チコの花咲く丘―ノベルの小屋―

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「チコのいた風景」 第九章 そして、社会では

2007-09-29 22:25:08 | 私立中学いじめ体験記「チコのいた風景」
どうしてこんなことになったのだろう?
あれだけ苦労して、受験勉強して入学したのに。
一生懸命、新しい友達を作ろうと頑張ったのに。

小学6年生の時。あの時は本当に楽しかった。
それなのに、今は、こんなにも真っ暗。
まるで、天国から地獄へと転がり落ちたみたい。

チコは、心と身体はバラバラ。
元々口数は少ないほうだったが、この頃にはすっかり
無口になっていた。

時間は流れ、セミが鳴き始めると、いよいよ期末テスト。
それが終ると終業式。中学校初の夏休みを迎えた。

受験勉強から解放され、本来は楽しく過せるはずなのだろうが、
チコは入学からこれまでの事で完全に落ち込んでいた。
学校の、嫌なクラスメイトとしばらく顔をあわせなくて良いだけでも
良いと思わなければならないのかも知れないが、
家にいたって、ねちねちと責められるだけで、チコの居場所は無かった。

何もかも、うまくいかない。
チコはやがて、自分自身を責めるようになった。
しかし、やはり学校へ行かなくていいのは楽なもので、
とりあえず宿題には手をつけられた。

家族旅行もあり、平穏ではないが、時間は流れていく。
そして、お盆の頃だっただろうか?
とんでもない事件が世間に衝撃を走らせたのだ。

「連続幼女誘拐殺人事件、容疑者逮捕。」
俗に言う宮崎事件である。

メディアは連日、この話題で持ちきりだった。
テレビではビデオやアニメ誌で溢れかえった犯人の自室が流れ、
新聞には「猟奇性」「幼児性」という言葉が乱れ飛ぶ。
ついには、コミックマーケットの会場まで映し出された。
まるで、「ここに大量の宮崎がいます。」とでも言うように!

チコは思った。
何故全然関係の無い、一般のアニメ好きの人たちまで取り上げられるのか?
この事件は犯人の特異性によるものではないのか?
これではまるで、アニメが好きな人、
アニメに関わる人は皆悪者みたいではないか、と。

社会のベクトルは、犯人への批判から、
アニメオタク全般への差別偏見の構築へと向かっていく。

チコは凍りついた。
これをネタに、また学校でもたたかれるのではないか、と。
しかし、頭のいい子達だ。きっと、そういう分別は兼ね備えてるはず。
そんなかすかな希望を持つことで、チコは何とか自分を支えていた。

しかし、差別と偏見は、どうしようもないレベルにまで膨れ上がっていくのだった。




「チコのいた風景」 第八章 拒否反応

2007-09-27 15:57:14 | チコは高校三年生「バトル!」
子供の思考というのは凄く早く変わってしまうものである。
チコはこの頃既に、新しい友達作りから手を引き始めていた。
気が合わないものは、もう、どうしようもない。
また友達なんてものは、自分の趣味を変えてまで、
無理して作るものでもあるまい。

ましてや、これほどまでにひどい目に遭わされるのだから、
もう関わらないほうが安全だと感じたからである。

別に新しい友達を作らなくても、小学校時代の友達がいる。
こっちのほうが気も合うし、趣味も合う。人物だっていい。
チコは小学校時代の友達に固執するようになった。

しかし、間もなく、チコが中学校に友達がないことが、
親にもばれる日が来た。

ある日、家で「お弁当は誰と食べてる?」と尋ねられ、
チコは「一人で食べてる」と、答えた。
すると、痛烈な往復ビンタが飛んできたのだ。
そして、続けて、
「何やってるの!友達と食べなさい!」
と怒鳴りつけられたのである。

親の気持ちにしてみれば、学校で友達がないなんて、
心配でたまらなかったのであろう。
また、学業が振るわないのだったら、せめて友達を、
と考えたのかもしれない。

「友達を作れ!」
「絶対に孤立するな!」
「友達が出来ないのは努力が足りないからだ!」
「友達がないお前は暗い人間だ!」
親からも兄弟からも、責めたてられる。

そして、親にとって、最も気がかりだったのは、
チコが小学校時代の友達と引き続き付き合っていることだった。
実はこのことは、学校からも注意を受けていた。
そう、「小学校の時の友達と別れなさい。」と言われたのである。

しかし、どんなに仲が良くても、違う学校に行ったら
別れないといけないのだろうか?
公立の学校に行ってしまったら、それまでどんなに良い人であっても、
悪くなってしまうのか?
そもそも友達の質は、偏差値で決まるんだろうか?
お金持ちで、頭のいい人とは、何としても
友達にならないといけないのだろうか?

チコはどれも違う!と思った。
だから、大人からの指示を、きっぱりと拒否した。

クラスメイトから、先生から、家族から、
「友達、友達!」と大合唱される。
チコは次第に、友達という言葉に拒否反応を示すようになった。

「チコのいた風景」 第七章 嵐、過ぎて

2007-09-25 19:50:50 | 私立中学いじめ体験記「チコのいた風景」
チコだけでなく、皆にとって中学校初の中間テストは衝撃だったようだ。
多くの親子にとって、難易度も高く、進度も速い私立学校の現実を目の当たりに
する瞬間だろう。
学校では孤立して、さらに家でも居場所を失ってしまうなんて。
チコの運命は一気に地獄の底へと走り出した。

不幸なことに、学校で任意に班分けされるとき、何故かチコと
その意地悪な子は一緒にされることが多かった。
また、そうした授業の時に、チコにメモが回ってくるようになった。
内容は今風に言えば、「ウザい」「キモい」といった所だろうか。
そして、「中学にもなって、アニメを見るのはおかしい」という批判。
届いたものは、授業が終ってから、黙ってゴミ箱に捨てた。
今思えば、このメモをとっておいて、先生にでも見せれば、
何だかの解決の道が開かれたかもしれないが、その時はそんなことを
思いつく余地も無かった。

そして、オフィシャルな行事として担任の先生による個人面談が行われた。
チコはお弁当も一人、移動教室へ行く時も一人。孤立していることを
指摘され、宿題をこなせていないことも注意を受けた。
この時、チコの身に起きていることを訴えればよかったのに!
それは出来なかった。
馬鹿だったと思う。

あの意地悪な子も面談が終ったらしい。ある日の休憩時間。
相変わらずチコは、ぽつんと席についていた。
数名のクラスメイトが、意地悪な子を中心にワイワイとやっていた。
すると、意地悪な子が、

「先生から、お弁当一人で食べてる人いる?って聞かれて。チコさんって答えたら、
先生が、あなたとチコさんは塾が一緒だったから仲がいいと思っていたって言われた。
そんなわけ無いのに。あんな人と仲良しなわけないじゃない。」

と言った。それも、わざとチコに聞こえるように!
こんなことをいわれたこと自体もショックだったが、
先生にチコと意地悪な子が仲良しだと、一方的に思い込まれていたことは
もっとショックだった。

生徒だけでなく、先生も友達作りを重視してるなんて!
この面談の時から、生徒、先生の両方から、
「友達のない問題児」のハンコを押されてしまうことになり、
チコの学校での立場は益々悪くなってしまった。

「チコのいた風景」 第六章 そして、大嵐。

2007-09-23 16:29:28 | 私立中学いじめ体験記「チコのいた風景」
とんでもないことになった時、また、それを自分で解決できない時、
どうするだろう。多くの人は「誰かに相談する」というだろう。
チコも同じことを考えた。

学校の先生に?それは出来ない。バレたら報復される。
親に?それも出来ない。心配かけたくない。
小学校時代の友達は?もっと出来ない。あまりにもカッコ悪すぎる。

結局、誰にも相談できない。
チコは一人、悩みを深くし、精神的に衰弱していった。
家に帰ると、もう、ぐったり。黄金週間を迎える前には
それまでは出来ていた授業の予習、復習、日々の宿題が
全く出来ない状態になってしまっていたのである。

学校では、事態はもっと悪くなってきた。まず、教室にいながらも、
チコだけが授業を受けられないようにする、クラスメイトの妨害工作が
始まった。ノートを取っていたらクスクスと笑われ、
先生に指名され答えると、またヒソヒソとやられる。

チコがへとへとで、宿題をやってこれないことにつけこんで
「やる気無いんだから要らないよね」といわんばかりに、自分にだけ
重要なプリントが回ってこない。
理科実験のデータだって、チコだけ取らせてもらえなかった。

こうしているうちに、中学校初の中間テストを向かえた。
チコは勉強に手がつけられない状態だったが、小学校の時のように、
学校の勉強ぐらい、何もしなくても出来ると鷹をくくっていた所もあった。

テスト期間終了。答案が返ってくる。結果は、想像以上に散々なものだった。
悪い成績を、親に見せられない!どんな子供だって、そう考えるであろう。
チコも隠し通すべく、嘘をつき続けていた。しかし、それも何時までも
続けることは出来ない。

ある日の夕方。とうとう「テストは返って来たのか?」と聞かれた。
チコは「そういえばそうだった」といわんばかりの芝居をしながら、
自室に上がり、通学鞄の中を探り始めた。
しかし、見つからない。確かにそこに入れておいたのに!なくすはずがないのに!
「どうして?」チコは真っ青になった。
あまりにも時間がかかっているので、「何をぐずぐずしている!」と
両親がチコの部屋に駆け上がってきた。

嘘をついた上に、大事な答案を紛失する。大目玉を食らうのは当たり前の事だろう。
学校での事態を知る由もないチコの両親は、徹底的にチコを責め立てた。
「アニメに夢中になって、勉強がおろそかになった」と解釈したのだろう。
アニメ関連のグッズ、資料は全て取り上げられた。
チコは狂ったように泣き叫んだ。

そういえば、学校で時々自分の持ち物がなくなるということがあった。
シャーペン一本とか、そういう単位のものなので、
どこかで落としてしまったかも知れないと、気にも留めなかったが・・・。

この夜を、チコはどう耐えたのかわからない。
翌朝、また学校。
この日からチコの心と体は、バラバラになってしまった。

学校で吹き荒れた嵐は、やがて家庭をも巻き込んで、大嵐になった。
それは、チコの安住の場所を奪い去ってしまった。

「チコのいた風景」 第五章 暗転

2007-09-21 13:25:55 | 私立中学いじめ体験記「チコのいた風景」
授業開始から2週間も過ぎただろうか?
チコは努力するものの
気の合う人を一人として見つけることは出来なかった。
学校行事で、クラスの枠を越えて交流する機会もあったのだが、
触れ合うたびに「合わない」ということを気づかされるだけだった。

せっかくクラスで仲良くなったあの子とも、一緒にお弁当を食べたり、
趣味の話をしたりするものの、少しも気が合うとは思えなかった。
そのうちにお弁当も一人で食べるようになった。

皆、着々と友達を作っていくのに、チコだけが取り残されていく。
当然のことながら、そのことはクラスメイトも気づいていた。

今はそうでもないのかもしれないが、当時は中学生にもなって
アニメを見るのは幼稚であるという考え方が一般的で、
またそういう人はかなりの個性派とみなされていた。
小学生なら、これでまた仲間が集まることもあるのだが、
中学校の世界では、その事実を、その人に関わらないようにするための
口実に使われてしまうのだ。

「気が合う」という意味でも、「趣味が合う」という意味でも、
チコは完全に孤立してしまった。
「友達のないダメ人間」というハンコを、皆から押されていった。

そうしているうちに、とうとう、例の意地悪な子につけ込まれてしまったのだ。
それからその意地悪な子がどうやって立ち回ったのかはわからないが、
チコ以外のクラスメイト全員を自分の味方に引き入れてしまったのである。

意地悪な子を中心としたクラスのチームワークは見事なものだった。
お弁当の時間は意地悪な子を中心に円陣を組み、
チコ一人をぽつんと孤立させるような配置を取られた。
「このクラスは皆自分の友達。友達のないあんたはダメ人間。」
と、言わんばかりに。

「あいつに触ったら汚い」「ばい菌がうつる」
次第にチコは汚いもののように扱われるようになった。

チコが「努力は必ずしも報いられるわけではない」ということを
知ったのはこの頃だったと思う。これだけ頑張ったことが、全て裏目に出る。
学校へ行くたびに突きつけられる、「孤立してしまった」という現実。
言葉で言い表せない、嫌な雰囲気がそこに漂っている。

チコは現状を打開すべく、徹底抗戦を開始した。
チコだったたった一人だけど、新しい友達が出来た。
そして何より、学校は違うけど、小学校時代の友達がいる。
しかし、元来口の立たないチコは、何を言っても、
頭のいい口の達者な子に適うわけがなかった。

事態はとことん悪循環していく。
チコは小学校時代までは通じていたやり方が、
全く通じない世界に戸惑っていた。

「チコのいた風景」 第四章 焦燥

2007-09-19 19:49:52 | 私立中学いじめ体験記「チコのいた風景」
中学生になると世間からの扱いも変わるものである。
チコは公共の交通機関を利用するたびに、まだそんな意識は無いのに、
もう本当に子供ではないということを見せ付けられたような気がした。
周りの大人たちだって、接し方を変えてくる。ことに親としては、
子供が中学生になると、喜びと同時にそれまでには無かった心配も増えるものらしい。
特にチコの両親は、その心配が深いほうだったようだ。

でも、周りが何と言おうと、チコは動じなかった。小学生の時と同じように、
まじめに、真っ直ぐ生きることを貫けばいい。
幼い頃から自分の信念を貫くことには慣れていた。

しかも、たった一人だけど、少しでも趣味の似通った友達ができたなんて。
例の意地悪な子だって、あまりチコには関心がないような感じ。
チコにとっては上出来の滑り出しだった。

事務的な手続き、部活動への入部、そして、授業開始。新しい世界の時間は
ゆっくり流れていく。
そして、桜の花が散るころ、中学校生活は本格的に走り出した。

小学校時代の友達とも、電話をしたり、手紙を書いたり。
卒業後もチコは変わらず友情を結んでいた。
その頃になると、時折再会するゆとりも出来て、互いに新しい生活を
披露した。そこでも一番の話題は、「友達は出来た?」という話題。

皆必死なのだ。チコだってあせった。一人、友達が出来たとはいえ、このままでは
小学校時代の友達の前でも、学校の中でも恥をかいてしまうことになる。
家族や学校の先生も、どう言うだろう?
チコは引き続き、例の意地悪な子を意識しながら、「明るい少し変わり者」を演じ、
ひたすら、友達作りの努力を継続した。

努力の甲斐あって、チコのそういうキャラクターが、そしてアニメオタクであることが
学年全体に知れ渡るに至った。
しかし、一向に趣味の合う人、気の合う人は現れなかったのである。

長く付き合えば、きっとそういう人も現れる。
自分の存在は知れ渡ったのだから、後はあきらめずにじっくり探そう。
とりあえず、友達になったあの子と心を繋ぐ努力しよう。

そう考えてチコは、とにかくその友達と自分をさらけ出して会話するように心がけた。
一度友達になれば、絶対裏切られるなんてことはない。後は時間をかけて心を開き、
打ち溶け合っていくだけだ。それが当時のチコの思考だった。


「チコのいた風景」 第三章 トモダチの作り方

2007-09-16 20:32:26 | 私立中学いじめ体験記「チコのいた風景」
勉強の事はさておき、新しく中学生になった子供にとって重大なこととは何だろう?
それは、友達作りではないかと思う。
入学式の次の日から、その壮絶なバトルは始まっているのだ。

チコは入学式以前から、趣味の合う友達が欲しいと願っていた。
チコは小学校6年生の時にアニメオタクになり、その6年生の時は、その手の友達と毎日大はしゃぎして大笑いして。本当に心の繋がった友に恵まれた。
辛い受験を乗り越えたのも、この仲間のおかげだったと思う。
また、趣味の合う人は友達になれる確率が高いし、
何よりも共通の話題があると何かと楽しい。
おまけに、とんでもない意地悪がクラスメイトになってしまった。
早く仲間作りをしないと危険だ。そう考えたこともチコの意識を加速させた。

器用な子はそれ程まで悩まないのかも知れないが、チコは元来、人見知り人の好き嫌いの激しいイジメラレッコ。人と関わることにはかなり臆病だった。
そんなチコが皆に皆に認知され、受け入れられるためにはどうしたらいいのか?
チコは思いついた。新しいクラスで行われるであろう自己紹介。とにかく、
ここで最大限アピールすればよいと。やはり第一印象は大切である。

では、どうアピールするのか?それからチコはさらに知恵を絞った。
暗いヤツよりは明るいヤツのほうが人に好かれる。
少し変わったヤツのほうがウケるのかも知れない。作戦を練り上げていく。
失敗は許されない。何としても友達を見つけないと!
チコはかつて無い緊張に包まれていた。

案の定、新しいクラスでは自己紹介が行われた。
家はどこ?通学時間は?趣味は?アピールは続く。そして、いよいよチコの番が回ってきた。チコは作戦通り、明るく少し変わったキャラを演じながら、アニメオタクであること、またそんな友達を求めていることを精一杯アピールした。
結果、皆は注目してくれた。とりあえずこれで成功!チコは胸をなでおろした。
しかし、皆の自己紹介が終った後、チコは愕然とした。そこにいるのは芸能人の追っかけをしている子ばかりで、アニメオタクは一人もいなかったのである。

チコの望む友達はできないのか?失意に沈んでいたその時、一人、チコに声をかけてくれたのだ。アニメに少し興味があるから、仲良くしようって、申し出てくれたのだ。
勿論、チコはすぐにオッケーした。そして、嬉しかった。たった一人だけど、少しでも趣味の合う、友情を築いていけそうな人が現れたのだ。

この子と仲良くしていこう。そうすれば、あの意地悪な子が何をしてきても恐くない。
当時のチコにとって友達というのは裏切ることなんて無い、絶対的な存在だった。

その後、例の意地悪な子とも、ごくごく普通の会話を交わすことまで出来てしまった。
思い通りではないが、とりあえずは良い方向へ転がりだした。
これで大丈夫。あとは自分の努力次第。そんな安心感がチコを包んだ。

チコのいた風景 第二章 桜の花の咲く頃

2007-09-14 13:43:33 | 私立中学いじめ体験記「チコのいた風景」
「悲喜こもごもの春」とはよく言ったものである。
ことに進学とか就職とか、新しい生活を迎える春は、誰だって特別な輝きを感じるものだと思う。

チコは、私立の中学校に入学した。全く親の意向によるものであったが、小学校5年生の時から進学塾に通い始めた。ゲームなど、楽しみ事は全て取り上げられ、友達と遊ぶ時間も無くなった。進学塾の教室は、思いやりのかけらも無い連中ばかりで、抜け目の無い巧妙な意地悪に満ちていた。
また中学受験というものは世間からも冷たい視線を浴びせられるもので、小学校の先生からの白い視線、そして、同級生からの屈辱的な嘲笑にも耐えなければならなかった。多くの苦悩に耐えた末に掴み取った合格。その瞬間はそれなりに嬉しかったような気がする。

チコが親しくしていた同級生達には中学受験を志していた人が多く、小学校の教室にも次々皆の合格の知らせが届いた。心から交わす「おめでとう!」の言葉。
だけど、このことは裏返せば、4月になったら皆違う中学校に行くということである。チコは残された小学校生活の日々を指折り数えながら、ともに過すことを許される時間を噛み締めていた。

そして、小学校の卒業式。行く先を異にした友との別れの日。チコは生まれて初めて別れの涙を経験した。
でも、きっと、新しい友達もきっとすぐにできる。趣味のあう人だってきっといる。部活動も、難しくなる勉強も、きっと大丈夫。ちゃんとやっていける。立派に生きてみせる。そんな決意と希望が自分の中に芽生えた。
桜の蕾膨らむように、中学校生活への期待は膨らんでいく。

満開になる頃、ついに中学校の入学式の朝を迎えた。何よりも待ち遠しかった朝。親戚中からもお祝いをたくさんもらった。今までで一番祝福された春。チコも誇らしかった。
入学式の会場では、皆喜びに満ちた顔。皆難関を突破して、今日ここに集うことを許されたのだ。

さて、儀式は終わり、夫々これから暮らしていく教室に入る。進学塾で知っている人、初めて会う人・・・今日からクラスメイトになった人達を見渡していて・・・チコはぎょっとした。進学塾で徹底的にいたぶられ続けた、とんでもない意地悪。その子がそこにいるのだ。
「どうしよう!」チコは入学式早々、目の前が真っ暗になってしまった。でも、この時はまだ、そんなことはすぐ払拭できた。「きっと大丈夫!うまくいく!」そんな希望がチコを包んでいたから。

チコのいた風景 第一章 起源

2007-09-11 20:37:31 | 私立中学いじめ体験記「チコのいた風景」
近年の天候の異常さには本当に驚かされる。
真夏は当たり前のように最高気温が体温を超え、
雨が降ればとんでもない土砂降りになる。
冬場に雪を見ることも、年々少なくなってきた。
だけど、この地球は、太古の昔から色々な表情を見せてきている。
今日もどこかでは晴れていて、どこかでは雨が降っている。

きっと人生もそうだと思う。雨が降って風が吹いて、泣いて笑って生きていくんだ。
さて、ワタシ、チコは凄く幸せ者だと思う。
両親にとっても、双方の祖父母にとっも、待望の女の子としてこの世に生を受けた。
家は静かな郊外の、庭付きの一軒屋。
その庭には両親が買ってくれた滑り台にブランコ、幼いチコの無理なお願いを飲んで
父が作ってくれた砂場まであった。大きくなってからは、夜眠る為だけに使うには立派過ぎる子供部屋を与えられ、今もそこを自室として使っている。
とにかく、必要には充分足りていて、サンタクロースも毎年やって来た。

両親が揃っていて、優しい祖父母との交流も適度にあり、仲の良い兄弟まで与えられた。
暖かな春の日が、何時までも続いていくような人生の始まりだったと思う。
チコはすべてに感謝し、またそれに応えて、誠実に質素に生きてきた。

そんなチコだけど、幼稚園や学校の先生には概ね嫌われていた。
他人とのコミュニケーションや集団活動というものがどうも苦手で、その為に誤解され、イジメの標的になることも多かった。それでも長く付き合っているとわかってくれる人も出てきて、それなりに親しい人も出来たりしていた。

雨や風というものは、時に大嵐となる。その大嵐は例外なく、チコにもやって来た。
どうすればよかったのか?どうしたらよかったのか?未だにわからない。
囚われたままで放さない、まだケータイも無かったあの頃の記憶を、
つむいでいきたいと思う。