Dr. Jason's blog

IT, Engineering, Energy, Environment and Management

脳脊髄液  浮力と側脳室

2008-06-26 | Medicine
 以前から,人間の脳室の形について「変な形しているな」とおもっていた.
 2008-05-30の記事で紹介した本や,他の解剖学の本をみていて,気がついたことがある.

 
2008-05-24の記事「脳脊髄液減少症: 脳と圧力 -流体力学者の視点-」
を書いた時は気がつなかったが,そのあと,流体の講義の準備と解剖学の本の相乗効果から,ふと思いついた.

 脳室の形状については,例えば「脳外科医 澤村豊医師」のサイトの記事がわかりやすいと思う.

 細かい計算をしてみたわけではないが,色々な解剖学系の資料を見た私見では,側脳室とよばれる左右の脳室が,あのような形をしているのは,
  浮力による圧力を分散する
  脳の重心位置のバランスをとる
 ためであるように思う.
 
 脳の内側の空洞で,脳脊髄液で満たされる部分は,浮力を受け持つ脳の表面積を増やし,また,側頭葉のマスを減らして,重心位置をかえ,断面2次モーメントを小さくする効果があるのだと思う.


 脳脊髄液減少症の患者さんのCTかMRIの画像のなかに,側脳室が縮退している画像をみたことがある.

 上述の視点で脳室の脳脊髄液との関連での流体力学的な効果仮説が正しいとすれば,脳脊髄液減少症の後遺症としての側脳室が縮退は,脳に以下のような負荷を与えているということになる.

 脳表面に加わる単位面積あたりの応力の増加
 脳の重心位置のずれ
 # 脳が外から回転力をうけたときの,力のかかり方の変わる.

 ブラッドバッチで,脳脊髄液のもれをとめても,色々な症状がのこっている患者さんで,側脳室が縮退が改善してない人の場合には,「側脳室の体積と表面積の減少」そのものが,上述の「脳への負荷」を発生させているという視点での,検査と治療が必要なのではないだろうか?

 脳脊髄液の量がある程度以上回復していても,側脳室の体積と表面積のある程度の減少があるだけで,脳への浮力と重力の影響が大きくなることは,原理的に明らかである.
 特に,脳室の「表面積」減少は,(圧力は「面積当りの力」であるので)脳への圧力の増加に直結している.



※文章を少し修正しました.カテゴリーを訂正しました. 2008/06/29
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講義 流体力学 2008-9

2008-06-26 | Mech Eng
 流体力学の講義9回目,概要は以下のとおり.

 偉人 ポアズイユ
 層流 2 pp.129 - 144
  円管内粘性流れの特徴
  円管内の層流速度分布
  管内流れの流量,速度
  摩擦損失
  層流の管摩擦係数
  並行壁の間の層流
  球の層流抵抗 (ストークスの法則)
 プールの中での水泳の抵抗


 偉人 ポアズイユ
 ジャン・ポアズイユ
(Jean Louis Marie Poiseuille、1797年4月22日 - 1869年12月26日)
 フランスの物理学者,生理学者.
 フランス,パリで生まれ.エコール・ポリテクニークで物理学と数学を学ぶ.

 理学博士の博士論文(1828年)のタイトルは,フランス語で
  Recherches sur la force du coeur aortique
  「心臓大動脈の強さに関する研究」
  あるいは,
  「心臓大動脈に加わる力に関する研究」
  毛細管中の血液の流れなどに興味を持っていた.1842年にパリ医学アカデミー会員となる.

  流体力学における業績:
   流体力学の分野で層流流れに関するポアズイユの法則をたてたことで知られる.粘度のCGS単位系の粘度の単位ポアズはポアズイユの名.
   円筒管内部を流れる,非圧縮性の粘性流体の層流流れについて
   1838年に実験し,1840年頃にポアズイユの定理を数式化した.
   (ゴットヒルフ・ハーゲンGotthilf Heinrich Ludwig Hagen(1797-1884)も独立して研究したのでハーゲン=ポアズイユの式とも呼ばれる.)

  その他の業績:
   水銀によるマノメータ式の圧力計を改良して,血圧を計測した.現在もちいられている,血圧計の原型になるものを作成した.

  http://en.wikipedia.org/wiki/Poiseuille
  http://encyclopedia.farlex.com/Poiseuille,+Jean-Louis(-Marie)
  http://www.todayinsci.com/4/4_22.htm


 [層流 2]
 教科書のpp.129 - 144部分について,教科書にそって,説明した.

 円管内粘性流れの特徴

 断面積が一定の円管内の定常流れを考える.
 粘性流体 連続の式 => 速度一定
 流体には,管壁面から粘性応力が作用する.
 # 板上の物体の摩擦と同様
 この粘性応力につりあって,流体を等速運動させる力は?
 圧力勾配による.
 管内の粘性流れは,下流側の方が圧力が下がる.
 # 直感的には,長いホースやパイプは,管が長いほど
 # 圧力が下がるのはイメージしやすいと思う.

 円管内の層流速度分布
 
 円管内の層流の速度分布は,以下の式で与えられる.

  u = - α / 4 μ ( r2 - a2 )

  u 流速
 α = ə u / ə y 圧力勾配
  μ 粘性係数
  r 中心からの管の半径方向の距離
  a 管の半径

 放物線の速度分布となる流れをポアズイユ流れ( Poiseuille flow)という.


 管内流れの流量,速度

 管を通る流量はQは,断面積A と流速の u の積であった.
 管内層流の流量 Q は,以下のように求められる.

  Q = lim Σ ui Δ A i = ∫ udA
     ΔA->0 i

   ΔA 微小断面積
   u 微小断面積での速度

 流量Qの計算のイメージ 式 4.13 の意味
  中心から,円柱方向にそれぞれの速度部分の速度と面積を合算する.


 流量はQは,

  Q = (πa4 / 8μ) α

  π 円周率
  a 半径
  μ 粘性係数
  α = ə u / ə y 圧力勾配

 この関係式を,ポアズイユの法則(Poiseuille low) という.


 平均流速 U は,

  U = Q/A = (a2 / 8μ) α

  π 円周率
  a 半径
  μ 粘性係数
  α = ə u / ə y 圧力勾配

 最大流速 Umax は,

  Umax = (a2 / 4μ) α = 2U0

  π 円周率
  a 半径
  μ 粘性係数
  α = ə u / ə y 圧力勾配
  U0 平均流速


 粘性流れにおいて,粘性によるエネルギーの損失を摩擦損失 (friction loss)という.
 これは,
  物体の移動における摩擦力
 あるいは,
  電気回路による抵抗
 と同様のイメージである.

 管内の粘性流れにおいて,流れの下流側ほど,摩擦損失でエネルギーが失われる.この場合の,管のある断面におけるベルヌーイの式は,

  1/2 ρv2 + P + ρgz = E(s)

 となる.これを拡張されたベルヌーイの式という.E(s) は定数ではなく,下流にいくほど減少する.

 管内の粘性流れにおいて,長さ ℓ 下流で,ΔEのエネルギーが失われた場合.

  ΔE ∝ (ℓ/d)(1/2)ρU2

 すなわち損失は,
  長さℓに比例する
  運動エネルギーに比例する
  管径dに反比例する


 管内の粘性流れにおいて,長さ ℓ 下流で,ΔEのエネルギーが失われた場合,比例定数 λ を導入する

  ΔE = λ (ℓ/d)(1/2)ρU2

 この式を,ダルシー・ワイズバッハの式(Darcy-Weisbach equation) という.
 比例定数 λ は,管摩擦係数(friction factor)という.


 層流の管摩擦係数は,

  λ = 64μ / ρpdU = 64 /Re


 並行壁の間の層流

 hだけ離れて並行におかれた壁の間の定常流れ
 上側の壁が速度 U で移動していて,圧力勾配がαである場合

  μ d2u / dy2 = α
 
  境界条件 u = 0 (y = 0), u=U (y=h)

 速度分布は,
  u(y) = (α / 2μ) ( h - y ) y + ( U / h ) y

 hだけ離れて並行におかれた壁の間の定常流れ
 上側の壁が速度 U で移動していて,圧力勾配がない場合 α = 0
 上 側の壁の流体は上側の壁にひきずられる.
 速度分布は直線になる.

 これを,クェット流れ (Couette flow) という.

 速度分布は
  u(y) = ( U / h ) y

 応力分布は,一定となる.
 τ = μ(U/h)

 hだけ離れて並行におかれた壁の間の定常流れ
 上側の壁が(下側の壁も)静止している場合
 
 円管内の流れと同様に,ポアズイユ流れ( Poiseuille flow)となる.
 速度分布は放物線となる.
  u(y) =  (α/ 2μ) ( h - y ) y 
 
 応力分布は直線となる,
 τ = α(1/2) h -y)

 
 hだけ離れて並行におかれた壁の間の定常流れ
 圧力勾配があり α ≠ 0  上側の壁が移動ししている場合 U ≠ 0
 クェット流れ (Couette flow)とポアズイユ流れ( Poiseuille flow)が合わさった流れとなる.


 球の層流抵抗 ストークスの法則
 
 粉末やミスト(霧雨のような小さな水滴)などの微粒子が流体中に沈殿するような場合,微粒子まわりの流れはレイノルズ数が非常に小さくなる.
 レイノルズ数が「1」より小さな流れ場では,慣性力に比べて粘性力の影響が大きくなる.このような低レイノルズ数流れでは,流れの場を「近似的に」求め
ることができる.
 その一つの方法が,ストークス近似(Stoke's approximation)である.

 ストークス近似による粘性流れ中の球の抵抗 D

  D = 6 π a μ U

   球の半径 a
   流れの速度 U
   粘性係数 μ

 抵抗係数は,
  Cd = 24 / Re

 低レイノルズ流れの球の抵抗 D
  D = 6 π a μ U
 抵抗係数Cd は
  Cd = 24 / Re

 これを,ストークスの抵抗の法則という.

 低レイノルズ数流れでは,抵抗の近似計算に密度が含まれない.
 =>慣性力は無視できる.
 =>結果的に,抵抗は速度に比例する.

 ストークス近似から求められた抵抗を利用して,微粒子が流体中を沈降する際の終端速度,すなわち沈降速度 U∞ を求めることができる.

 U∞ = 2/9 (ρ' - ρ) /μ a2g
  微粒子の半径 a
  微粒子密度ρ'  
  流体の密度ρ

 
 プールの中での水泳の抵抗
 普通のプールの水ももちろん粘性流体である.プールの中は基本的には,外力による流れはないが,プールをの中で水泳している者は自分が進むことによって,粘性流れの中の物体と同じ状態になる.
 人間の水泳では,体表面の摩擦抵抗は非常に大きなファクタとなっている.
 人間の体の表面の状態は,簡単には変更できないが,水着は色々工夫できる.

 レーザー・レーサー(LZR RACER)
 英スピード社が米航空宇宙局(NASA)などの協力を得て開発した水着. 抵抗の少ない新しい素材と,超音波で溶着した「縫い目がない」加工で等,水の抵抗を大幅に削減した.デザインは,コムデギャルソンとのコラボレーション.
 
 数値で見るLZR RACERの性能
 2004年に発表した「FASTSKIN FSⅡ」に比べ、受動抵抗(*2)を約10%軽減。
 2007年3月に発表された「FASTSKIN FS-PRO」に比べ、受動抵抗(*2)が約5%軽減。
 LZR Panels によって、「FASTSKIN FS-Ⅱ」に比べ表面摩擦抵抗(*3) を24%も軽減。
 無縫製設計よって、従来のステッチ型水着に比べ表面摩擦抵抗が6%低下。
 http://www.goldwin.co.jp/pr/080222_speedo/index.html

 詳しい技術情報は以下を参照
 http://www.speedo.jp/lzr_racer_about.html

 2008/6/8
 『競泳のジャパンオープンは最終日の8日、東京辰巳国際水泳場で行われ、男子二百メートル平泳ぎ決勝で北島康介(25)が2分7秒51の世界新記録を樹立した。従来の記録は、ブレンダン・ハンセン(米国)が06年8月にマークした2分8秒50で、0秒99更新した。』
 北島は,スピード社のレーザー・レーサーを着用.これまでの自己最高記録は,4月の日本選手権で出した日本記録の2分8秒84で,これを1秒33と大幅に短縮した.
  過去の自己ベストは,200m/128.84s = 1.552m/s
  今回の記録は,200m/127.51.s = 1.568m/s
 自己ベストを100とすると,101 すなわち,トータルで約1%の速度アップ.
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理工系 物理学講義

2008-06-20 | Mech Eng
 本書は,理工系の大学,特に工学系の専攻での1-2年生を念頭においた,初級物理学全般の基礎的教科書である.

 高校での,物理や数学の理解が不十分である学生も想定し,基礎的なレベルから(特に微分積分の解説には1章の11ぺージをあて親切に詳しく説明している),法則や原理が丁寧に解説され,のちの専門科目への発展性が配慮されている.また,あちこちに「寄り道」という,コラムが設けられていて興味をひく.

 物理の基本的な用語や概念から,相対論,量子論のさわりまで,幅広く網羅しなながら,262.p とコンパクトにまとめられている.図も豊富で,イメージがつかみやすい.さらに,章ごとに例題や練習問題も用意されている.
 付録には,単位,公式,ベクトル,微積分等の物理数学の簡単な解説がまとめられていて親切である.また,索引のキーワードには,すべて英語表記も記載されていて,用語集としても活用できる.

 筆者の加藤 潔 先生は,工学院大学物理学 教授で,素粒子,高エネルギー物理を専門として,国際学会に多くの論文を発表している第一線の研究者.本書には,加藤先生の,長年の実際の講義の工夫が随所につまっている.

 本来は,実際の大学の講義で用いる教科書だが,独学や自習での理工系物理の入門用,復習用の教科書として,おすすめできる一冊.


目次
1 基本的なことがら 
2 質点の力学 
3 力学の保存量 
4 万有引力 
5 剛体の力学 
6 流体力学 
7 波動 
8 熱力学 
9 電磁気学 
10 20世紀から現代へ 
付録


理工系物理学講義 改訂版

加藤 潔

培風館

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卒業論文,修士論文を書き始める前に読む本

2008-06-15 | Education
 大学4年生は,そろそろ,卒業論文のための作業が本格化し始める時期であろう.

 卒業論文は,実験のレポートとは異なり,その研究内容も重要だが,「学術論文」としての体裁,構造をもっていななければならない.
 
 論文の書き方,作法(さほう)については,非常に多くの参考書があるが,いくつか,個人的な好みで「オススメ」のものを推薦しておこう.


 最初の「理科系の作文技術」は,日本語で,論理的な文章,特に理工系の学術論文や報告書を執筆しようとする場合に,必読書と言えるものである.
 筆者の木下是雄 先生は,元学習院大学学長の物理学者.

 次の3冊は,それぞれ少し視点が違うが,わかりやすい文章で,入門者向きである.人文系の先生によるものなので,理工系では参考にならないと考える人もいるかもしれないが,決してそんなことはない.理工系の場合でも色々と参考になる.
 筆者は,それぞれ,札幌大学教授の鷲田 小彌太 先生(哲学),早稲田大学教授の石原 千秋 先生(近代文学),明治大学教授(前共立女子大学教授)の鹿島 茂 先生(フランス文学).

 5冊目の「創造的論文の書き方」は,社会科学の分野の大学院での論文の書き方の指南書であるが,これも「研究分野に関わらず参考になるノウハウ満載」である.
 筆者は,一橋大学名誉教授,東京理科大学教授の伊丹 敬之 先生(経営学)
 


理科系の作文技術 (中公新書 (624))

木下 是雄

中央公論新社

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入門・論文の書き方 (PHP新書 (074))

鷲田 小彌太

PHP研究所

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大学生の論文執筆法 (ちくま新書)

石原 千秋

筑摩書房

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勝つための論文の書き方 (文春新書)

鹿島 茂

文藝春秋

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創造的論文の書き方

伊丹 敬之

有斐閣

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※知り合いの先生からコメントがありましたので,紹介の順番を入れ替えました.
 筆者についての記述を追記しました.2008/6/16
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全盲・全ろうの福島 智 準教授に博士号授与

2008-06-09 | Education
 以前、2005/6/27の記事で紹介した、東京大学の福島 智 准教授が、博士号を得たことがあちこちで、報じられている。

 福島先生は、9歳で失明し、18歳で聴力も失いながら、盲ろう者として、日本で初めて大学(東京都立大)、大学院に進学し、現在は、東京大学で、障害児教育やバリアフリーについて研究している。

 健常者であっても、博士号を得るのは、相当の研究と知的集中力が必要となるが、視聴覚に障害をもっての博士論文レベルの研究は想像を絶するものがある。
 また、今回の福島先生の博士号取得は、本人の努力はもちろんだが、それだけではなく、彼の学習/研究を支援してきた、多くのボランティアを含む周囲のサポート体制の力も示しているものと思う。

 学術分野の専門家の世界では、博士号は一種の「免許皆伝」のようなものである。博士号を得た福島先生の今後の活動が、障害者、特に視聴覚障害者のコミュニケーション研究を、これまで以上に推進することを多いに期待したい。


 全盲・全ろうの福島氏に博士号、11日に東大で授与式(読売新聞) - goo ニュース

 読売新聞
 朝日新聞
 Gaijinpot.com
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講義 流体力学 2008-8

2008-06-07 | Mech Eng
 流体力学の講義8回目,概要は以下のとおり.

 偉人 レイノルズ
 層流 1 pp.120 - 128
  粘性
  粘性応力
  粘性係数
  ニュートン流体,非ニュートン流体
  動粘性係数  粘性流体の壁面流速
  レイノルズ数
  レイノルズ数による流れの変化

 
 偉人 レイノルズ
  オズボーン・レイノルズ (Osborne Reynolds 1842~1912 )
  イギリスの物理学者・技術者.
  1967年にケンブリッジ大学卒業.(数学専攻)
  1868年, 26歳でマンチェスター大オーエンカレッジの工学部教授に就任.
 (英国で2人目の”Professor of Enginnerig" )

 流体力学に関連する業績:
  層流から乱流への遷移の研究
  レイノルズ数(慣性力と粘性との比で定義される無次元数)の発見 1883年
  レイノルズ応力
  レイノルズの相似則
  キャビテーションの研究
  潤滑の研究

 その他の業績:
  蒸発器や凝縮器の伝熱の問題の研究
  タービンポンプの開発
  熱量拡散計の発明
  1988年,英国王立協会(the Royal Society)のRoyal Medal受賞.

 参考文献
 http://en.wikipedia.org/wiki/Osborne_Reynolds
 http://158.110.32.35/download/CERN07/R_ARFM_90.pdf
 http://misclab.umeoce.maine.edu/boss/classes/SMS_491_2003/Week_5.htm
 http://oceanworld.tamu.edu/resources/ocng_textbook/chapter08/chapter08_02.htm


 [層流 1]
 教科書のpp.120 - 128部分について,教科書にそって,説明した.
 
 粘性 (viscosity)
 流体において,速度の差が発生したところで,流れ方向に
 対して損失となる力を発生させる性質.

 ※最も典型的な速度の差がある流れとして,逆方向の速度を持つ
 流れが接している場合を想定してみよう.
    →→→→→→→→→→
    ←←←←←←←←←←
 
 流体を構成する物質の,「分子間力」が,粘性のおおもとの力である.
 さらに,分子同士の衝突による力もある.
 ※込み合った横断歩道の人の流れを斜めに人の流れよりも早く横切ろうとしたときを想定してみよう.

 「粘性」の特徴は,空気や水のような比較的粘性の低い物質だけを観察していると,直感的に理解しずらい.
 直感的には,サラダ油や,機械オイルの「べたつき」が,まさに「粘性」である.
 流体を構成している物質の分子の大きさも粘性に影響を与える.
 ※分子の大きな物質の方が粘性が高い場合が多い.

 粘性応力
 流体運動において粘性は,物体の運動おける摩擦力と同様に,流体の運動を妨げる力を生じさせる.その,粘性によって流体の運動エネルギーの一部は熱となって失われる.
 粘性によって生じる応力を,粘性応力(viscous stress) という.
 流体の粘性応力は,速度勾配に比例する.
 ※ 速度勾配とは,場所による,速度の変化の傾きである.

 粘性係数
 粘性のある流体の液面上に平板をおいて,平板をx方向に動かすと平板の動きと粘性に応じて,流体はx方向に速度をもつ.また,速度はy方向に勾配を持つ.
 このとき,x方向の速度 u,粘性応力 τ, とすると,

   τ = μ ə u / ə y

 この関係をニュートンの粘性の法則(Newton's viscosity low)という.

ここで,速度勾配と剪断応力の係数を,μ 粘性係数(viscosity coefficent) または,粘度という.
 粘性係数は,流体の粘性の度合いを表す係数で,流体毎に固有の値を取る.
 粘性係数の単位は, Pa ・ s である.

 ある物質の粘性係数は,気体か液体か,温度の変化で変わる.
  液体は,温度が上がると粘性係数が下がる.
  --> 分子間力が下がる
  気体は,温度が上がると粘性係数が上がる.
  --> 分子の衝突が増える

 ニュートン流体,非ニュートン流体
  ニュートンの粘性の法則に従う流体を,ニュートン流体という.
 ニュートンの粘性の法則に従わない(粘性)流体を,非ニュートン流体という.
  非ニュートン流体には,
   ビンガム流体
   擬塑性流体
   ダイラタント流体
  等がある.

 流体の分類(おさらい)
  完全流体
   渦なしの流れ(ポテンシャル流れ)
   渦あり流れ

  実在流体
   粘性流体
      ニュートン流体
            渦なし
            渦あり
               層流
               乱流
      非ニュートン流体

   圧縮性流体
   密度流・成層流
   回転流れ
   電磁流体

 動粘性係数 (kinetic viscosity coefficient)
 動粘性係数 ν とは,粘性係数をその流体の密度でわったものである.

   ν = μ / ρ

   μ 粘性係数, ρ 密度

 流体の密度は,概ね質点系の質量と同じ意味がある.つまり,粘度と質量の比率である.動粘性係数の単位は,m2/s

 動粘性係数の直感的な例は,

  水のような流体が物体に与える抵抗
   粘性の影響に比較すると,マス(密度)の影響が大きい

  空気のような流体が物体に与える抵抗
   マス(密度)に比較すると,粘性の影響は少なくない.

 粘性流体の壁面流速
 理想流体では,壁面上の流体の速度の壁面接線成分はゼロにはならない.
 これを,「滑り壁条件(slip condition) 」という.
 粘性流体では,壁面上の流体の速度の壁面接線成分は,壁面の速度と同じになる.壁面が静止している場合には,壁面上の速度の壁面接線成分は,ゼロとなる.
 これを,「滑りなし条件(non-slip condition)」という.

 レイノルズ数
 粘性流れにおいて,流れを代表する速度,流れを代表する長さ,動粘性係数の間には,以下の関係がある.

  Re = U ℓ / ν

  U 代表速度,ℓ 代表長さ, ν動粘性係数
  ※例 代表長さ = 管の内径
     代表速度 = 管の平均流速

 この Re を,レイノルズ数(Reynolds number)という.

 レイノルズ数は,慣性力と粘性力の比である.
 レイノルズの実験による,元々のレイノルズ数の式には密度ρもあった.
 ※ こちらの方が,イメージとして,わかりやすいと思う.

   Re = ρ U ℓ / μ

 ρ 密度
 U 管の平均流速,ℓ 管の内径,
 μ 粘性係数


 レイノルズ数による相似則
 同じ代表長さなら,流速が上がるとレイノルズ数も上がる.代表長さを流速に応じて下げ,レイノルズ数を一定に保てば,流れの慣性力と粘性力のバランスを保ったまま,流れの場は,相似形で縮小される.
 風洞実験,水槽実験は,この法則を応用している.

 談:ミニチュアでの海上シーン等の特撮では,流れを模型のスケールに落として撮影されるが,低予算の場合普通の水を使うので,粘性係数は実物の海水と大差ない.そうすると,上の式からわかるように,レイノルズ数は保たれないので,粘性の影響が大きくでて,水滴,水柱などのリアリティが下がってしまう.工学的に考えると,模型のスケールに正しくあわせるためには,模型の縮尺にあわせて,粘性係数をさげた液体を用意する必要がある.


 レイノルズ数による流れの変化
 レイノルズ数が,100ぐらいになると,物体の下流に上下非対称の渦列が発生する.これを,カルマン渦列(Karman's voltex street ) という.
 以下に,カルマン渦列の写真等があります.
 http://stream.nagaokaut.ac.jp/docs/introduction/wind.html

 談:カルマン渦列は,周期性を持つ渦なので流れ中の物体へ色々な影響を与える.実際に,米国では吊り橋が風によるカルマン渦列で共振して崩壊するという事故があった.

 ※ 以下で落橋の様子の動画がみられます.
 タコマナローズ橋の落橋の様子の動画

 流れの中に物体(円柱等)があるとき,レイノルズ数が上がると,渦が剥離する.

 

 [おまけ]
 流体力学に関係する図書をもっと推薦してほしいという声があった.
 今回は,飛行機関連の面白い本.
 
紙ヒコーキで知る飛行の原理―身近に学ぶ航空力学 (ブルーバックス)

小林 昭夫

講談社

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飛行機のしくみ―なぜ空を自由に飛べるのかをわかりやすい絵で一発解説! (ぶんか社文庫 ひ 7-1 ズバリ図解) (ぶんか社文庫 ひ 7-1 ズバリ図解)

秀島一生

ぶんか社

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講義 流体力学 2008-7

2008-06-01 | Mech Eng
 流体力学の講義7回目,概要は以下のとおり.

 流れの基礎式のまとめ
  圧力と高さ
  浮力
  連続の式
  流体の加速度
  オイラーの式
  ベルヌーイの定理
  運動量の式

 
 「ベルヌーイの定理」のところまでは,前回までの講義の中で,流体力学の基礎式として,特に重要なものを,まとめて再度解説した.そのあと,先週の講義で,時間切れとなって説明できなかった,「運動量の式」について説明した.

 これらの,式とその概念は,流体力学において,最も基本的なものである.
 単に,式を覚えるだけでなく,その式の「意味」を説明できるように,十分に復習してもらいたい.

 講義のスライドは,殆ど教科書の内容にそっているが,以下,主なポイントと,スライドにあって教科書にはなかったぺージについて述べる.


 [圧力と高さ(深さ)]
 ある深さの流体の圧力 pは,
  p = ρgh  
 ここで,ρ: 流体の密度,  g : 重力加速度, h : 深さ
 密度が一定の場合には,圧力は,深さ(高さ)の関数.
 密度は流体の物質により,また,圧力,温度で変化する.

 代表的な流体の密度 (kg/m3, 1気圧,20度)
   ヘリウム     0.17
   空気       1.2
   二酸化炭素    1.7
   エチルアルコール 790
   水        998
   水銀      13600

 ※実用的には,様々な流体(物質)の,密度のおおまかなオーダーを把握しておくことが非常に重要である.


 [浮力]
 浮力 P の大きさは
  P = ρg V

 流体中に存在する物体が流体からるうける力は,物体の表面全体でつりあっている.
 もし,つりあっていなければ,
  物体がつぶれる
  物体が膨らむ
  物体が沈む
  物体が浮き上がる
  物体が傾く
 
 流体中の物体が,変形せず移動しないことが,物体が流体からうける力が釣り合っている==全体でバランスしているということ.
 ※流体力学では,力とエネルギーのバランスの概念が非常に重要である.

 [流体の加速度]
 ラグランジェとオイラーの方法
  川の流れの上のボートの運動に例えると,

  ラグランジェ的方法:
  ボートの上から,運動や時間を観察する

  オイラー的方法:
  岸の上から,運動や時間を観察する
  加速度は,時間による速度の変化だけでなく,場所による速度の変化に見える.
  ※特別な場合以外は,流れの場はオイラー的方法で取り扱うことが多い.

 [ベルヌーイの定理]
 流体のエネルギー保存法則
  ベルヌーイの定理 (Bernuilli's Theorem)
  1/2ρv2 + p + ρgz = const.

 ただし,以下の条件が成り立つ場合.
  1. 非粘性非圧縮流体
  2. 定常流れ
  3. 流線上

 液体のエネルギー保存則
   全エネルギー = 運動エネルギー + 圧力のエネルギー+位置エネルギー
 
 気体のエネルギー保存則
 低速流れ
   全エネルギー = 運動エネルギー + 圧力のエネルギー
 高速流れ
   全エネルギー = 運動エネルギー + 圧力のエネルギー + 熱エネルギー


 [運動量の式]
 運動量保存の法則 pp.111-117

  流体の運動量保存の法則

  (ρV2 - ρV1) x Q = F

  流体の単位体積当りの運動量の変化: 密度ρの流体が 速度V1からV2へ
  検査領域への流量: Q

 運動量保存の法則の適用例 
  流体の運動量保存の法則の適用例として良く知られている装置は,
   ジェットエンジン
   ロケットエンジン

   例えば,ジェットエンジンは,後方への運動量を空気に与え,逆にエンジンが前方への運動量を得る.
   ジェットタービンで強制的に空気を吸い込み,
   燃焼により体積を膨張させ燃焼ガスの排出速度を増し,
   後方への運動量を拡大する.(反力でエンジンは前方へ)
 


[参考文献]

講義の終わりに紹介した,教科書の理解を補足する入門参考書.
イラストがわかりやすく,現象や方程式のイメージや意味がつかみやすい.

トコトンやさしい流体力学の本 (B&Tブックス 今日からモノ知りシリーズ)

久保田 浪之介

日刊工業新聞社

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上記と同様の,図解が豊富な入門参考書.
量は多くないが,計算の例題もある.

図解入門 よくわかる最新流体工学の基本―見えない流れをイラストで学ぶ、流体工学・超入門 (How‐nual Visual Guide Book)

小峯 龍男

秀和システム

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以前から何度か推薦している,入門参考書.
様々な流体現象について,わかりやすい図解による解説や,家庭で簡単にできる実験などが,沢山含まれている.

流れのふしぎ (ブルーバックス)

講談社

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※運動量保存の法則の応用である,「ジェット推進」を確認する簡単な実験が p.114 にある.
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