和泉の日記。

気が向いたときに、ちょっとだけ。

【SS】受験生の憂鬱

2011-10-26 15:51:09 | 小説。
勉強なんかして、何になるのかな。
受験勉強という名目で机に向かう僕は、そんなお約束めいたことを考えた。

国語、数学、理科、社会、英語。
大学に入学するために必要な、基本的な学力。

学生時代の勉強は、勉強する手段を学習するために勉強する、という話を聞いた。
辞書の引き方を学ぶ。
公式の使い方を学ぶ。
図や表の見方を学ぶ。
それはまぁ、分からないことはない。

それにしても、である。
この努力は、その範囲を逸脱していると思えて仕方ない。
高校で6コマ分+補習の朝夕2コマ分勉強して。
家に帰って、2時間程度勉強する。
週休二日など関係なく土曜も学校へ行くし、休みのはずの日曜も自宅で勉強。
夏休みは補習漬けで、お盆付近には勉強合宿にも行った。
人生で最も勉強する期間だとは言っても、これはあまりに行き過ぎだ。

先日、うちの高校の生徒がひとり自殺した。
そういうこともあるだろうな、と皆心の中で思ったに違いない。
僕らは皆、余裕などない、張り詰めた糸。
何かきっかけがあれば――きっかけなどなくても、運が悪ければすぐに切れる。
高校生は、子供だ。
僕はそう思う。
世間を知らない、世界を知らない、幼い子供だ。
目の前の、山積みになった課題のある世界が、全てだ。
だから簡単に、冒頭の言葉に集約する。

勉強なんかして、何になるのかな。

そして、簡単に――自殺する。
考えることをやめる。
現状の受験勉強は、死と天秤にかけられていることを知るべきだ。
それは容易に危ない方へと傾く。

学ぶこと、学ぶべきことが多いのは間違いない。
学力低下は嘆くべきことだし、今後を担う我々は更なる高みを目指すべきだ。
しかし――それは、命をかけてやることではない。
死んでしまっては元も子もない。
先日自殺した、あの名も知らない生徒も、生きていれば。
もし生きていれば、歴史に名を残す人物になった可能性だってあるのだ。
そうでなくても、ただ生きているだけで。
生きて、寝て、起きて、食べて。それだけで。それだけでもよかったのだ。
死んでしまっては――何もできない。
どうにも、ならない。

そんなものは極論だと言われれば、まぁなるほど極論かもしれない。
しかし、現実問題として死者は出ているし、僕だって自殺を考えたことくらいある。
そんな身近な極論だ。
何のために勉強をするのかと問われれば、生きるためにと答えたい。
よりよく、充実した人生を送るためだと答えたい。
その手段の中で死を思うなんて、だからとんでもない矛盾なのだ。

そんな現実逃避をしながら、僕はぼんやり机に向かっている。
数式も公式も、頭に入るわけがない。
だけど、こんな現実逃避も必要なんだと、僕は自分に言い訳をする。
そのせいで受験に失敗したとか、そんな結果になったとしても――。
それはもう、どうしようもないことなのだ。
精一杯努力するということと、命を捨てることは別だから。
逃げながら、もがきながら、ふらふらと努力することが、僕の精一杯なのである。
コメント
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