Dr. Jason's blog

IT, Engineering, Energy, Environment and Management

交通システムのエネルギー消費と環境負荷

2005-04-24 | Transportation
 先日,きさらぎけいすけ氏のblogで 「国土交通省が,運輸部門関係の2010年時点での二酸化炭素排出量を250百万tに抑える為の対策を発表した」 という記事があった.

 これは,私の専門分野の一つなので,ちょっと一言書いておこう.

 まず,はっきりしていることは,
  「現在の化石燃料を使う内燃機関を動力源とする自動車を使っているうちは本質的には,二酸化炭素は減らない」
ということである.

 過去10数年をみても,日本で新しく発売される自動車の燃費は少しづつよくなっている(例えば,国産乗用車の平均燃費は,1991年に12.4km/lだったものが,2001年には14.3km/lになっている.単純に計算すると約15%の伸びだ.).しかし,それにも関わらず,日本の全二酸化炭素排出量に,運輸関係が占める割合,特に自動車による交通システムが占める割合は,着実に増加している.
 1990年から2001年をみると,日本の全二酸化炭素排出量に運輸関係が占める割合は,約19%強から約22%に増加している.2001年時点の自動車による交通システムによる二酸化炭素排出量は全体の約19%である.また,1990年から1997年にかけての日本の二酸化炭素排出量の増加分に占める,交通機関を起源とするものは46%を占めている.
 これは,日本では,不況でGNPが伸びなやんだ期間も,自動車の保有台数が増え(自動車保有台数は1990年では5700万台強だったものが2000年には7200万台強となった),自動車全体での活用==走行距離もずっと増えているということである.さらに,今後多少人口が減っても,少なくとも2020年ぐらいまでは,自動車の保有台数は増え続けると推定されている.
 自動車が増え続けている,現在の自動車交通システムで,確実に二酸化炭素排出量を押さえる効果があるのは,実は,信号や渋滞時などの交通流中での短時間停車時のアイドリングストップである.我々の実験では,1500ccクラスの乗用車の場合,適切な交通流中での短時間停車時のアイドリングストップによって,市街地走行で4-9%程度の燃費改善効果==二酸化炭素削減効果があることが判っている.仮に日本のすべての自動車が適切にアイドリングストップすると,自動車の実走行での燃費が4%改善されるとすると,それだけで,日本全体の二酸化炭素排出量の0.9%==1%近くの削減となることが試算されている.

 また,鉄道の代替えをバスというのは,エネルギーおよび環境負荷の観点からみると,現時点の技術では「ナンセンス」としか云えない.
 2002年の資源エネルギー庁の関連研究機関による公式の統計データ 2002年度版 EDMCエネルギー・経済統計要覧によると,2000年度の輸送機関別の乗客1名を1km運ぶのに消費されるエネルギーは,鉄道46kcal/人キロに対して,バス158kcal/人キロであり,約3倍である.鉄道の電力が石油系のものだとすると,3倍のエネルギーを使えば3倍の二酸化炭素が出ることは小学生でもわかる算数の問題だ.
 ちなみに,10年で15%も燃費がよくなってきている自動車だが,実は,上記と同じデータでは,乗用車は592kcal/人キロ,航空(つまりほとんどジェット機)は436kca/人キロである.つまり乗用車はジェット乗客機よりも乗客一人あたりのエネルギー消費が多いということである.

 自動車特に乗用車は確かに自由で便利だが,エネルギー消費の側面からだけみても,その使い方には,十分な配慮が必要であると思う.
コメント (1)
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