チコの花咲く丘―ノベルの小屋―

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「風を追う物語」第5章 幸せを願い その34

2011-09-01 10:22:04 | 十三歳、少女の哲学「風を追う物語」
 『こんにちは!』
有言、無言の挨拶を交わして、引き続く、お母さんとハヅキ先生の会話。今朝はお電話ありがとうございました・・・いいえ、こちらこそ・・・本当に安心しました・・・
「さっきのお医者さんのお話では、後遺症もないという事でして。」
え?
「私も聞いてびっくりしたんですけど、障害が残ってもおかしくなかったらしいんです。」
ユイさんに聞こえないように、こっそり耳打ちされた言葉に、私は驚かざるを得なかった。いずれにしても、
「ユイさん、もうすぐ退院ですってね!おめでとう!・・・少し早いけど。」
手渡されたプレゼントに、少し驚いた顔のユイ。
「まあまあ、先生、すみません。お気づかいいただいて。・・・あ、そうだ。お茶を・・・ユイ、何か買ってくる?」
「いえ、いいですよ。」
「いえいえ・・・それとも、上の食堂で、先生とお話ししてくる?お母さんは荷物の整理をしておくし。」
考えてみれば、面談の時はいつも保護者同伴。折角の機会だから。ユイは少し考えて、首を縦に振った。
「親が一緒だと、話しにくい事もあると思いますので、よろしくお願いします。」
 ユイはベッドから降り、出かける準備を始めた。お母さんからお金を受け取ると、ハヅキ先生と一緒に部屋を出て行った。
「思ったより、患者さんすくないのね。どう?夜は眠れる?」
私のすぐ横について、一緒に歩いてくれるハヅキ先生。笑顔でその投げかけに反応しながら、上の食堂へ案内していく。
 そして、院内学級前。
「わぁ、この間も見たけど、見事な作品ね!」
感激しているハヅキ先生の横で、ユイの気持ちは沈んでいた。だって、ハヅキ先生は知らないけれど、この作品は、この間私がめちゃくちゃにしてしまった作品だから。どうしてあんなことしちゃったのかな・・・意識か無意識か、その境界線のような状況の、一時の衝動。今はもう、罪悪感ばかり。許してもらえても、私は一生この罪を背負って行くのだ。
 上昇するエレベーター、二人は食堂に到着した。



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