散日拾遺

日々の雑感、読書記録、自由連想その他いろいろ。
コメント歓迎、ただし仕事関連のお問い合わせには対応していません。

汽車・電車・鉄道チッキ

2016-09-21 22:51:28 | 日記

2016年9月21日(水)

 臨時の会議、O先生が珍しく少し遅れていらした。

 「いやあごめんなさい、一汽車遅れてしまって。」

 頭をかきながらおっしゃる言葉で場がさざめいた。

 「汽車、ですか?」

 「ええ、新幹線を一本」

 「汽車なんですね」

 「ええ、新幹線」

 D51(デゴイチ)、C62(シロクニ)、機関車やえもん・・・汽笛、シュッシュッポッポ、煙と火の粉、「炎は曠野を明るくせり」の詩句(朔太郎)から芥川の『蜜柑』まで、懐かしいあれこれが一斉に彷彿され石炭の香りまで蘇るようである。寅さんシリーズの初期には、蒸気機関車の窯焚きを主人公にしたものがあった。そんなに昔の話でもないのだ。

 移動手段としての鉄道を総称して「汽車」と呼んだ世代があり、これがある時期から「電車」に変わる。団塊/全共闘世代に属するO先生は「汽車」世代の終わりあたりか、そこから10年弱下って僕らははっきり「電車」世代である。1980年頃K先生の別荘に寄せていただいた時、「帰りの電車を一本遅らせます」と言ったらとても面白がられた。当時の首都圏は完全に電化されていたが、大正生まれのK先生にとって遠距離列車はやはり「汽車」だったのである。

 O先生の新幹線汽車説を面白がる一同の中にも、さらに世代の別がある。誰かが「『チッキ』ってわかる?」と言い出した。「わかる」「懐かしい」と反応したのはT先生・Y先生・僕の同学年トリオまでで、さらに10年弱若い人々は「何ですか?」「どういう字?カタカナ?」とキョトキョトしている。N先生が真顔で「それは、そのシステムの名称なんですか?」「そうです」と答えたが、やや不正確だったかも知れない。

 チッキの語源には check 説と ticket 説があるらしいが、いずれにせよそのように運ばれる荷物や預かり証を指すとともに、システムそのものをも表した。書き下すとややこしいようだが、「宅急便」や「郵便」だって同じことである。チッキのトリビアについては wiki がそこそこ詳しい。そこにあるように、宅配便に圧倒されながらも実態は1986年まで存在した。奇しくも僕らが世間に出た年である。ただ、「チッキ」という言葉はそれよりだいぶ前に使われなくなっており、同学年トリオにとっても「親たちが旅行の際によく口にしていた言葉」といったほうが適切であろう。

 語彙の変遷、今はずいぶん加速され、変遷の様相すら見えづらくなっている。

Ω

 


箴言 16:32 ~ 怒りを遅くする者は勇士にまさり

2016-09-21 05:58:41 | 日記

2016年9月21日(水)

怒りを遅くする者は勇士(ますらを)に愈(まさ)り、おのれの心を治むる者は城を攻取る者に愈る。(文語訳)

怒りをおそくする者は勇士にまさり、自分の心を治める者は城を攻め取る者にまさる。(口語訳)

怒りをおそくする者は勇士にまさり、自分の心を治める者は町を攻め取る者にまさる。(新改訳)

忍耐は力の強さにまさる。自制の力は町を占領するにまさる。(新共同訳)

 ・・・箴言 16:32の日本語訳である。前三者はよく一致している。往時の城郭都市においては城と町とはほぼ同義だから、それを念頭に置いて城とも町とも言ったらよい。いっぽう、「怒りを遅くする」ことと「忍耐」とはぴったり同じではない。「自分の心を治める」ことと「自制」もまた、完全に同義ではない。下記の原文をたどたどしく辿ってみるに、残念ながら新共同訳の工夫が成功しているとは考えにくい。「おのれの/自分の」はわかっていることなので省いてみたい。見ればヘブル語原文にも「おのれの」にあたる言葉が見当たらず、その方が良い。「心」と訳されるルーアッハはギリシア語なら πνευμα すなわち神の息で、"wind, breath, mind, spirit" などと英訳されるもの、創造の初めに大いなる水の上をただよっていた「霊」のことである。「霊を治める」はちょっとやり過ぎか、「魂を治める」ならどうだろうか。

「怒りをおそくする者は勇士にまさり、魂を治める者は城を攻め取る者にまさる。」(石丸版)

 勇士たれ、心を治めよ・・・以下は原文と英訳である。並べて一行に書きたいのだけれど、左←右問題が絡むためかどうもうまくいかない。

***

 לב  טוֹב אֶרֶךְ אַפַּיִם, מִגִּבּוֹר;    וּמֹשֵׁל בְּרוּחוֹ, מִלֹּכֵד עִיר.

32 He that is slow to anger is better than the mighty; and he that ruleth his spirit than he that taketh a city.

טוֹב better 

אֶרֶךְ who is slow

אַפַּיִם anger

מִגִּבּוֹר mighty

וּמֹשֵׁל rules

בְּרוּחוֹ spirit

מִלֹּכֵד captures

עִיר city

Ω