コロナ危機で総理への道が見えた小池百合子、「無能確定」の安倍晋三
これほど無能な人間を他に知りません」
新型コロナウイルスの感染拡大に伴う初の「緊急事態宣言」は、この国のリーダーたちの手腕を浮き彫りにすることに繫がった。政権奪還から7年半もの長期政権を築いてきた安倍晋三首相には、初動の遅れや国民の不安に寄り添わない政策に批判が集まり、内閣支持率が低下。一方で、強力なリーダーシップと国民目線で「命を守る」と発信し続ける東京都の小池百合子知事や大阪府の吉村洋文知事には、インターネット上で賛美する声が相次いでいる。コロナ危機で現れた国民が求めるリーダー像、その違いを追った。
【写真】記者会見する東京都の小池百合子知事=2020年4月10日午後、東京都庁
「これほど無神経な人間を他に知りません」(映画監督の白石和彌氏)、「止められる気骨のあるスタッフはいなかったのかな」(作家の辻仁成氏)。4月7日の緊急事態宣言後初めての週明けを迎えた13日、テレビでは朝の情報番組から昼のワイドショーまで安倍首相の公式ツイッターへの批判が相次いだ。歌手・星野源氏の曲「うちで踊ろう」とともに優雅にくつろぐ様子を投稿した首相のコラボ動画には芸能界も厳しく反応し、「空気を読むことができなかったということ」(落語家の立川志らく氏)、「ちょっとバカにされている気がする」(お笑い芸人の加藤浩次氏)などの批判が渦巻いた。
■安倍に置き去りにされた、全国民
史上最長となった安倍政権は、「3本の矢」に代表される景気浮揚策や強硬な外交・安全保障政策などによって保守層を中心に「安倍信者」を生み、高い支持率を維持してきた。だが、コロナ危機到来後の言動には「信者」の失望感も強く、もはや「大宰相」の姿はそこにはない。ウイルス拡大の震源地となった中国や感染急拡大が見られた韓国からの入国制限は3月5日まで遅れ、欧米並みの強いリーダーシップを国民が求めていたタイミングで首相が発信したのは「1世帯に布マスク2枚の配布」。緊急経済対策に盛り込まれた「1世帯あたり30万円給付」「中小企業200万円、個人事業主100万円を支給」も要件が厳格すぎると批判され、ほとんどの国民は置き去りになる「温度感」の違いが現表れている。
産経新聞社とFNNが4月11、12両日に実施した世論調査では、新型コロナをめぐる政府の対応を「評価しない」が一気に25.1ポイント増えて64.0%に上った。全国紙政治部記者が解説する。「首相は人と人との接触を『極力8割』抑制すると呼び掛け、接客を伴う飲食店への出入り自粛を強く要請したが、休業に伴う補償はしないと繰り返している。しかし、出歩く人が少なくなれば飲食店の客も売り上げも減るわけで、閉店するかどうかの判断を店側に丸投げするのは無責任だ」。共同通信社による世論調査(4月10-13日)では国が損失補償すべきとの回答は8割を超えた。
■株を上げた、小池都知事と吉村府知事
コロナ危機で安倍政権の脆弱性が露呈した一方で、国民が求めている強いリーダー像と重なっているのが小池都知事と吉村府知事だ。
「都民の命にかかわる問題であり、医療現場は逼迫している。待つことはできない」「危機管理の要諦は最初に大きく構えて、状況が良くなれば緩和していく。様子を見てから広げていくべきではない」(小池氏)
「府民の命を守るために、ガッとみんなで自粛して抑え込むのが重要だ」「新型コロナウイルス対策特別措置法自体が欠陥だらけで、国会議員はちゃんと仕事しろよと思っている」(吉村氏)
2人の知事が発信するメッセージは明快で、国が1カ月間の緊急事態宣言の期間(5月6日まで)のうち、半分の2週間をつかって「外出自粛の効果を見極める」とした点や、特措法に基づく知事の権限が不明瞭な点に疑問を投げかけ、「命ファースト」でスピード感のある対策を講じるべきと訴え続けた。
東京都と大阪府は、まだ国民のコロナウイルスへの危機感があまりなかった1月24日にいち早く対策本部を設置し、海外からの帰国者対応や感染拡大防止策などの検討を重ねてきた。人口が多く、公共交通機関が張り巡らされ、近隣自治体から通勤・通学者らが集まる大都市のため感染者数は多いが、「海外のように医療崩壊させることなく、時に国を牽引するリーダーに共感する人々は多い」(自民党中堅議員)。
■小池百合子総理、爆誕か
首相が記者会見などで国民にメッセージを発する頻度が少ない一方で、2人は連日のようにメディアを通じて外出自粛や医療体制の状況などを伝えており、その疲労感は誰の目にも明らかだ。ツイッターでは「#百合子がんばれ」「#吉村寝ろ」がトレンド入りして話題になった。
そんな中、首都圏を中心に小池都知事のリーダーシップに注目が集まっているのを背景に、ある自民党関係者は「コロナの終わり方次第では、“小池百合子総理”が現実になるかもしれない」と危機感を募らせる。2017年の衆議院選挙で希望の党代表として大敗した小池都知事は当時、(女性の活躍を阻む)「ガラスの天井」よりも厚くて硬いであろう「鉄の天井を知った」などと発言。女性初の総理大臣への野望はこれまで、常に持ってきた。
さて、小池都知事と吉村府知事は、世論調査で8割が求めていた国の緊急事態宣言を政府が速やかに出すよう要請し、小池都知事は特措法に基づく施設の使用制限の要請に難色を示していた政府に何度も直談し、宣言対象の7都府県知事が休業要請できるよう牽引した。
■知事の権限・責任の範囲において国との調整など不要だ
「なぜ小池都知事が違うことをやるのか理解できない」と批判しながら、一転して東京都に足並みをそろえた神奈川県の黒岩祐治知事や、大阪・兵庫間の往来自粛を呼び掛けた吉村府知事に「大阪はいつも大げさ」と不快感を示した兵庫県の井戸敏三知事とは、その「危機感」も「発信力」も雲泥の差がある。
休業要請をめぐっては、政府の対策本部が3月28日付の「基本的対処方針」で、蔓延防止策として都道府県が「地域での感染状況を踏まえて、的確に打ち出す」としていたものの、4月7日に急遽改正。「都道府県は、国に協議の上、必要に応じ専門家の意見も聞きつつ、外出の自粛等の協力の要請の効果を見極めた上で行う」と緊急事態下としては不可解な文言で、自治体の権限を大幅に縛ったことが現場の混乱につながった。
元大阪府知事の橋下徹氏は4月7日、ツイッターを更新し「緊急事態のときほど、各組織の権限・責任の明確化、指揮命令系統の明確化が重要だ。だから法の適用が必要だった。東京都も大阪府も、知事の権限・責任の範囲において国との調整など不要だ。緊急事態なのだから。各々権限と責任の範囲で行動すべきだ」と指摘している。
■相変わらずの田崎史郎の“ウルトラC”安倍擁護に冷笑
安倍首相による緊急事態宣言には、日本経済への打撃を考慮した経済産業省や財務省から猛反対があり、発出が遅れることにつながった。休業要請に伴う「補償」に後ろ向きな経産省OBの著名人らは、休業要請とセットで「感染拡大防止協力金」を手当てすると発表した小池都知事を繰り返し批判。ワイドショーでは、安倍政権に近いとされる政治評論家の田崎史郎氏が「吉村知事、発言のブレがちょっと激しすぎる。それぐらいブレる方に権限を与えたらどうなるのかと不安を持つ」と批判したり、首相による緊急事態宣言が遅れた理由を小池都知事に責任転嫁したりして「炎上」を招いているが、ポジショントークとも受け取れる主張への共感は広がってはいない。
かつては、テレビや新聞などで評論家やジャーナリストらが批判を集中すれば、牙を向けられたリーダーの好感度は大きく低下した。だが、SNSなどネットを情報の収集・発信ツールにする人が増えた今では、その影響も薄れてきている。今回のコロナ危機下で見られている変化を民放記者は自虐的に解説した。「外出自粛や在宅勤務の急増で、首相や知事たちによる記者会見の生中継を家で見る人が多くなった。この『見える化』が自分自身で真贋を調べる時間の増加につながり、政治的スタンスから執拗に『政敵』を攻撃する発言が嫌われている一方で、不安を抱く国民の心理に寄り添う首長には共感が集まっている」。第1次安倍政権時には「KY=空気が読めない」という言葉が流行ったが、危機下のリーダーたちには国民の「空気」を読むことも必要のようだ。