散日拾遺

日々の雑感、読書記録、自由連想その他いろいろ。
コメント歓迎、ただし仕事関連のお問い合わせには対応していません。

輩出と排出/2つまたはそれ以上

2016-09-28 07:15:12 | 日記

2016年9月28日(水)

 職場関係の某氏とだけ言っておく。名誉なことでも、どこでどんな迷惑をかけるかわからないので。ともかく日本語に関するセンスと博識では、日ごろから一目も二目も置く相手である。この人にひょんなことから当ブログを御高覧いただく光栄に浴し、下記のコメントをいただいた。なるほどなので、転記しておく。

***

 「自動詞/他動詞」の項、激しく膝を打ち共感しましたので一言書かせてください。私も昨今の自動詞と他動詞の混同もしくは誤用が気になっております。大和言葉では必ずしも自動か他動かがはっきりしない場合が多いので、それほどではありませんが、漢語起源の動詞の場合はそれがはっきりしています。

 たとえば「輩出する」です。これは漢熟語の成り立ちからすれば「主語+述語」の順ですから、当然「輩(いっぱしの人物)」が主語で「出(出る)」が述語ということになりましょう。つまり、「その大学からは多くの逸材が輩出した。」というのが正しい(というか唯一の)用法です。しかし、日本語には不幸にして「排出する」という同音異義語がありました。しかもそちら の方が頻繁に使われます。「排出する」は、もちろん「排す」と「出す」の連語で完璧な他動詞です。どうもその二つが混同されて、本来自動詞の「輩出する」まで他動詞的に用いられるようになったしまったのではないか、というのが私の見立てです。

 したがって、非常にしばしば「その大学は多くの逸材を輩出した。」という誤用が見られます(まるで排出口から垂れ流しているようです)。大新聞やあのNHKですらそうです。(もっとも、NHKはいまだに「こちらのVTRを見てください。」などと平気で言っていますので、そんなものだとは思いますが・・・。)このような指摘をどこにどのようにすべきか、最近大いに迷っています。放っておいてもいいのですが、どうにも気持ちが悪くて仕方ありません。そのうち誤用の方が正しいとされそうで心底心配です。実際ある原稿にこの言葉を使ったところ、「人材が輩出」ではなく「人材を輩出」の間違いでは?と編集者に鉛筆書きされてしまいました、うーん。

***

 「輩出」について実はきちんと整理できていなかったが、こう教われば今後は二度と間違える余地がない。「大新聞やNHKですら」の尻馬に乗っかるとすれば「日本精神神経学会まで」と言いたいところで、今日これを抜きにしては精神医学を語ることのできないDSMの翻訳が、飽きもせずに「下記の9項目のうち、2つまたはそれ以上が認められる場合に云々」とやっている。日本語で「2つ以上」は「2つ」を含むということ、小学生でも(小学生なら)よく知るところだ。英語が "two or more" とするのは、「more は当該数字を含まない」というルールが同じく小学生レベルから徹底されているからである。彼我の語法の違いを踏まえ、すっきり「下記9項目のうち2つ以上」と書けばいいのに、20年来それができずにいるのは、いったいどういう心理的カラクリに依るものなんでしょうね?

 「残念ながら精神における植民地根性が抜けていないのだと考えざるを得ず、たかが用語の翻訳についてそうであるなら精神医学の基本的な考え方について、栄えある独立を達成したことを確信するのはなおさら難しい」という説が、言い過ぎ・考え過ぎだったらよいのだけれど。

  

Ω