樹業人~風の通心

持続可能な社会や森林・建築・木製品について、気ままに こそっと考える為のネタ帳です。

硫黄酸化物による樹木の立ち枯れ 2(仮)

2007-09-22 | 壊れかけてる森林
しばらく、まとめられないので 大森先生の発表をそのままUPします。

3.樹木の表面積による硫酸の付着量の差
広葉樹と針葉樹の枝葉に付く水の量を比較すると、針葉樹は広葉樹の2倍から6倍も多い4)。針葉樹は常緑樹が多く、落葉樹は冬の間葉のない分、硫酸の付着面積は少なくなる。また、シラビソやコメツガのように水平の枝は、垂直の枝より2倍量の水が付く。硫酸を含む霧であれば、水の付着量に比例して、水分の蒸発後に残る硫酸の量は多くなる。さらに、水の付着量が多ければ、乾燥までの時間が長くなり、濡れている間は、乾燥している樹木より硫酸の収集量は多くなる。更に、針葉樹の樹皮は繊維状や層の重なりになっているため、上から流れてくる雨水を大量に吸収して、そこで再び濃縮する。その結果、針葉樹の下の土壌は広葉落葉樹より、酸性化が早くなり、同じ山でも針葉樹が先に枯れて、広葉樹は生き延びられる。
4.硫黄酸化物によって樹木が立ち枯れる理由
硫黄酸化物の中の二酸化硫黄(SO2)は強い還元力で細胞を破壊する。三酸化硫黄(SO3)は水に溶けると硫酸(H2SO4)になり、式1)に示すように、海から風で運ばれた塩化ナトリウム(NaCl)と大気中や土壌中にある二酸化マンガン(MnO2)の混合物に加わると塩素(Cl2)を発生する。塩素は漂白剤、殺菌剤に使用されるように、付着した細胞を破壊し、同時に生成する硫酸マンガン(MnSO4)は潮解性(溶解度136g/100g水)で、野菜に塩を掛けると水が出て、漬け物ができるように、接触している細胞から水分を奪い細胞を破壊する。マツ葉の根元や水平のシラビソの枝の下側の葉は、貯まった水滴の蒸発で硫酸の濃度が濃くなり、細胞が破壊されて褐色になっている。
2NaCl+MnO2+3H2SO4=2NaHSO4+MnSO4+Cl2+2H2O 1)
ここで生成した潮解性の硫酸マンガンは大気中の水分や降った雨に溶け流出拡散して測定されない。その結果、マツが全面枯れている男鹿半島の土は、ナトリウム(Na)の量を基準に硫酸の量を計算すると非海塩(測定値―計算値=非海塩=汚染物)の値の73倍量が流出していることが明らかになった。従来の非海塩の濃度で生育試験をしても枯れないから、マツの立ち枯れは松食い虫とされた。
硫酸は、雨が降ると葉の成分を溶かしながら根元に落ち2)、土壌中のアルミニウム(Al2O3)や鉄(FeO,Fe2O3)を溶けやすい硫酸化合物(Al2(SO4)3,FeSO4,Fe2(SO4)3)に変える。式2)に示すように、樹木は硫酸第一鉄(FeSO4)を水と一緒に吸収すると、鉄(Fe)は生長に欠かす事の出来ない形成層の中のリン酸(PO43-)を奪い、リン酸第一鉄(Fe3(PO4)2)になり、空気に会うと暗青色に変色する。
3FeSO4+2Na2HPO4=Fe3(PO4)2+2NaHSO4+Na2SO4               2)
暗青色に変化  ↓ O2
Fe PO4→ Fe2O3 赤褐色
3Al2(SO4)3+6Na2HPO4=6AlPO4+6NaHSO4+3Na2SO4         3)
此の反応は、硫酸第一鉄とリン酸の固有のもので、マツが酸化第一鉄(FeO)を含む土壌で生育し、土壌が硫酸で酸性化されて溶解性硫酸第一鉄となり水と吸収されると、マツ材は根元から先端まで暗青色になる。更に屋外に放置すると加水分解して酸化第二鉄(Fe2O3 nH2O)になり、赤褐色に変化する。このことで、鉄が過剰に吸収され、リン酸と結合したことが確認できる。鉄(Fe)とアルミニウム(Al)は同じ位の力でリン酸と結合し、土壌中にはFeよりAlの方が多く存在し、溶解しやすい。その結果、FeよりAlは吸収され、立ち枯れ木の成分の分析結果、AlはFeの5倍以上含まれ、式3)に示すようにAlもリン酸を奪うことが明かである。
化学物質は如何に微量でも化学的法則に従って反応し、その量に相当する量と反応する。立ち枯れたマツの年輪から見ると27年間にも及ぶ僅かな傷害の積み重ねの末、枯れている。硫黄酸化物は変化の全ての段階で樹木に傷害を与え、衰退させ、抵抗力を失い、病虫害に犯されて立ち枯れる。立ち枯れ防止は殺虫剤をまくより、世界中の硫黄酸化物の発生量を減らすことが必要である。
5.立ち枯れ防止策と二酸化炭素削減
樹木は、大気中の二酸化炭素(CO2)と水と土壌からカリウム(K)、カルシウムCa)、マグネシウム(Mg)、リン(P)等を吸収して太陽の光で光合成をして生長する。炭は、酸性土壌に撒けば、炭の中に残っているアルカリ金属化合物が雨に溶解して酸性土壌を中和し、残った金属は再び栄養源となり、炭は保水剤となり、微生物の住み家となり、土壌の活性化に役立ち、立ち枯れ防止剤になる。
昔の様に樹木を原料とした薪や炭を燃料とした場合は、地球上のCO2の割合は変化しないが、化石燃料の燃焼はCO2の割合を増加させる。増加したCO2を減少する方法は、樹木の立ち枯れを防止し、植林して森林を増加させ、間伐材や廃材を炭にすることが最も他のエネルギーを使用しない、確実で有効なCO2削減方法である。樹木を炭(C)にすると、炭は自然界では燃焼しない限り、炭1gは3.7gのCO2が固定できる。立ち枯れ木を放置して腐敗したり、廃材を焼却処分すると吸収したCO2は、再び大気中に戻る。
6.まとめ
樹木の減少は、温暖化を加速させ、気温の上昇に比例して空に上がった水分は集中豪雨や豪雪となり災害を起こし、一方、砂漠化による水不足、食糧難となる。海水温度の上昇は台風の発生、気温の上昇は極の氷の溶解による低地の水没、凍土上の家の陥没、凍土中の有機物の分解により、CO2の21倍も温室効果の高いメタン(CH4)とCO2の発生で温暖化を加速させ、限りなく環境難民の発生源となる。

文献
1) 国際連合食糧農業機関編 国際食糧農業協会訳、 (1996)樹木と森林の衰退―世界の概観 国際食糧農業協会発行、William M.Ciesla FAO Forest Resources Division and Edwin Donaubauer Federal Forest Research Centre Vienna, Austria.(1994)“Decline and dieback of trees and forests –A global overview”.
2) 大森禎子(1997)酸性雨による植物からの金属元素の溶出. 金属,67,11.
3) 岡村 忍・吉池雄藏・若松正明(1999)低濃度金属成分の電子レンジによる濃縮. 工業用水No.493,20.
4) 大森禎子・吉池雄藏(2001)樹木の立ち枯れ調査の簡易分析法. 分析化学50,465.


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