高橋靖子の「千駄ヶ谷スタイリスト日記」

高橋靖子の「千駄ヶ谷スタイリスト日記」

5月13日 昼と夜と

2005-05-15 | 千駄ヶ谷日記
午前中、ビデオで、テレビマンユニオンの重延さんがつくった「ヴァザーリの回廊」を観た。
これはお正月に放送されたものだが、友だちに貸す約束をしたので、その前に改めて2時間のビデオを観たのだった。
イタリアのフィレンツエにあるヴァザーリの回廊を、10年がかりで許可を得て撮影したもので、案内役は奥田瑛二さん。1キロにわたる回廊は、ルネッサンス時代の絵画の宝庫で、そこを歩く奥田さんと絵画を延々とカメラが追ってゆく。ナレーションも、音楽も、奥田さんの言葉も誇張は一切ないが、その淡々としたなかの重みがジワジワと感動になってゆく。
重延さんの作品には、「尼門跡」という京都の尼寺のお正月を追ったものがある。これも10年がかりで許可を得て撮ったものだ。
テレビという媒体のおかげで、長い歴史とじっくりと向かい合う時間をもらった。
短いレンジで生きていると、余計にこの時間が新鮮で感動的だ。
その感動の余波を自分の中に取り入れて、じっくりクリエイティブな世界に浸れたら、私も、多少はアーティストの世界に生きられるだろう。
だけど、その充実した静寂さに耐えられなくなって、友だちに電話をしてしまう。
ビデオを持ってご近所のプロダクション(スプーン)に出かけてゆく。
長年の友だち(山田さん、向井さん)と賑やかに冷やし中華(辛涼麺)を食べて、作品の世界が私の心にもたらした透明感と寂寥感を蹴散らしてしまったのだった。

夕方から銀座の王子ホールに桑原茂一さんの「Comedy News Show」お披露目公演に行く。
70年代のスネークマンショーから、脈々とつづく茂一さんのコメデイ。
1年ぐらい前、MXテレビ UHF 「CHOCOLATE IN THE BOX」で鋤田正義さんと小林克也さん、桑原茂一さんのトークショーがあった。
茂一さんは克也さんとともに、当時いかにラジオ番組「スネークマンショー」をつくることに真剣勝負だったか、そのためにいかに戦ったかを語っていた。
それは茂一さんのなかで一貫している。
私はよく説明できないので「ぴあ」からでている「STYLE OF COMEDY」という本のなかで、茂木健一郎という方が書いていることを勝手に、ほんのすこしだけ引用させていただく。
「笑いは、暇つぶしや、エンタテイメントのためにあるんじゃない。笑いは本当は世界の真実を知るためにあるんだ。」
「桑原茂一が扱うネタは、タブーにまみれている。戦争、セックス、 ヴァイオレンス、警察、ドラッグ。こういうタブーを前にすると、人間の頭はこわばってしまう。だから、桑原茂一の笑いという太陽が必要なんだ。笑っているうちに、気がついてみると、こわばりがちょっと緩んで、世界の真実が見えてくる。どんな偉い社会評論家のもっともらしい理屈よりも、時には良質の笑いの方が有効なんだ」
出演者は、妥協しない茂一さんとやっている方々だけに、みんなものすごくうまかった。
年齢不詳のコシミハルさんの歌、ファッション、(そしてうらやましいことにその体型も)、素敵だった。

写真(撮影・鋤田正義) 70年代、当時のラジオ番組「スネークマンショー」を体現した小林克也さん、伊武雅刀さん、そして桑原茂一さん。スタイリストは私。

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8 コメント

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歴史の重みを・・・ (あき)
2005-05-15 03:24:11
「ヴァザーリ・・・」の番組、私も見ました。

フィレンツエのウフィツィは、駆け足でまわったことがありましたが、あそこまで、数々の名作品が展示されているとは思いませんでした。

次々と終わりなく紹介される作品・・・。強いライトを名画にあてられないだろう・・・など、製作サイドの苦労も見てとれました。



日本も文化を守ろうとしていると思いますが、「歴史・文化は守るべきもの、ゆるぎないものだ」ということを当然のこととしている欧州の精神・気概をつきつけられた気がしました。

あと、美術の歴史の奥の深さかな。そういったものと市民の人々が触れ合う距離が、近い気がします。



脱帽ですね。守るべきものを考えさせられました。





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感謝 (桑原茂一)
2005-05-15 09:20:20
世田谷日記のファンです。

当時憧れのヤッコさんにこんなコメントを頂けるなんて本当にうれしいです。もし次がある場合は是非また衣装手伝ってくださいね。
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本当の笑い (masa)
2005-05-15 19:51:51
「笑いは、暇つぶしや、エンタテイメントのためにあるんじゃない。笑いは本当は世界の真実を知るためにあるんだ。」

…この言葉に同感です。

例えば昨今、テレビのお笑い番組にでている芸人(?)のほとんどが、浅薄きわまりない素人芸で、あきれてしまいます。
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歴史そして今 (saimon)
2005-05-15 23:57:46
ヴァーサリ回廊の番組見ました。古いミシュランでは案内してました。一時期、開放していたようです。行ったときに閉鎖中でがっかりしました。10年掛けて500年の時間に支えられた真実を伝える。それは大変だけどすばらしいことですね。また、今の真実を見せてくれる、と言うか気がつかせてくれるコメディ、これもまたまたすばらしい。それを1日、昼に夜に体験したのでは興奮でお疲れになるのでは・・・・・。でも充実したのも確かでしょう。
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Unknown (Yacco)
2005-05-16 08:02:59
あきさま

「ヴァザーリの回廊」のすばらしさのひとつに、ギラッとした照明を使わなかったことがあるような気がします。カメラが進行する中で、名画がほの暗くしか写ってないのも多かった。名画の保護のための撮影条件だったかもしれないけれど、それが人間の目(観ている私自身の目)で観ていることを感じさせたし、全体の流れが格調高いものになった。

それでいて各名画を細部にわたってかいせつする別の手法を駆使していました。



茂一さま

衣装は完璧だったじゃないですか。

次?私は応援部隊には加わりたいけど、、、

これを機に、スネークマンショーのこと、私なりにこのブログに書こうかしら。

会場では、細野晴臣さん、高橋幸宏さん、杉山恒太郎さん、カメラマンの平間至さんなどとご挨拶しました。

茂一さんの日記読ませていただきました。
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電車でほにゃらら (おまち)
2005-05-17 11:00:39
スネークマンショー、僕はi-podにいれて電車で拝聴させて頂いてます。「Does anybody really knows ~」「海賊版」「ピテカントロプス~」。夜中会社で一人になった時にも愛用してます。
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Unknown (M)
2005-05-17 23:44:20
Yaccoさん、茂一さん、ラジオ番組「スネークマンショー」は当時エアチェックして熱心に聴いていました。今でもそのほんの一部が、大震災を経て無事に残っています。



色んなタイプの「趣味のよい(?!)音楽」を紹介してもらいましたが、一番のお気に入りはインドネシアのブンガ・ダリアです。特に男性シンガーの声がいい。実にスムースで心地よい。こんな声は他に知りません。
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失礼します (劇団セブンスタッフ)
2005-10-24 22:18:51
トラックバックさせていただきます。
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