今年の初めに出版された書籍「ティール組織」(英治出版 フレデリック・ラルー/著)は、大きな話題になりました。このティール組織に代表されるような、これまでの統治型組織とは全く違い、一人一人が仕事の決定権を持ち、自律しつつもつながりを重視する働き方が、徐々にですが日本でも見られるようになってきました。このような働き方を私たちは「自律分散型組織」と言っています。
これからの時代の「自律分散型組織」の賃金制度を考えるにあたり、重要だと思われるのが「組織の自由な活動を妨害しない」という視点です。これは、賃金制度に限りませんが「自律分散型組織」においては、できるだけ具体的なルールは定めず、組織の原理原則(例えばクレドなど)に沿って一人一人が判断するということを重視していくべきです。自律した働き方をするのに、一番の妨害は無駄なルールや上司や他者からの具体的な指示です。ただし、自律した行動をとることと、わがままで自分勝手な行動をとることは全く違います。自律した行動をとるということは、組織にとってもっともよい決定をしなければならず、個人的利益のために動くことは自律分散組織を崩壊させてしまうのです。そのためにも、一人一人が組織全体を見る高い視点を持って意思決定できるように、情報を共有し、必要に応じてコミュニケーションをとる体制、文化が重要になります。いわいるピア・プレッシャーが常に働いていることが組織に求められるのです。
それでは、自律分散型組織ではどのように賃金を決定すべきなのでしょうか?
書籍「ティール組織」の中では、ティール組織の賃金制度は次のような特徴があるとされています。
●ティール型組織の賃金について
・基本給については、他の社員とのバランスを考えながら自分で定める。
・賞与はないが、全社員平等の利益配分がある
・給与の格差は小さい。
●賃金格差について
・実力主義という考え方を認めていないわけではない。しかしある人の給与が他の人の給与の数百倍というのは限界を超えていると考えているようだ
・生活するうえで基本的なニーズをカバーするのに十分な給与がすべての従業員にいきわたっているか」どうかが極めて重要だ
自律分散型組織では一定の生活保障給的要素は大前提となります。成果を出す社員が大金の給与を得ているのに、一方の社員が生活ができないというような賃金体系にはなりません。そもそも、どこまでが個人の「成果」なのか、直接的に測ることは今後ますます難しくなっていくでしょう。現代において「課題」は複雑になってきており、それを解決するためには多くの人の知恵と力が必要となってきているのです。
しかし、給与の格差を全くつけないかと言えば、そのようなことはありません。逆に、すべての情報をクリアにし、その組織にどれだけ貢献しているかをこれまで以上にシビアに評価されることになっていくのではと予想しています。
自律分散型組織の賃金体系(例)
自律分散型組織の報酬は大きく3つに区分されます。一つは「基本給」です。これは、実力給とも言え、「社外市場価値」と「社内市場価値」の組み合わせにより、総合的に決定します。ベースになるのが「社外市場価値」であると言っていいでしょう。その地域、その職種が、今どのくらいの賃金で推移しているのかを調べ、その職種の賃金の幅を決定します。原則的には、その幅の中で「社内市場価値」により、その社員の実力給を決定します。社内市場価値の決定要素は「組織への貢献度」です。これは、直接的に売り上げに貢献しているということだけでなく、組織のブランド力アップやチーム力強化など、様々な面から評価されるべきです。この実力給の評価は、関係するすべての人間がかかわって決定することが理想でしょう。具体的には、A部門の人件費の予算に対して、だれがどれだけの給与を受けるのか、その配分を決定する会議を当事者全員で実施するのです。このようなやり方は、これまでの日本人では抵抗感があるかもしれません。しかし、例えばフリーランスの人が何名かでプロジェクトを推進する際、その役割や貢献度に応じて売上金の分配は決定されます。これからは企業の中でも、一人一人が自律したうえで、自分のできることでチームに貢献することが求められるようになり、その貢献度に応じた給与の分配を行うことは自然の流れともいえるのです。ただ、その際に重要なのは、それぞれの貢献ややっていることがメンバーに共有されていること(しっかりと見えていること)と、メンバー間に信頼関係があることです。給与の見直しは1年か6か月に1度とするのが現実的でしょう。また、それぞれに生活のあることを考えると、現状の給与額をベースに考えて来季の給与を決定する(つまりあまりにも大きな変動は原則として実施しない)べきです。
次に手当ですが、これは実力給とは違い、極めて客観的に定義できるものでなければなりません。法律的にも今後、「同一労働同一賃金」がスタートすることもあり、意味の曖昧な手当は廃止すべきです。自律分散型組織では、「家族手当」や通勤手当、それに会社の近くに住むことを推奨する「近隣手当」などを導入することが相性がいいのではないかと考えられます。
そして賞与ですが、これはチーム単位での支給が基本となるでしょう。成果がでたのは誰かひとりの手柄ではなく、それにかかわったすべてのメンバーのおかげだという考え方です。チームメンバーで一律に分配するのもいいですし、チーム内の話し合いで分配比率を決定してもいいでしょう。
さて、ここまで自律分散型組織の在り方と賃金制度をみてきましたが、このような時代の分岐点では重要なことがあります。それは、いきなり「自律分散型組織」になることを宣言し、その制度を導入することは逆に混乱を招くということです。自律分散型組織の中で働くためには、社員一人一人が、しっかりとした仕事観をもって自律し、さらに、組織全体への貢献ができる人材に育っていなければなりません。個人の利益を求めるのではなく、組織全体の利益に基づいて行動できる社員にならなければならないのです。逆に言えば、そのような考え方、行動ができない社員は、これまでどおり、ルールや命令を前提とした働き方をしてもらい、上司からの評価によって給与や賞与を決定すべきなのです。新しくスタートしたベンチャー企業ならまだしも、一定以上の歴史のある会社で働く社員が、その働くスタイルや考え方を急に変えることは難しいでしょう。例えば、自律的に働くことができる社員は、「実力給」とするが、まだその段階にない、命令やルールで働く社員については、これまでどおりの「職能給」などの賃金テーブルを適用する、ハイブリッド型賃金制度などを移行段階においては検討すべきでしょう。
(有)人事・労務 社会保険労務士 畑中義雄
これからの時代の「自律分散型組織」の賃金制度を考えるにあたり、重要だと思われるのが「組織の自由な活動を妨害しない」という視点です。これは、賃金制度に限りませんが「自律分散型組織」においては、できるだけ具体的なルールは定めず、組織の原理原則(例えばクレドなど)に沿って一人一人が判断するということを重視していくべきです。自律した働き方をするのに、一番の妨害は無駄なルールや上司や他者からの具体的な指示です。ただし、自律した行動をとることと、わがままで自分勝手な行動をとることは全く違います。自律した行動をとるということは、組織にとってもっともよい決定をしなければならず、個人的利益のために動くことは自律分散組織を崩壊させてしまうのです。そのためにも、一人一人が組織全体を見る高い視点を持って意思決定できるように、情報を共有し、必要に応じてコミュニケーションをとる体制、文化が重要になります。いわいるピア・プレッシャーが常に働いていることが組織に求められるのです。
それでは、自律分散型組織ではどのように賃金を決定すべきなのでしょうか?
書籍「ティール組織」の中では、ティール組織の賃金制度は次のような特徴があるとされています。
●ティール型組織の賃金について
・基本給については、他の社員とのバランスを考えながら自分で定める。
・賞与はないが、全社員平等の利益配分がある
・給与の格差は小さい。
●賃金格差について
・実力主義という考え方を認めていないわけではない。しかしある人の給与が他の人の給与の数百倍というのは限界を超えていると考えているようだ
・生活するうえで基本的なニーズをカバーするのに十分な給与がすべての従業員にいきわたっているか」どうかが極めて重要だ
自律分散型組織では一定の生活保障給的要素は大前提となります。成果を出す社員が大金の給与を得ているのに、一方の社員が生活ができないというような賃金体系にはなりません。そもそも、どこまでが個人の「成果」なのか、直接的に測ることは今後ますます難しくなっていくでしょう。現代において「課題」は複雑になってきており、それを解決するためには多くの人の知恵と力が必要となってきているのです。
しかし、給与の格差を全くつけないかと言えば、そのようなことはありません。逆に、すべての情報をクリアにし、その組織にどれだけ貢献しているかをこれまで以上にシビアに評価されることになっていくのではと予想しています。
自律分散型組織の賃金体系(例)
自律分散型組織の報酬は大きく3つに区分されます。一つは「基本給」です。これは、実力給とも言え、「社外市場価値」と「社内市場価値」の組み合わせにより、総合的に決定します。ベースになるのが「社外市場価値」であると言っていいでしょう。その地域、その職種が、今どのくらいの賃金で推移しているのかを調べ、その職種の賃金の幅を決定します。原則的には、その幅の中で「社内市場価値」により、その社員の実力給を決定します。社内市場価値の決定要素は「組織への貢献度」です。これは、直接的に売り上げに貢献しているということだけでなく、組織のブランド力アップやチーム力強化など、様々な面から評価されるべきです。この実力給の評価は、関係するすべての人間がかかわって決定することが理想でしょう。具体的には、A部門の人件費の予算に対して、だれがどれだけの給与を受けるのか、その配分を決定する会議を当事者全員で実施するのです。このようなやり方は、これまでの日本人では抵抗感があるかもしれません。しかし、例えばフリーランスの人が何名かでプロジェクトを推進する際、その役割や貢献度に応じて売上金の分配は決定されます。これからは企業の中でも、一人一人が自律したうえで、自分のできることでチームに貢献することが求められるようになり、その貢献度に応じた給与の分配を行うことは自然の流れともいえるのです。ただ、その際に重要なのは、それぞれの貢献ややっていることがメンバーに共有されていること(しっかりと見えていること)と、メンバー間に信頼関係があることです。給与の見直しは1年か6か月に1度とするのが現実的でしょう。また、それぞれに生活のあることを考えると、現状の給与額をベースに考えて来季の給与を決定する(つまりあまりにも大きな変動は原則として実施しない)べきです。
次に手当ですが、これは実力給とは違い、極めて客観的に定義できるものでなければなりません。法律的にも今後、「同一労働同一賃金」がスタートすることもあり、意味の曖昧な手当は廃止すべきです。自律分散型組織では、「家族手当」や通勤手当、それに会社の近くに住むことを推奨する「近隣手当」などを導入することが相性がいいのではないかと考えられます。
そして賞与ですが、これはチーム単位での支給が基本となるでしょう。成果がでたのは誰かひとりの手柄ではなく、それにかかわったすべてのメンバーのおかげだという考え方です。チームメンバーで一律に分配するのもいいですし、チーム内の話し合いで分配比率を決定してもいいでしょう。
さて、ここまで自律分散型組織の在り方と賃金制度をみてきましたが、このような時代の分岐点では重要なことがあります。それは、いきなり「自律分散型組織」になることを宣言し、その制度を導入することは逆に混乱を招くということです。自律分散型組織の中で働くためには、社員一人一人が、しっかりとした仕事観をもって自律し、さらに、組織全体への貢献ができる人材に育っていなければなりません。個人の利益を求めるのではなく、組織全体の利益に基づいて行動できる社員にならなければならないのです。逆に言えば、そのような考え方、行動ができない社員は、これまでどおり、ルールや命令を前提とした働き方をしてもらい、上司からの評価によって給与や賞与を決定すべきなのです。新しくスタートしたベンチャー企業ならまだしも、一定以上の歴史のある会社で働く社員が、その働くスタイルや考え方を急に変えることは難しいでしょう。例えば、自律的に働くことができる社員は、「実力給」とするが、まだその段階にない、命令やルールで働く社員については、これまでどおりの「職能給」などの賃金テーブルを適用する、ハイブリッド型賃金制度などを移行段階においては検討すべきでしょう。
(有)人事・労務 社会保険労務士 畑中義雄