今回のJR福知山線の列車事故の報道の中で,色々な人(大学教授,博士,評論家,元JRエンジニア,政治家,その他)がTVや新聞等で,コメントしている.
きさらぎけいすけ氏の4/25の記事 で言及されていた,桜井淳氏は,新幹線の安全評価に関する著書がある高名な技術評論家であり,また理学博士でもある.
しかし,桜井淳氏の話しとして, 毎日新聞のWebの記事 にでていた以下の解説は,ちょっといただけない.
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◇「新幹線『安全神話』が壊れる日」(講談社)などの著作のある技術評論家、桜井淳さんの話
事故車両が鉄製車両に比べ強度の劣るステンレス製でなければ、車両がマンションにめりこむようなことはなかったのではないか。死傷者も鉄製車両なら半分で済んだと思う。鉄道各社は、車両を鉄から薄いアルミなど軽量の素材にして、電力コストを安くしようと取り組んでいる。コスト重視の一方で、このような万一の事故の際の車両強度などを十分に検討してこなかったのではないか。
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これは,「鉄製車両で車両の強度がステンレス製よりも高ければ,今回の場合のような事故でも,犠牲者が少ない」という誤解を読者に与える危険がある記述だと思う.
もし,車両が鉄製で,仮に2倍丈夫だとすると,通常はその車両は2倍以上重くなってしまう.もし2倍以上重い車両が,同じ速度で,マンションに追突したときの車両に加わるエネルギーは,概ね重さに比例して大きくなる.そうすると,
車内の乗客のうけるエネルギーも,車両の重量に概ね比例する.
1両目は,丈夫で重い2両目の衝突を受ける.
2両目は,丈夫で重い3両目の衝突をうける.
3両目は,丈夫で重い4両目の衝突をうける.
...
マンション1-2Fは,現状よりももっと大規模に破壊された可能性がある.
つまり,車両が鉄製で丈夫で簡単に車体が単体として「つぶれにくい」だけでは乗客の安全は担保できない.走行する車両が持っているエネルギーは,車両の重さの関数だから,車両が重ければ,衝突する際に,車内の乗客中が受けるエネルギー==衝撃は増えてしまい,「車両が強ければ犠牲者が減る」という簡単な話しにはならない.
大脳や脾臓は,意外と小さな加速度で損傷を受けるので,3両目以降の乗客の被害が増えた可能性もある.
また,おそらく,追突する車両がおもければ,マンションが受けるエネルギーも増えて,マンションはもっと壊れてしまうので,そのことによる被害も増える可能性もある.
別の見方をすると,鉄製の重い車両では,もっと低い速度で脱線していた可能性もある.
さらに云えば,交通システムとしての鉄道の常識からいえば,脱線したらその時点で「負け」なので,「車両が丈夫なら...」とはとてもいえないはずだ.
桜井淳氏のプロフィール をみると,それなりに,立派な経歴である.理学博士であるだけでなく,現在,2つ目の博士号(それも社会学系)を取得するために,「東大大学院総合文化研究科在籍」というのは,1946年生まれということも考慮すれば凄いことだ.
元々のご専門は「日本原子力研究所材料試験炉部計画課での仕事をまとめて原子炉物理学の研究で理学博士」である.当然,「材料」の「強度」そのものにはお詳しいと思われる.
しかし,鉄道のような「移動する機械」の移動条件,強度,重量と,「衝突」のような急停車時にその「移動する機械」の中に加わる力や,そのような場合い急に大きな力が加わったときの「人」や「建物」への影響については,ご専門外なのかもしれない.また,「理学部」と「工学部」の勉強の仕方や知識の間口の違い,というのは,一般に考えられているものよりも大きいこともあるかもしれない.
もう一人の例として,TVでよくコメントしている 工学院大学電気工学科の曽根 悟 教授 は,1967から一貫して,電気鉄道を中心とした,交通工学,交通システムとその周辺の電気機器を研究している「電車と関連技術の専門家」である.
曽根教授の研究者プロフィール をみると,審査付論文98件,解説・論説・国際会議報告等489件となっている.
我々は,メディアに登場する「技術的な問題の専門家」の「本当の専門分野」について,よく注意する必要があると思う.
また,立派な経歴の先生でも,「何らかの外部の力」が働いて,「必ずしも客観的,科学的」なコメントではないお話しをしている場合もある.専門家の書いたもの,専門家の話し,だからといって,「鵜呑みにしない」ということも必要だと思う.
きさらぎけいすけ氏の4/25の記事 で言及されていた,桜井淳氏は,新幹線の安全評価に関する著書がある高名な技術評論家であり,また理学博士でもある.
しかし,桜井淳氏の話しとして, 毎日新聞のWebの記事 にでていた以下の解説は,ちょっといただけない.
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◇「新幹線『安全神話』が壊れる日」(講談社)などの著作のある技術評論家、桜井淳さんの話
事故車両が鉄製車両に比べ強度の劣るステンレス製でなければ、車両がマンションにめりこむようなことはなかったのではないか。死傷者も鉄製車両なら半分で済んだと思う。鉄道各社は、車両を鉄から薄いアルミなど軽量の素材にして、電力コストを安くしようと取り組んでいる。コスト重視の一方で、このような万一の事故の際の車両強度などを十分に検討してこなかったのではないか。
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これは,「鉄製車両で車両の強度がステンレス製よりも高ければ,今回の場合のような事故でも,犠牲者が少ない」という誤解を読者に与える危険がある記述だと思う.
もし,車両が鉄製で,仮に2倍丈夫だとすると,通常はその車両は2倍以上重くなってしまう.もし2倍以上重い車両が,同じ速度で,マンションに追突したときの車両に加わるエネルギーは,概ね重さに比例して大きくなる.そうすると,
車内の乗客のうけるエネルギーも,車両の重量に概ね比例する.
1両目は,丈夫で重い2両目の衝突を受ける.
2両目は,丈夫で重い3両目の衝突をうける.
3両目は,丈夫で重い4両目の衝突をうける.
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マンション1-2Fは,現状よりももっと大規模に破壊された可能性がある.
つまり,車両が鉄製で丈夫で簡単に車体が単体として「つぶれにくい」だけでは乗客の安全は担保できない.走行する車両が持っているエネルギーは,車両の重さの関数だから,車両が重ければ,衝突する際に,車内の乗客中が受けるエネルギー==衝撃は増えてしまい,「車両が強ければ犠牲者が減る」という簡単な話しにはならない.
大脳や脾臓は,意外と小さな加速度で損傷を受けるので,3両目以降の乗客の被害が増えた可能性もある.
また,おそらく,追突する車両がおもければ,マンションが受けるエネルギーも増えて,マンションはもっと壊れてしまうので,そのことによる被害も増える可能性もある.
別の見方をすると,鉄製の重い車両では,もっと低い速度で脱線していた可能性もある.
さらに云えば,交通システムとしての鉄道の常識からいえば,脱線したらその時点で「負け」なので,「車両が丈夫なら...」とはとてもいえないはずだ.
桜井淳氏のプロフィール をみると,それなりに,立派な経歴である.理学博士であるだけでなく,現在,2つ目の博士号(それも社会学系)を取得するために,「東大大学院総合文化研究科在籍」というのは,1946年生まれということも考慮すれば凄いことだ.
元々のご専門は「日本原子力研究所材料試験炉部計画課での仕事をまとめて原子炉物理学の研究で理学博士」である.当然,「材料」の「強度」そのものにはお詳しいと思われる.
しかし,鉄道のような「移動する機械」の移動条件,強度,重量と,「衝突」のような急停車時にその「移動する機械」の中に加わる力や,そのような場合い急に大きな力が加わったときの「人」や「建物」への影響については,ご専門外なのかもしれない.また,「理学部」と「工学部」の勉強の仕方や知識の間口の違い,というのは,一般に考えられているものよりも大きいこともあるかもしれない.
もう一人の例として,TVでよくコメントしている 工学院大学電気工学科の曽根 悟 教授 は,1967から一貫して,電気鉄道を中心とした,交通工学,交通システムとその周辺の電気機器を研究している「電車と関連技術の専門家」である.
曽根教授の研究者プロフィール をみると,審査付論文98件,解説・論説・国際会議報告等489件となっている.
我々は,メディアに登場する「技術的な問題の専門家」の「本当の専門分野」について,よく注意する必要があると思う.
また,立派な経歴の先生でも,「何らかの外部の力」が働いて,「必ずしも客観的,科学的」なコメントではないお話しをしている場合もある.専門家の書いたもの,専門家の話し,だからといって,「鵜呑みにしない」ということも必要だと思う.