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「同一労働同一賃金」により待遇差に注意

2019-04-26 17:08:06 | 人事制度
 最近、お客様と人事制度の話をしていると短時間正社員制度や地域限定社員を導入したいという声をよく聞きます。確かに中小企業でも限定社員や在宅社員、嘱託社員、パートタイマー等様々な労務形態が増えてきました。
このような「多様な働き方」は、受け入れる会社側としても様々な良い影響を及ぼします。いわゆる正社員的な働き方が難しい方の採用や定着といった「優秀な人材の確保」、社員が自社で働き続ける事への「安心感を持つことができる」といったことは容易に想像できると思いますが、その他にも「業務の効率化」、「イノベーションが生まれやすい」といった大きな効果も生まれています。
このように、会社にとっても社員にとってもうまく活用していけばメリットが大きいのですが、一方で同じ社内に多様な正社員が混在することになるわけですので、運用を誤ると社員が不公平感を持ったり、モチベーションダウンにつながりかねません。会社全体で多様な人材を受け入れる風土を作っていくとともに、また、それぞれの働き方に合った労務管理や制限のない正社員と制限をもつ社員の待遇の均衡についても注意しなくてはなりません。

このような中で、2020年4月から(中小企業は2021年4月から)は、「短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律」(パートタイム・有期雇用労働法)により、正社員と短時間・有期雇用労働者等のいわゆる非正規雇用労働者について不合理な待遇の禁止について定められます。これにより、正社員と非正規社員との間の不合理な待遇差については法律で禁止されます。これが「同一労働同一賃金」です。
正社員とパートタイム従業員との待遇については、差を設けている会社もよく見られ、法律が施行される前に見直しておくことが必要です。正社員に支給されている手当の趣旨がパートタイムにも支給されるべきものであれば支給しなくてはなりませんし、賞与についても同様です。このあたりは、具体的にどのような手当なら待遇差をつけても良いのかなどといった詳細については判断が難しい部分もありますが、判例などを参考にしながら、少なくとも各種手当や賞与についての趣旨を明確にしておくことが必要です。
以下は、厚生労働省によるガイドラインの抜粋です。



なお、嘱託社員と正社員の「同一労働同一賃金」による処遇差を巡る代表的な判例が長澤運輸事件(最高裁二小法廷平成30年6月1日判決)です。この事件は、自動車運送会社で働く労働者が定年退職した後に、嘱託社員として有期労働契約を締結しましたが、その労働条件が同じ業務をしている正社員と比べて「不合理な労働条件」であることに対して裁判を起こしたものです。「同一労働同一賃金」の判断に当たっては、①職務の内容②当該職務の内容及び配置の変更の範囲③その他の事情、が考慮されます。この裁判では、①と②は嘱託社員と正社員は同一であるであるにも関わらず、年収ベースで2割前後の差があるのは不合理であると労働者側が訴えたのです。
最高裁は、労働条件(賃金を構成する各手当)についてそれぞれ個別に判断し、正社員には支給されるが嘱託社員には支給されていない各種手当の趣旨が、正社員だけではなく有期嘱託社員にも該当するのであれば処遇に差をつけることは不合理であるという判断をしています。本案件での各種手当についての最高裁の判断は以下の通りです。

【能率給および職務給】
正社員には基本給、能率給および職務給を支給するのに対し、嘱託社員には基本賃金および歩合給を支給し、能率給および職務給を支給していませんでした。しかし、嘱託社員の基本賃金は定年前の基本給よりも高額であること、能率給および職務給が支給されないかわりに歩合給が支給されていること、歩合給も正社員の能率給と比べて約2倍から3倍であること、労働組合との団体交渉により歩合給に係る係数を嘱託社員に有利にしていること、一定の要件を満たせば老齢厚生年金の支給を受ける事ができる上、支給開始までの間2万円の調整給を支給すること等を考慮して、その差が不合理ではないと判断しました。

【精勤手当】
「職務の内容が同一である以上、その皆勤を奨励する必要性に相違はない」として正社員でも嘱託社員でも支給されるべきとして支給の有無に差をつけることは不合理とされました。

【住宅手当、家族手当】
正社員に支給されている住宅手当や家族手当の趣旨は生活保障であるので、年金支給が予定され、さらに支給開始までの間に調整給が支給される嘱託社員には支給しなくても不合理ではない。また賞与についても、定年退職に当たり退職金が支給されるほか、年金や調整給が支給されていることも考慮され、嘱託社員に支給しないことは不合理ではないとされました。

この判例をみると、前述のように「職務の内容」「職務の内容及び配置の変更の範囲」は同じですが、不合理かどうかの判断は、「その他の事情」によるものが大きく、それぞれの労働条件の趣旨や労働組合との交渉などによる過程といった諸事情によって左右されます。
したがって、この裁判の判決も、過程や背景によっては変わる可能性もあります。
嘱託社員等のいわゆる非正規社員と正社員との間に賃金差をつけていたり、各種手当や賞与を支給しないという会社も多く見られます。この裁判を参考にして処遇差をつけるときには、その理由を明確にして、適切な過程を経ておくことが必要です。

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