合結果にしか興味のない素人ならともかく、柔道をやるものにとっては「どこの国の選手か」ではなく、「どのような柔道をやるのか」の方がずっと大事だと思います。
テレビの演出や編集は全てなしにして、欧米やロシアのスポーツチャンネルのように、全試合を垂れ流しにして欲しい。
そうすれば、自分の目に留まった柔道選手にそれぞれ憧れることになるでしょう。
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スターをマスコミにつくられることは堕落、に賛成。しかし。。。。 (IO)
2009-04-03 19:10:27
 もともとの山口先生の「スター不在の大会に期待」の内容からはコメントの内容がずいぶんずれて来ていますが、私も一言~。

 岩谷堂高校柔道部の意見に賛成。柔道にスター作りは不要です。もし、全柔連が集客効果や視聴率向上を求めてスター作りをするのなら、ぜひやめていただきたい。くだらないことです。

 一時期(今でも、あるのかもしれませんが)、全国レベルの柔道大会を中継する番組で、選手が試合のために畳に上がるとき、スポットライトに照らされ、まるでプロレスのリングコールのように名前をアナウンスされていました。実に醜悪な演出でした。この演出を放送する時間を、実際の試合を放送するために使ってほしい。

 山口先生が言う美しい柔道を求めていくこと(本当は、美しい、というのが今ひとつぴんと来ないのだが)、柔道界をまとめる団体が、公平で透明な運営をし、きちんと説明責任を果たすことが重要なことです。そういう過程で経て、強くなったチャンピオンが結果としてスターになってきたのだと思います。あるいは、柔道に取り組む一人一人の選手自身が、自分にとってのスターを見つけていくのでしょう。岩谷堂高校柔道部に意見に賛成。私は北海道にいた頃柔道をしていました。自身にとってのあこがれの選手は、柔道の世界では知らない人が多いと思いますが、北海道大学の中井裕樹選手でした。

 しかし、ここまで書いてきて思ったのだが、この辺の議論は確かにムズカシイですね。
(1)本当のスターが不在であってすら、あるいは、不在だからこそ、今度の体重別に注目、と思うような、実際に柔道取り組んでいる人(取り組んでいた人)と、
(2)作られたスターであっても、本物のスタート同じように興味を持つ人
とでは、スター観、テレビの見方がちがうのでしょう。

 そして(1)の人だけを対象として柔道界が動いていくわけにはいかないのかもしれません。今やスポンサーなしで大会運営は出来ないでしょうし、集客率、視聴率を上げていくことも必要なことだと思います(本当は必要悪だと言いたい)。話題になって初めて柔道を見るような人たちにアピールすることも、柔道の裾野を広げる上では大事なことなのかも知れません。

 福原選手、石川選手、宮里選手は魅力的です。私自身は卓球もゴルフもやったことがありませんが、これらの選手がテレビに出ていればつい見てしまいます。
 ビーチバレーの浅尾選手も人気がありますね。でも彼女のことを、作られたスターだと感じる人もいると思います。
 しかし、うろ覚えの記憶なので、申し訳ないのですが、浅尾選手ばかりがマスコミに取り上げられることをどう感じているかという質問に対し、あるビーチバレーの選手が答えていた記事を読みました。この質問をした側にとっては、”まじめに地道にビーチバレーに取り組んでいる選手にとって、まるでグラビアアイドルのような浅尾選手の活動は迷惑なのではないか”といった批判的な意図があったのではないかと思います。しかしその選手は、浅尾選手はマイナーなビーチバレーをここまでメジャーにしてくれた最大の貢献者であると彼女を賞賛していました。(こういう風に単に答えることは出来ても、こういう風に思えることはなかなか難しいと思います。この選手は本当にそう思っているようでした。立派な人です)。こういう見方をすれば、スタートして報道されるということも、けして負の面ばかりではないのかも知れないと思ったりします。
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訂正 (IO)
2009-04-04 00:24:09
誤:北海道大学の中井裕樹選手
正*北海道大学の中井祐樹選手

ゆうきのゆうが違ってました。スミマセン。
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Unknown (Unknown)
2009-04-04 03:02:26
スターは必要です。
かつて女子柔道は人口が少なかったのはご承知の通り。田村選手がYAWARAちゃんと呼ばれアイドル化しマスコミに頻繁に出た結果、女子柔道人口が爆発的に増えました。今の20代のトップ選手は田村選手の影響を受けた選手がほとんどだと思います。
今ゴルフやスケートをやる子供が増えています。それは間違いなく石川選手や浅田選手の影響。五輪後にはフェンシングの人口も増えました。
柔道をする子供がいなくなるのは柔道の将来にとっては致命傷となりかねません。
よってスターが必要と思うわけです。
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スターをマスコミにつくられることは堕落 賛成 (天津飯)
2009-04-04 18:49:24
柔道は、プロレスでも総合格闘技でもありません。
実況中継に煽りも必要なし。選手のサイドストーリーも必要なし。(子供が・親がどうのこうのは試合には関係ない。あとからドキュメンタリーでもやってくれ。) 会場の演出は必要ない。喋りっ放しのアナウンサーも必要ない。決勝くらいノーカットで放送して欲しい。

昔、カラー柔道着導入のときに、柔道の本質を鑑み、時のトップ柔道関係者が猛烈に反対していたことが懐かしいです。現在、民放テレビ局に放映権を渡し、大会をイベント化していることに強い憤りを感じます。
全てはお金かもしれませんが・・・

NHKで柔道を満喫できるよう、全柔連にお願いしたいです。解説をしていらした山口先生には申し訳ないですが・・・

スターは作り出すものではなく、強ければそれに伴っていくものだと思います。
宮本樹里選手達のように、話題先行だと本人が一番可哀相では無いでしょうか?
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全柔連がスターを作るということ (IO)
2009-04-05 05:30:29
もともとの山口さんのブログの意図からは離れますが、一言~。

一連のコメントを読んで、それぞれの方が言っているスタ

ー、あるいはスター作りの意味が違うので、意見がずれて

いますね。

1)スター作り、あるいは話題作りをするのはだれか。
2)その目的は何か。
3)その対象はだれか


山口さんは、不在と書いたスターたちがだれのことを言っているかと言うと、「ここ10年、いやそれ以上の長い間、柔道界を牽引してきた選手達」「男子の野村、井上、鈴木、女子の谷」のことです。マスコミが話題作りをしなくても柔道の質や強さによって、No.1になった人たちのことをスターと言っています。

ここで問題提起がUnknown (Unknown) 2009-04-03

04:43:49からなされました。Unknownさんがおっしゃるのは、
1)積極的に全柔連が(マスコミを利用して)、
2)視聴率を上げるために、あるいは大会の集客率をあげるために、
3)No.1ではない選手を対象に(真意は、No.1であろうとなかろうと、だと思いますが)話題作り、スター作りをするのがいいのに、なぜ柔道界ではそれが出来ないのだろうか、とおっしゃっているのだと思います。違っていたらスミマセン。

それに対して、
岩谷堂高校柔道部さんは、
1)マスコミが、
2)視聴率を上げるために、集客率をあげるために、
3)スターを作る
ことに反対されています。文章からは読み取れないのですが、一連の流れからはUnknownさんの意見に対する反論だろうと思います。

IOは(私ですが)、
1)全柔連が、マスコミを利用して、
2)視聴率を上げるために、集客率をあげるために、
3)No.1ではない選手を対象に、
話題作り、スター作りするのは反対なんだが、ビーチバレーの浅尾選手とそれを評価した他のビーチバレーの選手の発言を聞いて、ちょっと分からなくなってきていると書きました。

つぎに、Unknown (Unknown) 2009-04-04 03:02:26 で、(このUnknownさんは、一番最初のUnknownさんと同じ人手はないのだろうと思うので、Unknown-2さんと呼びます)Unknown-2さんがおっしゃっているのは、
1)マスコミが、
2)視聴率をあげるために(かな?)
3)No.1の選手(田村選手を例に挙げておられました)を頻繁に報道した結果、競技人口が増えたとおっしゃっています。

一連の流れでは、「No.1ではない選手をスターに作り上げること」についての是非が議論されているので、このUnknown-2さんの意見は、これまでの議論とはまた別の話のような気がします。Unknown-2さんの投稿内容そのものについては私自身は全面的に賛成しますし、Unknown-2さんの視点は、今後の柔道の行く末を考える上でとても重要な意見だと思います。美しい柔道をする強い選手がスターになるのであれば、それこそがみんなが求めることです。

 しかし、もともとの議論のであった「No.1ではない選手を全柔連が(積極的に)スターに作り上げること」についてはどう思われますか?





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Unknown (Unknown)
2009-04-06 15:46:10
Unknown1も2も私です。
別にNo.1以外の選手を持ち上げて広告塔にするとは言ってませんよ。
世間に興味がなければ試合も見ないし、見てもらって柔道の感動を与えれなければ何もならないと言っているのです。
今回も山岸対浅見が一番全面に出てましたが、世間一般にどれだけ認知されているのか…
私はゴルフをしたことはないけど石川や宮里は知っています。柔道をしたことがない人に知ってる柔道選手をあげろと言っても今だに山下選手という答えが出てきます。それも若い世代に…
柔道は素晴らしいスポーツですがアピールしなければ伝わらないし一部の人がやる競技で終わってしまいます。柔道経験者の子供がやるのがほとんどでしょうがそれではいずれ収束してしまいます。現に少年柔道人口は年々減って来ています。
そこを問題点とするなら大会アピールは必要でしょう。
だいぶ話題から外れたのでこれくらいにします。
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Unknown (岩屋堂高校柔道部)
2009-04-16 21:35:51
いささか誤解を与えてしまったようなので補足します。

わたしはスターは要らないとも言っていませんし、スターを無理に作れとも言っていません。
わたしが言いたかったことはこうです。

1、優れた柔道をしていれば自ずとスターは生まれる。
2、そのことに日本人選手も外国人選手もない。
3、従って、すぐれた柔道と出会い易くするように全試合が放送されるべきである。
4、演出や特集をしている暇があったら全試合を放送すべし。

山口さんはご存知だと思いますが、ヨーロッパではスポーツチャンネルが充実していて、大きな大会ならほとんどの試合が放送されます。
ロシアでも大手のスポーツチャンネルはもちろん地方局も数が揃っていて、地元の試合もやはりほぼ全試合放送されます。

だから、愛好家はあらゆるレベルの試合を目にすることが出来るし、愛好家でなくても試合を目にする機会は多いのです。

日本のように、数局の大手放送局が放送事業を寡占しているのは異常です。
幸い、読売も朝日も倒産寸前だそうですから、スポーツ界全体で働きかけ、放送事業の多チャンネル化とスポーツチャンネルの設置を促す方が実は近道だと思うのです。
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