チコの花咲く丘―ノベルの小屋―

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「バトル!」 第五章 授業開始

2007-11-23 20:24:45 | チコは高校三年生「バトル!」
新しいクラスには、最悪な子がいる。
おまけに、またあいつに殴られた。
新学期早々、チコは学校に行く気力をなくしていた。

だけど、行かないわけにもいかない。
ぐずぐず言いながら朝の支度をしていると、
お弁当の用意をしてくれていた
お母さんから、
「何言ってるの!もしトラブルなんて事になったら、ただじゃおかないからね!」
と一喝されてしまった。

この言葉にチコは凍りついた。
ふらふらしていた心を
引き締められた気もしたのだが、
同時に突き放されたような気もしたからだ。

さあ、そろそろ出かけないと。
出来上がったお弁当を受けとると、
チコは重い腰を上げて、しぶしぶ出かけた。

守ってくれる人はどこにもいないのか。
結局、自分の身は自分で守るしかないのかな?
でも、どうしよう?どうしたらいいんだろう?

そんなことを考えてるうちに、学校に到着してしまった。
自転車を置くと、急いで教室に向かった。
さあ、今日からいよいよ授業が始まる。
気合を入れて受けないと。

やる気はいっぱいなのだが、
やはり気になるのは、あの最悪な子の存在であった。
不幸なことに、その子の席はチコの目の前なのだ。

でも、今の所、特に何事も起こってないのだから、
何ともやりようがない。
とりあえずチコは、最悪な子の言動を一つ一つ警戒しながら
授業を受けることにした。

三年生は選択科目が多い。
各自の選択に応じて夫々教室を移動することになる。
いざ始まってみると、クラスがあると言っても
バラバラに行動しているという感じだった。

どうやらあの最悪な子は、チコと同じ科目を選択していなかったらしく、
今日は同じ教室にいることは殆どなかった。
このことはチコにとって救いだった。

さて、肝心の授業はというと、早速講義を始める先生もいたが、
今年の第一回目ということで、自己紹介でつぶしてしまう先生が多くて、
まだ気楽なものだった。
たぶん、これから一週間はこんな感じだろう。

最悪な子ともノートラブル。
とりあえず、今日の一日は無事に終った。
担任の先生からの伝達が終ったら、解散。
チコは大急ぎでリュックを背負って、自転車置き場へと急いだ。
今日は週に一度の歌のレッスンに行く日なのである。
遅れないように行かないと!

先生の家に向かって、自転車を走らせていく。
結局、今日もノリちゃんに会えなかったなぁ。
三年生になってから、まだ一度も直接会ってない。
仕方ない。メールしとくかな?

などと考えていると、少し前に見慣れた後姿が見えた。
ノリちゃんだ!
チコは自転車の速度をさらに早めて、追いついた。

「ノリちゃん!」
突然後ろから声をかけられたノリちゃんは、驚いて振り返り、
「あ、チコちゃん!久しぶり!」
と、答えてくれた。
チコはレッスンに遅れないようにと言う気持ちはあるものの、ここは
自転車を降りて、あえてゆっくり分かれ道まで一緒に歩いていくことにした。
語り合う二人の姿を、春の暖かな空気が包んでいた。






「バトル!」第四章 先手必勝

2007-11-17 21:08:57 | チコは高校三年生「バトル!」
玄関の扉を開けて
「ただいま。」
すると、奥の部屋から、お母さんの
「お帰り。」の声がした。

玄関をの中には、まだ靴がない。
と、言うことは、コウジはまだ帰ってないって事か。
大事な話をするなら、今がチャンスか。
チコはそう思った。

靴を脱いで、急いでキッチンに入ると、すぐに、
聞き入れられないかもしれないという
不安を抱えながらも、思い切って
新しいクラスのことをお母さんに打ち明けた。


一通り話し終えると、お母さんは
「ほんとに!それは困ったことになったね!」
と言った。

そう、お母さんはチコの話を聞き入れてくれたのだ。
チコは嬉しかったが、正直なところ驚いてもいた。

一年生の時は、最悪な子のことで
いくら相談をもちかけても完全に突っぱねられたのに。
お母さんも物凄く変わったものだと、チコは思った。

しかし、お母さんに感心している場合ではない。
具体的な対策を一緒に考えていかないと!
トラブルになったらおしまいなのだから。

二人で話し合い始めたが、そのうちにコウジも帰ってきた。
やはり、こういうことは
お父さんも交えて話し合おうということにもなり、
話し合いは夜へ持ち越されることになった。

新学期早々の、まだ特にやることもないこの時期。
親子三人で遅い昼食をとった後は、
チコ兄弟はゲームをしたりパソコンをしたり。
気楽に過していた。

日が暮れて、お父さんも帰ってきた。
一家揃っての夕食が終ると、早速、昼間の話について
チコとお母さんに、お父さんを交えての話し合いが始まった。しかし、

「誰だって嫌な人はいるものよ。」
「クラスを変えてくれなんて事はいえないぞ。」
話し合う中で、チコは色々な苦言も受けることになった。
要するに辛抱も必要、って事を言いたいんだろうけど、
そんなことは言われなくても良くわかっているのだ。

チコはそんな説教をして欲しかったのではない。
トラブルを起こさないように、また、トラブルがあったときに
自分が一方的に悪者にされないように、どういう手を打つか
ということを相談したかったのだ。

何とか良い対処法を見出せないだろうか。
真剣な話し合いが続く。すると、突然お母さんが
「とりあえず、担任の先生にお伝えするのがいいでしょうね。
そうだ。担任の先生に提出する調書なんてものはないの?
それにそのことを書いて出したらどう?」
と切り出してきたのだ。

なるほど!その方法なら、確実かつ安全に担任の先生に
チコの状況を伝えることが出来る。
チコはこのお母さんのひらめきに、さすがだと思った。
そしてこの案はチコ、お父さん、お母さんの三人一致で可決されることになった。

そうと決まれば、次は文章を考えないと。
誤解されるようなことや、チコが悪者になるようなことには
なってはいけない。
チコは紙とシャーペンを持って来て、両親のアドバイスを受けながら
一生懸命文面を考えた。

翌日。学校へ出かける。昨日渡された書類を今日から順次提出していく。
先生読んでくれるかな?不安を抱えながら
チコはいくつかの書類と一緒に、その文面を記した調書も提出した。

この日も午前中で学校はおしまい。解散の合図後すぐ、チコは荷物を持って
自転車置き場へ急いだ。
三年生になってから、まだ一回もノリちゃんに会ってないな。
仕方ない。またメールでも入れておくかな。
などと考えて歩いていると、突然、目から星が出るほどの衝撃を頭に感じた。

「痛い!」チコは瞬間にうずくまった。
またあいつだ!そう、チコは高校に入学してから、こうして
特定の人物から理由もなく殴られていたのだ。
一度も同じクラスになったこともなければ、
しゃべったこともない。互いに面識はないはずなのだが、
何故か一方的に殴ってくるのだ。

チコが歩いていると、後ろから近づいてきて
頭をきつく殴り、チコがひるんでいる間に逃げていく。
これがヤツの常套手段なのだ。

このことは誰にも相談していない。
下手に相談したらチコが学校を追われるかもしれない。
そんな心配をしていたからだ。

悔しいけれど、チコは一人でじっと耐えていた。
やがて怯みから立ち直ると、気を取り直して、チコは
家路を急ぐのだった。





「バトル!」 第三章 最悪!

2007-11-10 20:40:50 | チコは高校三年生「バトル!」
やっと学校に到着。自転車置き場に自転車を止めて、
チコは新しい教室へと急いだ。

新しいクラスメイトは、どんな人たちだろう?
実は、三年生で何組になるかは、二年生の最後に発表されていて、
ノリちゃんとは違うクラスになったことはわかっていた。

もう、今更新しい友達を作る気はないとはいえ、
平穏にこの一年を暮らせないと困る。
推薦というのは、学業だけでなく、日頃の生活態度も
全て評価に入るのだ。
だから、絶対にケンカなんて事になってはいけない。

新しい教室の黒板には、新しい名簿が貼り付けられていた。
チコはまず、この名簿に目を通したのだが、
その瞬間、物凄くショックなものを発見してしまった。

「何で!あんなヤツと一緒なの?!」
そう、一年生の時、徹底的に気が合わなくて、
頻繁に小競り合いになった、あいつがいたのだ。
二年生の時は別のクラスになったので、ホッとしていたのに、
こんな大事な時に、どうして?

チコは目の前が真っ暗になった。
あいつは意地悪だ。性格だって全然合わない。
合わないんだから、離れてくれればいいのに、
何故かあいつはつっかかってくるのだ。

残りのメンバーも確認したが、
殆ど気の合わない連中ばかりだった。

どうやってこの一年を生きていこう?
クラスを変えてくれなんて事は絶対に言えないし。
本当に、どうしたらいいんだろう?

早速不安を抱えながら、自分の座席を探し、
席についた。
憂鬱な気持ちに沈んでいると、始業開始を告げるベルが鳴った。

ワイワイやってる子達も、これを聞くと皆席についた。
すると、新しい担任の先生が入ってきた。

チコはうっかりしていた。
担任の先生は誰か、これこそ一番重要な問題なのだ。
それなのにチコは、勉強の事や、新しいクラスメイトの事で頭がいっぱいだった上に、
最悪な子がクラスメイトだと判明したせいで、
すっかり忘れていたのだ。
チコは自分を責めつつ、この担任の先生を観察し始めた。

「始めまして。これから一年間このクラスを担任します、シロヤマです。」
この言葉を皮切りに、先生は話し始めた。
背の高い、男の先生。年は、うちのお父さんより少し上かな?

先生のお話が終ると、大学の進路希望調査を含んだ、
重要な事務手続きの書類が配られて、この日は解散となった。

今日見た範囲でしかないけど、担任の先生はよさそうだ。
とりあえず良かった。
一番心配なのはあの最悪な子の存在。

とりあえず家で相談しようか。
だけど、聞き入れてもらえるかな?
チコは決心するも不安を抱えながら
家に向かって自転車を走らせるのだった。


「バトル!」 第二章 いざ、出陣!

2007-11-04 20:46:32 | チコは高校三年生「バトル!」
ジリリリり!
目覚ましが鳴った。もうチョット寝ていたい。
そう思うけど、そうはいかない。
今日から学校なのだ。

しぶしぶ起き上がると、今度はケータイが鳴った。
この曲は・・・ノリちゃんからのメールだ。
ノリちゃんというのは、チコの高校での唯一の友達だ。
一年生の時、同じクラスになって仲良くなったのだ。

眠い目をこすりながら、ケータイを開ける
『おはよう、チコちゃん。起きてる?今日から学校だヨ!』
チコの名誉のために言っておくが、チコは遅刻は多いが
忘れん坊ではない。

ノリちゃんのメールに少しむっとしながらも
その優しさに感謝して、特に返信はせずに、
下の部屋へ降りていった。

キッチンに入ると、もう皆起きて朝食を始めていた。
「もう少し早く起きなさい。」
と、お母さんから苦言されつつ、「おはよう」の挨拶をかわして、
チコも朝食をとり始めた。

トーストにミルクにサラダ。ごくごく普通のメニュー。
急いで食べ終わると、洗面所で顔を洗い、髪を三つ編みにした。
それが済んだら、
ジーパンにブラウス、昨晩、自分の籠に一式用意しておいた服に着替える。
そう、チコの学校には制服がない。
最低限の規則はあるが、それを守れば、何も注意されることはない。
チコはいつも、こんな格好で通していた。

ジージャンを羽織って、お気に入りの野球帽をかぶり、
リュックを背負ったら
「行ってきます。」
靴をはいて、玄関を出る。

自転車を押しながら、
「ミミちゃん行って来ます。」
庭にいる我が家の愛犬にも挨拶。
ミミちゃんは、チコが高校に入学した年に
我が家の一員になった、柴犬の女の子だ。
いつも尻尾を振って、出かける家族を見送ってくれる。

門を開けたら、自転車に乗って、
少し埃っぽい春の風の中を走り出した。

今日からいよいよ、高校三年間を締めくくる一年が始まる。
親の反対を押し切って始めた、この道を走っていく自転車通学も、
この一年でおしまいなのだ。
高校での時間は、楽しいことより、辛いことのほうが多かったかな?

でも、感無量なんて、言ってられない。
今年は、大学への推薦が決定する大切な年なのだ。
これがもらえないと大変だ!しっかり頑張らないと!

こうしてやる気が沸いてくる反面、
本当に推薦してもらえるのだろうかという不安が募る。
いずれにせよ、年末には結果が出る。そこまでの辛抱だ。

満開の桜の下をくぐると、久しぶりの学校の見えてきた。

「バトル!」第一章 最終ラウンド、開始!

2007-11-02 23:07:08 | チコは高校三年生「バトル!」
カレンダーを一枚めくると、また桜の蕾が膨らんだ。
コートにセーター。もう、冬物は要らない。
ポケットの中を確認して、洗濯屋さん行きの袋に入れた。

クローゼットの中身は全て、これから着る
春物の服に入れかえた。

私はチコ。この四月から高校三年生になる、つい二週間ほど前に
十七歳になったばかりの女の子。
口数も少ないし、服装だって地味。ピアスもしてなければ、
髪も染めてない。

生活態度だって、至ってまじめ。
学校にはきちんと行くし、夕方になったら必ず家に帰る。
無断外泊なんて、絶対にしない。
ごくごく普通の女の子だ。
あえていうなら、大きな目と長い髪が特徴かな?

これだけ読むと、チコはおとなしくて目立たない、
優等生タイプのように感じるかもしれない。
だけど、実際は、
学校の先生には平気で反発するし、お勉強もあまり好きではなく、
成績だって中ぐらい。
ある意味で問題児なのだ。

そろそろ新学期。必要なものをそろえるため、
お母さんの提案でデパートに出かけることになった。

朝から一家揃って車でお出かけ。
お父さんにお母さん、そして、弟のコウジ。
普段はついてこないのだが、今日ばかりは、
服のサイズを合わせるからということで、無理矢理引っ張ってきた。

どうしても必要な買い物は午前中に済ませ、
ランチが済んだら自由行動の時間。
チコとコウジは、TVゲーム売り場や文具売り場。
思い思いに過す、至福の時間だ。

そうしているうちに、ケータイが鳴った。
お母さんからメールだ。
『買い物終った。約束の場所へ集合。』
集合場所で一家全員が揃ったら、食糧を買い込んで
家路についた。

本棚には新しいい教科書を入れるスペースも出来たし、
文具類も揃ってる。これで準備万端。

明日から学校という日の夕食後、チコ兄弟はお父さんからこう言われた。
「明日から二人とも三年生だから、夫々自覚して頑張るように。」
言われなくてもわかってる!って反発したくなるが、
そんなことはしてはいけない。
ここは二人、静かに「はい。」と答えた。

そう、弟のコウジは中学三年生に、
そして、姉のチコは高校三年生になるのだ。

チコは大学への推薦入学を狙っていて、
一年生の時からそれを目指して、切磋琢磨してきた。
果たしてチコは、無事に大学への推薦状を
ゲットすることが出来るのだろうか。
その最終ラウンドの火蓋が、いよいよ切って落とされる。