Dr. Jason's blog

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脳脊髄の解剖学

2008-05-30 | Medicine
 本書は,最近入手した,脳脊髄関連部分の解剖学の専門書である.

 米国の医学部で,脳神経外科の臨床のための教科書として使われているもの.950ページの大冊.
 とにかく,カラフルな図がすばらしい.ある角度,あるビューの図がみたいと思うものは,殆どふくまれている.イラストだけでなく,MRI画像等も抱負.また,解剖学的な解説だけでなく,臨床的に重要な100以上の症例についての解説がある.英語も,解剖学独特のラテン語系の専門用語以外は比較的よみやすいので,脳神経の専門でない医師の方だけでなく,医学専攻ではないが脳神経について専門的な興味のある人でも,少し辞書などでしらべながら,医学辞典的に活用できる.

 「脳脊髄液の循環」についての図や解説も,非常にわかりやすい.

 筆者のHal Blumenfeld 博士は,米国イエール大学医学部神経科の神経および神経生物学研究部長で,助教授(MD, PhD, Director of Medical Studies, Assistant Professor, Neurology and Neurobiology, Department of Neurology, Yale University School of Medicine).

 脳神経の解剖学的な詳細に興味のある方,「脳脊髄液の循環」について解剖学的な知識を確認したい方に,おすすめできる一冊.


 それにしても,米国の先生は厚い教科書かきますねぇ.これだけの内容で950ページを一人でまとめるというのはすごい.

 目次

Preface
Acknowledgments
How to Use This Book
1. Introduction to Clinical Case Presentations
2. Neuroanatomy Overview & Basic Definitions
3. The Neurologic Exam as a Lesson in Neuroanatomy
4. Introduction to Clinical Neuroradiology
5. Brain and Environs: Cranium, Ventricles, & Meninges
6. Corticospinal Tract & Other Motor Pathways
7. Somatosensory Pathways
8. Spinal Nerve Roots
9. Major Plexuses & Peripheral Nerves
10. Cerebral Hemispheres & Vascular Supply
11. Visual System
12. Brainstem I: Surface Anatomy and Cranial Nerves
13. Brainstem II: Eye Movements & Pupillary Control
14. Brainstem III: Nuclei, Pathways & Vascular Supply
15. Cerebellum
16. Basal Ganglia
17. Pituitary & Hypothalamus
18. Limbic System: Homeostasis, Olfaction, Memory, & Emotion
19. Higher-Order Cerebral Function
Epilogue: A Simple Working Model of the Mind Index to Cases Subject Index


Neuroanatomy Through Clinical Cases

Sinauer Associates Inc

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脳脊髄液減少症の診断と海外文献  医学の細分化,専門化の弊害?!

2008-05-29 | Medicine
 脳脊髄液減少症に関する,一般向けの書籍としては,以下の『「むち打ち症」は治ります!―脳脊髄液減少症(低髄液圧症候群)の決定的治療法』が,よく知られている.

あなたの「むち打ち症」は治ります!―脳脊髄液減少症(低髄液圧症候群)の決定的治療法

山口 良兼,守山 英二,篠永 正道

日本医療企画

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 この本をみると,
『腰椎穿刺や脳や脊髄大きな外傷がなくても,衝撃のかかり方によっては,「容易に硬膜に穴があいて,脳脊髄液が漏れること」』
そのものが,多くの医師から「実感されていない」ことが,多くの医師のコメントとして綴られている.

 脳神経外科以外を専門とする医師,特に内科の医師などは,「脳脊髄液減少症」について,直感的な理解がなくても「しかたない」かなとも思う.
 しかし,脳神経外科の専門の医師の場合でも,「RIシンチグラフィー」での結果をみて,すなわち「脳脊髄液の漏洩」の映像を自分の目で目視したあとでさえ,すぐには,「軽度の頸椎ねんざ」とおもわれる交通事故の患者さんが,(事故時の衝撃によって)現実に脳脊髄液の漏洩を起こしているということを,理解できなかったという告白もある.
また,中には「脳神経外科では,主に脳に気をとられているので,首から下については,なにか特別の目的がなければ,MRIの画像等を詳しくみる習慣があまりない」という主旨の記述もあった.
 また,比較的はっきりした診断のできる,「RIシンチグラフィー」や「「MRミエログラフィー」の検査は,「脳脊髄液が漏れているかもしれない」という疑いがなければ,通常の,頭痛や自律神経の不調等ではもちろんおこなわれない.
 つまり,もし,交通事故で頭部,首,腰などの打撲やねんざがあって,そのために「脳脊髄液が漏洩」が発生している場合でも,単に,頭部CTや首や腰のレントゲンをとるだけでは,「脳脊髄液が漏洩」という問題そのものが永遠に発見されない可能性が大きい.
 また,「脳脊髄液の漏洩による減少」が発生して,症状が慢性化すると,頭蓋内での脳脊髄液が減った分の体積は「静脈の拡大」等によって補填され,脳脊髄液の圧力が上がっているように見える場合があるために,単に,脳脊随液の圧力を計った場合すら「脳脊髄液の漏洩」を発見できるとは限らない.


 これらの背景には,おそらく,医学の細分化,専門化の問題がある.
「脳脊髄液減少症」について疑問視する人々からは,「脳脊髄液減少症」関連する海外の学術専門雑誌での論文等の情報がすくないという意見があるが,実際には,例えば,Google で,

 cerebrospinal fluid CSF leak road traffic accidents RTA

等のキーワードで検索すると,けっして少なくない量の論文が見つかる.
 これらの中には,日本の脳神経外科系の「脳脊髄液減少症」の研究者と連携して研究をしていることで知られている研究者による論文もあるが,多くは,脳神経外科系のジャーナル(専門学術雑誌)だけではなくて

  麻酔科
  耳鼻咽喉科
  口腔外科

の関係とおもわれるジャーナルである.
 臨床系の医師の多くは,洋の東西を問わず,自分の専門領域以外の文献にはあまり目をとおしていないようだ.


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講義 流体力学 2008-6

2008-05-26 | Mech Eng
 流体力学の講義6回目,概要は以下のとおり.

 演習 流体力学の用語
 偉人 ベルヌーイ
 流体の基礎式 2
 オイラーの式
 ベルヌーイの定理
 静圧と動圧、水頭(ヘッド)
 ベルヌーイの定理の応用


 [演習 流体力学の概念や用語]
 以下の概念や用語を文章や数式を用いて説明せよ.回答は,出席票に書く事.(持ち時間は28分)

1. 速度
2. 加速度
3. 密度
4. 比重
5. 圧力
6. 全圧力
7. 全圧
8. 応力
9. 定常流
10. 非定常流
11. 一様流
12. 流速
13. 流量
14. 質量流量
15. 流線
16. 流管
17. 流跡線
18. 流脈線
19. 検査領域
20. 検査体積


 [偉人 ベルヌーイ]
 ベルヌーイの定理で有名な,ダニエル・ベルヌーイ(Daniel Bernoulli)について紹介した.詳細は以下を参照.
 http://en.wikipedia.org/wiki/Daniel_Bernoulli
 1700年代に出版された,流体力学の古典的教科書(ラテン語)の英語版が現在でも出版されていて,インターネットを介して容易に入手できるというのはすごいことだと思う.


 [流体の基礎式 2]
 教科書の pp.91-110部分について,教科書にそって,説明した.
 水頭とベルヌーイの定理の応用については,やや駆け足になった.
 ベルヌーイの定理については,単に公式を覚えるのではなく,原理と式や変数の意味を説明できるように,十分に復習してほしい.
 特に,pp.96-101が最も重要である.
 

Daniel Bernoulli, Hydrodynamica 『流体力学』と
父のJohann Bernoulli, Hydraulics 『水力学』 の合本,改訂版(英語版).
Hydrodynamics And Hydraulics (Dover Phoenix Edition)

Dover Pubns

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追伸:
 再履修の4年生へ
 担当講師が変わり,教科書も変わっていますし,評価の方針なども昨年度とは異なります.教科書,参考書は持ち込み可ですが,他人のノートのコピーは不可での試験となる予定です.
 新しい教科書を購入して,できるだけ講義へ出席されることをオススメします.
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講義 流体力学 2008-5

2008-05-26 | Mech Eng
 流体力学の講義5回目,概要は以下のとおり.

 流体の基礎式 1
 物体と流体に作用する力
 流体力学の用語
  定常流,非定常流,一様流,流速,流量,質量流量,
  流線,流跡線,流脈線,応力,検査領域,検査体積
 連続の式
 物体と流体の加速度

 [流体の基礎式 1]
 教科書のpp.72-90部分について説明した.
 概ね教科書にそって説明したので詳細はここでは割愛する.
 欠席したものは,例題,練習問題も含めて自習すること.

 古典力学の「物体に作用する力」については,各自,物理や工業力学のテキスト等で十分に復習した上で,あらためて,流体力学の教科書の該当部分を見直してほしい.

 流体力学の用語については,十分に復習して,単に言葉を覚えるのではなく,概念を説明できるようにしてほしい.

 流体力学においては,「連続の式」は非常に重要な概念である.流れのなかの「つりあい」について,しっかりとイメージをもつようにしてほしい.

 加速度については,偏微分,実質微分の式も重要だが,ラクランジェ的方法と,オイラー的方法の概念としての違いをしっかりと把握することが,より重要である.
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脳脊髄液減少症: 裁判官殿もっと科学を勉強してもらわないと困ります.

2008-05-26 | Medicine
 交通事故と「脳脊髄液減少症」との関連について,以下の報道にある,「髄液漏れ関係を否定 事故被告に罰金 静岡地裁判決」の記事は,元々の裁判官の判決が非科学的なのか,あるいは,報道している記者の方が非論理的なのか判然としないが,ちょっとレベルが低すぎるのではないか?

髄液漏れ関係を否定 事故被告に罰金 静岡地裁判決 (静岡新聞 05/19 14:58)

 まず,慢性化した脳脊髄液減少症全般について,全般的かつ簡単な確定診断の方法はないが,それは複合的な症状の症候群ではごく普通のことであろう.しかし,実際に「脳脊髄液の漏洩」が継続していれば,正しい手順でいくつかの検査をすれば,その診断はそれほど難しいものではない.
 
 医学あるいは医療近接領域の専門家でなくても,少しの科学的な知識と理解力があれば,『脳脊髄液減少症ガイドライン』を読んで,どうすれば「脳髄液の漏洩」が確認できるか理解できるはずである.
 すくなくとも,『診断基準も確立していない』というのは,裁判官の単なる不勉強による事実誤認だとしかいえない.

 『髄液漏れは医学的に広く認められていない』というのも,なにかの誤解としかいえないと思う.医学の専門家でなくても,少し医学に知識のある人であれば,「腰椎穿刺等のあとに髄液がもれること」,あるいは,「何らかの理由で髄液が漏れるとどんな症状になるか」ということは結構知られている.
 『症状自体が学会で認められていない』というのは,どこの学会の話だろうか?

 実際に,漏れが続いている場合には「RIシンチグラフィー」での結果をみれば「髄液の漏洩」そのものは明白だ.また,状態によっては,水分を強調して画像化する「MRミエログラフィー」等でも診断できる.脳脊髄液漏出の検査と診断等の方法は,脳神経外科の分野ではごく常識的なものだ.

 一般の整形外科や内科の医師などに,広く知られていないのは,腰椎穿刺や大きな外傷がなくても,衝撃のかかり方によっては,「容易に硬膜に穴があいて,髄液が漏れること」と「通常知られているよりも幅広い症状があること」等というのが順棟な現状分析だと思う.
 しかし,この記事では『尻もちやせきなどの日常生活で発症したとの報告例もある』として,髄液が『日常生活のちょっとした衝撃で,容易に漏れる』という事例があることを,述べている.完全な矛盾である.

 論理的に考えれば,「尻もちやせきなどでも容易に発症する障害」であれば,交通事故による「頸椎への外傷」(いわゆる『むちうち症』)の衝撃でも,発症する可能性が高いと考えるのが,合理的であろう.
 もちろん「他の何らかの影響で発症した可能性」があることは当然であるが,前提に対する科学的な理解不足や事実誤認があっては,論理的な法的判断が行われるとは考えにくい.

 『医学会では否定的な見解が根強い。一部の医師からは血液の凝固作用で漏出を止める「ブラッドパッチ」が有効との意見もあるが、確立された治療法もないとされる。』これも,状況認識が明らかに間違っている.
 「髄液の漏れ」は,漏れが継続していれば,ほとんどの場合に,いくつかの診断で明白にわかるし,漏れていれば,「ブラッドパッチ」で漏れそのものは止まる.その意味では,「髄液の漏れ」に対する,基本的な治療はあるのだ.
 # もちろん,やみくもに「ブラッドパッチ」だけすれば良いというものでもない.

 問題は,「脳脊髄液の漏洩」をもたらすような事故から正しい治療開始まで時間がかかると,「漏れをとめても」症状が「完全には消失しない」==「後遺症が残る」事例が多いということである.しかし,これは,どのような疾病や外傷でも同じことである.
 つまり,普通のことばでいうと『「脳脊髄液の漏洩」を止める基本的な治療は確率しているが,発症から最初の治療が遅れた場合には,様々な後遺症が残り,それについては,未解決の問題が多い.』というのが,正しい状況認識だと思う.

 一番よくわかっていないのは,「脳脊髄液減少症」ではなくて「脳と脊髄のシステム」「自律神経のシステム」全体だと思うのは,私だけだろうか?



 交通事故やその他の事故で,頸椎,腰椎への外傷が絡む裁判やその周辺の医療行政にかかわる,裁判官,弁護士,官僚等の方は,少なくとも,以下の『脳脊髄液減少症ガイドライン』を必ず通読していただく必要があるだろう.
 これを,読んで理解できない人は,少なくとも,この件の裁判官は辞退していただきたいものだ.

脳脊髄液減少症ガイドライン (2007)

メディカルレビュー社

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# 2010/12/11 誤字修正
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脳脊髄液減少症: 脳と圧力 補足

2008-05-25 | Medicine
 昨日の,blogに書いた,以下の脳の重さとフットプリントにかかる圧力の計算は,非常にラフなものである.

 『....つまり,非常におおざっぱにみると,立っている状態では,髄液の浮力等がなければ,脳の自重によって,脳の底部では,700 Pa 程度の圧力(単位面積あたりの力)が加わるはずだと推定できる.これは,圧力としては,たいした大きさではないが,豆腐におき変えてみると,実感がわくだろう.
[豆腐3丁分の面積に4.5丁分の重さ]
 普通の豆腐のパックはいくつか大きさに種類があり,例えば,10.5 x 7 x 5 cm で,約350g である.そうすると,3パック分の底面積でちょうど約 220 cm2 となり,重さが,1600g とすると,約4.5パック相当となる.固めの豆腐でも、3個を並べた上に,さらに,1.5個分重さをがくるので,その3個分の底面にかかる重さは,片手でもてば,体感的にもけっこうずっしりするはずだ.』

 しかし,脳の自重に対して,脳脊髄液の浮力の助けがない場合の圧力のオーダーとしては,概ねのイメージがつかめると思う.

 脳には,脳室等の空洞があるので,その部分は脳としての体積が減る(髄液で満たされる)勘定になる.その結果,全体としての脳の表面積が増える方向になるので,脳のある面が受ける力を細かく知るのは,意外と難しい.
 いずれにしても,脳の自重による圧力あるいは応力と,低気圧による大気圧の変動の幅のオーダーが,大気圧への普通の人が持つのイメージよりも,近いところにあることは,明らかだろう.

 また,「脳脊髄液減少症」の方の症状には,体温調整に代表される自律神経系の不調がよく知られている.
 直感的に,『何らかの理由で体温調整等の自律神経が不調の人は,大気圧への対応のための体内のシステムも「応答遅れ」等が発生する』という仮説が成り立つとすると,そのせいで,大気圧の変動の影響による追加の圧力を受ける時間が健常者よりも長くなることになる,そうすると,脳の圧力の影響を受けている部分への圧力によるストレスが強化されて,さらに体調不調になるというのは,単純すぎるモデルだろうか?


 気圧と体調については,「医療健康情報」にとても参考になるコラムがあった.
 「天気が良くなってゴルフに行こうとすると盲腸の手術が入って行けなくなる事が多い」というジンクスから虫垂炎発症の免疫系のメカニズムと気圧の変化の関係を明らかにした研究者がいるらしい.
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脳脊髄液減少症: 脳と圧力 -流体力学者の視点-

2008-05-24 | Medicine
 知人の大学教授(理学博士,地学系)と,脳脊髄液減少症について,色々とやりとりをしていたところ,いくつか気がついたことがあった.それをその知人の先生にメールしたところ,「他の人の参考になりそうなので,是非ブログにまとめてください」ということになったので,いくつかまとめておくことにする.

[脳髄液減少症]
 脳髄液減少症は,簡単にいえば「何らかの理由で,脳や脊髄の周りにある,脳脊髄液が減少し,その結果,様々な症状が出る症候群」である.この脳脊髄液は,150ml 程度といわれており,脳や脊髄の周りで薄いクッション的な役割をしていると考えられている.
 脳髄液減少症は,当初,脳や脊髄の病気の手術や治療,あるいは,脊髄液の検査(腰椎穿刺)で起こることは知られていたが,医師の間でもそれほど一般的な症状とは考えられてこなかった.しかし,近年,首,背中,腰等への外傷(特に自動車交通事故での打撲やねんざ)で発症することが知られるようになってきている.

 脳髄液減少症の主な症状としては,以下のものが広く知られている.
 ・激しい頭痛と腰痛、起立性頭痛
 ・気力や集中力の低下
 ・記憶力、思考力の低下
 ・倦怠感と脱力感
 ・睡眠障害
 ・顔や四肢の痺れ
 ・発汗異常
 ・視力の低下
 ・食欲不振
 ・めまい、立ちくらみ

 これらの症状は,自律神経失調症等と似ているので,脳髄液減少をうたがって,それを確認する検査を行わなければ,なかなか,「脳髄液減少症」という診断にならないという問題も発生している.

 思考力の問題に関連した症状としては,ある種の言語障害の発生も報告されている.これは,例えば,関西出身の人の母語が関西方言の日本語だった場合に,
 関西弁日本語 > 標準語(東京弁日本語) > 英語(第一外国語) > ロシア語(第二外国語)
 という順番で,修得したとき,あとから修得した言語ほど,脳髄液減少症する前のレベルで操れないという症状である.

 また,脳髄液減少症のある人は,天候の変動などによる,気圧の低下によって症状が全体的に悪化することが多いらしい.患者さんの中には,気圧の変化を自前の気圧計で計測して,気圧と体調の変化について自らのblogに記載している方もいるほどだ.

 脳髄液減少症の場合以外でも,神経痛や骨折等の神経にも損傷があったような古傷を持つ場合には,気圧が下さがり始めると,痛みが出るという症状は比較的よく知られている.気圧の変化と痛みの相関についてのメカニズムを明らかにするために動物実験等を含む研究も行われている.


 「脳脊髄液減少症」そのものについては,以下の文献に詳しい.
 
脳脊髄液減少症ガイドライン (2007)

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[大気圧]
 普通の人は,大気圧がどれくらいの力かということについては,天気図の低気圧と高気圧の数字ぐらいしかなじみがなと思われるので少し解説しよう.
 圧力の数え方は色々あるが,工学の分野では,1平方メートル当りの(単位面積当りの)力として定義されている.1平方メートルに1 N(ニュートン)という力が加わっているとき,その圧力を,1 Pa(パスカル)という.
 標準的な海面での大気圧は,標準気圧といい,1 atm (アトム)という単位(いわゆる1気圧)だが,これは,1atm = 101325 Pa に定義されている.
 桁が多くて,通常の場合には扱いにくいので,天気予報等では,1/100にして,
1013 hPa (ヘクトパスカル)を1気圧と表記している.
 この1013 hPa というのは,1平方メートル当り 101325 Nの力,すなわち,重量にすれば,約10 t(トン)の重さによる力が加わっていることに相当する.
 つまり,普通,直感的に考えられているよりも,「空気は重い」ものであり,その空気による圧力「大気圧」も大きなものである.
 我々が,地表や海上にいて,1平方メートル当り約10 tの重量に相当する力をうけてもつぶれないのは,体内の圧力が「大気圧と釣り合うようにする」ようなメカニズムを体内にもっているからである.
 
 この大気圧と体内の圧力のバランスをとるために,人間を含む殆どの地表の動物には,気圧の変化を察知して,それにあわせて体内の状態を調整するメカニズムがあると考えられる.
 気圧の変化に応じて,体内の圧力がどのように変化するかについては,例えば,
北大の大学生について気圧の変化と血圧の変化の関係を調べた研究等がある.この研究では,翌日が低気圧のとき,前日から血圧が上がり始めることがわかっている.つまり,人体は,気圧の時間時間変化の傾きに(気圧の加速度)に敏感で,低気圧がくる前にその圧力変化への調整をしようとしていると考えられる.

「脳脊髄液減少症」の場合,気圧計の数字の上では,ほんのわずかな気圧の低下,例えば,4-5 hPa という気圧の低下で症状が悪化するらしい.
 このことについて,流体力学的に考えてみた.


[脳の体積とそれを支える底面積]
 まず,普段,脳にはどのような力が加わっているだろうか?

 脳の体積は,1400 - 1500ml ぐらいといわれている.計算を簡単にするために,脳を球と仮定して,その体積と表面積を計算する.仮に,脳を1500ml = 1500cm3 の球とする,その体積は4/3 πr3 であり,半径r = 7.1cmとなる.その球の表面積は,4πr2 であるから,表面積=633.5cm2 となる.
 ここで,立位(立っている場合)を想定し,そのとき球の下半球側の面積に脳自身の重さがくわわると仮定する.下半球側の面積は,表面積の半分は,= 316.8 cm2 となる.この半球の側面の部分は,脳の重さをほとんど支えないとして,実質的な脳フットプリント(足跡になる底面積)は,下半球の表面積の70%程度とすると,= 221.76 cm2 となる.端数を切り捨てると,1500ml の脳のフットプリントは約 220cm2 と推定できる.

 また,脳の重さは,1500-1600g ぐらいと言われている.ここで,1600gの重さの脳を220cm2 の面積で支えるとすると,7.27g / cm2 の単位面積あたりの重さである.重力加速度 g = 9.81 m/s とすると,この圧力は,713.2 Pa となる.

 つまり,非常におおざっぱにみると,立っている状態では,髄液の浮力等がなければ,脳の自重によって,脳の底部では,700 Pa 程度の圧力(単位面積あたりの力)が加わるはずだと推定できる.これは,圧力としては,たいした大きさではないが,豆腐におき変えてみると,実感がわくだろう.


[豆腐3丁分の面積に4.5丁分の重さ]
 普通の豆腐のパックはいくつか大きさに種類があり,例えば,10.5 x 7 x 5 cm で,約350g である.そうすると,3パック分の底面積でちょうど約 220 cm2 となり,重さが,1600g とすると,約4.5パック相当となる.固めの豆腐でも、3個を並べた上に,さらに,1.5個分重さをがくるので,その3個分の底面にかかる重さは,片手でもてば,体感的にもけっこうずっしりするはずだ.

 この豆腐4.5パック分の脳を,脳髄液の浮力で,支えているということになっている.文献によると,髄液の中の脳は,髄液の浮力によって,通常の体内では,実際の重さの3%程度の重さ相当になるらしい.例えば,1500g のものが,50g 相当ということだ.
 平常の状態で,脳と精髄のまわりを脳脊髄液が満たしている場合,そこに働く浮力は,流体力学的には,脳脊髄液を押しのけている,脳脊髄の実際の体積と脳脊髄液の比重で求められるが,アクティブな脳の体積そのものの正確な推計は難しい.


[大気圧の変動の値と脳の自重による圧力」
ここで,大気圧が,標準状態の 101325 Pa = 1013 hPa から 少し気圧がさがって 998 hPa となった時を考える.998 hPa は,少し大きな低気圧ならめずらしくない値である.見た目の差は,15 hPa だが,h をとると,これは,1500 Pa の変動である.
 「脳脊髄液減少症」の方の体調が悪化するというちょっとした気圧の低下 5hPa は,500 Pa である.つまり,脳の自重による、面積あたりの重さによる圧力に比べると、絶対値としては,大気圧の変動幅は結構大きな圧力変動であることが言える.

 ここで,髄液のクッションのようなものがないと,脳の自重で700 Paかかるところに髄液の浮力等のおかげで、脳の底面部分には,脳の自重の約3% 20Pa しか圧力が加わらない状態が正常と仮定する.
 しかし、「脳脊髄液減少症」で,髄液の量や代謝に問題があって、通常の1/10の浮力となって,脳の底の自重による圧力が200 Pa になっているとする.そこに,気圧が 5 hPa さがったとする.大気圧が下がると,体内の圧力もある程度の時間のあとには、大気圧にバランスするように下がるはずだが,調整中の状態からすると,5 hPa の大気圧の変動は,すなわち,500 Pa の負の圧力の変動を脳の底に加える可能性があるということではないかという仮説が思い浮かぶ.
つまり,体内の圧力が大気圧とバランスするまでの時間 t で,脳の底のあたりでは,200 ... 700 ... 200 Paという圧力の変化が発生している可能性あるのではないだろうか?

 脳や神経細胞が,正常に耐えられる,圧力には,当然,(工学的にみれば,設計の想定上の仕様としての)「閾値」があるとおもわれる.
 通常,機械や建築などのシステムの設計では,自分は自分の重さを支えられる程度にはつくられる.これは,自然界でも同様の法則が成り立つ場合が多い.脳の自重をすべて自分のフットプリントで支えた場合の圧力が、650 - 700 Pa 程度だったと仮定すると,その程度の値が脳や神経細胞た正常に耐えられるある閾値になっているというのは,直感的にわかりやすい仮説であると考えられる.



[生理学,解剖学等の参考書]
 
好きになる生理学―からだについての身近な疑問
田中 越郎
講談社

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好きになる解剖学―自分の体をさわって確かめよう
竹内 修二
講談社

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人体解剖図

ベンジャミン・リフキン,ジュディス・フォルゲンバーグ,マイケル・J・アッカーマン
二見書房

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CT/MRI画像解剖ポケットアトラス 第3版 第1巻 頭部・頸部

町田 徹
メディカルサイエンスインターナショナル

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[流体力学の入門参考書]

流れのふしぎ (ブルーバックス)

講談社

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基礎から学ぶ流体力学
飯田 明由
オーム社

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参考書 材料力学、機械力学の復習

2008-05-18 | Mech Eng
 先日の講義で、流体力学のクラスを取っている学生から、「材料力学がわからない」「自分に合う参考書が見つけられない」という話があった。
 材料力学は専門ではないが、最近の入門参考書で説明が親切なものをいくつかあたってみた。


 以下の、「図解でやさしい 入門材料力学」は、おそらく、日本語でかかれた、材料力学の入門書としては、「もっともわかりやすいもの」の一つだと思う。

 
これならわかる 図解でやさしい入門材料力学

有光 隆

技術評論社

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 材料力学は、色々なところで、いわゆる「古典力学」と、その機械への適用である「機械力学」(工業力学ともいう)を前提としている。上述の「図解でやさしい 入門材料力学」で、わかににくいところがある場合には、実は「機械力学」の基礎が十分に理解できていないと考えられる。


 以下の「絵ときでわかる 機械力学」は、高校での「物理」「力学」をふまえて、機械力学の基礎を網羅的にわかりやすくまとめている。
 材料力学の下ごしらえだけでなく、流体力学でも、力学的な原理についていまひとつ理解に自信のない人におすすめできる入門参考書である。

絵ときでわかる 機械力学

門田 和雄,長谷川 大和

オーム社

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 これでも、まだわからない部分がある場合には、やはり
2008-04-27の記事「春の読書ガイド 科学の基礎の復習」

で紹介したような参考書を通読して、高校の科学系科目全般について復習する必要があるだろう。




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NPO OSSAJ 「OSSAJビジネスセミナー」のご案内

2008-05-12 | Software
 NPO法人,オープンソースソフトウェア協会より,総会,セミナーのお知らせ.

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     「OSSAJ総会」、「OSSAJビジネスセミナー」のご案内

     主催:NPO法人オープンソースソフトウェア協会(OSSAJ)

日頃はNPO法人オープンソースソフトウェア協会(OSSAJ)の活動にご協力いただ きありがとうございます。2003年の設立以来、地道な活動を続けてまいりましたが、本年も「OSSAJ 総会」と併設の公開のセミナーを開催いたします。
今年のセミナーは『OSSによるビジネス、OSSのビジネスアプリケーション』と題して、人事系、ビジネス・プロセス・マ ネジメント系の2つのOSSベースのビジネスアプリケーションをとりあげ、そのビジネス線戦略、ビジネスモデル等についてご紹介いただき、そのあと講師を交えてパネルディスカッションを行います。
会員の方々はもちろんのこと、一般の皆様方のご参加をお待ちしております。

                  記

  「OSSAJ総会」、「OSSビジネスセミナー」概要

◆開催日 2008年5月27日(火)
◆時間 13:30-20:00
◆場所 池袋駅西口 メトロポリタンプラザ 12階会議室
概要 http://metopoli.com/meeting/index.htm
アクセス情報 http://metopoli.com/access/index.htm

★NPO法人 OSSAJ 総会
13:30-13:45 総会受付
13:45-14:15 総会

★OSSビジネスセミナー
『OSSによるビジネス、OSSのビジネスアプリケーション』

14:15-14:30 ビジネスセミナー受付
14:30-14:40 会長挨拶

14:40-15:25 「OSS人事系業務アプリケーションMosPとOSSによるビジネス戦略」
講師:屋代 真吾 様 (株式会社マインド)
[概要] オープンソースへのきっかけ。OSS人事系業務アプリケーション
MosPの概要。OSSによるビジネス戦略とMosPの今後。

15:25-15:40 休憩

15:40-16:25 「オープンソースBPMS(Business Process Management System)
製品とOSSベンダーのビジネスモデル」
講師:澤田 智明 様 (株式会社ジェイ・アイエスアイ)
[概要] OAのキラー・アプリケーションとなった最新のBPMS製品と、
OSSエコシステムでのビジネスモデルの概要。

16:25-16:40 休憩

16:40-18:00 パネルディスカッション
司会: 林 香(OSSAJ理事、株式会社エスアールエー)
パネリスト:
屋代 真吾 様 (株式会社マインド)
澤田 智明 様 (株式会社ジェイ・アイエスアイ)
新部 裕 様 (OSSAJ理事、特定非営利活動法人フリーソフトウェアイニシアティブ)
岩佐 洋司 様 (OSSAJ理事、株式会社コミューチュア)
鈴木 重徳 様 (OSSAJ事務局、株式会社オープンテクノロジーズ)

★情報交換会
18:15-20:00


◆お申込みとお問合わせ : 下記フォームにて info@ossaj.org 宛にメール(メールタイトルに「フォーラム2008」と
記載して下さい)あるいはFAXにてお願い致します。

◆参加費 正会員、賛助会員:3,000円、一般会員、協賛団体会員:4,000円、
一般の方:5,000円(当日受付にてお支払い下さい。領収書を発行致します)

以上

◆講演者紹介

◆屋代 真吾 様
株式会社マインド 代表取締役社長
青山学院大学理工学研究科 修士課程修了青山学院大学理工学部にて助手として従事。
三菱電機エンジニアリング株式会社入社、退社後株式会社マインド入社、社長に就任。

◆澤田 智明 様
株式会社ジェイ・アイエスアイ 取締役 主管コンサルタント
神戸大学 大学院 工学部 修士課程卒。
日本アイ・ビー・エム株式会社を経て、アトムシステム新規事業開発室長、アトミックス副社長、 エクサイド副社長、
ビジネス開発担当を歴任。ジェイ・アイエスアイ 取締役 主管コンサルタント。


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「OSSAJ総会」、「OSSAJビジネスセミナー」参加申込書
(FAX:03-5940-4582)

年 月 日



※氏名(ふりがな): ( )

※所属:
連絡先郵便番号:
連絡先住所:

※Tel:
Fax:

※E-Mail:

※種別(該当欄を黒四角(■)に変更してください):
□OSSAJ会員(正/一般/賛助) : 会員種別 ( )
□協賛団体会員: 団体名 ( )
□一般

※参加(該当欄を黒四角(■)に変更してください):
□参加 □不参加 「OSSAJ総会」
□参加 □不参加 「OSSAJビジネスセミナー」

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講義 流体力学 2008-4

2008-05-11 | Mech Eng

連休の明けの流体力学の講義4回目,概要は以下のとおり.

 流体の静力学 2
  全圧力
  圧力の中心
  局面に作用する全圧力
  浮力
  容器内の流体


 [流体の静力学 2]
 教科書の pp.42-69 の部分について解説した.
 概ね教科書にそって説明したので詳細はここでは割愛する.
 欠席したものは,例題,練習問題も含めて自習すること.
 

 教科書の中の微分,積分の式による説明よりも,
  「流体と物体との間の力はどのようにつりあっているか?」
 に注目して,全体の状態のイメージをつかむようにしてほしい.

 力のモーメントや回転運動については,念のため,工業力学の教科書の該当部分を参照しながら,復習すると良いだろう.
 

 流れの状態のイメージをつかむという意味でも,以前に紹介した,『流れのふしぎ』を,通読し,また,興味をもったいくつかの簡単な実験をやってみることを強く推奨する.(キッチンやお風呂で遊びながら実験できる)

流れのふしぎ (ブルーバックス)

講談社

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 [演習問題]
 以下の演習問題は,授業中に,出席票の内容として行う予定だったが,講義が長引いたため,宿題となった.
 次回,5/15 の講義のはじめに提出.

-----------

演習1. 教科書のp.45の例題の変形
深さ 10m, 底面 20m x 20m の水槽が水でみたされているとき,
面A(10mx20m)のにかかる圧力はいくらか?
ただし,重力加速度 g: 9.81 m/s2 水の密度ρ: 1.0 x 103= 1000 kg/m3

演習2. 教科書のp.45の例題の変形
深さ 10m, 上側の底面 30m x 20m,下側の底面 20m x 20m の水槽
(つまり横からみると上底が長い左右対称な台形)が水でみたされているとき,
(30度手前に斜めのに傾いた)面Aのにかかる圧力はいくらか?
ただし,重力加速度 g: 9.81 m/s2 水の密度ρ: 1.0 x 103= 1000 kg/m3
ヒント p.43の2.7式の変形前の形に注目.面Aの面積は演習1より大きくなることに注意.

演習3 教科書のp.53, p54例題の変形
  h = 3m
  r = 2m
  l = 2m とすると,Px, Py はそれぞれいくらになるか?

演習4 教科書のp.67の例題の変形
 コップ直径12cm
 コップの高さ 10cm
 水の高さ6cm
 水の満たされていない高さ4cm
としたとき,水面がちょうどコップのふちまで上がるときのコップの角速度ωはいくらか?

-----------

 5/15,5/22 の講義は,前半のなかでは最も重要な部分になるので,必ず出席するように.


 教科書「基礎から学ぶ流体力学」について:
 教科書が入手できていない学生は,生協だけに頼らず,以下の大型書店などにもあたって,早急に教科書を入手すること.

  新宿東口 紀伊国屋書店 本店
  新宿南口 紀伊国屋書店 新宿南店(タカシマヤタイムズスクエアビル)
  新宿東口 ジュンク堂書店 新宿店(伊勢丹のはす向かい側,三越アルコット 6-8F)

 少なくとも,上記の2つの紀伊国屋には,5/10の時点で店頭在庫されていた.

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講義 流体力学 2008-3

2008-05-07 | Mech Eng
 連休の合間の流体力学の講義3回目,概要は以下のとおり.


 偉人 パスカル
 流体の静力学
 パスカルの原理
 圧力と高さ,深さ
 絶対圧力とケージ圧力
 圧力の測定
 本日の出席票
 
-------------------------------------------

[偉人 パスカル]
 ブレーズ・パスカル(Blaise Pascal, 1623年6月19日 - 1662年8月19日)
 流体のパスカルの原理や,数学のパスカルの定理に名を残す.
 フランスの数学者,物理学者,哲学者,思想家,宗教家

 流体力学に関連する業績:
 「パスカルの原理」(流体の圧力の平衡についての理論)の提唱1653年

 その他の自然科学の業績:
  歯車式計算機「パスカリーヌ」の設計開発
  「パスカルの定理」
  「パスカルの三角形」
  「確率論」の創始
  サイクロイドの求積問題

 一般には,著述集「パンセ」(1670)で,よく知られている.

 http://ja.wikipedia.org/wiki/パスカル
 http://ja.wikipedia.org/wiki/パスカルの原理
 http://ja.wikipedia.org/wiki/パスカルの定理


 [流体の静力学 1]
 教科書の pp.23-41 の部分について解説した.
 欠席したものは,例題,練習問題も含めて自習すること.

 [パスカルの原理]
  静止している(非圧縮性)流体中の一点における圧力は,あらゆる方向に等しい.
  風船にかかる圧力からの理解:
  風船に加わる圧力はどこも大気圧と釣り合っている.
  風船に圧力を加え(多くの空気を入れると)風船は膨らむが,
  中の空気の圧力とを風船の表面積で割ったものはいつも大気圧である.

 [圧力と高さ,深さ]
 重力場における静止流体の圧力
  ある位置の静止流体の圧力は,ある位置でのその上にある流体の重さによる.
  その重さは,
  
   密度 x 体積 x 重力加速度

   = 質量 x 重力加速度

  圧力は,単位面積当りなので,液体の高さ(深さ)が増えると
  圧力をも増える.

  水槽のような容器で,液面から深さ h (m) のところに働く
  力F (N) を考える.液体の重さは,下向きに

   F = ρg h A

   ここで,ρ: 液体の密度, g : 重力加速度, h : 深さ, A: 面積

  圧力 p は,液体と重さと釣り合って,

   p = F / A = ρgh  

  つまり,密度が一定の場合には,圧力は,深さ(高さ)の関数と言える.

 水に満たされた一辺1mの立方体の容器を想定する.
 容器の底の圧力は,
  F = ρg h A (N)
  p = F / A = ρgh (Pa)
 ここで,
  ρ: 液体の密度 1000kg/m3 (1atm, 4°)
  g : 重力加速度 9.81 m/s,
  h : 深さ 1m
  A:面積 1m2
 とすると,
  1000kg/m3 x 9.81 m/s x 1m = 9810kgf/m2 = 9810 (Pa)


 海面上の空気の圧力
  流体の密度が高さに対して変化する場合.(大気の密度は上空に行くほど低くなる) 
  高さz (m) の大気の圧力 p (Pa) は,以下のような自然対数の式になる

        -( ρ0 g z / p0 )
   p = p0 e

   p0: 海面の大気圧 (Pa), ρ0 海面の空気密度 (kg/m3)
   g: 重力加速度 9.81m/s

 [絶対圧力とケージ圧力]
 絶対圧力 (absolute pressure)
  真空を,0 Pa とした圧力.例えば,地表において,
  標準的な大気圧 1013 h Pa を加味した圧力である.

 ゲージ圧力 (gage pressure) 
  その場所での大気圧を基準とした圧力である.
  自動車やバイクのタイヤの圧力が,230 kPa といえば,それはゲージ圧である.
 すなわち,絶対圧力 = ゲージ圧力 + 大気圧

 [圧力の測定]
 マノメータ ( manometer) 液柱計
 ガラス間をU字型にまげて,その中に密度の大きな液体を入れ,その水面の
 高さを読み取るもの.

 示差圧力計 (multiple-fluid manometer)
 2つの流体の圧力の大きさの差を測定する圧力計.
 U 字管に水銀などを詰め,両開放端に圧力をかけ,液柱の高さの差を測る.

 このごろの圧力計
 現在実用されている圧力測定法は,大きく弾性式と非弾性式に分けられる.
 弾性式は,ブルドン管,ベローズ,ダイアフラムといった弾性をもった受圧
 素子を使用し,この素子が圧力を受けて生じた変位や歪を測定する.
 あるいは,その歪みや変異を電気的に計測する.
 現在使用されている圧力計や差圧計のほとんどは,この弾性式である.
 非弾性式としては液柱式と重錘式が主な方式である.
 これらは,現在,通常の圧力測定法の主流ではないが,圧力の標準器としては
 現在も重要な地位を占めている.

 ブルドン管ゲージ (Bourdon gauge)
 ブルドン管ゲージ内部には、曲げて先を塞いだ金属管が内蔵されている.
 圧がかかると曲がりが伸びるため.その度合いに連動させて針を回転させて
 圧力を表示する.

-------------------------------------------

 [演習]
 出席の確認を兼ねて以下の演習を行った.

 教科書 26.p の演習の変形問題
 Q1) ビストンA のおもりを 20kg にするとBのおもりは何kgになるか?

 Q2) ピストンAが一辺20cmの正方形の角柱,ビストンBが一辺50cmの
 正方形の角柱としたとき,Aのおもりを10kgとすると,Bのおもりの重さ
 は何kgか?

 Q3) ピストンAが一辺10cmの正方形の角柱,ビストンBが一辺50cmの
 正方形の角柱としたとき,Aのおもりを10kgとすると,Bのおもりの重さ
 は何kgか?

 深さと圧力
 Q4) 水に満たされた一辺1mの深さ10mの直方体の容器を想定する.深さ以外は,
 講義でのべた例(1辺1mの立方体)例と同じとすると,容器の底の圧力は,
 何 Pa か?

 Q5) 30.p の例題
 30.p の例題には間違いがある.さてどこでしょう?
 回答例には,途中の計算が省かれています.途中の式の展開と計算をやって
 みましょう.(関数電卓を用いても良い)

-------------------------------------------

 過去3回の講義で,一度も出席していない学生諸君は,次回以降皆勤をめざして
 出席されることを希望します.

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春の読書ガイド 「研究経営論」

2008-05-03 | Business
 しばらく前に,自宅近くに Bookoff ができた.Bookoff は,いわゆる「売れ線」の本以外は,古書としての評価が難しくなるせいか,とても安い値付けになっていることがある.特に,105円のコーナーには「掘り出しもの」があるので,月に一回ぐらいは覗いてみるようにしている.

 その Bookoff で先日入手していた,京都大学名誉教授,国立民俗学博物館の初代館長, 文化勲章授章者である梅棹忠夫 先生「経営研究論」(岩波書店,1989年) を読んだ.

 この梅棹先生の「経営研究論」は,文系研究者の間では非常に有名な本であるようだが,浅学の私は,先日 bookoff で現物をみるまでは,本書の存在そのものを知らなかった.しかし,「梅棹先生の本は買って損はないだろう」と思って入手していたものだ.あとで確認したところ,版元絶版になっていて文庫も出ていないので,比較的入手しずらい状態になっている.Bookoff では 比較的良い状態だったにも関わらず105円コーナーにあった.


 本書は,梅棹先生が実際に経験してこられた,大学の学科,研究会,研究所,国際学術交流などでの,さまざまな研究活動および研究組織,それにかかわるマネジメント的な視点,さらに研究者としての「こころがまえ」などに関して,1989以前に発表されたものを中心にまとめられている.

 すでに20年も前の本であるが,実際によんでみると,文系の研究者以外にも参考になる記述が少なくない.「研究」というところを「知的生産活動」とよみかえても,良いと思われるところが多い.

 文系研究者に限らず,何らかの知的生産活動の分野で,リーダーあるいはマネジメント的な役割を担う人に広くおすすめできる一冊.



 [目次]

 空想人類学科設立案
 近衛ロンドの五年間 京都大学人類学研究会の歴史と現状
 人文でえたもの
 国立民俗学博物館における研究のありかたについて
 学際的研究のすすめ
 日本文化研究所はどうあるべきか
 研究にたいする基本的な気がまえについて
 総合研究大学院大学文化科学研究科の発足にあたって
 国際シンポジウムの組織と運営

 

研究経営論

梅棹 忠夫

(表紙の画像はありません)

岩波書店

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