チコの花咲く丘―ノベルの小屋―

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「風を追う物語」第3章 アイのありか その11

2011-03-31 22:55:20 | 十三歳、少女の哲学「風を追う物語」
夕食まで、もう少し時間があるし、
また、歩く練習をしてみようか。

よいしょ!
足を下ろし、ベッドの柵を持て
ゆっくり立ち上がる。

ちょっと、手を離してみよう。
わ!・・・ふらつくけど、何とか
立ってはいられる。

そのまま、何もつかまないで歩いてみよう。
一歩、二歩・・・ほら、歩けた。
・・・三歩目・・ちょっと、危なくなってきたかな?

ここからはベッドの柵をつかんで行く。
一歩、また一歩。ベッドの足元の方まで行ったら
折り返す。

はい!到着!
枕元の方に帰ってきた。
再びベッドに腰掛けた時、ユイは何とも言えない
満足感に包まれた。

少しずつだけど、確実に、
元気な時みたいに歩けるようになってきてる!

『人間は二足歩行する生き物である。』
と、言うのは、社会の教科書に載っていた
言葉だけど、

そう、人間が、他の動物とは違う所。

ガラガラガラ!食事のカートが来た。
「ユイちゃん、お食事です。」
トレーを運んでくれた看護師さんに、
『ありがとう』
の絵カードを提示した。

『人間は言葉を使う。』
口から発せられない今も、
文字と絵で意思を伝えている。

今日は肉野菜炒めか。
美味しそう、早く食べよう!
いただきます!

ウエットティッシュで手を拭き、
箸を取って食べ物を口に運ぶ。
『人間は道具を使う。人間は火を使う。』

そう、人間。私は人間なんだよ。
当り前みたいな事だけど、
そんな実感が、物凄く湧いてきた。

小学校の先生が、良く言っていたけど、
『人間には心がある。』
他の生き物にもあると思うけど、
人間には心があるって。

人間には心がある、私は人間である、
だから、私には心がある。

心は、生きている限り常に、
自分の中にあるもの。
中学生になったからといって
なくなるものではない。

「中学生なんてね、どうせ犯罪事しか考えていないのよ!
中学生には心なんてないのよ!」

大人って、何でもかんでも犯罪事に仕立て上げ、
校則とか、教育とか言って、
抑えっつけて行くんだね。

あまりにも馬鹿すぎる!
ユイは、憤りを感じていた。



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「風を追う物語」第3章 アイのありか その10

2011-03-29 22:09:31 | 十三歳、少女の哲学「風を追う物語」
夕方の治療を終え、
再び部屋へ。
「はい、お疲れ様。夕ごはんまでは、
まだまだあるし、ゆっくり過ごして。」

ベッドに戻ると、
やれやれ。ため息みたいな息が漏れる。
ネブライザーをして、
バイタルチェックして、
採血して。それだけなのに、
何だか、大きな仕事を終えてきたような気がする。

それより、これ・・・
ユイはベッドの上に、
先ほど手渡されたカードのセットを置いた。

『トイレに行きたいです』
『お茶をください』
『着替えをください』
『買い物に行きたいです』
『ごめんなさい』
『ありがとう』

随分使い込まれた感があるこのカード。
可愛らしいイラストに、
この程度の短い文章が添えられている。

「いちいちケータイに打ち込むのも
面倒だろうし、これなら選んで、見せてくれるだけでいいから。」
なるほど、お医者さんも考えたな。

言葉・・・
気持ちを伝える手段、
意思を伝える手段。

考えてみれば、幼稚園の頃から
話をするのは苦手だった。


「ユイ!それじゃわからないでしょ?
もっときちんと話して!」
「だから!だから!」


頑張るほどに、余計に言葉が出ず。
そのうちに、話すのもおっくうになり・・・

元々、口数は少なかったけど、
去年の、秋頃からだったと思う。
今みたいに、全く話せなくなったのは。

『中学になったと思ったら!・・・この生意気が!
黙ってたらやり過ごせると思ってるのか!』
『何とか言いなさいよ!』

英語の小テストで、
満点を取れなかった事がばれたときに、
両親から吐かれた言葉。

違う・・・違う!
反論したいのに、言葉が口から出ない。
言葉が出てこないんだ。

吐く息がそのまま、喉を素通りしていく感じで。

『黙秘権ってね、裁判を受けるときに不利なんですって。
ユイの将来を考えたら、何としても
話をする練習をもらわないと。』

記憶から飛び出す言葉。
お母さん・・・裁判を受ける練習って、
どうして?
私、将来は犯罪者なの?
中学校は、将来裁判を受けて、
刑務所に入る練習をするために
行くところなの?

どうして・・・

うなだれると、
ぽたぽたと涙が落ちてきた。

物が言えない事が、
こんなに辛いことだなんて。
それまで思いもしなかった。






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「風を追う物語」第3章 アイのありか その9

2011-03-27 21:54:18 | 十三歳、少女の哲学「風を追う物語」
ごちそうさま!
おやつ終了と同時に、
お母さんも帰宅。

どうしようかな?また、勉強するかな?
なんて、考えていた
十五時二十四分。

「ユイちゃん、今、いいかしら?
ちょっと早いけど、吸入に行きましょうか。」

ベッド下の樹脂サンダルに足を置いて、
よいしょ!
車椅子に乗り移るのも、
少しずつ楽にできるようになっている。

立って歩く練習始めたのは今朝からなのに。
我ながら、素晴らしい回復力だ。

「では、行きますよ。」
一本道の廊下、何回も通るうちに、
何処に何があるのか、
随分わかってきた。

ねえ、あなたも・・・
膝の上の、ぬいぐるみに視線を落とすユイ。

安静時間、殆ど物音のしない廊下・・・

間もなく、車椅子は処置室に到着。
部屋の中へと押し進められ、ネブライザー前。
「早い事、済ませましょうね。
ユイちゃん賢いし、
やり方は良くわかってくれてるし。
あ、そっちの丸椅子、使って!」

本当だ!
車椅子のすぐ左横に丸椅子が一つ
置かれている。

ユイのために用意しておいてくれたのだ。
ありがとう!
ユイは感謝して、ぬいぐるみをそこに置いた。

替わりに、受け取ったタオルを膝の上に広げて、
吸入開始。

ゴボゴボゴボ・・・
音を立てて送り出される水蒸気を
呼吸していると、
どうでもいい事ばかり考えてしまう。

・・・私は、誰?

私はユイ。
そう名付けられたから、
皆がそう呼んでくれている。

ユイ・・・私を表す記号。
ありふれた名前だから、
いくらでも「ユイさん」はいるんだろうけど、
一人一人が、無二の人間。
こうして、ここにいる私も。

そう、私はユイ。
十三歳。
私立中学校第二学年に在籍。
不登校生。
現在入院中。

常にぬいぐるみ同伴。
栗毛色の短髪に、
青いパジャマ。

車椅子、点滴中・・・

まだまだあるんだろうけど、
今の私を表現してみると、
こんなところかな?

そんな中から、
何を持って私を、他の「ユイさん」とは違う
「ユイさん」であると
決めているのだろう?


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「風を追う物語」第3章 アイのありか その8

2011-03-26 21:27:47 | 十三歳、少女の哲学「風を追う物語」
子は勉強、その傍らで
母親は読書。
そんな時間にも、
定期的に点滴の交換があり、

「ありがとうございます。」
読書の手を止めて、お母さんは挨拶している。

「いえいえ、どういたしまして。
でも、今日からお勉強?偉いわねぇ。」
ユイの様子に感心している看護師さん。

「いえ、本人がどうしてもするって
言うもんですから。」

「そこが素晴らしいですよ。うちの子供たちなんて、
私が何回怒っても、遊んでばっかり。
ユイちゃん、やっぱり優秀ですよ。」

実際、集中しているのだし、
ユイはあえて、明るい口調の二人のやりとりを
無視していた。

二人ともわかってないもん。
私の気持ちなんか。
どんな気持ちで、
私がこれに取り組んでいるのか・・・

今やってるのは、
学校の宿題。
命を断ってでも、辞めようとした学校の宿題。

もう、戻る気がないのなら、
勉強だけしたいのなら、
市販のテキストとか、
他の教材を使う方法もある。

よその高校を受験して
出て行くつもりなら、なおのこと・・・

そりゃ、ハヅキ先生が骨折って、
用意してくれたからというのもあるけど、
こんなものを一生懸命やってるのは、
やっぱり、今の中学校を卒業して、
かなえられるのなら、上の高校へ、
という気持ちがあるからだ。

結局、あの学校にいたいんだろうか、
私は?

「ユイ。」
声かけに我に帰り、勉強の手を停める。
「そろそろおやつの時間じゃない?一度、
休憩したらどう?」

もう、そんな時間なのかな?
ケータイを見ると、十四時五十五分。
「あ、カートが来た。取ってくるわね。」

確か、一時ごろから始めたから、
ほぼ二時間もしていたのか。
お母さんが出て行った一人の空間で、
我ながら妙に感心してしまった。

「はい、お待たせ。今日のもおいしそうよ。」
勉強道具を片づけたテーブルに、
お母さんがぽんと置いてくれたトレーには、
ミルクゼリーか。
確かにおいしそうだ。

いただきます!
ユイが食べているそばで、
「私も、お腹すいたし、ちょっと失礼するわ。」
と、スーパーのビニール袋から、
菓子パンを一つ取りだした。

食べてるものは違っても、
二人だけのおやつの時間・・・
こんな事、本当に久しぶりじゃなかっただろうか?






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「風を追う物語」第3章 アイのありか その7

2011-03-24 22:47:50 | 十三歳、少女の哲学「風を追う物語」
何時もゴム底にしているのに、
それでも響く靴音。

精神科?冗談じゃない!
大きな荷物を持つ両手の、その肩を
吊り上げながら、

あんなの、絶対お断りよ!
精神的なものだって事も、とっくにわかってるわ!
でもあの子は、そんな病気じゃない!

シャ!
カーテンの音と同時に飛び込んできた
「ユイ、お待たせ!」
お母さんの不機嫌な声に、
ユイは思わず飛び起きた。

「ごめん、びっくりさせたわね。
さっき、お医者さんとお話していてね・・・」

声の調子からして、良い話じゃなかったんだろうな。
私の病気についてなのか、
それとも・・・

狭いスペースで、
忙しく動いているお母さんは、
「あ、そうだ。はい、これ。」
ユイの横に、大きな紙袋を置いてくれた。
「夏休みの宿題、持ってきたわよ。」

よかった!話が通じていて!
ありがとう、お母さん!
ぱっと明るくなったユイの表情に、
お母さんは嬉しそう。

昨日、入院延長が確定。
でも、体を起して過ごせるようには
なったのだし。

だから宿題を、持ってきてもらうよう
夕べのうちに
メールで頼んでおいたのだ。

早速袋の中を覗き込むと、
うん、一式そのまま入っている!

これからどうなるのか、どうするのか、
全然わからないけれど、勉強はしたい。

いつも食事をしているテーブルを
引き寄せ、台の上をウエットティッシュで
綺麗に拭き、
乾いたのを確認して、
早速、教材を広げた。

ペンポーチの中にはシャーペンが三本。
あれだけ鉛筆にこだわっていた親も、
私が鉛筆恐怖症になってから
こだわらなくなった。

一本取り出して、問題に取り組み始める。

うーん、どう言う意味なんだろう?
こんな短い文章なのに、
こんなにも読みとれないなんて。

きっと、一週間もお休みしたからだろうな。
人間の頭って、簡単に弱っちゃうんだな。

中学受験の時、そう思ったように、
あまり過酷すぎると不幸だけど、
やっぱり、勉強するって幸せだと思うんだ。

じゃあ、
勉強を幸せだと感じるには
どんな条件が揃えばいいんだろう?

それにかける時間の長さ?
問題の分量?
内容に興味があるかどうか?
得意か不得意か?
難しすぎず、易しすぎない事?

うーん、何だろう?
よくわからなくなってきた。




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「風を追う物語」第3章 アイのありか その6

2011-03-23 22:15:11 | 十三歳、少女の哲学「風を追う物語」
さっき、車椅子まで移動できたんだから、
大丈夫!
そう、そのまま腰を伸ばして。
両手を離して。

筋力が低下した両足が、
体重を支え切れなくて震える。

危ない!
とっさにベッドの柵をつかんだ。

そりゃ、いきなりは無理だよ、
いきなりは。
まずは、つかまりながら
ゆっくり足を動かすところから。

点滴の管を気にしながら、
右足、左足、また右足・・・
ゆっくりでも、頼りなくても、
確実に前に進んでいる!

ベッドの端まで行って折り返し、
枕元の方へ。

よし、ここまで!
ベッドに腰掛けると、
少し息が切れている。

ユイは自分が歩いた道を、
振り返った。
・・・ほら、少しずつでも、
距離が延びてるじゃない!

ガラガラガラ!
食事のカートが来た。
もう、十二時だ。

「ユイちゃん、お昼ごはんです。」
食事のトレーを持ってきてくれた
看護師さんは、
「ちょっと、テーブルの位置を変えましょうか。」

と、今までベッドの上に台が来るように
設置されていたテーブルを、
ベッドと並行になるように置き直し、

「この方が食べやすいわよね。
歩く練習もしてるの?」

頷いて返すユイに、
「そう、それは素晴らしいわね。
ごゆっくり。」
と言って出て行った。

両手を綺麗に消毒して、
いただきます!

わぁ、かき揚げうどんだ。
しかも、家と同じように盛り付けしてある!
こういうメニューは、小学校の
給食でもあったから、今さらびっくりでもないけれど、

沢山盛り付けてるうちに冷めそうだし、
ここまで届けるにも、結構時間がかかると思うし、
運んでいる間に、
汁がこぼれるんじゃないかとも思うし、
やっぱり、凄いって思うんだ。

ごちそうさま!
手を合わせ、ナースコールを押す。

ピンポーン!
「あ、ユイちゃんだ。お食事終わったみたいね。
行ってきます。」
ベルを聞きつけて、看護師さんが一人出て行った
ナースステーション。その奥には一つ、小部屋があり・・・

「・・・まあ、こんな感じで治療をします。
入院は長引きますが、最大限良くしていきましょう。」

「はい、ありがとうございます。」
主治医に対し、深々と頭を下げるユイの母親。
「では、体の方は心配ないという事ですね?
・・・ところで先生、あの子、何か話していますか?」

医師は首を横に振り、
「ありませんね、入院されてからも・・・
小さい時から見せていただいていますが・・・」
パラパラとカルテをめくっていた。

「不登校は、去年の十一月からですね?」
「はい。」
「言葉がでなくなったのも?」
「いえ、もう少し前からだと思います。」


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「風を追う物語」第3章 アイのありか その5

2011-03-22 22:34:59 | 十三歳、少女の哲学「風を追う物語」
『こんにちは!
まだしばらく入院とのこと、
お母さんからお伺いしました。
早く回復されますように・・・
でも、決して無理はしないでくださいね。

近々、またお見舞いに行きます。
困った事があったら、何時でも連絡くださいね。
それでは。ハヅキ』

絵文字で工夫された
署名つきの、先生のメール。

読んでいてユイは、頬が少し緩むのを感じた。
何だか、ホッとするなぁ。

ケータイを閉じ、枕元に戻す。

そう、私を見捨てないで
いてくれる人がいる。
こんな私を・・・


で、突然髪を切られたと?
はい、家内の目の前で・・・

成績も、御覧のとおり。
友達もいないようですし、
美術部も楽しそうな様子がありませんし。

学校が合わないのではないですか?
・・・・。

いずれにしても、制服を拒否されるんでしたら、
登校していただく事は出来ませんね。
お嬢さんは本校の方針にそぐいませんよ。

『退学をお勧めします。』


私が不登校し始めた頃、
お父さんかお母さん、あるいは両方で、
頻繁に面談に行っていた。

去年の担任は、
教科担当のほかの教師も集めて、
度々そう言い放ったらしい。

納得できなかった。
当り前かもしれないけど、
全然納得できなかった!

だって、私は被害者だよ?
本当なら、最大限保護されるべきじゃない?

授業を受けられないように妨害工作し、
根拠のない、不名誉な噂をばらまき、
試験直前なのに、他人の鉛筆を全部折った、

そんなクラスメイト達は、罪の一つも問われず、
居心地の良さまで保証してもらって、
のうのうと登校を続け、

被害を受けた私は、家庭も崩壊、
居場所も行く先も失って、
不登校に追い詰められている。

そう、被害者はさらに被害をこうむり、
とことん被害者になる。
これも、「幸せの雪だるま」と同じ理屈か。

はぁ・・・
ユイはため息をつき、仰向けに寝返った。

良く考えなくても、かなり変な先生だった。
あんな担任、一年でお別れできて本当に良かったよ。
それとは正反対の、
今年の担任、ハヅキ先生。

そう、捨てる神あれば拾う神あり。
これもまた、真なのだ。



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「風を追う物語」第3章 アイのありか その4

2011-03-21 21:29:27 | 十三歳、少女の哲学「風を追う物語」
分厚い壁越しの、
蝉の声を背景に、

車椅子の車輪の音だけが
響く廊下。

へぇ、あんな所に自販機があるんだ。
車椅子を押されながら、
きょろきょろと見回しているユイ。

ここは空室、その隣は、
四人部屋にどうやら一人。
泣き声からすると、
入っているのは、かなり小さい子かな?

お母さんから聞いていた通り、
入院している子どもの数はかなり少ないみたいだ。

行けども行けども、
誰ともすれ違わず、変わらない景色。
・・・あれ?

少し先にある、二つの人影。
片方は看護師さんだけど、
もう片方は、少し大きめの子供?
男の子だ!
年齢は、私と変わらないのかな?

だんだん大きくなる人影、
すれ違うこの瞬間、
ユイは意識的に、この二つの人影を
視界から外した。

「・・・で、どうだったの?ナユタ君?」
「うーん、まあまあ。」
「もう、はっきり言いなさいよ!」

間もなく、居室に到着。
ベッド脇まで進み、
「はい、お疲れさまでした。」

点滴を吊るし替え、ユイが確実にベッドに
移動したのを確認すると、
看護師さんは出て行った。

・・・帰ってきた、のか。
一人になると、しみじみ思う。
今、何時だろう?ケータイで確認すると、
十時四十五分。ここを出ていたのは、
おおよそ三十分ほどか。

だけど、物凄く長く感じたなぁ。
たった、三十分なのに。

そうだ、これも不思議に思うんだけど、
時間の感じ方って、どうしてこんなにも違うんだろう?

同じ時間の長さでも、
ゲームしてる時とか、楽しい時間は短く、
勉強の時とか、しんどい時間は長い。

これが、逆だったらいいのに!
っていうのも、小さい時から良く考えていた事。

ユイはぬいぐるみを抱き、横倒しになった。

三十分前、私はここにいた。
そして、三十分後、またここに帰ってきた。
三十分前の私、今の私。
それが、同じ自分であるとわかるのは、
どうしてなんだろう?

髪を切る前の私、切った後の私。
これも、同じ私。
違う自分に、生まれ変わろうとしたはずなのに・・・

その時、
ブルルルル!
ケータイが鳴っている!メール?
誰だろう?大急ぎで手を伸ばし、
開いてみると・・・担任の先生だ!













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「風を追う物語」第3章 アイのありか その3

2011-03-20 21:40:32 | 十三歳、少女の哲学「風を追う物語」
荒れた気管支に、
薬剤混じりの水蒸気が染み込む感覚。
点滴していない方の手で、
短い髪をとかしながら。

・・・ユイ!やめなさい!
美術部の画材セットを窓から放り出し、
とうとう制服にも、袖を通せなくなった朝。
パジャマを引きはがそうとするお母さん、
必死で抵抗する私。

もう、無理。
何と言われても、あの学校へ行くのは
もう、無理!

お母さんの手が、少しゆるんだ。
逃れるべく、私はとっさに寝返りを打ち、
立ちあがって、
引き出しからハサミを取りだし、

「何するの!」
お母さんの目の前で、
長かった髪を、バッサリと切り落としたのだ。

去年の、十一月。
学校に行かなくなった、第一日目の朝の出来事。

あの時はもう、
何もかも嫌になっていた。
学校も、家も、自分自身も・・・
中でも、一番嫌になったのは、
自分自身。

自分を変えたい、自分を変えたい、自分を変えたい・・・

自分を変える方法には、
きっと色々あると思うけれど、
ヘアスタイルや服装を替える
というのが一番手っ取り早い方法だと思う。

衝動的というのか、
何の考えもなしに、とっさに走った行動だったけど、
私は全く後悔していない。

私は生まれ変わるのだから。

学校、学校の連中、
そして、両親。全部断ち切って、
私はやり直すんだ。

「ピー!」
ネブライザーのブザーが鳴った。
終わりの合図だ。その音を聞きつけて、
看護師さんが入ってきた。

「はい、終わったわね、お疲れ様。」
ホース付きのマウスピースを受け取ると、
替わりに濡れタオルを手渡してくれて。

それで、手や顔を丁寧に拭く。
やっぱり、大嫌いだ。自分なんて大嫌いだ。
どんなに見た目を変えても・・・

その間に看護師さんが後片付けを終わらせて、
簡単な説明をしてくれた。
これからは朝と夕方、一日二回、
こんな感じで治療するということらしい。

「じゃあ、お部屋へ帰りましょうね。」
廊下へ押し出されると、
ユイの居室への、少し長い一本道を、
車椅子はゆっくり進み始めた。






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「風を追う物語」第3章 アイのありか その2

2011-03-19 23:06:53 | 十三歳、少女の哲学「風を追う物語」
車椅子に乗って、廊下を進む私を、
入院中の子供たちや
その親と思しき人たちが
チラチラと見ている。

こんな大きい子が入院?って
思っているのか。
それとも、車椅子が珍しいのか。

「はい、到着ですよ。えーと、
今日は、こっちの方が便利かな?」
障害者用のトイレだ。

看護師さんがスイッチを押すと、
スライド式のドアが開いて、
そのまま、入室する。

わぁ、広いなぁ!
あたり前だけど、手すりも付いてるし。

ここまで連れてきてもらえたら、後は
一人でできる。

よいしょ!手すりを持って立ち上がり、
もう一度、車椅子に乗って、
壁のブザーを押すと、

「お疲れ様!手、まだ洗ってないわね?」
さっきの看護師さんが入ってきて、
車椅子を洗面台の方に向けてくれた。

手を差し出すと、自動で
水が出てくる蛇口。入念に手洗いしていると、
その上にある鏡に映るのは、
青いパジャマに、伸び始めて寝癖がついた短髪の、
自分の姿。

「次の人も来るし、出ましょうか。」
ぬいぐるみを渡すと、
ドアを開き、再び廊下へ。
「あ、そうだ。」

「ユイちゃん、聞いてると思うけど今日からね、
新しい治療を始めますって。
出てきたついでだし、ちょうどいいわ。
このままショチシツに行きましょう。」

車椅子は、ユイの部屋とは反対方向に
ゆっくり進みだした。

私、行くとも行かないとも言ってないけど?
ところで、ショチシツって何?
随分強引な看護師さんだなぁ。
・・・まあ、いいか。

「失礼します。」
ここにもまた、スライド式のドア。
そこが開くと、奥には
簡素なベッドが一台。
大きな医療機械が幾つか置かれていて、
スチールの棚にぎっしり入ってるのは、注射器の箱かな?

そうか、つまり処置室か。
納得できたところで、
「ユイちゃん、おはよう。」
さらに奥の部屋から、いつものお医者さんが
出てきた。

「トイレに行けたんだね。それはよかった・・・」
ユイを車椅子に座らせたまま、
聴診器をあてたり。そのまま、採血までされた。

何だ、何時も部屋でされていた事を、
場所だけ変えてされただけか。
少し頬を膨らませながら、
肘の内側を脱脂綿で抑えていること五分。

「そろそろいいかしら?」
注射針の跡に、小さな絆創膏があてがわれ、
「じゃあ、こちらに来てくれるかな?」
小さなテーブルの前に移動させられた。

ネブライザーだ。
「ユイちゃん、何回か使ってるでしょ?
タイマー、10分かけておくね。」

看護師さんから手渡された
マウスピースを口にくわえると
ユイはゆっくりと吸い始めた。




















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