田原総一朗「国民甘く見たしっぺ返し 今さら焦るあきれた菅内閣」〈週刊朝日〉
菅義偉内閣の支持率が急落した。政府の新型コロナウイルス感染拡大への対応のまずさが要因と思われる。ジャーナリストの田原総一朗氏は、菅内閣の見通しの甘さにあきれているという。
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12/21/2020
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12月21日に朝日新聞が報じた菅義偉内閣の支持率は39%で、前回11月の56%から17ポイントも急落した。そして不支持率は11月の20%から35%と大きく増えた。菅内閣が発足した9月時点での支持率は65%、不支持率は13%だったのである。
何よりも菅内閣は「Go Toトラベル」の全国的な一時停止について、「勝負の3週間」と国民に強調しながら、その最後の週の12月14日まで何もしなかった。おそらくは毎日新聞が12日に報じた支持率40%への急落を知って、慌てて「停止」を決めた。朝日新聞の調査では、タイミングが「遅すぎた」は8割にも上っている。国民のほとんどが怒っているのである。
しかも、「一時停止」を決めた日、「5人以上の会食は控えるように」と呼びかけながら、王貞治氏や杉良太郎氏など8人での会食を行っていた事実が、新聞、テレビで報じられた。まったく真剣味がない、と国民は憤った。このことを「問題だ」とする答えは66%あった。
それにしても、菅内閣はなぜ、毎日新聞が支持率急落を報じるまで、「自粛」とばかり繰り返し述べていたのか。私は改めて、政府が新型コロナウイルス禍に対しての世論調査をしていなかったことを知って驚いた、というよりあきれた。
いやしくも民主主義をうたう政府ならば、国民の心情を常に捉えていなければならないはずで、ことコロナ禍での国民の悩みや苦しみは細やかにつかんでいなければならず、どの国の政府でも世論調査をしているはずである。それをやっていないとはどういうことか。
私は4月7日に安倍首相(当時)が緊急事態宣言を行った後に、安倍氏に会ったときのことを思い出した。まず安倍氏に、なぜ緊急事態宣言が欧州各国や米国に比べて、約1カ月も遅れたのか、と問うた。
緊急事態宣言などすると、基本的人権を損ない、プライバシーを侵害する。さらに日本は世界の先進国の中で最も財政事情が悪く、新聞やテレビが、このままでは10年近くで財政が破綻する、と報じていた。緊急事態宣言をすれば財政破綻が早まるだけだ、と多くの閣僚、野党が反対していた」
と安倍氏は答えた。
ところが、日本よりも民主的で、財政事情が悪い国々が緊急事態を発している。調べると、現状は新型コロナと人類の戦い、つまり有事であることがわかった。日本は敗戦後、戦争をしない国、いわば有事がない国とされてきたわけだ。
また、他国は緊急事態時に罰則規定があるのに、日本にはない。なぜかと問うと、「日本は憲法で緊急事態を認めていないのだ」と安倍氏は答え、そして、「日本の国民は、政府の言うことに素直に従ってくれるので、罰則規定がなくても大丈夫なのだ」と説明した。
そういえば、米国や欧州では、緊急事態宣言が発せられれば、生活の基盤が損なわれると、大掛かりなデモが発生していた。だが、日本ではデモなど生じていない。安倍氏が言った通り、国民は政府の言うことに従っていて、自粛警察という言葉さえ広まっている。
だから、菅内閣もコロナ禍でも世論調査を行っていないということになるのか。つまり、国民を甘く見ていたわけで、そのしっぺ返しを受けている、ということか。しかし、事態は深刻である。 ※週刊朝日 2021年1月15日号
■田原総一朗(たはら・そういちろう)/1934年生まれ。ジャーナリスト。東京12チャンネルを経て77年にフリーに。司会を務める「朝まで生テレビ!」は放送30年を超えた。『トランプ大統領で「戦後」は終わる』(角川新書)など著書多数