●カッコーの巢の上で(ONE FLEW OVER THE CUCKOO'S NEST)/1975、米/ミロス・フォアマン監督/ジャック・ニコルソン、ルイーズ・フレッチャー、ウィル・サンプソン、ブラッド・ドゥーリフ、マイクル・ベリーマン、クリストファー・ロイド、ダニー・デヴィート
◎NHKBSの錄畫。刑務所での勞働を嫌つたマクマーフィーは詐病を企みある病院に入院することに成功する。彼が入れられた病棟には彼を含めて18人の患者がをり、半數は慢性疾患で意思疎通が困難な狀態。殘りの9人に對しては主任看護師ラチェッド女史の管理下でグループセラピーと稱して連日コミュニケイション能力の回復訓練が行なはれてゐる。刑務所から拔け出してみたものの今度は誰ともまともな會話ができない退屈さにマクマーフィーはすぐに我儘ぶりを發揮しだす。ただしそれまでラチェッドのあまりにも堅苦しい管理主義の下に生氣を失つてゐた患者たちにとつては、マクマーフィーは外界からの新鮮な刺戟だつた。ある日、マクマーフィーはその日のセラピーを夜に移して晝間はテレビで野球のワールドシリーズを觀ようと提案するも、ラチェッドの慢性患者を利用した多數決工作であへなく否決。そこでマクマーフィーは慢性患者にも働きかけ聾唖のインディアンで「チーフ」といふあだ名を持つ人物の手を擧げさせることができた。しかしすでに時間切れ。マクマーフィーは試合が終はつたテレビの前で思ひ付きの架空實況放送をやつてみせて仲間の興奮を誘ふ。また別の日には大人しい患者向けのレクリエイション用バスを乘つ取り港に出掛け、さらには大型の釣舟に強引に乘り込み海に出ると皆を卷き込んで鰹釣りを始める。患者ばかりの集團で誰が考へても悲慘な海難事故を豫想するところだが、彼らは見事に生還し釣り好きの院長も驚くやうな釣果まで手にしてゐた。それやこれやの馬鹿騷ぎで入院生活を愉しんでゐたマクマーフィーだつたが、いつものやうにふざけ半分に受けてゐたセラピーの途中に奇妙な話を聞き込む。全員ではないが何やら危なつかしい雰圍氣の同僚患者が實は志願しての自主入院であること、そしてそれ以上に重要なのが自分は強制入院であるため最終的に院長の許可がない限り退院できないのだといふこと。刑務所での刑期と同じだけ我慢すれば病院を出られるといふ甘い考へでゐたマクマーフィーは、院長とラチェッドが自分を見る眼の意味に氣付いて慄然とする。そこで計畫を病院からの脱走に切り替へ早速に準備を始め、すべて完了したところで仲間とのお別れパーティーを開く。夜間警備員を騙して女たちを呼び入れ、彼女たちが持ち込んだ酒を患者たちにふるまつて大騷ぎ。出てしまへばそれまでなので氣樂に遊んでゐたが、自分に懷いてくれた若いビリーの思ひを遂げさせてやらうと彼が熱い視線を送つてゐた女をあてがひ、自分は終はるのを待つてさらに酒を重ねた。だがそのまま眠り込んでしまつたマクマーフィーは結局逃げる機會を失つた。目覺めたときはすでに朝で、ラチェッドが目の前にゐる。素ッ裸で女とベッドにゐたビリーは仲の惡い母親に言ひ付けられるのが嫌さに暴れて自殺を圖り、それを知つたマクマーフィーの怒りがラチェッドに向かひ喉に手を掛けることに。しかしここは彼の本來の居場所ではない。刑務所でさへなく、ここは病院だつた。マクマーフィーはたちまち叩きのめされそのまま獨房に監禁される。やがてマクマーフィーにはロボトミー手術が施され「人畜無害」となつた姿で病棟に戾される。この映畫では惡黨マクマーフィーが怠け癖を滿足させるために刑務所から勞働義務のない病院に移ることで、結果として病院に入院中の患者がさまざまに刺戟を受けて生き生きと蘇る樣子を描いてゐる。つまりマクマーフィーはどうでもよくて、これは當時の病院での治療の在り方を批判してゐるのだ。專門的なことは理解しがたいので何も言はないが、この映畫の範圍で患者が可哀さうだといふ場面は確かにあつた。私自身、別に頭が狂つてゐるとは思つてゐないものの、透析を始めて以降は行動に制限があり氣の滅入ることが多い。もしかういふ扱ひを受けるのならあつさり死んだはうが良かつたと思ふだらう。映畫の中の患者たちは、マクマーフィーが手術を受けて廢人同然となつたところで急速に元の狀態に戾つていく。そしてラチェッドはまた愉しさうに毎日の管理業務に戾るのだ。この作品中の唯一の救ひは「チーフ」の存在で、ネットで調べると原作の小説としてはこのインディアンを主人公に据ゑてゐるらしい。「聞えず話せない」ことにしてモップを手に部屋の中を步き廻つてゐたチーフは、マクマーフィーの誘ひに少しづつ心を開いていく。やがて聾唖が噓であることも告げいつか共に脱走してカナダへ出掛けようと話し合つたりする。しかしマクマーフィーが急ぎ過ぎたためにチーフには對應できなかつた。逆にマクマーフィーがロボトミー手術を受けて歸つて來たとき、チーフは完全に用意が整つてゐた。皮肉なことに今度はマクマーフィーが行けない。チーフは子供の頃からの經驗で生きもののことがよく分かつた。ロボトミーを終へて戾つて來たマクマーフィーの姿には「命」の價値が認められず、氣の毒に思つたチーフは枕を彼の顏に押し付け殺してしまふ。そしてマクマーフィーが皆の氣を惹くためにやつてみせたことのある水飮み臺の素手での持ちあげを最後までやり遂げ水道管を引きちぎり、その水飮み臺を窓に叩き付けそこから逃走した。チーフに關する限りはどこへ行かうとそこがふるさとなのだから、心の準備が出來て決行さへすればあとはもう何の心配もない。