たまたま『サンデープロジェクト』というテレビ番組を見ていたら、
「食料自給率40%」虚像と実像 という特集が放送されていました。興味深い内容だったので、以下に紹介したいと思います。
要約すると、農水省が日本の食料自給率が低いということを強調することで国民の不安を煽り、その対策予算を勝ち取りたいという省益がはたらいているのではないかということを検証する内容。
食料自給率の算定方法に金額ベースとカロリーベースがあることは知っていたのですが、かつては金額ベースを用いるのが主で、それが最近はカロリーベースに変更されているとのこと。理由は1973年の第一次オイルショック。物価の高騰で、例えば大豆関連商品は約2倍に。このような食料不安の中で作られたのがカロリーで計算する方法。
ただ、どちらにも一長一短があり、金額ベースの短所は為替変動の影響を受けやすいこと。
一方、カロリーベースの短所は畜産の生産活動がカウントされないことと、野菜・果物のウエートが小さくなるということ。
畜産物は肉は国産でもエサは輸入物に頼っています。このため、例えば豚肉の場合、52%が国産でもカロリーベース自給率では5%になってしまいます。
牛乳にしても、エサを輸入品に頼っているため、例えば全て輸入飼料で飼われた牛の牛乳では自給率が0%になってしまうとのこと(牛乳の自給率は金額ベースだと92%あるのにカロリーベースだと41%しかない)。これは農水省が定めたルールに於いて、「畜産物については、飼料自給率を考慮」する、つまり輸入飼料を使用した場合、自給率に参入しないことになっているためだそうです。
野菜はカロリーが低いため供給カロリーに占める割合が低いため、国内生産が上がってもカロリーベース自給率の向上にはあまり貢献しません。
ともあれ、1995年には農業白書から金額ベースの表記が消えています。
さらに、2009年度版白書では廃棄される食品は年間900万トンにも及ぶが、これは日本国内で消費される食料品の1/4に相当。この廃棄食料も分母にカウントされています。廃棄分を除いて計算すると、食料自給率は54%となるとのこと。
このことは元農水事務次官の方も疑問視していたとのこと。
そもそも、金額ベース自給率の場合、2007年のカロリーベース自給率40%に対し、金額ベース自給率は66%(ちなみにカロリーベース自給率は1965年には73%だったのが、2006年には39%にまで落ち込みました)。
番組では、農水省が金額ベース自給率を出さないのは、日本より金額ベース自給率の低い国があるためであるとしています。
また、自給率向上のための予算は、2006年度65億円に対し、2007年度は166億円にアップしている。2008年度に至っては、2,889億円にまでアップしています。
対策の内訳としては、7割以上がコメの転作関連と水田対策に偏っていて、これは自給率向上を名目にしたコメ農家の保護であるとしています。さらに、今年度予算の目玉として、エサ米等への転作補助金が404億円となっているが、番組では効果があるか疑問視。
一方で、番組では日本が必ずしも先進国の中で飛び抜けて食料輸入に頼っている国ではないことを示しています。
主要国の農産物輸入額は日本がトップと思われがちだが、日本423億ドルに対し、アメリカ676、ドイツ577、イギリス458、フランス372、カナダ155となっており、日本は第4位(FAOSTAT調べ)。国民1人あたりで計算してみても、日本330ドルに対し、イギリス756、ドイツ698、フランス607、カナダ592となり、日本は第5位となっています(FAOSTATをもとに番組試算)。
ただ、この特集の主張のために、都合のいい解釈や都合のいいデータを持ち出した部分があるようにも思え、まるごと信用することもできませんでした。
例えば、ウィキペディアで
「食料自給率」を見たところ、上記問題点の指摘もあれば、それ以外の指摘もあり、この番組が総合的な観点から組まれていないことがわかります。
また、上記の先進国の農産物輸入額のデータにしても、どういった食料を輸入しているかということが大事な気がします。食料の中にはそれがないと生きていけないもの(米、大豆、小麦などの穀物)となくてもとりあえず生きていける食料があるでしょうし、後者の中でも希少価値があり高価なものが含まれていれば、金額としてアップします。いわゆる贅沢品ですね。そんなものは、イザというときなければないで済むわけで、それらが金額のどの割合なのかがわからないと、正確な判断はできないように思います。
そもそも「食料自給率」は、いざ、というときに日本は自前で喰っていけるかどうかの一つの指標であり、どこかの国との国交断絶などの危機があった場合、エネルギー自給率がそもそも低い日本が「食料自給率」にこだわるのは無意味との見解もあるようです。
でも、食料不足の折には自国の供給を優先するのはどこの国でも当然でしょうから、そうしたリスクを少しでも回避するためには食料自給率は高い方がいいと私は思います。
ただ、日本のこれまでの(今も?)コメ農政がおかしかったのではないかとも思います。
とはいえ、簡単に「食料自給率が40%で将来あぶない」といたずらに煽られることなく、冷静な判断が必要とは思いました。