チコの花咲く丘―ノベルの小屋―

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「風を追う物語」第1章 真夏の始まり その10

2011-01-03 22:37:05 | 十三歳、少女の哲学「風を追う物語」
そう遅くない夜の街、
サイレンも控えめに、
救急車は救急搬送口に到着。

ストレッチャーは
大急ぎで診察室に運ばれた。

「ユイちゃん!ユイちゃん!」
必死の声かけに、

ここは・・・
ようやく薄く目を開けたユイ。
看護師さん?!よく知ってる看護師さんだ!

と、いうことは、ここは病院?
でも、いつもの小児科の天井とは違う。

そのそばで、
「どんな様子でした・・・?」
もう一人の看護師さんに、
丁寧に答えているお母さんの声が聞こえるのだけど、

何を言ってるのやら、さっぱり聞き取れない。
起きようと思っても、体が言う事を聞かない。
一体、どうなったの?

何を尋ねられるわけでもなく、
よく知らないお医者さんに
聴診器をあてがわれながら、
ユイはされるがままになっていた。

体温は三十九度。
「駄目です!測れません!」
血圧を測りながら
血相を変える看護師さん。

それを聞いたお医者さんが
「お母さん、大変危険な状態です。
即入院してもらいます。」

入院?!そんな!
衝撃で大きな目を見開くユイ。
「わ、わかりました・・・。」
お母さんも同じみたいだ。

口に酸素マスクをあてがわると、
「ユイちゃん、ごめんね。」
肘の内側をアルコールで拭かれて、
「う・・・」
注射針が突き刺さる。採血だ。

天井につるされる、点滴のパック。
採血に続けて、今度は
左手の甲に点滴の針が刺し込まれると、
ストレッチャーは救急室を出て、
薄暗い病院内を走りだした。

看護師さんに覗きこまれながら、
エレベーター、寝たままでレントゲンを撮り、
もう一度エレベーター。

小児病棟。
そこの看護師さんだろうか?
「あ、こちらの部屋空いています。」
案内で、さらにストレッチャーは進み、
ベット脇に到着した。

「ベッドに移れる?」
無反応なユイに、
「・・・無理ね?わかったわ!」
ユイは看護師さん三名に抱えられ、ベッドへと移された。

「ユイちゃん、お母さんは荷物を取りに帰られたわ。
また来るから安心して休んでてって。
何かあったらナースコール押して。」

そう言い残して、看護師さんは退室。
ユイは一人、暗い病室に残された。

















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