チコの花咲く丘―ノベルの小屋―

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「風を追う物語」第4章 夢の舟 その18

2011-05-31 23:11:26 | 十三歳、少女の哲学「風を追う物語」
「ご馳走様でした!」
会計を済ませて、学校へと帰る道。

あーあ。また色々な事を考えさせられてしまったな・・・

「ただいま戻りました!」
職員室。
「さてと!私は保護者面談の資料を仕上げてしまおうかな?
ハヅキ先生は?」

「私も!明日からだけど、
教室の掃除をしてくるわ。」

そうおす、夏休みには
保護者面談がある。
ユイさんだけでなく、
私は、その他四十人ほどの生徒の
担任だものね。

荷物を置き、教室へ向かう。
よいしょ!
ドアを開けると、
休暇前と同じく、整然と机が並んでいる。

ここは、部活動には使っていないからな。
床の、埃だけ取っておいたらいいかな?

掃除用具入れから、箒と塵取りを
取ってきて、もくもくと掃除をはじめた。

子供たちに勉強を教え、
関わり、支え、励まし・・・
よりよい方向へ、変わってくれるように
働きかけるのが、教師であり、われわれ大人の努め。

でもそれは、私たち大人が、
子供に変わってもらうことばかり
求めているに過ぎないんだろうか?


ナユタ君には、特別支援クラスを
勧めています。

ユイさんには、
他校に転校されるほうがよろしいかと
思いますが・・・


学校って結局、
いい子ばかりを追い出してしまうのね!

今年の四月。
「それでは、今年度の学級担任を
発表します。」

あの時はまだ、ユイさんについては
風のうわさぐらいでしか聞いていなかったけど、

事前に提出した希望通り、
中学二年生の担任をあてがわれた私は。
「ハヅキ先生、本当に大丈夫ですか?」

「はい、がんばります。」
「・・・まだお若いのに。色々と聞かれていると思いますが。」
「はい、覚悟はしております。」

「そうですか。では、お任せします。
ハヅキ先生の思うようにやってくださった結構です。」

半分投げやりな校長に背を向けて、
私は歩き出した。

私も、どれほども自信はないけれど、
学校から追い出される子供なんて、
一人でもいてはいけない!

そんな思いから、私はユイさんに、一人ぼっちで
ユイさんと向かい合う決心を固めた。
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「風を追う物語」第4章 夢の舟 その17

2011-05-30 23:32:22 | 十三歳、少女の哲学「風を追う物語」
もうひと仕事こなして、
午後十二時。
「ハヅキ先生、お昼、行きましょう!」

と、声をかけてくれたのは
高校一年生を担任しているカワシマ先生。
私と同い年で、
同じ英語科教師。

そんな事で、スケジュールに比較的
余裕のある時は、
良くこうして学校の外へお昼ご飯を食べに出かける。

「えーとね、こっちにいいお店で来たのよ。」
カワシマ先生、良く知ってるなぁ。
案内されるままに、後ろをついて行き、

「あ、ここ!」
おしゃれなレストランの前に到着。
「わー、ありがとうございます!」

一応、先にこの学校に就職している相手。
敬語で礼をするんだけど、
「何言ってるの!同い年なのに、
もっと気楽に行こうよ!」
と、注意されるのもいつもの事で。

「いらっしゃいませ。」
お店の人の案内で、席にかける。
「ランチセットを二つお願いします。
・・・それでは、今日もお疲れ様!」

水の入ったグラスで乾杯!
「でも、ハヅキちゃん、
本当によく頑張ってると思うわ。
私だったら、とてもそんなことできない!」

守秘義務があるから、
あまりおおっぴろには言えない。
でも、職場を離れた場所だからこそ、
言える話もあり・・・

「え?うーん、そんな事もないと思うんだけど。」
「その辺が凄いと思うわ。私だってね、
そう言う子がいたら、放ってはおけないと思うのよ。
でも、うちの学校でもさ、何も言わないで辛抱だけしている
子って結構多いんでしょうね。」

カワシマ先生の言う通り。
ある意味、ユイさんみたいに、
不登校出来る子はいいのかもしれない。

あーあ、本当に。
「この仕事やってて言うのも変だけどさ。
学校ってどうしてこう、柔軟じゃないのかな?」

私もそう思うわ。
六年前の、小学校講師時代。
「一年生の、学習支援をお願いします。」

担任ではなく、支援教員として辞令を受け、
私は小学校一年生の教室で、
自分の席にじっと座っていられない
一人の少年の支援に携わった。

ナユタ君・・・

新米にも程遠い、こんな私でも、
一人、支援が入ったことで、
彼も落ち着き、

担任の先生も授業を進めやすくなったって
言っていた。

あんな風に、柔軟に対応していく事も可能なのに。

「結局、上が頭固いんだよね!」
不満に思うところは、皆同じか。
私は妙な安心を得てしまった。
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「風を追う物語」第4章 夢の舟 その16

2011-05-29 22:15:42 | 十三歳、少女の哲学「風を追う物語」
だけど、
あれで良かったのかな?
職員室に戻り、
使用した空き部屋の鍵を返却する。

「あ、ハヅキ先生、終わられました?」

校長先生に声をかけられた。
「はい。長い事席をはずしてしまいまして、
すみませんでした。」

「いや、そんな事。それより、どうだった?」
話の一部始終を報告する。
「なるほどね・・・ユイさん。
なかなか一筋縄に行かないか。」

ため息をついて、うつむき加減で腕を組む校長。

そうよね。
下手に突けば、さらに傷ついて、
余計におかしな事になりそうだもの。

「おつかれさまです。」
デスクに帰る私に、
ねぎらいの声をかけてくれる先生達。

「お帰り、どうだった?」
最後に話しかけてきたのは、
隣の席のキムラ先生。

私の話に耳を傾けながら、
「まあ、不登校って言うのは、
学校が嫌いなだけでなるものではないけどね。」
確かにその通りだ。

ユイさんのお母さん・・・
そろそろ電車に乗られた頃かしら?
でも、私達、何を持って
この問題の解決だと思ってるのかな?

今の状況で、学習の支援だけを続けて、
中学だけはとりあえず卒業させる事なのか。
無理やりにでも、あるいは、
退学させ、他校へ行かせてでも、
学校に登校できるように持っていく事なのか。

高校に、進学させる事なのか。

あーあ。
私も学生の時は、もっとうまくやれると
思っていた。だけど、実際のところは・・・

本当に、教師って無力だと思う。
私が、この学校に勤め始めた頃。
「え?こんな事まで指導するんですか?」
「そうだよ。」

本当に、びっくりだったなぁ。
スカートの長さとか、頭髪の色とか。
学校って、こんなにもどうでもいい事に
時間を割くものだとは思っていなかった。

だけど、それはあくまでも、
集団に対する指導であって、
家庭でやっている、身だしなみのしつけとは
全く違うもの。

この辺を錯覚している保護者が多いのも
また現実なのよね。

集団に対する指導、
個別に対する指導・・・
実際この仕事をした事のない人間に、
この違いを理解しろと言っても、
難しいかもしれない。

この両方を、うまく使い分けなければならない、
教師の難しさも。
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「風を追う物語」第4章 夢の舟 その15

2011-05-27 12:10:34 | 十三歳、少女の哲学「風を追う物語」
独身で子供もいない私が、
偉そうに言う事じゃないけど。

その胎から出ても、
親と子は違う生き物。
いくら頭では理解していても、
いざというと・・・

でも、今の子は想像以上に
違いすぎるのかもしれない。
「何だか、あまりにも子供のままなんです。」
それは、私達の時もそうだったけど。

昔は、中学生ともなると、
自分は大人だという気持ちが芽生えて、
しっかりもするし、
背伸びする事を覚えたりもして。

ベテランの先生曰く、
授業だって、もっと落ち着いて出来た、と。
だけど、今は・・・

中学生だと、
おおよそ、落ち着かない子も沢山。
高校生でも、授業中のおしゃべりが止まないし。
まるで、昔の中学生みたいだって。

ユイさんだけの問題ではないわけだけど・・・

「検査を受けさせるべきでしょうか?」
結局、同じ所をぐるぐる回るだけか。
だけど、それでは、
ユイさんに何だかの問題があるという疑いを、
固定してしまう事になる。

今までの話の流れからして、
親御さんにとってそれは一番納得できない
話のはず。

もっと、そんな事じゃなくて。
「ユイさんの自然体を受け入れていく
事は出来ないですか?」

どうしよう?お母さん方が
沈黙してしまった。
「・・・そうなんでしょうけど、
ユイはあまりにも不自然すぎるんです。
学校にだって、これ程適応できないなんて・・・」

あまりにも大変な子だからこそ、
高い授業料を払い、
少しでも適応できそうで、
それでいて、
親のメガネにもかなう学校に入れる。

それなのに、夢を載せた方舟は
今にも沈もうとしているのだ。
沈ませてはいけない、絶対に。
それだけは避けないと!

「ユイさんを、サポートしていきましょう。」
「?」
「ユイさんが、良い未来に進めるように。」

これで面談終了、
午前十一時四十八分。
今年は一段と暑いですね・・・そうですね・・・

「今日は本当に済みませんでした。
何だか、愚痴ばかり聞いてもらってしまいまして。」
「いいえ。とんでもないです。また何かありましたら。」
「先生、本当にありがとうございます。では、
これからユイの所へ行ってまいります。」

深々と頭を下げ、帰っていった。

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「風を追う物語」第4章 夢の舟 その14

2011-05-25 22:52:40 | 十三歳、少女の哲学「風を追う物語」
結局、そこに結びつけてしまうのか。

だけどそれを、
単に服装の嗜好にだけ
根拠として決めつけているのではないというのは、

ユイさんに直接関わってる
人間だからこそ、わかる事。

「確かに、性格も男の子みたいなところ
ありますよね・・・でも、ぬいぐるみが好きだったり、
女の子らしい面もあると思いますけど。」

しかし、母親は首を横に振った。
「いえ、あの子、物心がついた時から
女の子の遊びを好まないんです。
幼稚園でもそうでした。

他の子がお人形ごっことか、
おままごとで遊んでいるのに、
ユイは男の子のおもちゃを取り合って。」

「あのぬいぐるみだって、
あまり女の子は好まれないキャラクターでしょ?」

そうなのかな?
「ユイの通っていた小学校でも、
あれが好きな女の子はユイと、
ユイの友達ぐらいでした。」

たぶん、そんな事はないと思うけど。
だって、この女子校でも、
他の学年で、信じられないほどハマってる子が
いるって聞いてるもの。

だけど、これを伝えたところで、
このお母さんの神経を逆なでするだけだろうか?
とにかく、静かに聞こう。

「ユイさんが普通の女の子ではない、
というのも、親御さんとしたら
不安だったんですか?」

「そうだったのかもしれませんね・・・
家で見ていたら、あまりそう思わないんですけど、
幼稚園でも、小学校でも・・・」

だんだん涙声になってきた。

「私も主人も、ユイには厳しく接してきました。
普通の親御さんなら、普通に許してしまうような事でも、
ユイにはきつく叱りつけてきました。」

そうか、それで校則が厳しくて有名な
この学校に?
「自由にしてしまうと、
あの子、とんでもない方向に行くような気がして。
親としても、失敗しないように線路をひいてやりたかった
ですし。」

さらに酷くなる涙声。
「それなのに、それなのに・・
あの子・・・違う方にばかり行ってしまう・・・
私達が子供の頃と、まるで違うんです。」

そして、不登校にまでなってしまった。
母親はここで完全に泣き崩れてしまった。







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「風を追う物語」第4章 夢の舟 その13

2011-05-24 10:08:24 | 十三歳、少女の哲学「風を追う物語」
はぁ・・・。
聞けば聞くほど、ため息が出てくる。
だけど、
ここ何年かの間に、今まででは
とても考えられないような
子供が確実に増えてきている。

「ナユタ君、ナユタ君!」
そう言いながら、小学一年生の
後ろを追い掛けていた六年前。

あれだって、私達には
考えられない事だったわ。
授業中に勝手に飛び出していくなんて。

あの子のために、
何回会議がもたれたことか。
当然、私も同席していたけど、
他の一年生の担任が、

「ちょっと前まで、ああいう子は
平手打ちでもしてお終いだったけどな。
時代が変わったもんだ。」

と、言っていたのはかなり印象的だった。

指導より、支援が必要なんだな・・・
だから、教師も今、凄く大変で。
ちょっと疲れた表情をしたのを、
読みとられてしまったのだろうか?

「あ、先生すみません。こんな事ばかり。」
「い、いえ。大丈夫です。」

椅子に掛け直し、背筋を伸ばて、
相手の言葉を待つ。

「やっぱり、あの子、何かおかしいと思います。
部活動が楽しくないって言うのもそうでしたけど、
他にも、受け入れられない事が、
あまりにも多すぎるんです。」

まあ、繊細な子だから
・・・ユイさん。

不登校後に関して言えば、美術に関連したものに
指一つ触れられなくなり、
美術の先生にも、レポートとか
別課題で対応していただいている。

一度傷つけば、とことん深くなってしまうんでしょうね。
だけど、繊細と言うだけなら、
この学校にも結構いる。
もちろん、今まで講師で回っていた
公立の学校にも沢山いた。

「何が受け入れられないのか、
ちょっとその辺を整理しましょうか。
食べ物の好き嫌いなんかは、
ないんですよね?」

「まあ、そうですね。
でも、小さい時から、音楽をかけると
極端に嫌がったり、特定の色を嫌がる事もありました。
そして、中学に入ってからは・・・」

衣服に関する、こだわりが始まった。

「制服は、不登校する直前から
受け入れなくなりました。
それに続いて、スカートを受け入れなくなり。」

私が知る限り、ユイさんはいつも、
男子向けの服ばかりを着ている。

「ひょっとしたら、あの子、
そういう方面もおかしいんじゃないか。
親としては、そう言う風にも思えてしまうんです。」


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「風を追う物語」第4章 夢の舟 その12

2011-05-22 21:12:27 | 十三歳、少女の哲学「風を追う物語」
ハンカチを握りしめ、話を続ける母親。
「大学受験に向けたカリキュラムも、
規則も厳しいですし、規律のある、
良い学校だと思ったんです。」

ここに来た生徒の親御さんは
皆、同じ事を言う。
まあ、これがこの学校の評判なんだろうけど。

「中学生って、心も体も
変わる時期ですし、
あまり、自由な学校には入れたくなくて。
非行とか心配なんですよ。

それに、あの時代に自由を経験すると、ロクな人間に
ならない気がして。」

これも昔から聞く言葉だな。
「それで、ユイさん自身は?
納得されてたんですか?」

そう、ここが肝心。
この学校の厳しさは、常識以上だから。
「まだ小学生でしたから、
親の影響もあったと思いますけど、
納得はしていたと思います。」

へぇ、一応納得はしていたんだ。
それならば、どうして不登校に?

友達が出来なかった、
教室に居場所がなかった事は、
去年の担任からも聞いていたけれど、

「で、美術部に入られましたよね?」
「はい、一年生の、夏休み前だったと思います。」
「そこで居場所はなかったんですか?」
「・・・・。」

どうしよう、沈黙させてしまった。
聞いてはいけなかったかな?
でも、聞かない事には・・・

「一年生の時の、担任のアドバイスもありましたし、
確かに、親としても、無理やり押し込んだところは
あったんです。でも、
まさか、部活動が楽しくないなんて。」

昔は、たとえ本人の意にそまなくても、
本人の少しでも得意な事を見つけ出して、
それに該当する部活動に押し込んでしまえば、
それなりに本人も馴染んで、
学校も楽しくなった。

それなのにどうして、という所なのだろう。
「時代の変化かもしれませんけど、
私、全然理解できなかったんです。
まさか、不登校にまでつながってしまうなんて・・・」

再びハンカチで涙をぬぐい始めた。
美術部の事が、不登校の原因の全てではないだろうけど、
辛いだろうな。親御さんも。

学校としても、ユイさんみたいなケースは
正直始めて。
しかも、ユイさんを皮切りに、
こういうケースは確実に増えてきていて、

この夏までにも、中学の生徒が一人、
部活動に入部させられた事が原因で、
退学していった。

子供が変わってしまった。
変わってしまった子供達に、
皆、対応しかねているのだ。


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「風を追う物語」第4章 夢の舟 その11

2011-05-21 21:10:39 | 十三歳、少女の哲学「風を追う物語」
「普通の子なら、同年代の子に混じって
一緒に遊ぶのを喜びますよね?
それなのに、うちのユイは・・・」

「それを好まれなかったんですか?
それとも、嫌がった?」

「と、言うより、できなかった、
というのが正しいような気がします。」

だけど、皆で遊ぶのが苦手なだけの子なら、
いくらでもいる。
それだけで、普通の子ではない、
というのは少し乱暴な気がして。

ほら、ユイさんの場合、体力的に
ついて行けなかった事も考えられるし。

「あの子、集団のルールが守れないんです。」

このお母さんの言うところの、
ルールが、何を指すものなのだろうか。
ちょっと読みとれないけど、
一般的な話として、子供を学校に通わせる理由の一つは、

『集団生活のルールを学ばせるため。』

だからこそ、
「何とか学んでほしいと思って、
集団生活も早く始めさせましたし、
本人は嫌がりましたけど、
中学では部活動にも・・・」
と、なるのは自然の理屈だと思う。

だけど、それを自然に学びとるのは
難しい子が結構いるという事を、
教師になってから嫌というほど実感しているのだ。

それは必ずしも、
「知能が低いんでしょうか?」
というのが理由ではない。

「だいたい、あの受験勉強自体、
ユイにはかなり背伸びをさせてしまったような
気がするんです。

偏差値も、何とか手が届くかという範囲を
行ったり来たりという状態で受けさせまして。
ある意味、賭けみたいなところがありました。」

「でも、合格されたじゃないですか。
そして、入学も・・・」
ここまで言いだして、私は言葉を飲んだ。

「やっぱり、もう少しランクを落とすべきだったかと。
そうすれば、勉強も、人間関係も楽だったんじゃないかと。」

なるほど。
そう言う考え方もあるかもしれないな。
でも、親御さんにしたら、
受験させる前に説明会にも参加して、
受けさせるかどうか、入学されるかどうかを
決められているはず。

人間関係の事はわからないとしても、
勉強のレベルとか、規則の事は
承知した上だったはず。

「あの、ひとつ質問なんですけど、
親御さんとしては、どう言うお考えで
ユイさんをここに入れようと
思われたんですか?」

私はそう尋ねてみずには居られなかった。





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「風を追う物語」第4章 夢の舟 その10

2011-05-20 12:51:21 | 十三歳、少女の哲学「風を追う物語」
何かと、些細な事でパニックを起こし、
教師の指示が理解できず、
集団の中で、一人だけ違う行動をしていた。

・・・なるほど。
ユイさんは幼稚園に入園して早々から
集団生活に馴染めなかったわけだ。

こういう場合、教師としては
やはり、そう言うケースを想定するわけだけど、
だけど、教師なんて、単に聞きかじって
知っている、というだけで

専門的な知識もなければ、
正確な診断を下せるわけでもない。

「幼稚園の先生からも、何度も呼び出しがありました。」
まあ、そうだろうな。
でも、

「何が具合悪いとか、どこかへ相談とかいう、
具体的な話は何もなく。」
これが現実なのだという事も、
良く理解できる。

現に、私だって。
こうして黙って聞くぐらいしか。
そこへ、

「ハヅキ先生、ユイはどう言うところが
おかしいと思われますか?」

いきなり質問を振られて、一瞬キョトンと
してしまった。
「性格ですとか・・・」

「ま、はい。私は二年生になられてから担任を
しましたから、集団に入った時のユイさんの
様子はわかりかねるんですけど・・・。」

ベテランと言うには程遠い私にとっては
精いっぱいの回答だった。

言葉を発せられない、彼女とのコミュニケーションは、
表情の変化を読み取るか、
メールの文面で、という事になるけれど、

「特に、おかしいと思った事はないんですけどね。」

この時、ユイさんのお母さんの表情が、
少しゆるんだのが見て取れた。
きっと、今日まで相当苦しんでこられたんだな、
ユイさんの事で。そして、今も・・・

「そうだったんですね。お察しいたします。
ところでお母さん、不登校の事は
横に置いて、ユイさんのどう言うところが
気になられていますか?」

何もわかってない人間の、思い切った切りこみ。
だけど、それをしない事には、
問題の本質がいつまでも見えてこない気がして。

しかし、これに対して
「あの子ね、私、普通の子とはかなり違うような
気がするんです。」

驚くほど素直な回答が返ってきた。


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「風を追う物語」第4章 夢の舟 その9

2011-05-18 11:12:19 | 十三歳、少女の哲学「風を追う物語」
少し、気持ちが楽になったのかな。
ひとしきり泣いた後、
ハンカチで涙をぬぐい、
顔をあげて話し始めた。

「私・・・主人と結婚したのは、
ごくごく普通の適齢期でしたけど・・・
なかなか授かりませんでして・・・」

涙交じりの声に、静かに耳を傾ける。

「八年目に、やっとユイを授かったんです。」

そうだったんだ。
それで、中学生の親御さんとしては、
年齢が高いんだ。

「高齢出産だったせいか、
ユイは生まれた時、
かなり危険な状態でして。」

生まれてすぐに、
全身をチューブと機械に繋がれて、
赤ちゃん用の集中治療室に連れていかれたらしい。

「実は、その時点で、
もう長くはないと言われたんです。」

あまりにも壮絶な話に、
かける言葉を見つけられないまま、
耳を傾けていた。

かなり大変だったんだな。
ユイさんも、親御さんも。
「それでもユイは、無事に持ち直してくれまして。
普通に生まれた子と同じように退院してくれました。」

その後、細かく病気をしながらも、
ごく普通の範囲で、大事に至る事はなく。
心配された発達面も、
特に異常を指摘されず。

「無事に、今日まで来られたんですね。」
「はい。」
また、ハンカチで涙をぬぐう母親。

「親バカだと思うんですけど、
ある時、結構賢い子だなと思ったんです。
それで、幼稚園も三年保育で入れまして。

だけど、今考えたら無理をさせたと思います。
早生まれですからね、
それだけでもハンディがあったんです。
入園式の日だって、あの子だけがひと際小さくて・・・」

一生懸命育ててこられたんだな。
たった一人授かったお子さんを。
虐待とか、そう言うものはみじんもなかった事が
よくわかる。

だとすれば、どうしてユイさんは不登校に?
やっぱり、学校に原因があったんだろうか?

「ユイさん、幼稚園ではどうだったんですか?」
失礼かもしれないけど、
カウンセラーみたいに質問をふってみた。

問題の根源を探るには、
かなり遡らないと
いけないような気がして。







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